冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか   作:その辺の人

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家路

「ありがとな。あのままロキに閉じ込められるところだった。」

「あり得る…かも。どういたしまして。」

狼人のはどうほうのごとき攻撃的な視線を後頭部に受けながら全く意に介さず先頭でアイズと談笑するバッツは足を止めた。

「見つけた!ベルのとこまでって約束だからな。ここまで…だ、大丈夫か!?」

 

座って談笑するベルとリリは全身が汚れきっており、まともな状態ではないのは誰の目にも明らかだった。

バッツの声に反応した二人は大きく手を振ってこたえる。

アイズは駆け寄るバッツを追い越し、周囲の状況を把握するとすぐさまベルへ近づいて顔を見つめる。瞬く間に詰めたその顔と顔の距離約30C。とたんに顔を赤くし始めたベルをみたリリは言葉にならない危機感をひしひしと覚えた。

「…やったね。」

「は、はい!リリと一緒に!」

「あなたがリリ?」

「はい。私が、ベル様のお供です。」

「すごいと思う。おめでとう。」

「あ…ありがとうございます…」

(ぐぐ…大人の対応です…ここは負けを認めざるをえません…)

 

追い付いたバッツは放置されたリリの鞄をそそくさと回収しつつ周囲の荒れ果てた惨状がダンジョンの生理現象によって元に戻りつつあることを確認した。安全らしく安心して目を向けたベルとリリの側には何か置かれている。その黒ずんだ塊には見覚えがあった。

「その角、ミノタウロスか!」

「はい!バッツさんもお元気なようで安心しました。」

「一緒に行けなくて悪かった。怖かっただろう。」

「えへへ、少しだけです。でも私よりベル様の方が怖がってたんですよ?」

「このガキ二人がミノタウロスを?こんなあっせえ階層で?人様の角を盗んだだけじゃねえのか。」

「5階層まで走らせた私たちの言えたことか、馬鹿者。」

「けっ…雑魚にかまって遅れるなんてあり得ねえ。先行ってるぜ。イカれ劇団員はさっさとそいつら拾って帰りやがれ。」

 

ロキ・ファミリアの主力が次々と追い付いてくる。流石に異常な事態だと認識したリリから笑顔が消えた。

ベルはと言えば全身から蒸気を発しながら、しどろもどろに事のあらましを語っている。それを黙って聞くアイズは僅かずつ下がるベルとしっかり距離を維持するため相変わらず顔が近い。

先を行くと言ったベートはそれに気づいて第二射をベルの後頭部へぶつけたが、やはり無視され一人苛立って早足に消えた。

 

「すまない。通りすぎるだけだ。アイズが彼に近づいた理由はわからないが…」

「一緒に教えたんだもんな!そりゃあ気になるさ。」

行ってしまったベートとそれを見過ごせず付いていったガレスを除いた全員が静まり返る。

フィンがなるほど、と一言呟いたのを合図にわなわなと震え出す数人。

ぽかんとするバッツ。血の気が引くベル。もう隠すことはないと自慢げにゆっくりうなずくアイズ。

 

「なんだ?みんな知らなかったのか?」

「ああ…二人はバッツと同じ団員なのか。」

「そうだ。ベルはうちの団長だぞ。」

「「!?」」

(その扱いは本当に嬉しいですが、リリは違うファミリア、とは、言いにくい雰囲気ですね…)

「な?俺と一緒に入ったもんな。」

「う、うん…ちょっと恥ずかしくなってきたよ。バッツ。」

「なに言ってるんだ。ミノタウロスなんて凄いぞ。胸を張って帰ろうぜ。」

「よく頑張ったね。」

「うぇ!?えへへへ…」

((彼もバッツの様に特殊に違いない…))

 

バッツに振り回される空気を割って、アイズを下げながら軽い笑顔を見せるフィンがベルに手をさし出す。

「君のいま成し遂げたミノタウロス殺しは偉業と呼ぶにふさわしいだろう。同じ冒険者として敬意を評する。おめでとう。」

「あ、ありがとうございます!!」

困惑しながらも握手に応じたベルの手を見てフィンの表情は落ち着き、再び目を会わせた。唾を飲むベル。言わなければならないことは、ここかららしい。

「…それと謝らせて欲しい、バッツには本当に世話になっていることと、団長殿に挨拶もなしに行ったこれまでの事の数々、本当に申し訳なかった。」

「いえ、その…バッツのことは聞きました。」

フィンはアイズを一瞥する。アイズはただ真っ直ぐ見つめ返し、揺るがぬ意思を伝えた。

 

蒸し返すフィンの言葉にバッツは自分の鞄から必要な薬をリリの鞄へ分けるのを切り上げた。自分のことで、しかもどうしようもなさそうな事をこうも引きずられるのは性に合わない。まして今は喜ぶベルとリリに水をさしたくなかった。

「今は俺のことは…」

リヴェリアも消え行く状況の異常さに興味を持ったのか抉られたいくつもの跡を追って視線を走らせていた。顔をあげたバッツへ同情しつつも言葉を遮るのは親切心以上に私情も含んでいた。

「まあそう言うな。たまには心配させるのも年長者のつとめだ。」

「俺はそんなに年食ってないぞ。」

「そういうことでは…」

「お前も俺とあんまり変わらないくせに。」

「むっ。」

わずかに眉をしかめたエルフの横からちょこんと顔をのぞかせたアマゾネスの少女は、バッツの顔をまじまじと観察している。それを気にもせず鞄を閉じ、リヴェリアへ目を合わせたバッツは、申し訳なさそうにするわけでもなく続けた。

「なんか間違えたか?まあ何歳でも良いさ。」

「良かったね。若くていくつでも良いって。」

「む…」

 

眉が下がったのを見た二人が微笑む。敵わないなと呟くリヴェリアを押しのけ出てきたティオナの顔から、バッツは怪物祭の事を思い出した。

「お前のおかげで家に帰れた。ありがとう。」

「話は少し聞いてる。まだ調子悪いんでしょ?アイズが心配してたよ。」

「もう大丈夫だ。」

「ふーん。でも、バッツはなんかもっと、ばーっとなれる気がする。」

「何でわかるんだ?」

「アマゾネスだからね。」

バッツにはアマゾネスといえばなにかと視線を向けて来る印象がある。なにもしていないのに所属ファミリアを聞いてきたり、神々と似て場所や雰囲気に構わず興奮に身を任せがちで、突然世間話を切り上げて寄ってきたりする。正直意味がわからないし少し怖い。

ティオナからはそういう雰囲気は感じないが、何か感じたらしいし、アマゾネスとは特殊な感性があるのだろう。この子は怖くならないで欲しいと思った。

「なんだかわからないけど、凄いんだな。」

「でもアタシより強い所、そのうち見せてくれないと疑っちゃうかも。」

「そう言うなよ。前にティオナくらいの女の子に喧嘩で負けたことあるんだ。俺なんてそんなものさ。」

「ええっ!?あ、アイズでしょ!」

「ここに来る前の話さ。」

「思い出したの?」

「ここに来てからの事は全然だ。」

「そっか。」

 

ぱんと一つ手が鳴るのが聞こえ、皆の注目が集まった。

「そろそろ行こう。アイズも満足したみたいだ。あの大剣はミノタウロスの得物だったらしい。他におかしな所もない。この件はクラネル団長がキルドヘ責任もって報告するだろう。」

「クラネル団長!そうこなくっちゃ!」

バッツはクラネル団長の響きに感銘を受け勢いよく持ち上げたリリの鞄は思いのほか大きかった。アイテムを99個づつ持っているのが当たり前だった以前はどうだったか、考えないほうがいい気がした。

頭を振る劇団員を指差しここぞとばかりにフィンへ歩み寄るアマゾネス。その目は例の怖いあれだった。

「そんな小物のことはどうでも良いでしょう団長。そろそろホームからずっとこの男の臭いがする理由を教えていただけませんか。」

「…いい加減その話はやめてくれ。もう10回はした。」

見慣れた光景なのかロキ・ファミリアの皆は全く無視していた。カバンまるーいと呟くとなりのティオナにバッツが目を向けると、嫌そうな苦笑を浮かべた。

「あいつはなに考えてるんだ?」

「お姉ちゃんはずっとあんな感じなんだ。愛がどうって。よく嫌われないよね。」

歩き出したフィンに合わせて皆が自然と踏み出す。雰囲気にのまれたベルは見送る視線を外せなかった。

「ではな。しばらくの別れだ。魔法の調べに進展があれば手紙でも送る。」

「アイズさんは渡しません。さようなら。」

「バイバイ!元気になったら稽古つけてね!」

「またなみんな!」

 

皆真っ直ぐに進む中、黄金色の長い髪が横に跳ねる。レフィーヤの制止を振り切って一人踵を返し見つめる先には新たに憧れた一人の冒険者。

「バッツ。」

「おう、頑張れよ。」

「もっと強くなるから。今度は本気出させる。」

「もう十分だろう。」

「次は、必ず。」

「…ああ。」

 

颯爽と歩き出すアイズを見送る。

決意の瞳には熱があった。バッツは本気の顔が好きだった。誰だってそういう瞬間を見せるものだが、面と向かって叩きつけられるのはそうあることではない。大事な約束が増え、じっとしてはいられなくなった。

あの大男との約束がよぎる。あいつは今頃どこを歩いているだろう。

 

「バッツ。帰ろう。」

「ああ。俺たちもアイズたちに負けてられないな。クラネル団長!」

「や、やめてよ!」

「リリもお供しますよ。クラネル団長?」

「もう!」

「二人ともぼろぼろだけど、体は大丈夫か?」

「「はい!」」

「よし!帰りは任せた!リリ!」

「お任せください!ゴブリンの一匹も見せはしません!」

「そこはバッツが頑張るんじゃないの!?」

 

 

前を行く身軽な少女は鞄が無く、ダンジョンの中ではいつもよりさらにか弱い印象が強い。

ミノタウロスの恐怖を上回る覚悟を付けてくれた感謝を胸にする少年の凛々しい顔の意味をバッツは理解できなかったが、それより気になることがあった。

「なあ、リリ、変わったよな。」

「どういうこと?」

「子供なのにお母ちゃんって感じだ。」

「ええ…?そうかな。」

「遅いですよ二人とも!早く帰りましょう!今日の換金が楽しみです!」

「財布握りたがるしな。」

「それはいつものことじゃない。」

 

地上はすっかり暗く、酒と飯のにおいがどこからともなく漂う通りは開いた窓という窓から喧騒が聞こえる。

呼び込みに忙しい食事処の店員は主に換金を終え帰るだけの冒険者に狙いを定めるが、汚れ切った子供二人とその保護者は歯牙にもかけなかった。3人が思いつきで寄った店はすっかり通りからも外れていたおかげで客層も違っておりむしろ汚れるから入らないでほしいという視線を隠し応対した。

 

3人そろって帰ってくるのを見るのが初めてだったヘスティアは安心と喜びに涙ぐむのを神らしく振舞いたいと必死にこらえたが、気恥ずかしそうにベルが差し出した小さな花束と言葉にあえなく突き崩されてしまった。

「いつも心配してくれる神様へ、こんなものじゃまるで足りないけど…」

「た、だりないもんかぁ!ありがどぉ!」

ベルは汚れも気にせず抱き着いたヘスティアを抱きとめ、花を持たない片手は無意識にその頭を撫でた。

あまりに喜ぶ姿にバッツは頭をかく。

「いつもすぐ消えちゃってごめんなさ…」

「いい…んぐすっ…元気に帰ってくればそれで大丈夫さ。リリ君も二人を助けてくれてありがとう!」

「こちらのセリフです。こんな私までお気遣い下さってありがとうございます。」

「じゃあ遅いけど飯にするか。みんなでミアの店に行こう。」

「お酒は一杯だけですよ?」

「な?」

「うん。うるさくなってるかも。」

「それはいいねえ、でも…ぐへへ、もうちょっとこのまま…」

「そこは私の場所でもあるんです!もういいでしょう!」

「ほう…詳しく聞かせてくれよ?ベル君。」

「と、とりあえず離れてください!」

 

(大人になるのって早いんだなあ。みんな本気で生きてる。ボクものんびりできないけど…まあ明日起きてからでいっか!)

その後、やはり一杯で我慢できなかったヘスティアは幸せに溺れるように泥酔した。高らかに家族の無事を叫び散らし始めてミアに叩き出されたところでしつこくバッツを追いかけてきたロキと遭遇、高ぶった感情を怒りに変えて問答無用でキャットファイトを開始し、リリを送ったベルが戻るまで路上で混乱をまき散らした。

無論、ヘスティアに振り回されるバッツの酔ったぬるい微笑み姿と共に、新たな不名誉伝説の1ページを刻むこととなった。

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