冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか 作:その辺の人
ジョブはいわゆるすっぴんマスター。
持ち物は置いてきたので無し(現在ミアハのポーションのみ)。
装備はグラディウス一本、エルフのマントのみ。
残りは戦闘力に関係ない衣服となります。
ダンジョンへ
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冒険者登録を済ませたバッツとベルは、ダンジョンに入る許可を貰うために真面目に学んだ。
無事担当のエイナに許可をもらい喜んだ二人は、ギルドから武器と防具の支給を受ける。
「やったよバッツ!はやくダンジョンに行こう!」
「そうだな。でもモンスターがいるのに楽しそうだな。」
「僕はダンジョンが憧れのひとつだったんです。」
「なるほどな。俺も知らないものを見るのは好きだぞ。前に亀をつついて遊んだら怒られたこともあったっけ。」
「モンスターをつついたらダメでしょ!」
「いやそれがな?話すんだよその亀。しかも偉いんだ。」
「そんな亀が…!?」
「まあその話はまた今度な。ダンジョンへ行くったって、その短刀で良いのか?」
「はい。」
「短い刃物は諸刃の方が突き刺しやすいからおすすめなんだけどな。」
「でもタダでくれるんだしわがままは言えませんよ。それにバッツのナイフも片刃じゃないですか。」
「でも拾い物だしわがままは言えませんよ。」
「あ!真似しないでよバッツ!」
「ははっ。こいつは見た目より軽いからかなり使いやすいぞ。そうだ、交換するか!」
「良いんですか?」
「いいぞ?切れ味の悪い武器で変なクセがつくのは良くないっておやじによく言われてな。」
武器を交換した二人はダンジョンへ着いた。
まずはゴブリンから。そう決めていたバッツは、以前やたら凄いパンチで襲ってきたゴブリンの事を思い出していた。
ダンジョンへ潜るバッツの頭上で星が3つ煌めいた。
「ベル。今日はエイナから一階までしか行くなって言われてるだろ?だから二階まで行こうぜ。」
「どういうことですか!?」
「どうもこうもないさ。知らないものを見たいだろ?冒険だよ。」
ベルはその真面目さ故、エイナから聞かされた冒険者は冒険するなと言う教えを思い出したが、いかんせん好奇心の強い男二人組である。
ベルは貴重な教えを飲み込み、気ままなバッツの思い付きに同意した。
そんなベルの体力を無視した皮算用を楽しむうちに、壁のひび割れに気付いたバッツはベルの短刀を左手に構える。
しかしバッツがもらった支給品の片手剣は腰に下げたままで、右手は素手だった。
「早速お出ましだな。俺がこの前倒したときは首をひと突きだった。ベル、やれそうか?」
「わ、分かりません。」
最下級のモンスターに理性はない。
ぼとっと落ちてきた1体のゴブリンはうなりながらあたりをうろつき始める。
既に冷静でないベルは思わずゴブリンと目を会わせてしまう。
「ひっ。」
「目をそらすな!来るぞ!」
思わず目をそらしてしまったベルをよそに、ゴブリンは自身に近い位置のバッツへ体を向けなおした。
「近いやつから狙うみたいだな。俺が引き付ける。ベル!よく見ろ!」
「は、はい!」
ベルが緊張で瞬きすることを忘れていたことに気付くが早いか、まっすぐバッツの顔面へ跳ねたゴブリンの腕は、バッツが右足を下げただけで空を切った。
すかさず突き出されたバッツの右手は伸びきったゴブリンの腕をすり抜け、その細い首に痛打した。
たった一撃だった。
ベルはこの瞬間を鮮烈に焼き付けた。
この日からその強烈な打撃音と、崩れ落ちるゴブリンをよく夢に見ることになる。
「名付けてゴブリンパンチってな。おっとこいつ…もうのびてる。」
「す…凄い…」
「なにいってんだベル。お前ならこれくらいすぐだぞ。」
「いや、まずゴブリンのパンチ…どうやって避けたか分からなかったんですけど…避けたんですか?」
「避けたさ。こう…サッ!って感じで!」
「全然伝わりません!」
「元気出たな?いちいち驚いてちゃきりがないぜ。」
「!…ありがとうバッツ。」
「いいんだ。怖いのはいい。でも目をそらすのは絶対ダメ!」
「はい!」
あまりにも一瞬の出来事であったこの戦闘はベルに安心感をもたらした。
こんなに強いバッツがいるなら2階層だって平気だと。
しかし、そんな希望は実践派であるバッツの一言で弾ける事となる。
「じゃ、ベルが今の出来るようになるまで、俺は下がって他の奴ら相手にするから。まあやられて覚えようぜ。」
危なくなったら助けるし、ぶっ倒れても担いで帰るさと付け加えたバッツの表情は心底楽しそうだった。
この晩ベルは、バッツがエイナの教えに同意していたからこそのこの提案だったと気付くのだが、今はおぞましいモンスターに睨まれて縮み上がるばかりである。
「さあ、2階まで元気にいくぞ!お腹が鳴り出す前には帰りたいな。」
「そんなあ!うわあ!こっちに来る!」
「よく見ろ!走れ走れ!」
「怖い!怖いよバッツ!」
結局ベルは無駄に距離をとって一撃も入れられないまま長い間緊張し続けた結果、走り疲れてしまった。
もうだめだと既に何匹か倒し終わったバッツの元へ逃げ出すためにゴブリンから背を向けてしまうが、足がもつれて転んでしまう。
すかさず追い付いたゴブリンが、ベルの背中をしたたか打ちつけはじめたところで、バッツがベルのナイフでゴブリンへ致命のひと突きをいれた。
ベルを落ち着かせ呼吸を整えさせているうちに、倒れているゴブリンからその核を取り出すと、静かに帰還を宣言する。
「ベル、立てるか。さすがに疲れたろ。」
「はい…こわかったです。凄く…」
「怖いのはホームに着くまでって相場が決まってるんだぞ。まだ泣くには早いな。」
「はい。…バッツは凄いや。きっともう二人分は魔石を集めてるよね。」
「お前が叫ぶからよく集まったぞ?探す手間が省けたな。」
「…すみませえん。」
「泣くなよ!ほら俺はこんなに元気だぞ!おぶってやるからさ。二人でこんなに稼いだぞってヘスティアに自慢しようぜ。」
「…はい!…今日の訓練は無しでおねがいします…」
「そうだな…ゆっくり寝よう。」
結局ダンジョンを出るまでぐすぐす言うベルをバッツはなだめながらホームに帰った。
ヘスティアは初陣を終えた二人の初めてのステータス更新を、今かとホームで心待ちにしていた。
それだけに擦り傷だらけで背中を真っ赤にしたベルを見たときは思わず目を潤ませ、無傷のバッツに抗議した。
「なんで守ってあげなかったの!?君なら余裕だってわかってたよ!」
「守ったさ。でもある程度はベルが強くなるために仕方ないことなんだ。」
「!…そうだよね…でもみるのは辛いな…」
「そうだな。でも男の子ならこの程度平気さ。」
「君がいうなら、信じるよ。…でも!絶対に!ダンジョンでベル君を一人にするなよ!」
「そう怒るなよー。」
「いいややっぱり言わせて貰うけどね!きみはなんだか優柔不断と言うか、なんかそんなところあるよ!上手く言えないけど!そもそも出会ったときにも…がみがみ」
初めてのダンジョン探索はとても平和に終わった。
賑やかな晩御飯とベルの成長という楽しみも増え、バッツは満足に一日を終えた。
眠い…眠い…