冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか   作:その辺の人

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今さらですが不定期投稿です。

すっぴんマスターのバッツは基礎能力もすっぴんの時が一番高いはずでは?
…ff5ではその通りですが、オラリオではすっぴん時はアビリティ何でもありの基礎能力補正無しで行こうと思います。忍者にチェンジで素早さと器用さが上がるよって感じで。
つまりすっぴんは超絶器用になんでもこなせて身体能力は一般冒険者ですね。
 「バッツ は ホーリー を となえた!」
 「しかし MPが たりない!」


5話 初めての休日

初めての休日

 

ーーーーー

 

いつものように朝日のない地下室で起床したベルは、美味しいものをおごって貰えることを思いだし、とりあえずバッツを起こす事にした。

ベルは床で肩当てをはずしたマントを羽織って床に寝ているバッツをつつき起こす。

つついた肩の丈夫な感触を通して、日頃どれだけ自分に合わせて戦ってくれているかベルは察した。

 

「僕の腕はこんなにしっかりしてないもんなあ。本気のバッツってどんななんだろう。」

「俺の本気が気になるのか?」

「うわっ。おはようバッツ。」

「おはようベル。うわってなんだよ。」

「びっくりしただけ。気にしないで。」

「まだヘスティアは寝てるな。」

「うん。早速だけどダンジョンに行きたいんだ。だから美味しいご飯はそのあとで…」

「昨日あんなことがあっただろ?ダンジョン行くのは絶対ヘスティアが怒るぞ…それに怖くないのか?」

「怖いよ。でもやっぱり挑戦したいんだ。せっかくステータス上がったのに…」

「それに昨日装備をボロボロにしたの忘れたのか?新しい防具くらいなんとかしないとな。」

「あっ…そうか…もう僕の武器と防具は無いんだ…」

「武器は俺のを使えよ。防具は買わないとな。」

「うん。さすがに防具無しでダンジョンには潜れないよね。」

「じゃあどれだけ強くなったかは見てやるからさ、とにかく今日は装備を買おう。買い物が楽しみだったんだ。」

「うん。楽しみだけど、今日はダンジョンには潜れないね。代わりに訓練はいつもより多めにしてよバッツ。」

「わかったわかった。とりあえず外出るか。」

 

早朝から訓練を開始するためにそとへ出た二人。

体操を行い戦闘準備を始めるベルに対しバッツの提案は、とりあえず走るというものだった。

単純な競争はベルの身体能力を測り、自覚するのに丁度よいものだというバッツの話になるほどとうなずくベル。

コースはなるべく簡単に、街の壁まで走って先についたほうの勝ちとした。

 

「人が少ない今だからできるよね。…ちょっと楽しそう。」

「やっちゃいけない!って言われたことってやってみたくなるよなー」

「バッツ、お手柔らかにね?」

「お互い本気でやらないと自分の力がどのくらいか測れないぞ。」

「…そうだね。頑張るよ。」

「よし、じゃあこの石を投げるから、落ちたら走るぞ。」

 

よーいドーンなどと高らかに叫び走りだしたバッツは速かった。

ベルはあっという間に最初の曲がり角に消える背中を目で追うことになった。

全力で走るバッツの無駄のない体使いは、この速度差が身体能力だけの差でない事をベルに悟らせた。

 

「装備を付けてる時と全然走り方が違う!」

 

ベルは見よう見まねで大きく腕を振り、顎を引く。

それだけでも今までとまったく違う加速がベルに高揚感を与え、意識を集中させた。

少し走ったベルが軽い息切れを感じ始めた頃、既にバッツの背中は見えなくなっていた。

すっかり集中しきって周囲への警戒が薄れたベルは、不意に横から飛び出た人とぶつかってしまう。

ベルが思わず謝るところから始まったこの出会いは、今日約束していたバッツの奢る店を本人不在のまま決定させた。

ぶつかった少女は居酒屋の店員で、その商魂たくましさによりベルは朝食を受け取った代わりに彼女の店で夕食を食べる約束をしてしまう。

結局これが原因でバッツは壁で待ちぼうけていたが、涙目で焦るベルが持ってきた想定外の朝食であっけなく許した。

2人分には少し足りない朝食を食べ終えた二人は、人の増えた通りを眺めていた。

まずはとバッツが提案する。

 

「ベルの装備で金が要るからさ、ミアハに小遣いもらいに行こうぜ」

「えっ!?もう受け取らないことにしたでしょ?ミアハ様の財布も大変だからって。」

「いやー、昨日ちょっとあってな。もし稼げてたらおこぼれが欲しいなあ、なんてな。まあ行ってみようぜ。」

 

ミアハのホームについた二人は、ミアハがとても珍しいと語るナァーザの満面の笑みで歓迎され、昨日いくらか儲かったことを察したバッツがベルの事情を話せば2人は簡単に装備代を見繕ってくれた。

二人はお礼とミアハの新薬開発を応援すると、返しにバッツの調合品を是非うちで取り扱わせてほしいと熱く口説かれた。

ベルはバッツをみんなに頼られてすごいなあなどとおもったが、バッツはこの街の人をみんな頼ったら助けてくれてすごいなあと思っていた。

二人は通りに出て服を買い始める。

思いがけない朝食といい、今日はいい風が吹いてるなと感じたバッツは、この流れに乗っていい装備を手に入れようと考えた。

ベルに服を選ばせている間にバッツはざっと装備品の店の並びを見渡した。

バッツには無数にある武器、防具の出来と値段がどの店も大して変わらないように思えた。

仕方なく新品を諦めたバッツは、中古品の高額な装備を扱っている店に注目した。

とりあえず一番値の張るこの刻印の剣はどこで手に入れたのかと店の主人に尋ねたところ、ダンジョンで力尽きた冒険者の遺品だという。

店主に面白かったとお礼を言ってベルと合流する。二人はとりあえず一式の装備を整えることにした。

 

「ベル、今中古の剣を見てたんだけどさ、ウン百万ヴァリスだってよ!」

「す、凄い!…とても僕らじゃ買えませんねー…」

 

価格に圧倒されるベルを引き連れ高級な装備を見に行こうとするバッツは、結局この街の最高級店まで見て回った。

バッツが持ち前の積極性と好奇心を発揮しひと騒動あったものの、無事装備の注文と最高級品の見学を済ませた二人は、昼食をとった後、通りを見物しながらヘスティアの職場に顔を出してみることにした。

 

「じゃが丸くん売ってる?」

「バッツ!来てくれたのかい!?サービスはしないよ!」

「神様…しっくり来すぎです…」

「ベル君!ボクをみて落ち込むなんて言語道断だよ!君たちにおんぶにだっこなんて絶対嫌なんだ。生活費位任せておくれよ。」

「良いじゃないかベル。ありがとうな、ヘスティア。…そうだ!」

「バッツ?」

 

そそくさと店の横へ消えたバッツ。

ヘスティアとベルは目を合わせてバッツの奇行を不思議がったが、すっかりベルは慣れていた。

 

「ベル君、バッツとこのあと予定があったんじゃなかったのかい?バッツは行ってしまったよ。」

「神様。実はおやつの時間まで暇なんです。バッツはよくさっと消えてさっと出てくるので待ちます。」

「他のお客さんが来るからこの横でね。もてなせなくてごめんね。」

「いえ、むしろ仕事のジャマをしてしまってごめんなさい!」

「謝ることは無いんだベル君。…じゃあ君も呼び込みやってみるかい?」

「えっ?恥ずかしいですよ…」

「どうせ暇なら売上に貢献してくれよ!ボクのためだと思って!真心を込めて、大きな声で!さん、はい!」

「へい!いらっしゃい!!」

「「!!」」

 

ひょいと顔を出しヘスティアに並んで元気に呼び込みを始めたバッツ。

予想外の大声と共に登場したバッツに驚いたヘスティアとベル。

二人がバッツを見ると満面の笑みで店に馴染みきっていた。

ベテランの風格さえ感じる通りのよい声、その爽やかな顔をもってじゃが丸くんの油っこい匂いなどまるで感じさせない見事な雰囲気が訪れる。

すっかり看板娘となっていたヘスティアさえ呑まれるバッツの存在感は看板息子と呼ばれても全く違和感がない。

しかし、そんなバッツさえ敵わない存在があった。

奥で油を切る音が消えた。音の主が動く。

少し丸い背中が振り向き、左手をぬっと伸ばしたと思うと、バッツの首もとをがっしり掴んだ。

バッツが店頭から消える。

この間僅かにベルの瞬き二回分の出来事である。

 

「商売の邪魔しないでください!」

 

店のおばちゃんである。

バッツを投げたおばちゃんが遊びじゃないのよとばかりにバッツをにらむ。

みるみる落ち込むバッツ。

バッツの大声に店をみた通りすがりの人々には状況がわかるはずもなく、首をかしげる者もいた。

 

「…やっぱり俺じゃダメなのか…」

「おばちゃん!?バッツ!?」

「バッツが出たら消えた…」

「いきなり入ってきたと思ったらなに言い出すんだいこの子は!仕事探しならうちはヘスティアちゃんで足りてるよ!他を当たるんだね!」

 

いろいろすっ飛ばし過ぎたバッツの行為は怒られて当然であった。

ちょっとぐらい手伝いしても良いじゃんと拗ねるバッツ。

ヘスティアは始めてみるバッツの振るまいに思わず口が半開きのままベルを見る。

 

「神様…ボクだってこんなバッツは初めて見ました…」

「…疲れてるのかな?バッツ…」

「…とにかく!おふざけで入ってきちゃいけないよ!」

 

おばちゃんの言葉にヘスティアも顔をひきつらせた。

丁度今ベルの可愛いところ見たさで呼び込みをやらせようとしていたのだから、限りなく灰色の未遂とはいえ、ヘスティアも反省した。

おばちゃんの正論によって冷えきった店頭。

 

「はい…」

「わかったならよし。でもせっかく来てくれたんだしね。はいこれ。持っていきなさい。今度はちゃんと買いに来てください。」

 

じゃが丸くんを手渡されるバッツ。

そのいい匂いに少し気分の戻ったバッツはとぼとぼベルの隣に並ぶ。

 

「…ヘスティアの顔も見たし行くか。」

「…はい。」

「…バッツ!まだ今日は時間があるんだ!ベル君と楽しんで来なよ!」

「ああ!じゃが丸くんありがとうなおばちゃん!」

「神様、お仕事頑張って下さい。行ってきます!」

「…なんだい変な子だと思ったら、いい子達じゃないの。」

「…ああ!自慢の家族さ!」

 

店頭で一騒動終えたバッツとベル。

しばらく見物した後、今までマントで寝ていたバッツの毛布などを買った二人はバベルにむかった。

図らずともおやつを手に入れ、残す用事が装備の受け取りに美味しい食事となった二人は気分が晴れていた。

顔も手元もホクホクである。

 

本日二度目となる装備屋への入店は、一度目と違い二人とも緊張しなかった。

今日の店番である女性がにこやかに迎える。

バッツとベルは彼女に装備品の調達を任せていた。

 

「ツバキ、良いものあったか?」

「バッツ、ベル。よく来た。二人分揃えてあるぞ。」

「ありがとうございます!楽しみだなあ。」

「我がヘファイストス・ファミリア製の装備だ。すべてバベルで揃えたもので、出来合いのものとなっているから、出来る限りの調整をここでさせて貰う。」

「つまり…試し切りだな!」

「そうだ!バッツの美技を見せてくれ!今日一番の楽しみだったんだ!」

 

椿は午前中にバッツが本気で繰り出した技を見ている。

椿自身も、バッツの技が如何に完成していたか一目で見切れるほど戦闘経験を積んでいたため惚れ込むのはあっという間だった。

我慢できずわずかに上気した顔でバッツを見る。

バッツは新しい武器を即実戦で試してきた経験から、安全に試し切りができて注文も付けられるのは新鮮な気持ちだった。

 

「ベル、俺はすぐ終わると思うから、お前先にやって貰えよ。」

「そうだな。私も好きなものは最後に食べる派なんだ。」

「話聞いてたか?」

「僕が先ですね!椿さん、よろしくお願いします!」

「よし、小僧の分はこれだ。」

 

ベルのために用意された装備は、取り回しのよさに加えて冒険者らしく魔石灯を着けたり何かを背負っても戦闘できる用に、背中や腰はベルトを回すのみで防具はない。

防具として身につける胸当てと肩当ては銀色で軽く、わざと防具がひしゃげることで致命傷を避ける作りのため、何度も打ち合って戦えるものではない。

急所への一撃を外した反撃から生き延びる為だけの装備。

バッツは無数のモンスターから逃げ切る為の防具でないことに物足りなさを感じたが、実際にその軽さを確かめると、ベルの戦闘方法に照らして納得した。

しっかり見に着け方を聞いたベルはすんなり一人で着けて見せた。

軽く試供品の鞄を背負えば少年らしくも様になっているようだった。

満面の笑みでお礼を言うベル。

まだ終わってないぞと微笑んだ椿の見立ては正しく、どこか浮いていたり動かしてずれる事もなかったため、長すぎるベルトや紐を切り、防具の引き渡しを終える。

次に椿は武器の説明を始める。

要点をまとめると、利き手は力が乗せやすいわずかに反りのある短刀。

もうひとつは逆手持ちを想定した体重で引き裂くことのできる両刃の短剣。

どちらもバッツの短剣に比べれば細く、短い刀身だった。

試し切りではバッツが軽く持ち方と振り方を教えると、ベルいくらか皮の鎧に打ち込んでみる。

半分ほど刀身が鎧に沈んだところで短剣が動かなくなり焦り出すなど、素人らしい試し切りとなったが、特に武器に問題はなさそうだった。

ベルは満足そうに改めて椿へお礼した。

椿はベルの防具についてかなり安くあがったうえ、二刀流に慣れたらもっと得意な部分を伸ばした武器としっかりした防具に買い換えるべきだと助言した。

 

続くバッツの防具はベルの防具に比べいくらか重いものだった。

薄い革製のシャツに上から急所を守る金属質なベストに手首を守るだけの小手を着る形の防具。

すでに持っている肩当てとマントを着ける前提であったためベストの肩の部分は空いており、動かしやすさにも貢献している。 

ベストも薄いようで、締まったシルエットの通りにある程度なら背中まで手を回すことも出来るほどだった。

革シャツのフィット感やベストの質を確かめ、出来合いの品でここまで選べるのかと感心するバッツ。

これについてはバッツの好感度を稼ぎたい椿の職権濫用が働いていた。

このファミリアではあまり扱わない革製品の試作品作成と称した指示を緊急で部下に飛ばし、図面も椿自身が昼飯返上で一息に書き上げた。

ベストについても同様で、ここまで薄く細かいパーツを作れる職人は多くないため、いかに素材が安くとも、ここまでの精度を出せばバッツの指定した予算では間に合わない質の良さ。

結局小手のみが実際に店売りされていた物であり、付けられていた名前は得手輪(エテマル)と左小手(サルキチ)だった。

到底素人に使わせるのは勿体ないものであったが、バッツが使う防具としては質が悪いと思う椿だった。

椿の過剰なサービス具合であったが、素材の質によって決して防御力の高くない防具に仕上がったこともあってか何も疑わないバッツ。

そのままバッツは満足気にお礼を言って武器の御披露目を急かす。

バレなくて良かったと胸を撫で下ろした椿は片手用にしては長めに見える細い諸刃の剣を取り出した。

 

「100Cある。片手用にしては間違いなく長い。お主の腕を見込んでの武器だ。」

「両手でも使えそうな柄の長さだな。」

「お主は片手が空いてるからな。両手持ちにしては軽すぎる剣が売れ残っていたのでピンときた。」

「よくある形の剣は中途半端な大きさにしたら売れ残るよなー」

「分かるか!だから武器は安くあがったぞ。その分防具はこだわらせてもらった。」

「なるほどな。大事に使わせてもらう。」

「では!試し切りだ!ここになんの変哲もない革の鎧を用意した!」

 

ベルの使用した鎧に比べ明らかに重そうなそれは、バッツの剣技に耐えられるよう用意したそれなりの高級品であった。

無論、バッツの技が見たい椿によるサービスの一環だった。

ちょっとした企みもある。

バッツに渡した武器をこの鎧でそれっぽく傷め、修理の期間だけでも自身で打った武器を使ってほしかったのだ。あわよくばポッキリ折れてずっと私の武器を使ってくれないかとも。

 

「これ切るのは勿体なくないか?」

「気にするな。内張りが腐っていてまともに着れるものではなかったからな。外側だけでも活用させてくれ。」

 

実際鎧の中には安物とはいえくさりかたびらも隠している。

それなりに丈夫そうだと看破しても気にしないバッツ。

 

「そうは見えないけどなー」

「いいから、やるんだバッツ。雑にふって肌に届くほどそいつはヤワじゃないぞ。」

「仕方ないな…本気でやるぞ。怒るなよ?」

 

椿から受け取った剣を何時ものように軽く前に出して構えるバッツ。

直後に訪れる緊張がベルと椿の視線を引き付ける。

一息吐いたバッツは肘を落としながら全身を前のめりに強く一歩踏み込んだ。

 

「だっ!」

 

振りかぶることもなくあっという間に伸びた剣先は、ベルが短剣を刺すことさえままならなかった鎧より倍は頑丈であったはずの鎧を簡単に裂いた。

急所である心臓をめがけた鋭い一撃は紙を突くように突き抜け、背中から突き抜けた剣先のきらめきにベルは絶句した。

 

「…まごうことなき必殺!致命の一撃!美しさすらある…!」

「へへっ。まあ、売れ残りの割に良いもんじゃないか?やるなツバキ。」

「あ、ありがとうバッツ。その調子で使ってくれると武器も喜ぶ。」

 

全くダメージの見えない刀身に、椿はバッツの技量が自身の経験程度では測りきれない事を悟る。

儚くも狙いは突き崩されたが、その技を見れた満足感で笑顔が溢れる。

 

「安あがりが過ぎたな。目の前でこれほどの技を見れるとは。次はミスリルの鎧で頼む。」

「試し切りにそんなものを出すなよ!」

「試し切りじゃないぞ、私の酒の肴に頼む。」

「もっとごめんだ!」

「弟子の小僧はここまで育つかな?」

「えっ?…が、がんばります!」

「弟子なんてとったことないぞ。」

「そうか…引き連れ、技を見せ、面倒見てやるのは師匠と弟子ではないのか?」

「弟子なんて…えへへ…」

「なにいってんだか。よし、かえるぞベル。飯にしようぜ」

「はい!師匠!」

「やめろって!」

「似合ってるぞ師匠。」

「ああ、もう!」

 

装備の新調を終えた二人は食事に向かう。

ホームに寄って荷物を置き、新品を手放したくないらしく武器は腰に下げたままのベルに案内されて今晩の食事処「豊穣の女主人」へ着いた二人。

二人はベルとぶつかり朝食をくれたシルに迎えられ、壁際の二人席へ案内された。

 

「いらっしゃいませ。約束通りですねベルさん!お連れのかたまでいらっしゃるなんて感激です。」

「シルさん。この人はバッツ。僕の師匠です。」

「ベル!それやめろって言ったろ!」

「まあ、師匠さんですか。ここで働かせていただいています。シルです。今後ともご贔屓にしてくださいね。」

「師匠じゃない。バッツだ、よろしくな。高かったらあんまり来ないと思うけど。」

「正直な方ですね。でもきっと納得していただけますよ!」

「じゃあ早速なんかおすすめのやつくれ。あと酒も。」

「僕はお酒は無しで。」

「承知しました。少々お待ち下さい。」

 

気の抜けた注文を終え、バッツとベルはあたりを見回しながら話し出す。

 

「なあ、完全に捕まったって感じだな?ベル。」

「いやあ、断りにくくて…」

「いいさ。出会いは大事にしないとな。」

「そうですよね!出会いは大事だし、旅の醍醐味ですからね!」

 

何やらバッツの一言に触発されたベル。

バッツは止めずにベルの話を聞き続けると、なんとベルは可愛い異性との出会いを求めてオラリオにきたらしい。

それはアイズを見て必死になり、シルに捕まるはずだと納得するバッツ。

いつか海賊の寝顔に一目惚れしかけた経験のあるバッツは、そういう出会いをたくさんしたいと語るベルのロマンとやらを否定できなかった。

しかしミノタウロスを見て目が覚めたとか、あの人に追い付くためにはこれじゃダメだとか言い出すベル。

気分の落ちたまま食事するのはいけないと思ったバッツがベルの気を引こうとした瞬間、香ばしい野菜と肉の香りが図らずしてベルの気分を切り替えた。

なんとも間の良いシルにバッツが笑顔でお礼を言うと、さっとお辞儀をしてそそくさと仕事に戻って行った。

その後は二人仲良く過去の話などを語りだす。俺の剣は親父が教えてくれたんだと語るバッツを目を輝かせて聞き入るベルに、僕のおじいちゃんは女の人が大好きでと話したベルの祖父のいたずら話を聞いてげらげら笑うバッツ。

二人の雰囲気の良さは、なんとも気のいい兄弟みたいだと、荒くれ物の多いこの街では珍しい客であったためか店員の女性たちの癒しとなった。

一部の猫人の店員は体の線をさらすバッツのほろ酔い姿と時々身を乗り出して話を聞くベルの尻ばかり見ていたようだったが、凝視のかいあってかエールを飲み切ったバッツが手を挙げて店員を呼ぶのに気付いた。

今行くにゃと返事をしたところで入り口が開く。

見ればそれなりの人数の冒険者一行であったのを確認した店員たちは、バッツを見ていた猫人も先に水だけでも出すためにと一行を優先して動いた。

手持無沙汰になったバッツ。

ベルを見ると冒険者一行に目が釘付けになっている。

バッツが視線を追うと、一人の冒険者にぶつかった。

小柄で金髪の少女。バッツには見覚えがある。

ベルのいう件のあの人こと、アイズ・ヴァレンシュタインであった。

とすればこの一行はおそらくミノタウロスを逃した例のアイズの仲間かもしれないとバッツは考える。

嫌な予感が胸を覆うバッツ。

バッツはアイズ一行が席に着くのを見た後ベルに視線を戻すと、既に顔を赤くして目の前の料理をじっと見つめている。

とりあえず今日はもう切り上げようと改めて店員を呼ぶバッツに反応したのはシルだった。

 

「お呼びでしょうかバッツさん…もしかしてベルさんにお酒飲ませましたか?」

「…ああ、そうなんだ。ちょっと目を離したすきにこいつを飲んだみたいでさ。だから大事を取って今日はもう…」

「でしたら酔い覚ましにいい一品があります!すぐお水と一緒にお持ちしますね!」

「おい!…話は最後まで聞いてくれ!」

 

仕方なく料理をつまむと、何やらベルがアイズ一行に聞き耳を立てているようだと気付いたバッツは、酔いもあって今の大声がアイズの気を引いてしまったことに気付かなかった。

 

「あの声…」

「アイズ?どうしたんや、あんなんここじゃよくある店員への絡みやろ。なにせここの店員は上玉ぞろいやからな…ぐへへ…って無視せんといて!」

「それでアイズはよ、助けたやつにくっせえ血まみれのトマト顔のまま逃げられたんだとさ!笑えるよなあ!」

「ベート、いい加減にしろ。私たちの落ち度を振りまくなど…」

「お堅いねえまったく。そんで逃げたやつは白髪に紅目でっておい、アイズ…ん?」

「すみません…私たちダ、ダンジョンで会いましたか?」

「なんだ?俺たちはもう帰…」

 

予感の的中に思わず頭を押さえるバッツ。

はたから見れば具合の悪くなった客とそれを介抱する人にしか見えなかったため、無視された。

料理と水を持ったシルがやってきて青い顔で固まっているベルに話しかける。

 

「ベルさん、お水です。これも食べると落ち着きますよ。聞いてますかベルさん?」

「シル、ベルはほっといてくれ。大丈夫だから。」

「いや、こんなに青いのに大丈夫って…」

「とにかくもういいから、ありがとな。」

「…はい。何かあればすぐ呼んでくださいね。」

「あの、私たち…」

「聞こえてたよ。あんたアイズ・ヴァレンシュタインだろ?うちのベルを助けてくれてありがとな。…ほらベル。」

 

ベルが顔を上げると、真っ青だった顔がさっと茹だって赤くなる。

それを見る者の中にも、気分の上がる者が一人。

 

「え?あ!ア…アイ…」

「おう!噂をすればトマト野郎のご登場じゃねえか!アイズもこんなに野菜があんのによく見つけたぜ、笑ってやれよ、ホラ!」

「あ、えっう、うわああぁ!!」

 

あっという間にベルは錯乱した。

椅子を蹴っ飛ばしたかと思ったら入り口に体当たりをかまして飛び出ていくベル。

バッツは一人残され、扉から視線を戻すとアイズと目が合った。

 

「何や、この店で食い逃げとは太いやっちゃなー。」

「ははっ!アイズまた逃げられてやんの!」

「今のはお前の所為だろうベート。全く…」

「…ごめんなさい。私の仲間が…」

 

そのアイズの一言でバッツの気分は落ち込んだ。

自分のミスでないどころか、よりによって他人への被害を笑い話にしたアイズの仲間を心底嫌悪した。

 

「あいつらが、お前と、ミノタウロスを逃がしたんだな?」

「は、はい…」

「なんでベルが笑われなきゃいけないんだ?」

 

黙るアイズ。

酔いの回ったバッツはいつもより少し短気だった。

 

「!!」

「話せないのか。もういい。…おい!シル!」

 

バッツの怒気を帯びた声に恐る恐る返事をするシル。

その顔を見て悪かったと謝り、二人分の金を払うバッツ。

全く動かなくなったアイズをよそに店を出ようとしたバッツが扉に手をかけようとしたその時であった。

 

「なあ、うちのアイズに何したん?」

「あんたこそ誰だ。見てただけで関係ないだろ。」

「ウチはロキ。アイズの保護者や。」

「そうか。じゃあ必死に生きるやつを笑うなってよく教えとけよ。」

 

とげとげしく話しかけてきた細目の雰囲気が落ち着く。

今のバッツに対して、挑発や適当にファミリアの名前をちらつかせて丸め込もうなど、絶対やってはならないと一目で悟ったロキは、これまでの経験と確かな判断力が警鐘を鳴らすなかこの爆弾をどう落ち着かせようか思案した。

この雰囲気は本物だ。レベルだの年齢だのいう問題じゃない。これ以上怒らせるのはまずい。

ロキは、アイズを落ち込ませた奴に一言言ってやろうというだけのちょっとしたイラつきを我慢できなかった自分を責めた。

結局おとなしく謝ることを選択したロキはいまさら緊張に汗をかき始める。

 

「そういうことか…悪かった。」

「ふざけるな。謝るのはお前じゃないだろ。ミノタウロスを逃したあいつらがなんで笑ってる。」

「その通りやな…」

 

いつもなら、ほれ見ろベート、お前の悪口が祟ったで、どうしてくれるんやなどと軽口をたたくところであったが、バッツの視線がロキののどを乾かせそれを許さなかった。

黙って神妙な面持ちでファミリアのメンツを見るロキ。

先ほどから狼人を咎めていたリーダーらしきエルフが立ち上がり、それに首を引っ張られて抵抗しながら立ち上がる、この騒動の原因である狼人。

その横に座っていた小人も一緒に3人でロキのそばに立った。

 

「この冒険者のお兄さんが、さっき飛び出てった子の仲間らしいんや。これだけひどいこと言ったんや。みんな謝ろう。」

「そうだな、こんなくだらないことでファミリアの名声が落ちてもコトだ。」

 

ロキが強張った顔で今の発言をした小人を見る。

なんのために頭を下げさせていると思ってるのか。ファミリアとしての謝罪などでは納得しないからベートを呼んだとなぜわからないかと言いたくなった。

当然全員酒が入っているため、バッツの機微を見て適切に動いてくれるような者はいなかった。

依然としてその目に怒りをにじませたバッツは動かない。

 

「誰が謝るか。雑魚がダンジョンに潜るんじゃねえよ。」

「おい!…本当にすまなかった。こいつにはよく言っておく。どうか許してはくれないか。」

「ごめんなさい…ごめんなさい。」

 

あのロキ・ファミリアが頭下げてるぞ、あの白いの何者だ?と騒然の店内。

この異様な雰囲気に負けじと我が家を守ろうとする店主のミアが口を開こうとしたその時バッツが動いた。

誰もが見ている視線の中心で、バッツの肩が下がったような気がしたのは一部の冒険者。

しっかり目を見開きその体を覆う淡い光と、右手がベートの腹に突き刺さるのを目で追えたのは街でも最上級冒険者であるロキを囲んだ小人とエルフにアイズのみであった。

気を失い倒れこむベート。

ベートの戦闘力を口だけでないと評価していたからこそ絶句するロキ・ファミリア。

既にバッツを包む光は霧散していた。

 

「…もういいだろロキ。お前の仲間はクズだ。」

「…!」

 

ロキは何も言えなかった。

ロキ・ファミリアは何もできなかった。

何が起こったか察したミアは店員たちに何もしないよう目配せする。

シルは足をすくませた。

激怒し、あきれ返っているバッツを見て、自分がこうなるきっかけを作ってしまったと気付く。

あの時バッツは楽しく一日を終わるために全力だったのだと。

水の一杯でも乾いた心は救われるんだとミアに真心を説かれたのはいつだったか。

いつものように笑顔で押し付けたあと一品、あと一杯がこれか。

せめてこの店の不手際は謝罪しなくてはならない。

この場にいる者全員が静まり返り、一歩も動けないなか、シルだけが涙を湛えて動き出す。

 

「バッツさん!ごめんなさい!私が勝手なことをしたから…」

 

シルの涙声で我に返るバッツ。

その顔からは多少の申し訳なさと苦しさを読み取れた。

 

「…シル。お前のせいじゃない。みんな!こんなにして悪かった!」

 

ミアが店の代表として口を開く。

 

「…いいんだよ。今のは見てて大体わかったからね。後始末は全部そこのあほどもにつけとくよ。」

「…じゃあ、俺はこれで。」

 

とぼとぼ歩きながら、ホームに帰ってベルの機嫌を直したらさっさと寝ようと決めたバッツ。

まっすぐホームへ帰るとヘスティアがまっていた。

 

「お帰りバッツ。ベル君とは楽しめたかい?」

「その様子だと…ベルは帰ってないのか?」

「一緒に帰ってきたんじゃ…何があったの?」

「あいつ…どこ行っちまったんだ…」

「バッツ!何があったのか早く教えるんだ!」

 

バッツはヘスティアに事情を話すとホームを飛び出した。

しかしベルが見つかることはなくバッツは一晩中街を走り続けた、もう朝になろうかというところで一度ホームへ戻ると、ヘスティアがダンジョンにいるのではとあたりをつけ、ようやく2階層の入り口でボロボロになって戻ってきたベルと合流した。

ホームでは泣きながら抱き着くヘスティアが落ち着いた後、今日も絶対ダンジョン禁止!と叫んで発布された休日延長のお触れに安心したバッツはあくびを出した。

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