「旅をするか、ここで働くか。どっち選ぶ?」
メリオダスが提示した選択肢は二つあった。彼女達はもともと旅をするつもりだった。だがメリオダスは、ここに置くと言う選択肢を提示した。悪魔で猫又(猫魈)な2人でも、まだ幼い彼女たちにはやはり旅というものは厳しい。逆に、帰る家があるというのはそれだけで心強い。魅力的すぎる提案だった。
「……いいの?」
「何が?」
「私たちをここに置くことよ。どの道私たちははぐれ。デメリットしかないはずよ」
「あのなぁ、ンなのにメリットもデメリットもあるかよ。俺がそうしたいからそうした、じゃダメなのか?そもそも俺たちはお前らのルールとか知らねーし」
そう言ってのけたメリオダスに呆れ果てる黒歌。白音は涙すら流していた。ここまで優しくしてくれる存在に初めて出会ったのだから。
「よろしく……頼むにゃ」
「よろしくお願いします!」
「よしよし、よく言った。さて、まずは自己紹介と行こうぜ?俺はメリオダス、ここのマスターだ」
「エリザベスです。よろしくね?」
「ホークだ!」
「………くろか」
「し、白音です!よろしくお願いします!」
「なんだって?そこの黒い奴、よく聞こえなかったぞ?」
「……黒歌」
「ぶっきらぼうだなあオイ。もうちょい明るく行こうぜ!」
「ぐすっ、ぐすっ」と泣き崩れる黒歌。白音はそれを抱きとめ、一緒に涙を流す。妹の前では気丈にも流さなかった涙がここで流れたと言うことは、そういうことなのだろう。
数日後。
「メリオダス。これは何にゃ」
「うちの制服だ。折角のメンバーだから初心に帰ってみようってことでな。初期デザインを引っ張り出して来たんだけど…」
「エリザベスさん、私、似合ってますか?」
「勿論ですよ!」
メリオダスが2人に着せた服はピンクのヘソ出しルックの服に超ミニのスカートだ。当然こんな服2人は着たことないので赤面確実だ。
「んー、やっぱまだまだかぁ〜」
「どういうことですか?」
「あ、いやこっちの話。………もしかしてこっちの方が需要あったりするのか…………?」
「??」
新たなウェイトレスを2人加えて、豚の帽子亭は動き出す。
メリオダスの提案を受けて以降、彼女たちはメリオダスに対し親愛以上の情を抱いている節があった。もっともメリオダスは色んなところが規格外なので、彼から見たら妹ないし赤ん坊をあやしているようなものかも知れない。彼の真意を推し量れるのは、彼と運命を共にしたエリザベスと、(自称)親友のホークだけだろう。
そんな事はさておいて、今まで2人(あるいはそこに+1匹)で回していた仕事に、新たに手際の良い2人が入る事でメリオダスとエリザベスに余裕が生まれた。一方で、黒歌も白音も幼いながらその整った容姿で人気を集め、たちまち豚の帽子亭の知名度は以前にも増して上がっていた。
「黒歌ー、4番テーブルに大ジョッキ3つな〜。あとエリザベス、ミートパイ頼むぜ」
「分かったにゃ!」
「はい!」
結局、彼ら4人+αは働きづめだった。
「なんで酒場なのに朝っぱらから盛り上がるのにゃ………?」
「暇人だよなあ悪魔って」
「お陰で俺の残飯には事欠かねえぜ!」
「残飯で生きていけるの?」
「白音ちゃん、そこにはつっこまない方がいいわ」
昼時もピークを過ぎ、第2のピークがやってくるまでの時間は休憩だ。慣れていない黒歌と白音は息も絶え絶えに、自分たちの部屋に戻った。エリザベスも流石に疲れたのか、机でそのまま突っ伏している。メリオダスとホークは何もなかったかのように外で昼飯を頬張っていた。
「なあホーク、お前その体のどこにそんなに飯が入るんだ?」
「メリオダス、残飯とフツーの飯は別腹だぜ?」
「ああ、聞いた俺がバカだったわ」
冥界の紫の空を仰ぐ。日光浴なんてものは当然できないが、外の空気に当たるだけでも、中にいるよりはマシだ。
「なあメリオダス。どうしてここに来たんだろーな、オレたち」
「………さあな。
「…そこで質問なんだけどよメリオダス。なんで俺とおっ母がここにいるんだ?」
「………………さあて、そろそろ準備しねーとなあ」
「はぐらかすんじゃねえ!!…ったく、まあいいけどよ!ぶっちゃけオレ様もお前の所で働いてるようなもんだしな。残飯が食えなくなっちまったら死んじまうぜ!」
「……ありがとな、ホーク」
「?なんか言ったか?」
「いや。なんでもねーよ。ホーク!お前も準備しろよ!」
「さて、ここからが本番だ」と気合を入れて、店の札をひっくり返した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
メリオダスはまだ悪魔という存在しか知らないが、この世界には他にもたくさんの種族が存在する。天使、堕天使、北欧神族………、お世辞にも仲が良いとは言い難いものの、世界を維持させるべく手を繋いでいる状態だ。
各種族には統率するトップがいるが、一見すると遊び人、ホスト、おっさんにしか見えないこの男もまた、そんなトップの1人だ。
「ったくサーゼクスの野郎、会議が終わって何を話すかと思えば……、もう妹の話は要らねえっての!シスコンも大概にしやがれ!」
蝙蝠のような悪魔の羽根と違い、黒くはあるが文字通り天使の様な羽根を広げ空を飛びながら、サーゼクスという男に愚痴をこぼすこの男。言わずと知れたエロ親父こと、堕天使総督のアザゼルだ。こんななりをしていても、各勢力とのパイプ役として活躍する苦労人でもある。彼の苦労はこれから加速していくわけではあるが……、その話は別の時にするとしよう。
街の外れに降り立つアザゼル。大衆悪魔から見れば堕天使は敵だ。「今はまだ」、という枕詞がつくものの、研究者気質───有り体に言えば引きこもり───である彼は戦うことを好まず、さっさと和平を結んで研究に没頭したいと思っている。そんな彼に反発を見せる堕天使も少なからずいるものの、それはほぼ堕天使の総意とも言えた。
サーゼクスのシスコン話に当てられたのか、少し歩くことにしたらしい。人外の種族でも気分転換は大事なのは変わらない。偶然にもその行く先に酒場があったら、飲みたい気分のようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
手元の時計で時間は6時。夕方のピークまであと少しと言ったところだ。街にある酒場に行くよりも、少し手間をかけてこの酒場に来た方が良いと口コミで評判だ。身分差別が存在するからか、平民悪魔は酒をほとんど口にしないというが、そんなものはこの豚の帽子亭では関係ない。そもそも酒場とは、誰もが酒を楽しめる場所なのだから。
そこに、客を迎えた。
「こんなトコに酒場なんてあったのかよ。知らなかったぜ」
「いらっしゃい!ここは移動酒場の『豚の帽子亭』だ!」
「……お前さんが店主か?ガキじゃねえか」
「ガキじゃねえっての。俺はメリオダス、ここの店主だ」
「…そうか。まあいい、とりあえず酒くれ。安酒がいいな」
「まいど〜」
そう言ってメリオダスが出したのは、なんと焼酎だった。
「へえ……見ねえ酒だなコレ」
「にしししっ、だろ〜♪こいつは米から作った酒らしくてな、そこらの酒とは深みが違うんだコレが!」
「おっ!こいつは美味え!凄え初めて飲むぞ!?」
「気に入ってくれたみたいだな」
「ツマミだ、ツマミはねえのか!」
「酒回んの早くねーか?」
そう言いながらカウンターへ向かい、エリザベスに作らせてあったツマミを出す。メリオダスは先天的に不味い料理を作り出す才能に溢れており、その様は英国の某縦ロールお嬢様のようだった。対してエリザベスの場合、不味い料理を作ることはあるもののそれは調味料の間違いとか言った(ホーク曰く「ベタな間違い」)事なので、練習すればどうにかなるものだ。料理長なき今は、唯一まともな料理を作れる人間なのだ。
「ホイ!『バターナッツ』だ!」
「おっ、来た来た!どれ……コレも美味えなオイ!」
さっきまで愚痴をこぼしていたとは思えないほど上機嫌になるアザゼル。メリオダスは「それほどか……」と苦笑する。
「さっきからうるせーなー。おいそこの豚野郎!もうちょい静かにしてくれ!」
「………………(・ω・)??」
「おーいお客さん?戻ってこーい」
思考停止するアザゼル。喋る豚は初めてらしい。おそらく人前では決して見せない顔だろう。メリオダスはその顔をどこからか持ち出して来たカメラで写真に収めた。
「…はっ!こ、こいつは…何ダァァ!?お、俺も何を見たのかさっぱり分からねえ!喋る豚とかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……。もっとヤバいもんの片鱗を見たぜ………」
ポルポルパニックの如き状態に陥っているアザゼルを尻目に、ホークは床を綺麗にすべく舐め回している。アザゼルはもう何も言わなかった。
1時間ほどだっただろうか、他の客がぼちぼち入り始めた所でアザゼルは立ち上がった。
「よう店主、ご馳走さん。いやぁ〜美味かった!俺はアザゼルってんだ、また来るぜ」
「おう、またな」
酒場に来れば堕天使総督だって酒飲むおっさんでしかない。1時間で一升瓶1.5本分を飲み干したアザゼルはフラフラになりながらも転送魔法陣は行使して、堕天使の本部である「
この後、アザゼル総督はシェムハザ副総督にお説教を喰らった。
シェムハザさんご立腹。