ありふれた狩人《チート》と世界最強の友達《魔王》   作:Y.U.K

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帰還と復讐

周りの音が全て失われ、視界は絶望の色に包まれ、俺は落ちていくハジメしか見えなくなっていた。

届かないと分かっていながらも、まるで何かに縋るかのように。あるいは現実から目を背けるため一心不乱に手を伸ばし続ける。しかし、届くはずもなくやがてハジメの姿は見えなくなっていた。

 

守ると言ったのに。今出来ているのは真っ暗な空間に手を伸ばすことだけ。届くはずもない場所に縋り付くことだけ。それしか出来ない自分に絶望する。

なんとかなると思っていた自分が死ぬほど憎い。なんの根拠があって守りきれると思っていたのか。なんで、そこまで自分の力が過信出来たのか。

 

「ーーーーーーが!」

 

自分の力を過信せず、白崎と協力していれば……。

 

「ーーっかりーーーーが!」

 

 

意識を手放さずに、ハジメを止められていれば……。

 

「ーーっかりして!ーーいが!」

 

起きた時にハジメのもとにすぐ向かっていれば……。

 

「しっかりして!雷牙!」

 

そこまでたってようやく、近くに何かがいることに気づいた。

「……ノワー……ル?」

「雷牙!良かった……。やっと気づいたニャ。」

そこにはノワールが、そして一歩下がったところに心配そうな顔をしたコットンがいた。

するとコットンが近づいてきて、そっと俺のことを抱きしめた。

「コットン……?」

「つらいのはわかりますニャ。自分がどうしょうもなく憎くなってしまうのもわかりますニャ。でも………自分を傷つけることだけはやめてください。そこまでして自分を責めないでください。」

「何を……?」

そこまで言って、自分の掌に痛みが走っていることに気がつく。どうやら握りしめていた時に爪が食い込み出血をしたようだ。

 

「悪い……。」

ノワールに声をかけられ、コットンに抱きしめられたことによって、落ち着くことは出来ないがひとまずその場を離れた。

「雷牙……。」

「雷牙さん……。」

コットンとノワールが心配そうに声をかけてきたが今は到底、反応してあげられる精神ではない。最悪、八つ当たりしてしまう可能性があったため、無視して幽鬼の如く動き出し、ある場所へ向かった。

 

「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

そこには奈落へ飛び出そうとしている白崎とそれを必死に止める八重樫と光輝がいた。

いまの白崎は普段の穏やかさが見る影もないほど必死の形相だった。いや、悲痛というべきかもしれない。その姿を見て、少し親近感を持った自分がいた。

 

「香織っ、ダメよ! 香織!」

八重樫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない。

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 それは、光輝なりに精一杯、白崎を気遣った言葉だったのだろう。しかし、それは最もしてはいけない選択だった。

「無理って何!? 南雲くんは死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

未だハジメが奈落に落ちたことを受け止めきれない白崎は光輝に噛みつき、さらに無理を重ねた。

 

そんな白崎に対し見ていられなくなった俺はいつのまにか白崎を抱きしめていた。光輝や八重樫は驚いた顔をしていたが今はただ、白崎を抱きしめ続けた。

「狩野……くん……?」

「悪い………。俺もあいつを救えなかった……。俺も白崎と同じいざって時に動かなかった大バカだ……。」

その言葉を聞いて救いきれなかったことを痛感したのだろう。途端に力を抜き、目から大粒の涙を流した。

 

「うわぁぁぁあん!!助けられながっだ!!守るって言っだのに!!あの時約束じだのに!!!」

「俺も任せろって言ったくせに守りきれなかった………。過信したばかりに………。」

「わたじのバカぁ!!!狩野ぐんのバカぁぁ!!!うわぁぁぁあん!!」

「俺も…白崎も…どうしようもない大バカ者だな……。」

 

その後も俺は白崎が満足の行くまで自分自身への罵倒を肯定し続け、俺への罵倒を受けた。俺自身も誰かに罵倒されたかったのかもしれない。誰かに救えなかったのはお前のせいだと言われたかったのかもしれない。白崎からの罵声罵倒を受けることにより、不思議と気持ちの整理がついてきていた。「ああ……本当に救えなかったんだ」と。実感することが出来た。

 

やがて、泣き疲れたのか寝てしまった白崎を八重樫へと渡した。

「ありがとう狩野くん……。」

「八重樫……。お礼はやめてくれ。俺は救えなかったんだ……。お礼を言われる資格なんてないよ。」

 

白崎を渡すと俺はメルド団長の方へ振り返った。

「メルド団長。ここを早く抜けましょう。」

「あ、ああ。そうだな。………もう誰も死なせるわけにはいかない。………全力でここを離脱する。」

 

それを聞くと最後に光輝の方を向いた。

「光輝。お前がみんなを引っ張るんだ。少なからず精神的にダメージを受けてる奴らもいるだろうからな。お前がそいつらを引っ張らなければならないよな?」

「ああ、そ、そうだな。」

それを聞くと雷牙は踵を返した。

 

「ああ、それと……」そう呟くともう一度光輝の方を向き、突如として()()()()()殺気を放った。

それだけで、光輝は先程自分たちを殺そうとしていたベヒモスなんて比べものにならない正真正銘の化け物を錯覚し、思わず尻餅をついた。

 

「南雲は無理だと言っていたが……、ハジメの強さを舐めるなよ?少なくとも俺と白崎は生きていると信じてる。だから、滅多なことを言わないほうがいい。……次は自分がどうなってしまうか分からないからな。」

 

ハジメが落ちた姿を見た者からすれば戯言だ、と吹き飛ばす話。だが、この殺気と覚悟の強さを前に誰がそんなことを言えようか。少なくとも最高戦力である勇者様は「悪かった」と必死に紡ぐのが精一杯だった。

 

そして俺たちはハジメを残したまま、階段を登っていき外へ逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オルクス大迷宮】にハジメを残し、俺たちはホルアドの町に戻っていた。と言っても、やることはないため各々の部屋に戻っていた。

 

俺の部屋には現在俺、コットン、ノワール、キリンがいた。ここにハジメがいないという事実が救えなかったということを痛感させる。そして改めて痛感したことによって、俺はあることを決意した。

 

「みんな、ちょっといいか?」

「はい?なんですかニャ?」

「ーーーもしだ。もし俺が地獄の果てのようなところにまでついてきてくれと言ったらどうする?」

おれは奈落へハジメを助けにいくつもりだ。他の奴らは生きてるわけがないと言うだろうがアイツはこんなところで死ぬタマじゃない。ならば、それを信じてあいつを守りに行くだけだ。

ただ、これは完全な俺のわがままだ。いくらこいつらが俺のオトモや召喚獣だとしても今から行くところは命の保証ができない。ならば、こいつらが選ぶのならここで待っててもらい俺とハジメが帰ってくるのを待っててもらうのも手だ。

 

だが、こいつらは本当に俺にはもったいないくらいの奴らで……

「「もちろんですニャ(だニャ)」」

"当たり前じゃない。"

さも当然と言わんばかりについて行くと答えてくれた。

 

「コットンの居場所は雷牙さんの近くだけですニャ。」

「ノワールたちのオトモ魂舐めるなニャ!」

"私はあなたの剣のようなものよ。剣が主人の近くにいなくてどうするの。"

「っ!………ありがとうな。」

迷いなくついてきてくれると答えてもらえるとは思わなかったため思わず涙が出そうになった。絶対に言わないが。

 

「それで、なんだこんなことを聞いたかというとなんだがーーー」

俺はハジメを追って奈落へと行きたいという趣旨を伝えた。

 

「なんだ、そんなことのためにあんなことを聞いたんですかニャ?ついていかないわけがないじゃないですかニャ。」

「そうだニャー。ついてくるか?とかしょうもないこと聞くんじゃないニャ。ついて行くに決まってるニャ!」

"私はただあなたについて行くだけだわ。"

話を聞き終わっても、意見を変えず当たり前と言ってくれた。本当にありがたい。

 

「それよりも……雷牙さんは大丈夫ですかニャ?そんなすぐ戻って……まだショック……があるんじゃないですかニャ?」

ひと段落、話が終わるとコットンは神妙な顔をし、こんなことを聞いてきた。

確かに、向こうでのショックは今まで体験したことのないほどのショックだったし、今でもそのショックから抜け出すことはできていない。

「確かにショックはまだあるが……ハジメを助け出すためならそんなことを気にしてる暇ないだろ?」

そう言って安心させるよう不敵に笑ってみせた。

 

「そうですか……なら早くいかないとですニャ。」

「もし辛くなったら、このノワールさんが慰めてあげるニャよ〜?」

"ノワールのいう通りだな。なんなら私にも泣きついてもいいぞ?"

そういうとコットンは聖母を思わせる笑みを浮かべ、ノワールとキリンは生意気にも妖美な笑みを浮かべていた。

 

「ああ、だがその前に1つやらなければならないことがあるなーーー

 

場所は変わって町の中。俺は今、ある男を探していた。それは檜山である。

部屋にいるかと思ったが部屋は空だったためこうして探しているのだ。

 

「ーーーーいた。」

 

檜山は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。

 

だがこいつに限って、そんなことはあるはずがない。何故ならば……

 

「よう檜山。ーーーいや、犯人さんよぉ。」

こいつはハジメに向かって()()()魔法を当てた張本人だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ら、雷牙!?どうしてここに!そ、それに犯人って……。」

「自分でもわかってんだろ?ハジメを落とした犯人はお前だって言ってんだよ。」

「なんで、そんなこと言えるんだよ!証拠を出せ証拠を!」

檜山は突然犯人だと言われたことにテンパったのか何処ぞの犯人のようなことを言い出した。

残念ながら、証拠はない。だが、状況からして俺は確信を持っていた。

 

「消去法だよ。まず光輝達は魔法の一斉射撃に参加してないから除外。白崎はあんだけ取り乱してんだからもちろん除外。騎士団も理由がないから除外。あとは、あそこでトラウムソルジャーで戦ってた奴らの中で考えると、あんなことするほどハジメを憎んでいるのはお前くらいなんだよ。」

「で、でも!魔法は炎属性だった!俺の得意魔法は風だ!」

「んなもん、いくらでも偽装できるだろ。ハジメ以外は一通り魔法を使えるんだから。いい加減認めろよ。」

「だいたい、ハジメを憎んでるっていうのだってーーー」

「いい加減黙れ。」

 

あまりに煩かったため、ひとまず黙らせるために左腕を()()()()()()

 

「ぇ……?うわぁぁあ!!?腕が!?腕がぁぁ!!!??」

まさか俺がここまでやるとは思っていなかったのだろう。突然の行動に絶叫を上げた。

左腕の断面は魔力を使い、剣に強力な雷属性を纏わせていたため、電撃の熱によって焼け焦げていた。そのため出血多量になることはない。

 

「認めろよ。お前以外いないんだよ。アレだろ?大方、白崎が惚れているハジメが憎くてあの状況ならばバレないまでも思ったんだろ?」

そう問うと、ついに諦めたのか絶叫しながらも暗い笑みと濁った瞳をしながらこう言った。

 

「そうだよ!俺がやった!ヒ、ヒヒヒ。大体、アイツが悪いんだ!雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。そうだ!これは天罰なんだよ!だから俺は間違ってない!白崎のためだ!あんな雑魚にもうかかわらなくていい……俺は間違ってないんだ!!」

 

気持ち悪いほど都合のいい自己弁護である。

 

「……気持ちわりい。何が白崎のためだ。自分の都合のいいように湾曲させてんじゃねえよ。白崎はハジメとは好きで関わってんだよ。」

「嘘だ!そんなはずあるわけない!なんで白崎があんな雑魚と好きで関わるんだよ!あんなやつじゃなくておれと「もういいわ」っ!?ぎゃぁぁあ!!!?」

おれはもう一方の腕も斬り落とした。既に檜山の顔は涙と鼻水で酷い顔となっている。

 

「おれは今からハジメのところへ行く。もしかしたらもうここには帰ってこないかもと思ってな。だが……お前だけは許せなかった。だから、これはケジメだ。………死ね。」

「へっ?……まっ、待って、待ってくれ!」

「知るか。」

そして俺は最後に檜山の左胸に剣を突き刺した。

 

「………一応、人を殺したんだが、全くもって嫌悪感がないな……。殺したのが檜山だからなのかそれとも………俺が既に化け物になったのか……まあいいや。」

 

俺は驚くほど平常心だった。それよりも、こいつの死体の扱いをどうしようか考えていたのだが……任せることにした。

その相手とは………

「………そこにいるんだろ?中村。」

「………どうしてわかったのかな?」

すると後ろの壁の曲がり角から谷口 鈴の親友である中村 恵里が出て来た。しかし、前回見かけた時の落ち着いた雰囲気とは雰囲気が変わり、冷酷なイメージを持った。

 

「悪いな。中村とこいつの会話を少し聞いててな。えらく、前とは雰囲気が違うじゃないか。」

「狩野くんこそ、まさか人殺しをしちゃうなんてね。しかも、その後も心を乱してない……。君がそんな人だったとは知らなかったよ。」

「生憎、こいつのために揺らす心は持ち合わせてなかったようでな。それよりも………取引をしないか?」

「取引?」

「ああ……檜山をお前の降霊術を使って普段通り、違和感のないように操ってほしい。」

 

俺は中村の降霊術を使って死んだことをなかったことにをしようと考えた。死体を隠す方法がないのならいっそのこと、死んだこともなかったことにという考えだ。

 

だが、その言葉に中村は嫌な表情を隠そうともせず、

「君はバカなの?そんなのにぼくが協力すると思う?メリットがないじゃないか。大体、ぼくは君が檜山を殺したことをこの目で見ているんだ。ぼくがみんなに話したらどんな反応をするだろうね。自分の立場分かってる?」

そう言って、俺のことを嘲笑した。

 

「まず、俺は恐らくもうこのクラスには帰ってこないだろう。ハジメを見つけ出して、戻って来ても素直に喜んでくれるのはメルド団長たちと光輝達あとは谷口くらいだろうな。恐らく、あいつを嫌っていない奴らはそのくらいだろう。ならば、そんなところに帰って来てもいいことはない。精々、白崎に顔を見せるくらいのつもりだ。」

 

ハジメを残して登って来た時に落ち込んだ顔や複雑そうな顔をしたのはこいつらくらいで残りは喜びで抱き合ったり、笑顔を浮かべていたりした。別にそれを悪いことだというつもりはないが、こいつらがハジメが戻って来たのを見た時に心から喜んでくれるかと考えると答えは否だろう。

始めは喜んでくれると思うが時間が経つにつれ、徐々に元の空気に戻り、また「落ちこぼれ」のレッテルを貼られるのがオチだ。

 

「それに、これは取引といったが………事実上の命令だ。俺は中村にこんなところを見られてしまったんだ。目撃者は消す………完全犯罪の鉄板だろ?それに内容は知らないが野望があるんだろ?こいつに協力を仰ぐくらいだ。さぞ、大切な野望だろうなぁ。こんなところで死ぬのは嫌だろう?………被害者になるか、共犯者になるか。慎重に選べよ?」

今の俺はさぞかし、悪人ヅラしているだろう。こんなことを言うなんて、転生前には考えられないな。だが……もし、断ったのなら本気で実行に移すつもりだ。

 

すると中村は、俺の本気さを感じ取ったのかため息をつき、渋々了承した。

「絶対僕より君の方が悪魔だよ。こんな奴に見られるとはついてないなぁ……。」

「諦めろ。こっちは約束通り邪魔はしないさ。俺の邪魔をしなければな。」

 

そう告げると俺は踵を返し、その場を立ち去った。

 

そして、次の日の朝。新たに転移組から()()()()が消えていた。

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