プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第1話 プロローグ

 冬木市。

 日本の自然豊かな地方都市。日本海に面し中央に流れる未遠川を境界線に古くからの町並みを残す深山町と近代的に発展した新都とに分かれている。

 

 この極東の地の一地方都市でしかない場所は、魔術の世界にとってはある意味をもっていた。それは、日本においても有数の霊脈を保有しているということ。冬木と言う場所そのものが、強い力を持っているために、様々な歪みや事象が生じやすい。

 

 そんな冬木市の深山町の上空、真円なる月の下で、時折チカチカと煌めく光があった。

 

 それは二人の少女たちが、織り成す魔術闘争。

 

 一人は猫耳に赤と黒のミニスカート。スカートの淵からは白いフレアが覗いている。マントに似た白く長い襟。黒いブーツ。所々に金色のアクセサリーがあしらわれ、シャープでありながら可愛らしさを残している。

 

 もう一人は、キツネ耳に青と白のミニスカート。袖なしの身体に密着した上着が彼女の女性らしい肢体を強調している。だが、全体的にふんわりとした装飾が施されており、その衣装は女性らしさよりも少女のような可愛さを引き出そうとしている。

 

 どちらも、彼女たちの年齢からすればかなり派手で可愛らしすぎる、どこかのアイドルが着けていてもおかしくはない衣装である。正直、街を歩いていたら色々な意味で注目を浴びることは間違いない。

 

 そんなある意味非常に恥ずかしい格好をした少女たちが、夜の街の空の上で魔術合戦を繰り広げているのである。

 

 青い少女が中央に星がついたステッキを勢いよく横に振る。そのワンアクションで、中空に魔法陣が描かれ、そこから幾つもの白い光球が生み出される。

 

「砲撃!!!」

 

 その一言で、光球の全てが赤い少女へと向かう。

 

「ルビー! 障壁を張って!!」

 

「常に張ってありますけど〜〜」

 

 焦る少女の声に、のんびりとした可愛らしい答えが彼女の持つステッキから返ってくる。

 

「ここまで、強力な砲撃だと相殺しきれませんねぇ」

 

 プスプスと焦げた音を上げる赤い少女。

 

「なんだって、攻撃してくるのよ!! 共同任務ってのを忘れてんじゃないの、あんた!!!」

 

 ぶち切れた赤い少女の怒声に、

 

「オーホホホホホホ!!! この程度の任務、私一人で十分。私の輝かしい未来のために、早々に散りなさい!!!」

 

 金色の縦ロールを風にはためかせ、青い少女が声高に笑い声を上げる。

 

「マスターはひとでなしと評します」

 

 その彼女に、冷ややかな突っ込みを入れるのは彼女の手に握られているステッキ。

 

「あんたが、その気なら、この場で引導を渡してあげる」

 

 赤い少女が、取り出したのは弓使いの図柄のカード。

 

「クラスカードを! ならばこちらも!!」

 

 青い少女も懐から槍使いが描かれたカードを取り出す。

 

「「限定展開!!」」

 

 二人は同時に、それぞれのステッキにカードを当て………………

 

 何も起こらない。

 

「は〜〜、もうお二人には付き合いきれません。大師父がカレイドステッキを貸し与えたのは、お二人が協力して任務を果たすためだったはず。なのに、貴方達はこんなくだらない私闘に私を使おうなんて」

 

「ルビー姉さんの言う通りです。その傍若無人な振る舞い。ルヴィア様はマスターにふさわしくないと判断します」

 

 ステッキは次々と正論を並べ立てた上で、マスターであった二人の少女たちに三行半をつきつけて飛び去って行った。

 

「なあああぁぁぁぁ!!! こんなとこで、転身を解くな、逃げるな!! 落ちるうううう!!!!」

 

 ステッキが離れたとたん、青い少女はやや華美なドレスに、赤い少女はトレーナーにミニスカートという普通の服に変わる。

 

 それと同時に、それまで浮いていた魔力を失い、地面に向かって自由落下を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな彼女たちを観察している人影が二つ。

 

 彼女たちが戦っていた深山町からかなり離れた、未遠川の赤い鉄橋のアーチの天辺。あまりに距離があるため、戦っている彼女たちは見られていたことすら気がついていない。しかし、距離が離れすぎているせいもあり、その場所からではチカチカと光が瞬いているようにしか見えない。

 

 もっとも、彼らにはそんな距離など関係なく、その戦いの詳細を見ることができているようである。

 

「ふむ……どこの世界でも、トオサカリンはトオサカリンというわけか」

 

 影の一つが喉を鳴らして笑う。

 

「どういう意味よ、それ」

 

 発言者の方を睨みつける。気の強さがそこからは伺い知ることができた。

 

「いやいや、他意はないがね」

 

 そう言いながらも含み笑いを隠さないあたり、いい性格をしている。

 

「ま、いいわ。それにしても、こうやって傍から見てるとやっぱり凄いわね。宙に浮いて、宝石魔術数個分の魔力弾を際限なく打ちまくるなんて」

 

「いや〜〜それほどでも、ありますけど」

 

 人影は二つしかないはずなのに、そこに可愛らしいそれでいて何か企んでいそうな3人目の声が混ざる。

 

「さて、これからどうするかね?」

 

 ぶつかり合っていた光が、流れ星のように消え去っていくのを視界に収めながら男性の声が問いかける。

 

「決まってるじゃない。この後の展開を確認するわ。行くわよ、アーチャー」

 

「了解した、マスター」

 

 二つの影は、闇夜の中に消えていき。

 冬木の夜は、いつも通りの穏やかさを取り戻した。

 

 

 

 

 


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