プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第11話 馴れ合いは、お断り

 

 

「お、終わった〜〜〜」

 

 すっかり気の抜けたイリヤは、地上へとフラフラしながら降りていく。そのイリヤを迎えたのは、両目を釣り上げたルヴィアだった。

 

「美遊に向かって、魔力砲を討つとは、なんてことをしますの!!!!」

 

 イリヤのこめかみにグリグリと拳をねじりこむ。

 

「いだだだだだだ!!!!」

 

 イリヤは涙目で、ルヴィアから逃れようとする。

 

「はいはい。子供をいじめない」

 

 ルヴィアの襟首を掴んで、その行為を止める凛。

 

「こいつの相手なんてしなくていいから。よくやったわね、イリヤ。美遊を迎えに行ってあげて」

 

「あ、うん」

 

 凛に言われ、イリヤは飛び立っていった。

 

「さて、どうせ見ているんでしょ。それとも、引きずり出されたい?」

 

 体よくイリヤをその場から離したあと、凛は誰もいない中空に向かって声を上げた。

 

「引きずり出すとはまた、穏やかじゃないわね」

 

 返答は、上空から聞こえた。

 

 冬木大橋の赤い鉄骨のアーチの頂上にいる、赤い衣装の少年と少女。

 彼らは、先ほどからずっとそこにいた。

 けれど、結界を用い己の存在を認識しづらくしていた。

 凛たちが彼らへと意識を向け、彼らもまた結界を解いたことで、そこに在ると認められるものとなった。

 

 少年が少女の腰に手を添え、そこから当たり前のように飛び降りる。

 常人であれば、まず間違いなく死へのダイビングになる。

 だが、少年は全く危なげなく落下の衝撃を殺し切り、凛たちのそばへと降り立つ。

 少年の手から、少女が軽い足音を立てて地面に降りた。

 

「高みの見物とは、またご苦労なことで」

 

 ルヴィアが両腕を組みこれ以上ない冷笑を浮かべて、皮肉を口にする。馴れ合うつもりもないし、彼女がトオサカ リンであるかぎり、ルヴィアにとっては警戒すべき敵である。

 

「ええ、本当に。とてもハラハラさせられたわ」

 

 リンもまた皮肉で応酬する。ルヴィアの敵意が混じる視線も当たり前と受け止める。

 

「でしょうね。本来なら、そちらのアーチャーの一撃で片がつくところを、全部こちらに押し付けてきたんですもの」

 

 白銀の髪と浅黒い肌の少年を見る凛。彼がこんな分かりやすい誘導に引っ掛かるわけはないとわかりつつも水を向ける。

 

「そうでもないわよ。今のアーチャーでは、一撃でキャスターを倒すのは難しいもの」

 

 答えたのは、アーチャーではなくリンの方だった。しかも、凛の予想に反して情報を開示する。

 

「あら、あれほど情報を提供することを出し渋っていたというのに、ずいぶんとあっさり教えてくださること」

 

 ルヴィアが丁寧な言葉を嫌味な口調に載せる。 

 

「これからも、こんなことがあるたびに、私たちが手を出せればすぐに終わったと言われるのはごめんだわ」

 

 腰に手を当て、息を吐き出す。

 リンはあえて、相手の神経を逆なでするような動作と言葉を選ぶ。 

 

「『アーチャー』の英霊は、キャスターの英霊に勝てないってことね」 

 

 凛の挑発的な言葉に、リンは目を細めた。

 

「……ふぅん。ま、その通りよ。彼は、アーチャーの英霊。現象なんかじゃなく、きっちり召喚されている存在よ」 

 

 凛の言葉がキャスターとの勝負うんぬんではなく、アーチャーの正体を探ろうとしてのものであることをきっちりと理解したうえで、リンは明言した。 

 

「てっきり、隠すかと思ったわ」 

 

 これには、さすがに驚きを隠せなかった凛が目を丸くする。

 

「まさか。そんな無駄なことはしないわ。キャスター戦前の会話の内容も聞かせてもらっていたし」 

 

 単なる確認作業でしかないこの会話をわざわざ引き延ばすつもりはない。 

 

「それで、わざわざ私たちを呼びつけたのは何の用? 暇じゃないんだから……」 

 

 早々に本題に入ろうとするリン。だが、それ以上の言葉を続けられなかった。

 

「リン!!! 避けろ!!!」

 

 それまで黙っていたアーチャーがいきなり声を上げ、リンを突き飛ばす。

 

 他の誰一人、何が起こっているのか理解できなかった。

 だから、初動が遅れる。

 

 唯一気がついたアーチャーだけが対処することになる。

 

 凛とルヴィアたちに向かって、振り下ろされる真っ黒な刃。

 

 それを、アーチャーは投影した白と黒の夫婦剣を交差させて真っ向から受け止める。しかし本来のアーチャーならばいざ知らず、若返りによって弱体化している彼では、彼女の剣を真正面から受け止めきることなど不可能。

 

 純粋な力勝負に押し負け、アーチャーは右の肩から袈裟がけに切りつけられる。

 

 赤い血が、吹き出る。

 身体が崩れ落ちていく。

 それでもなお、アーチャーは現れた敵に戦意を向けることをやめはしない。

 左腕を上げ剣の切っ先を敵に向けるが、右腕はどうしたって上がらない。

 

「っ!! アーチャー!!!!」

 

 リンは咄嗟にステッキをアーチャーへと向ける。

 他の動作を取るべきだったのかもしれない。

 現れた敵にステッキを向けて攻撃をすれば違う未来を迎えられたのかもしれない。

 けれど、この時の彼女には他の選択肢はなかった。

 こうしなければ、アーチャーが消滅する。

 

 そんなこと、絶対にさせるわけにはいかない。

 

 リンの意志に応え、ルビーはアーチャーの周囲に魔法陣を開く。

 今のリンにできる全魔力を注ぎ込んだ魔法陣が淡く輝き、彼女の願いを叶えアーチャーがそこから消え去る。

 

 だが、全ての魔力を注ぎ込んだがゆえにリンが一瞬完全に無防備になる。

 そんな隙を見逃すほど、敵は甘くはない。

 ためらいなど欠片もなく、リンに向かって振り下ろされる漆黒の刃の軌跡。

 咄嗟にステッキを縦にするが、筋力が圧倒的に足りない。

 

「きゃああああああ!!!!」

  

 リンの小さな体はまるでゴムボールのように鏡面界の端まで吹き飛ばされる。

 衝撃に、リンの手からステッキが零れおちた。

 

「リンさん! リンさん! しっかりしてください!!!」

 

 ルビーが地面に転がりながら、リンの名を繰り返し呼ぶ。

 けれど、変身が解け地面にうつ伏せに倒れるリンはピクリとも動かない。

 ジワリと、地面に広がっていく赤い血のシミ。

 

 誰もリンを助けに行くこともできない。

 

 敵は、再び凛とルヴィアにも剣を振り下ろす。

 

 顔の半分を覆い尽くす、まるで仮面のようなバイザー。

 血の気のない白い肌と、真っ黒なドレスにはアーチャーの返り血を浴びながらも、全く意に介していない。

 黒い剣を握り、それを振りかざすのは少女の姿をした英霊セイバー。

 

 魔術師たちは手持ちの宝石で障壁を張るが、そんなものは彼女にとっては障害にもなりえず、紙に等しい。

  

 黒い聖剣が障壁ごと二人の少女を切りつける。

 護符が反応し、直撃を辛うじて避けた。だが、攻撃の余波が二人を襲う。

 

 ————

 

 そして、イリヤ達が事態に気がついた時には、3人の少女たちが血まみれで地に伏し、黒い甲冑のセイバーが、ゆるりと首を巡らせ新たな標的として魔法少女たちを認識していた。

 

 

 

 


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