プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-
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第19話 衛宮士郎は、絶対絶命

 

 私立穂群原学園高等部。

 そのグラウンドでは、2クラス合同の体育の授業が行われている。

 競技はサッカー。

2面を使って、男女それぞれで試合が行われ、賑やかで健康的な歓声が上がる。

 その体育の授業を『体調不良』を理由に見学している少女が二名。

夜のために体力を温存したいという目的もあるが、それ以上にこの時間を利用して密談をするためである。

 

 二人は木陰で木の幹に寄りかかり、両腕を組んでグラウンドの方を向いているが試合は全く見ていない。

 彼女たちは、互いに視線を合わせないまま密談を始めた。

「一体、あのイリヤスフィールという子は何者ですの?」

 ルヴィアは直球勝負で凛に問いを放つ。

 会話の内容は、このまま進めば一般人に聞かれたくない内容になることは予測されるため、当然のことながら簡易的な結界を張ってある。

 

結界の作用により、彼女たちを注視する人はいない。

体育の授業でそれぞれのクラスを応援したり、休憩中に中の良い人たちと会話を楽しんでいる他の学友たちは、学校でも目立つ存在の二人が真剣な表情で会話をしていることに気がついてもいない。

「フルネームは、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンはあっちの世界では、魔術の大家だったそうよ」

 ここまで状況が進み、イリヤの異常性が明確化しているため隠す必要性は薄い。

むしろ、下手に隠すことでルヴィアが勝手に物事を進め始める方が厄介だと判断し、その真実を明かす。

 

「アインツベルン?」

 

 聞き覚えのない名前に首を傾げるルヴィア

 

だが、ここまで来てアインツベルンが魔術とは無縁などとは考えられない。

 

「向こうのイリヤは間違いなくアインツベルンだったそうよ」

 前を睨んだまま、凛は明言する。

 

 さすがに、聖杯戦争やホムンクルスのことをルヴィアに説明する気はない。

 

それに、ルヴィアならば、その言葉だけでこの世界のイリヤもアインツベルンである可能性が高いことを理解できる。

「一体、どういうことですの……」

 とはいえ、もたらされた情報をルヴィアはどう処理していいのか分からない。

 

 魔術の大家と考えられるアインツベルンがなぜ、こんな極東の辺境にいるのか。

 今回の件にアインツベルンの本家は直接介入しているのか。

 あるいは、クラスカードそのものが実はアインツベルンの何らかの策略である可能性もあるかもしれない。

 ルヴィアは様々な疑問や可能性を思考する。

 

「貴方は彼女がアインツベルンだと知っていて、ルビーのマスターに据えたのかしら?」

 

「まさか。マスター権の委譲はルビーが勝手にやったことよ。それに、イリヤに魔術のことを簡単に説明した時も、前知識は全くないようだったわ。今回の件と向こうの世界の情報がなければ、彼女が魔術の大家の名を名乗るものだなんて、気がつきもしなかったでしょうね」

 

 イリヤについては、ルビーのマスターとなった時点で後関係も含めて調査している。

 

 両親は入籍しておらず、現在は二人とも海外赴任中。

イリヤは母方の姓を名乗っている。

養子が一人おり、そちらはこの私立穂群原学園に在籍中。

 

 隣のクラスなので念のため観察していたが、そちらは魔術に関わっている形跡はない。

ちなみに、彼は現在グラウンドで汗を流しながら果敢に敵ゴールに攻め入っているところである。

 

名前を衛宮士郎。

 

苗字がイリヤと違うのは父方の姓を名乗っているため。

 

 他に同居人が二人。そのどちらも、血縁関係はなく使用人と言う立場らしい。

 つまり、全く血の繋がっていない面々が一つ屋根の下で暮らしていることになる。

 

 複雑極まりない家族関係だが、いくら洗い出しても魔術的な要因は一切なかった。

だからこそ、凛は早々にイリヤが魔術師であるなどという可能性は捨てた。

 

「あれだけの魔力を内包させていながら、私たちに一切気がつかせないほどに精緻にして機密性の高い封印を施す。本人も、あんなけた外れな魔力を持っていることを知らないようでしたし……本家の方から探りを入れてみてもよいかもしれませんわね」

 

 アインツベルンは、あれほどの魔力を持つイリヤをまるで隠すように封印している。

 

 その目的や意図が全く見えてこない。

 

 ルヴィアは、エーデルフェイト家の直系。

遠坂以上に長い歴史を持つ魔術の家系であり、西欧が本拠地。アインツベルンについて、より詳しく調べられる可能性が高い。

 

「……藪をつついて蛇を出す可能性もあるし、それは勧めないわよ。それに、おそらく昨日の一件でイリヤはクラスカードの回収から……たぶん手を引くでしょうしね」

 

 クラスカードは残すはバーサーカーの一枚のみ。例え、アインツベルンが何かを企んでいたとしても、それで終わりになる。そして、イリヤが手を引くとなれば、アインツベルンに探りを入れる意味は薄い。

 

「そうですわね……と、授業が終わったようですわ」

 

 授業終了の合図である鐘が校内に響く。

 生徒たちは解散し、体操着を着替えに校舎に入る者や、汗を流すために外に設置されている水道に向かう者など、それぞれ動き始める。

 

「私たちも、教室に戻り……」

 

 生徒たちの流れに乗って、校舎に戻ろうとした凛の動きが止まる。

 

「どういたし……」

 

 その凛を訝しみ、声をかけつつ彼女の視線を追いかけ、ルヴィアも動きが止まる。

 二人の視線の先で、一人の男子生徒が水道の蛇口を勢いよく開き、頭から水をかぶる。顔を上げ、赤毛を振ると水しぶきが跳ぶ。首にかけていた、タオルで顔と頭を拭う。

 

「「ぁぁぁああああああああああ!!!!!!」」

 

 二人が同時に声を上げ、その男子生徒に突進していく。

 ギョッとして他の生徒たちが彼女たちを注視するが、無視。

 赤毛の男子生徒を両脇からがっちりホールドし、二人はそのまま彼をどこかへと引きずって行った。

 

 一体何が起こっているのか、さっぱり理解できないクラスメイトたち。だが、その脳裏に浮かぶ思いだけは、一つになっていた。

 

『触らぬあくまに祟りなし』

 

 ということで、心の中で誘拐されていった少年に合掌した。

 

 

※※※

 

 

 

「衛宮くん!!」

「シェロ!!!」

 

 衛宮士郎は、いまだに濡れている髪から水を滴らせつつ、校内でも有数の美女二人に詰め寄られている。

だが、誰が見てもこの光景を羨ましいと思う人はいないだろう。

 校舎裏に引きずり込まれ親の仇を前にしたかのような二人の迫力に士郎は後退り、あっさりと壁際に追い込まれてしまった。

 

「えっと、二人とも……どうしたんだよ?」

 

 こうなっては、二人をできるだけ刺激しない以外に、士郎には取る手はない。だが、一体何がどうなってこんな状況にまで追いつめられることになったのかを知りたかった。

 

「どうしたもこうしたもないわよ!!」

 

 凛が音を立てて士郎の横の壁に手をついて、彼に迫る。

 

「き、気を落ち着けて、遠坂」

 

「これが、落ち着いていられるわけ、ないでしょう!!」

 

 最初から全力全開。ギアがトップに入っている凛には話が通じそうもない。

 

「なぁ、一体何があったのか説明してくれよ」

 

 だから、ルヴィアの方へと話しかける。

 

「むしろ、私たちの方が説明してもらいたいくらいですわ」

 

 両手を組んで仁王立ちするルヴィアの背後には、目に見えない気炎が立ちあがっている。

 

「ええっと……俺が何か悪いことをしたっていうのなら、謝るけど……」

 

 とは言うものの、士郎には全く思い当たることはない。もっとも彼自身、自分が鈍いことは自覚している。だから、自分が気がつかない間に何かしているのかもしれないと考える。

 

「その、髪よ!!」

 

「髪?」

 

 いつもは額に下ろしている前髪だが、今は濡れているため後ろにかきあげている。

 

 白銀と赤という色の違いはあるものの、彼女たちが知る人物の髪型と同じになっていた。

 

「髪というより、髪型ですわね。そうやって髪を上げていると、本当に印象が変わりますわ。私たちが、まだ穏やかなうちにお話しすることをお勧めしますわ。そうでもないと……何をするか分かりませんもの」

 

 金髪縦ロールのお嬢様が、見惚れるほどの笑みを浮かべる。艶やかな黒髪をツインテールにしている少女が、壁に手をついたまま鮮やかに微笑む。

 

 校舎裏で美女二人に迫られるという、字面だけみれば、世の男性から羨ましがられそうなシチュエーション。

 

だというのに、なぜ士郎の脳裏にはバットエンドだとか胴着に竹刀を構えたトラの姿がよぎるのか。

 

「ねぇ、衛宮くん? 彼とは一体、どういう関係?」

 

 口調だけは、取りあえず落ち着きを取り戻した凛。

だが士郎には何を聞かれているかさっぱり分からない。

 

「彼って、誰のことだ?」

 

「アーチャーのことよ」

 

 それだけで分かるでしょうとばかりに、余計な説明もせずに凛が答える。

 

「アーチャーって、弓使い? まぁ、確かに俺は弓をやっているけど……」

 

 だが、聞かれていることは明らかにそういうことではない。

 

「面白いわね、ソレ。あんまり、すっとぼけた答えを返されると、いくら温厚な私でも、切れちゃいそうになるわ」

 

 二人ともうふふふふと、口元だけで笑うが目は座っている。

彼女たちはまるで銃のように指先を立てていたりする。

その指先に致死ではないが、無傷で済まない何かを宿しているのは、決して士郎の気のせいではない。

 

「せめて、そのアーチャーっていう奴の名前を教えてくれないと俺だって答えようがないだろ」

 

 目の前の二人は、表面上だけは冷静さを取り戻しているようにも見えるが、ソレだけの話。だから、士郎はできるだけ静かに騒ぎ立てずに話をする。

 

 士郎の質問に、二人が言葉を詰まらせる。

 二人とも、彼についてはアーチャーというクラス名以外、真名を知らないのだ。

 

「質問を変えますわ。そうですわね……あなたの先祖に、弓使いの高名な方はいらっしゃいまして?」

 

 アーチャーが英霊だというのならば、士郎がその子孫かもしれないと考えてのルヴィアの質問。

 

「先祖も何も……俺は、本当の両親の顔も覚えてないから、そんなの分かるわけないだろ」

 

 今までの質問と全く関連性を見いだせないといだったが、士郎は正直に応える。

 

とはいえ、幼いころに両親を亡くした士郎には、『わからない』以外に応えようがない。

 

「っ……埒が明かないわね。こうなったら、本人たちを問い詰めて白状させてやるわ」

「彼らがどこにいるか、当てはあるのかしら?」

「私の家よ」

「……色々と気に食わない点もありますが、今は不問にいたしましょう。何よりも優先すべきことがありますもの」

 

 二人はさっさと話を決め、士郎から背を向けてずんずんと歩き出す。

 

「あの、二人とも、学校は?」

 

 あまりの変わり身の早さについていけない士郎が、かろうじて彼女たちの背中に声をかける。

 

「早退よ(ですわ)!!」

 

 振り返りこともせずに、二人は足早に校舎裏から立ち去ってしまった。

 一人取り残された士郎は、茫然と二人が居なくなった方向を見ながら

 

「なんでさ」

 

 と呟く。

 答えるモノは何もなく、ただ空しく一陣の風が吹くだけだった。

 

 





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