プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第22話 彼は、瓦礫の王にしてただ一振りの剣

 美優の目の前に幾つもの剣がつきたてられる。

まるで、美遊をバーサーカーから守る盾のように。

 

 次の瞬間、美優は誰かに抱えあげられその場から離脱。

それから、ほんのわずかに遅れ剣が爆発した。

 その衝撃に、床が抜け落ちバーサーカーが下の階まで落ちていく。

 

「適当にバーサーカーの命数を削ったら、撤退すると思っていたのに、無茶をしたものね」

 

 美遊を脇に抱え、飛翔するのは赤い魔法少女リン。軽く音を立て床に降り、美遊を立たせる。

 

「全くだ。あんな化け物に、真正面から一人で対抗しているとは思ってもみなかった」

 

 赤い外套を身にまとう少年、アーチャー。彼の手には、カレイドステッキがある。

 

「どうして、ここに……」

 

 彼女たちが、この場面で介入してくるとは思っていなかった。

 

「色々と罠を仕込んでいたのよ。化け物を相手にするんだもの。せめて地の利くらいは生かしたくてね。とはいっても、あなたの宝具のおかげで大半が無駄になってしまったのだけれど」

 

 美優の宝具はビルを半壊させるほどの威力があった。それゆえに、アーチャー達が仕掛けていた罠はほとんど役に立たないものとなっている。

 

「よく頑張ったわね。ここからは、任せなさい」

 

 美優の肩に手を乗せて、鮮やかな笑みをみせる。

 

「これは、キミに返そう」

 

 アーチャーは美遊にサファイアを差し出す。

 

「美遊さま!! 大丈夫ですか!?」

 

 美優の手に戻ったサファイアが、心配に声を上げる。

 

「私は、平気」

 

「平気じゃないでしょう」

 

 美優を見て、呆れた声を上げるリン。

 

 美優は度重なるバーサーカーの攻撃を受けたせいで、打撲だらけ。

肋骨も数本折れているし、左腕が上がらないから下手をすれば鎖骨を痛めたのかもしれない。ガンガンと頭を内側から打ち付けられるような痛みが走っているのは、魔力を酷使しすぎたせいか、物理的な損傷のせいか。

 

「さてと。本来は、こんなところで隠し玉を見せたくなんてなかったけれど、仕方ない。アーチャー」

 

「構わんのかね? おそらくはキミの魔力をすべて持っていくことになるぞ」

 

「構わないわよ。ガツンとやってみせて」

 

 拳を握って、それを振り上げるリン。

 

「了解した、マスター。期待に応えてみせるとしよう」

 

 アーチャーは一歩前に進み出る。

 美優は、アーチャーの背中をまっすぐに見つめる。

 

「……ぁ……」

 

 その背中に、美優は記憶の片隅の何かを刺激された気がしたが、それは霞のようにとらえどころがなくあっさりと消えてしまった。

 

「—————— I am the bone of my sword.」

 

 アーチャーが静かに呪を唱え始める。

 それは、外界に働きかけるモノではない。

 

「Steel is my body, and fire is my blood.」

 

 彼自身の内面へと働きかけるモノ。

 

「I have created over a thousand blades.」

 

 だから、彼は目を閉じ外界の情報の全てを断ち切り、己が世界に深く深く潜っていく。

 

「Unknown to Death.

 Nor known to Life.」

 

 穴の空いた床。そこに黒く太い腕がかけられる。

 牙をむき出しにし、吠え猛る半神半人の狂人。彼が視界に納めるのは、赤い外套を纏う少年。

 

「Have withstood pain to create many weapons.」

 

 彼はただ一人、その狂気の眼差しを受けながら怯むことなく真っすぐに立つ。

 

「Yet, those hands will never hold anything.」

 

 ゆるりと瞼を押し上げる。焼けついた灰白色の瞳が、世界を捉える。

 そこに、恐怖の感情はない。

 なぜなら—————

 

「So as I pray, unlimited blade works.」

 

 彼はこの世界の王にして、ただ一振りの剣なのだから。

 

 

 

※※※

 

 

 

 炎が走る。

 咄嗟に、美優は腕を上げ顔を庇う。

 いつまでも、熱は襲ってこない。

 恐る恐る、腕を外し周囲を見回す。

 

 そこは、ビルの中ではなかった。

 

 地平線の果てまでも見渡せる赤茶けた大地。

 

 赤く焼けた空に浮かぶのはギシギシときしみを上げながら回り続ける巨大な歯車。

 数え切れないほどに夥しい数の剣が大地に突きたてられている。それはまるで主を喪った剣の廃棄場。

 

 その瓦礫の王国の中心で、赤い外套を纏う騎士が君臨していた。

 

「え?」

 

 思わず呆けた声が美優の口から零れる。

 つい先ほどまで、彼は10代の少年だったはず。同年代の少年たちからすれば、決して高いとは言えない身長の少年が。

 

 今は、180を超える長身に変わっていた。

いや、元に戻ったと表現するべきか。

引き締まり、鍛え上げられた筋肉はまるで鋼のよう。こちらに背を向け真っすぐに敵と対峙する姿は、まさに守護者だった。

 

 ここは、アーチャーの心象風景を世界へと侵食させた魔法に最も近いといわれる禁断の魔術。世界を塗り替えたそこには、何もなく、全てがある。ゆえに、この世界は彼の元の姿を思い出す。

 

「ギリシャの大英雄よ。我がマスターの命に従い、打ち倒させてもらおう。貴様が挑む無限の剣は、12の試練をしのぐぞ」

 

 アーチャーが掲げた手。

 それに応えるようにして、剣の丘から引き抜かれた無数の剣群が宙に浮き、切っ先をバーサーカーへと向ける。その様はまるで、号令を待つ兵士のよう。

 

 勢いよく振り下ろされるアーチャーの腕。

 それを合図にして、全ての剣がバーサーカーへと突撃を開始する。

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 凶暴な声を上げ、バーサーカーはそれらを全て、振り払い撃ち落としていく。

 

「そら、懐がガラ空きだ」

 

 いつの間にか、アーチャーがバーサーカーの脇に回り込んでいた。射出直前の弓矢のように構えられる細身の長剣。

 

 まるで、攻撃できることが当たり前のようにすら見える、平凡な攻撃。

しかし、それは突撃をかけた武器のタイミング、角度、威力、敵の反応の全てを読み切った練達の極地にあるもの。

 

 姿勢を低く、腰を落とす。

ギリギリまで引き絞られた全身の筋肉を解放。

真の姿に戻ったアーチャーが放つ、渾身の一撃。細身の長剣は、バーサーカーの根元まで深々と埋まった。

 

 すぐさま、バーサーカーの懐の内から離脱。

 同時に、

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

 細身の剣に秘められていた、神秘の全てを内側から破壊する。

さらに、アーチャーは剣群の第2陣の照準をすでにバーサーカーへと合わせている。

剣群は、今か今かと王の命を待つ。

 

「行け」

 

 低く呟かれた命令。

 剣の雨が、バーサーカーへと降り注ぐ。

 爆炎と、折り重なる金属音。それは、勇壮なる音楽を奏でる様。世界すら揺るがしてただ高らかになり響く。

 

 セイバーを降ろした美遊を圧倒していたバーサーカーはただ一人の赤き騎士に、打ち倒されんとしていた。

 

 

※※※

 

 

 戦士は、悟った。

 このままでは勝てないと、理性をなくし知性を失っているからこそ、本能でそのことを知る。

 

 彼の者は、蛮勇にして勇猛なる勇者。

 彼の者は、神話で讃えられる強者。

 彼の者は、不可能な十二の試練を乗り越えし英雄。

 

 だからこそ、誰もが諦めてしまうようなこの窮地の状況で、勝利の手を引き寄せる。

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 それは、他の平行世界の聖杯戦争で彼をこの世に呼び寄せる寄り代となったもの。

 

 ただ、石から削り出しただけの巨大な武器。だが、それが千を超える年月を重ねた神殿から切り出されたものとなれば、それだけで宝具と比肩するほどの重みを持つ。

例え、真名がなくとも、彼が振るえばそれだけで真名を唱えられた宝具と遜色のない威力を誇る。

 

 ただの一振り。

 

 それだけで、周囲を埋め尽くしていた剣群の全てをなぎ払い、爆炎を払いのける。

 

 巌のような巨躯が構えるのは、黒い巨大なだけの戦斧。刃の部分は、ただ岩を叩いて割っただけ。峰や握りの部分は僅かに人の手が入ってはいるが、ひどく武骨。だからこそ、狂化した彼が振るうにふさわしい。

 

 左の即腹部は、先ほどのアーチャーの攻撃のせいで今だ欠損しており、血を流している。身体のあちこちには、剣が突き立てられている。

 その中でなお、

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 全てをひれ伏せされる、咆哮を喉が張り裂けんばかりに上げた。

 

 


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