プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第23話 そして闇は、払われる

「……武器を呼んだか。ヒュドラの弓でないだけ、まだましか」

 

 軽口を叩くアーチャー。

 だが、その表情は険しい。

 バーサーカーが巨躯に似合わぬ素早さで、アーチャーへと迫る。

 

「ちぃ!!」

 

 舌打ちとともに、腕を振るう。

 その動きに合わせるように、地面の無数の剣が一斉にバーサーカーへと疾駆する。

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 咆哮とともに、撃ち払われた戦斧。その一振りだけで、全ての剣は地へと堕ちる。

 

「くっ……!!」

 

 戦斧を持ったバーサーカーはまさに嵐そのもの。技も何もない凶暴な力は、そばに寄るだけで破滅を約定される。

 

 だが、アーチャーはその中でなお、前に出た。

 後ろには下がるわけにはいかない。

 

守るべき少女がいる。

 

何より、彼女が言ったのだ。アレを倒せと。

ならば、それを果たしてこそのサーヴァント。

 

 両の手に黒塗りの弓とただの矢を投影。

呼気とともに、矢が真っすぐにバーサーカーの眉間に向かい放たれる。だが、神秘の欠片も宿していない矢などバーサーカーという名の嵐の前では、そよ風にも等しい。

 

 矢は、バーサーカーの眼前で音を立てて破裂した。バーサーカーへのダメージにはなりはしない。ただ、ほんの一瞬彼の目をくらませただけ。

 その一瞬の隙に、アーチャーはバーサーカーの背後へと回る。

 すでに次の矢は番えられている。その矢は、剣の丘から呼び寄せた彼が信頼する武器の一つ。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグII)!!!」

 

 狙うは人体の急所の一つである、後頸部。アーチャーの内ではすでに矢が中るイメージは確定されている。そうであれば、それが的中するのは当然のこと。

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 だが、ギリシャの大英雄にはそんなもの関係はない。的中しようがしまいが、どうでもいい。振るうべき武器と、打ち倒すべき敵さえいればそれで完結する。

 

 戦斧を振り下ろす。

 

 それだけの凡庸な一撃。

しかし、それがこれまでの戦局をひっくり返す。バーサーカーの一撃は、アーチャーの防御行動すら無視して、彼と彼の世界に致命的ともいえるダメージを与えた。

 

 

※※※

 

 

 

「アーチャー!!!!」

 

 リンは悲鳴に似た声を上げながら、地面に膝をつく。

 一瞬にして大量に魔力が、持っていかれる。

 

 いくらカレイドステッキによって、大量の魔力が供給されているとはいえ、10に満たないその体では、引き出せる魔力に限界がある。

  

 アーチャーが傷を負った今、彼女に強いられるのは固有結界を維持するための魔力に加え、彼の回復のための魔力。それは、明らかに彼女の限界を超えている。

 

 弱々しい赤い光が弾けるようにしてリンの変身が解ける。

 限界を超えた魔力の行使に、魔術回路が焼きつきかけ、ブレーカーが落ちるように歯止めがかかった。

 

 そして、リンからの魔力の供給の減退とともに、固有結界が音を立てて崩れ落ち始める。

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 空が砕け、地面が割れ、終焉を迎えようとしている世界の中で、絶対たる破壊者がさらにアーチャーに止めを刺すべく走る。

  

 変身の解けたリンや、深手を負った美遊。それでもカレイドステッキのマスターである彼女たちよりも、アーチャーの方が脅威であるとバーサーカーは本能で感じ取っていた。

 

 アーチャーはすでに死に体。

 

 左腕は折れて感覚はない。魔力で応急処置をしたが、内臓の3割はまともに機能を果たしていない。

 

「っああああああああああ!!!!!」

 

 その中で、なおアーチャーは立つ。

 灰色の瞳は、ただ敵を見据える。そこに絶望はない。一筋の勝利の光明を探し続ける、怜悧な光がある。

 

 だが、それは必滅を約束された運命。

 バーサーカーという名の暴力は、この場にいる全ての者達に破滅をもたらすだけ。

 例え、どんな奇跡を彼らが起こそうともそれが覆されることはない。

 

 

 

 

 

 

 ——————侵入者の存在さえ、なければ。

 

 

 

 

 

 崩壊し始める固有結界。

 無限の剣の世界に、3人の少女たちが降り立った。

 

「ようやく、中に入れましたわね」

「ちょ!? 何ここ? ビルじゃなかったの!?」

「いいから、イリヤはさっさと美優たちのフォローへ行け!!」

 

 やたらと姦しく登場した3人はすぐさま、行動を始める。

 イリヤは凛に蹴り飛ばされながら、真っすぐに美優の場所まで飛んでいき、凛とルヴィアは宝石をヘラクレスへ向けて投げつける。

 

獣縛の六枷(グレイプニル)!!!!」

 

 発動させた魔術は、緊縛のためのもの。正六面体の小結界の中にヘラクレスを閉じ込める。

 

「通った!! 瞬間契約(テンカウント)レベルの魔術なら通用しますわ!!」

 

「おかげで、大赤字だわ!! コンチクショー!!!!」

 

 金髪を掻きあげ優雅に微笑むルヴィアの隣で、やけっぱちになって叫び倒す凛。

 

「イリヤ、どうしてここに?」

 

「ごめんなさい」

 

 問いかけた美遊に、イリヤが深々と頭を下げる。

 

「私、馬鹿だった。何の覚悟もないまま、戦ってた。戦ってても、他人事だった。こんな戦いは、現実じゃないって……なのに……」

 

 ぽたりと、俯くイリヤから透明な雫が地面に落ちていく。

 

「ウソみたいな力が、自分にもあるってわかって……急に全部が怖くなって……」

 

 乱暴に袖で涙をぬぐう。

 

「でも、『力』そのものに言いも悪いもないって気付いたの。恐れる必要なんてないんだって。それに、本当に馬鹿だったのは……」

 

 ステッキを握るイリヤの拳に力がこもる。魔力の高まりに呼応し、ステッキが淡い桃色の光を放つ。

 

「逃げだしたこと! 友達を見捨てたままじゃ、前には進めないから!!!」

 

 イリヤがステッキを振りかざす。

 美優の持つステッキが引きずられる。

 交差する美優のステッキとイリヤのステッキ。ステッキ同士が共振し、澄んだ音を響かせる。交差するステッキの中心には、セイバーのクラスカード。

 

「できるよ、二人なら」

 

 確信に満ちたイリヤの表情にはもう涙はない。

 

「終わらせよう。そして——————」

 

 クラスカードが眩い光を放ち、力を発現させる。

 

「前に進もう!!」

 

 それは、獣を縛る結界が砕けたのと同時だった。

 解き放たれた黄金の輝き。閉ざされた世界を照らし出す光はまるで万華鏡。セイバーの宝具、約束された勝利の剣が燦然と輝きを放ちながら、二人の少女たちの間で万華鏡のように何本も映し出される。

 

 振り下ろされる聖剣。

 どこまでも鮮烈な光が黒いバーサーカーを飲み込まんと迸る。

 

「■■■■■——————!!!!!!」

 

 戒めを解かれた黒い狂人が、黄金の光に戦斧を手に真っ向から立ち向かう。

 白い光は、バーサーカーを飲み込み切れず、バーサーカーは白い光を撃ち払うことができず。

 状況は完全に拮抗していた。

 

 あるいは、バーサーカーが武器を取っていなければ勝負はすでについていたはず。

 だが、そんなもしもを語っても意味はない。

 現状、間違いなく千日手の様相を呈し始めている。

 

 否。

 

 このままでは、負けてしまう。

 

 カレイドステッキが魔力を供給するとはいえ、それを行使するのは幼い少女。未発達な彼らには、現状の威力を維持し続けるのは難しい。そうなれば、先のリンと同じように、強制的に変身が解けてしまう可能性が高い。

 そして、黒化しているバーサーカーは無制限に魔力が供給され、その体力は底なし。

 

 ゆえに、このままでは少女たちの敗北は決する。

 

「アーチャー……」

 

 それを悟ったリンは、カレイドステッキを握る手に力を込めた。

 

「無茶です、リンさん。今のあなたの魔術回路は先ほどの過負荷によって、焼きつきかけているんですよ! これ以上、アーチャーさんへの魔力供給をすれば……!!」

 

「うるさい! さっさと、協力しなさい、ルビー!」

 

 ルビーに最後まで言わせず、リンは命令を叩きつける。

 

「魔術師なら、魔術師らしく。手段がないのなら、あるところから持ってこればいいというのに」

 

 不意に背後から声をかけられ、リンは振り返る。

 そこには、平行次元上の同一人物である凛がいる。

 

「私とあなたの魔術回路は同一。なら、できるでしょ」

 

 主語を省いた凛の言葉。

 リンはその言葉の意味を十全に理解し、不敵に笑った。

 

「私に、できないと思う?」

 

「思うわけないわよ。私の魔術回路も、魔力も預けるわ」

 

 凛の左手が、リンの左手を取る。

 

 遠坂の家が連綿と伝えてきた魔術刻印が自動的に回り始める。遠坂の魔術は流動と転換を得意とする。

そして、彼女たちは同位体の存在。ならば、凛の魔力と魔術回路をリンが使えないはずはない。

 

 向かい合わせで、立つ二人の『凛』

 

 高まる魔力は、相乗しあい昇りつめていく。可視化できるほどに高まる魔力の光は、見る者を引きつけてやまない鮮やかな赤。

 

「アーチャー!! きっちり片をつけて見せて!!」

 

 純度の高い、極上の魔力の本流がアーチャーへと流れ込んでいく。その魔力は、深手を負ったアーチャーの傷を瞬く間に癒していく。

 

「了解した。剣製の極致を尽くし、アレを倒してみせよう」

 

 この無限の剣製の、無数にある複製された宝具の中で、最高峰ともいえる一振り。それは、まるでそこにあるのが当然のごとく、アーチャーの目の前に突き立てられていた。蒼い意匠を凝らした柄と、白銀の刀身を持つ清廉な剣は主に引きぬかれるのを待っている。その様は、まさしく選定の剣。

 

 アーチャーが柄に手をかける。剣は、まるで意志を持つかのようにスルリと抜け、アーチャーの手に収まる。

 

「さぁ、行こう」

 

 懐かしくも優しい瞳で囁くように告げられた言葉は、彼の記憶の残滓が言わせたものだったかもしれない。次の瞬間には戦う騎士の眼差で、敵を睥睨する。

 剣は真っすぐ正眼に構える。柄が吸いつくように手になじむ。どこまでも伸びやかで真っすぐな剣は、真の主の気性を思い起こさせる。

 金色の髪、青い瞳。まるで、清流のように高潔な魂を抱く騎士王。彼女の力が今ここで、真名とともに解放される。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!!」

 

 イリヤと美遊が放つ「約束された勝利の剣」に勝るとも劣らない黄金の輝き。

 拮抗していた力は、ただ一振りの剣で覆る。

 勝利を約定された黄金の光は、黒い闇を貫き。

 

 そして——————

 

 

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