プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第3話 展開は、テンプレート

 

 世界がクルリと反転し、元の世界に戻る。校庭の中央で拳で語り合っている時計塔主席候補の魔術師二人がまず視界に飛び込んできた。

 

 屋上の上からその光景を眺める二人の表情には、諦めとか呆れとか嘆きとかそんな複雑なものがある。

 

「ふむ」

 

「何よ」

 

 隣のアーチャーの何やら言いたげな様子に、少しばかり身を引きながらリンが尋ねる。

 

「いや、戦っている女性がどこかで見たことがある気がしてね」

 

 彼が指し示すのは、凛と相対しプロレス技を仕掛ける金髪縦ロールのやたらと目立つ女性。ふわりと裾の広がるドレスで格闘しているのに、優雅さは損なわれていない。むしろ、生き生きとした表情で戦う様は彼女の美しさを引き立ててさえいる。

 

「ああ、ルヴィアね。こっちの世界でも、あいつと張り合ってるのね」

 

 リンは頭痛いとばかりに、額を押さえて呻く。

 

「そんなことよりも、こっちの世界のステッキのマスターですよ」

 

 ルビーからの指摘に、アーチャーが頷く。

 

「ふむ。イリヤスフィールの方は、こちらの世界でも存在しているが、もう一人の方は見たことがないな」

 

 アーチャーが青い魔法少女を視界に収める。黒に近いハシバミ色の瞳と漆黒の髪の少女。整った顔立ちは怜悧

な印象を与え、無表情で佇んでいるため人というより人形のようでさえある。

 

「ええ。それに、イリヤもかなり違っているようだし……」

 

 リンは、ピンク色の衣装を身につけたイリヤを見下ろす。魔法少女の装いをする彼女には、アインツベルンの魔術師の臭いがない。日本人ばなれした白磁の肌や銀の髪はリンたちの知る彼女そのものであるのに、ふわふわとした夢見がちな普通の少女にしか見えない。

 

「凛さんはあんまり変わっていないようですけどね〜〜」

 

 真剣に考え込むリンの横から、ステッキの呑気な突っ込みが入る。

 

「うふふふふふ、一体何を言いたいのかしら、ルビー?」

 

 ルビーの羽かざりの両端を引っ張りながら、すごくいい笑顔で問いかける。

 

「あはははははは、暴力反対だったりするんですけど〜〜」

 

 乾いた笑いを上げて、ルビーはリンの手から逃れようともがいてみたりしている。

 

「彼女たちのことを少し調べるべきではないかね」

 

 アーチャーは一人と一本の毎度のやりとりに付き合わず、今後の活動の方向性について提案する。

 

「そうね。次のクラスカードが出てくるまで、特別やるべきこともないし。その間に向こうのことを調べるっていうのは、悪い手じゃないわね」

 

 ルビーの羽がどこまで伸びるのかを試しながら、その提案を肯定するリン。

 

「探偵めいたことをするなんて……ますます魔法少女から離れていきますね〜〜」

 

 ステッキから発せられた、色々と偏見や誤解を生みだしかねない発言は、当然のごとく綺麗さっぱり無視された。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

———……なんて、テンプレートな展開

 

 それが。黒板の前に立つ少女を見てのイリヤスフィールの感想である。

 

「美遊・エーデルフェイトです」

 

 黒髪、黒い瞳の少女が固い表情でクラスメイトに向かって挨拶をして頭を下げる。

 

 ライバルの魔法少女が出現。翌日には、同じ学校へ転校してくる。

 

 一昔か二昔前の魔法少女モノではありがちな展開。

 確かに、それまで存在していなかった同い年の女の子が、同じ地区で活動することになれば、当然転校してくるのは至極まっとうと言えばまっとうな話なのだが。

 

「席は、窓際一番後ろね」

 

「な!?」

 

 指定された席は、イリヤの真後ろ。いくらなんでも、この展開は行き過ぎではないかと思ってしまう。

 席についた美遊はイリヤをジッと見ている。

 

「あううううう」

 

 痛いほどの視線を感じ、イリヤは硬直し奇声を上げるのであった。

 

 

 

※※※

 

 

「か、完璧超人……」

 

 それが、美遊を観察した結果、抱いたイリヤスフィールの感想である。

 

「いつまでいじけてるんですか」

 

「別にいじけてないよ。ただ才能の差を見せつけられただけだもん」

 

 学校の帰り道、日も沈み始め町が暮れなずむ時間帯。街灯の下でまるでスポットライトを浴びるようにしてしゃがむ少女とそれを慰める羽飾りのついたステッキ。

 

 学問をやらせれば、高校か大学クラスの解答を導き出し、料理を作らせればフライパン一つでフランス料理のフルコースを出し、イリヤにとって一番自信のあった徒競争では1秒以上の差をつけてゴールされ。

 

 その全てが、彼女からすれば出せて当たり前の成果。ゆえに、褒められようが驚かれようが、なぜそんなに称賛されるのか分からないとばかりにキョトンとした顔をする。

 

 人とのコミュニケーションを避ける傾向があるものの、そんなものは些細なことで、転校初日からクラスメートからの注目を浴びるのに十分な存在。

 

 同じ魔法少女との、明確すぎる才能の差にイリヤスフィールが凹むのも無理からぬことだった。

 

「何してるの?」

 

 そこを通りがかった美遊が不思議そうにイリヤに尋ねる。

 

「こ、これはどうもお恥ずかしいとこところを。ミユさんにあられましては、今お帰りのところで」

 

 取りあえず立ち上がり、ぺこぺこと頭を下げるイリヤはまさに卑屈を絵に書いたような様子であった。

 

「何を卑屈になっているんですか! 美遊さんは同じ魔法少女の仲間です。学校の成績なんて関係ありません」

 

 ルビーが正論を述べつつ、イリヤに発破をかける。

 

「そっか……」

 

 ルビーの言葉に、納得して頷く。

 

「あなたも、ステッキに巻き込まれてカード回収を?」

 

 そんな彼女たちの様子を見ていた美遊が静かに問いかけする。柔らかな夕日に照らされ、ほんの少し赤味を差した彼女の白い肌。黒髪がサラリと流れ、彼女の表情に影を落とす。

 

人形のように無機質で硬質的だと感じられた彼女の表情がほんの少しだけ、人間らしさを取り戻したようにも見えたのは、彼女が初めてイリヤに興味を示したからかもしれない。

 

「うん。成り行き上仕方なくというか、騙されて魔法少女になったというか……」

 

 イリヤにとっては、魔法少女になるまでに至る過程———風呂場での素っ裸での出会いとアレコレ———そのものが赤面モノの過去である。

 

「そう」

 

 美遊はほんの少しだけ俯く。

 

「それじゃあ、あなたはどうして戦うの?」

 

 顔を上げ、真っすぐにイリヤの目を見て問いかける。

 

「どうしてって……」

 

 イリヤは僅かに言いよどむ。自分の理由が少し、子供じみているような気がして。

それでも、美遊は正直に疑問に思うことを聞いてくれているから、イリヤも正直に応えることにした。

 

「ちょっとだけ、こういうのに憧れてたんだ。ホラ、これっていかにもアニメやゲームみたいな状況じゃない」

 

 巻き込まれただけの少女としては、至極正直で当たり前の理由だ。

 

「そう」

 

 けれど、彼女は素っ気なくそれに応じて、イリヤの前から立ち去るように歩を進める。

 

「そんな理由で戦うの? 遊び半分の気持ちで打倒できるとでも?」

 

 ちらりとイリヤを見る彼女の瞳には蔑みにも似た怒りの感情の揺らめきがある。

 

「あなたは戦わなくていい。カードの回収は全部私がやる。せめて、私の邪魔だけはしないで」

 

 それだけを言い置いて、彼女は足早にその場を立ち去った。

 それでも、再び彼女たちはすぐにも相対することになる。

 

 それは、カードの回収のため……

 よりも早く。

 

 イリヤの家の真向かいに一日で移築された豪邸が、彼女の家のようなものだったりしたからだ。

 

 

 

※※※

 

 

「気に食わないわね」

 

 冬木市の新都。ホテルの高層階の一室、憮然とした表情でソファーに座るリン。

 

「一体、何が気に食わないというのかね」

 

 アーチャーは湯気の立つ紅茶の入ったティカップをリンに差し出しながら問いかける。

 

「全部よ、全部」

 

 ティカップを受け取り、不機嫌ながらも優雅な仕草でカップに口をつける。

 

「……カモミールって……私そんなに興奮しているつもりないわよ」

 

「いやいや。そんなつもりで淹れたわけではないさ。単に、もう少ししたら戦闘になるかもしれんから、少しリラックスをしたかっただけだよ」

 

 自分が飲みたかったのだと言って、アーチャーはリンの向かいのソファーに座り紅茶を口にする。

軽く目を閉じ紅茶の感触を楽しんでいる彼の澄ました表情からは、その言葉が嘘か本当かは図りかねる。

 

「それでリン、何が気になるんだ?」

 

 アーチャーが目を開く。色素の薄い彼の灰白色の瞳がリンを見つめる。

 

「今日一日、カレイドステッキのマスターたちの様子を観察していたけれど……そうね、貴方はどう思う?」

 

「ふむ……美遊という少女の方は、その技術や知識が年の割に成熟しすぎているな。だというのに、対人関係に関しては非常に拙い。一体どういう成育歴をたどれば、あのようになるのか」

 

美遊についてはエーデルフェルト家が完全に囲ってしまっている。戸籍や住民票にさえ、魔術師でなければ分からないような偽装工作のあともみられ、経歴が綺麗に洗われているため、何処から来たのかさえ不明であった。

 

「あそこまで徹底して経歴を隠す理由が何かあるのかしら」

 

半日しかない中では、これ以上のことは調べられない。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに関しては偽装が過ぎて逆にあからさまだな」

 

「まったく。何よ、アレ。ゲーム大好き、アニメ大好き、どこまで行っても普通の女の子って、ありえないわよ。何より、家族構成が! 衛宮士郎と血のつながらない兄弟で、一つ屋根の下ってどういうことよ!!」

 

 言葉の最後には額に青筋すら立てて怒りを露わにする。「常に余裕を持って優雅たれ」とはいったいどこの家の家訓なのか。

 

「キミの興味のポイントはそこかね。というか、家族構成に関して私に八つ当たりをされても困るのだが」

 

「まぁ、それは冗談としても」

 

「あんまり冗談にも聞こえませんでしたけど……ブクブクブク」

 

 ルビーが器用にも紅茶を飲みながらの突っ込み。だが、途中でリンが紅茶の海の中へとティースプーンでルビーを押し込んだ。

 

「アインツベルンの姓を名乗っているのに、彼女本人はこれまで一切魔術に関わってきた痕跡はない。おかしすぎるわ」

 

 アインツベルン。

 聖杯戦争を始めた御三家の一つ。聖杯を造り、根源へ至ることを至上の命題とし、ただそれだけのために数百年と言う年月を積み重ねてきた魔術の大家。

 

 その姓を名乗りながら、彼女は普通の小学生として生活しているのである。

 

平行世界から移動してきた二人にとって、そんなイリヤは違和感の塊でしかない。

 

「確かにこの世界は私たちの世界とは、大きくかけ離れた可能性を有しているわ。この冬木という霊脈で聖杯戦争が存在せず、なのにクラスカードという可能性で英霊が存在している。でも、それにしたって……遠坂はちゃんと魔術を継承して在るのに、アインツベルンが……」

 

 紅茶を飲む手を止め、呟きつつ思索モードに突入していくリン。

彼女の右手は、ティースプーンで紅茶の中から浮き上がったルビーを再び押し戻すという行為を無意識で繰り返していたりする。

 

「リン。思考を止めろとは言わん。だが、憶測も過ぎると判断を誤りかねんぞ」

 

 アーチャーの言葉に、それまで詰まっていた息を吐き出し、ソファーの背もたれに身体を預けてそりかえる。

 

「確かに。現状の情報だけでは、彼女の背景に関して憶測の域は出ないわね」

 

 天井を仰いで唇を尖らせる。

 

「それはそうと、そろそろ時間ですよ〜〜」

 

 ティーカップの淵にようやくよじ登ったルビーが、息を切らせつつ告げるのは戦闘開始時刻が差し迫っているという事実。

 

「あら、本当。もうこんな時間」

 

 壁掛け時計が、あと30分もすれば日付が変わることを示している。

 

「それじゃ、いきましょうか、アーチャー」

 

 ティーカップの中からルビーを引き上げ不敵に笑うリン。

 

「了解した。では、深夜のデートと洒落込もうか」

 

 立ち上がったアーチャーがリンへと恭しく手を差し伸べる。

 

「エスコートはお願いね」

 

 リンは、雅な仕草でアーチャーの手を取った。

 

 

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