プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第4話 変身は、華麗に

 海浜公園。

 

 海を望む冬木市最大の公園であり、バッティングセンターや水族館などがあるため、日中は親子連れやカップルで賑わう観光スポットである。

 

 その冬木大橋の根元近くで、4人の少女たちが緊張と気合の入った面持ちをしてそろっている。

 それを冬木大橋のアーチのてっぺんから見下ろす人影二つ。

 

「リンさん、ホント高いところが好きですね。何とかと煙は高いところが好きって本当ですね」

 

「なんとかって、何よルビー」

 

 背中に怒りの炎を背負って、しかし口調だけは優雅にして冷静に問いかけるリン。

 

「もちろん、魔法少女ですよ。正義の味方もありですけどね」

 

 決まってるじゃないですかと、大真面目に胸(?)を張って答えるルビー。

 

「……ホント、あんたと会話していると馬鹿らしくなってくるわ」

 

 頭痛いと、こめかみに手を当てる。

 

「戦略的見地において、見晴らしの良い場所を陣取るというのは間違ってはいないがね。とくに私のような弓兵は、遮蔽物のある場所ではその威を十全に発揮できん」

 

 こちらはなぜか言い訳じみた発言をするアーチャー。

 

「そういうことにしておきましょうか」

 

 ふふふふふ〜〜と、アーチャーのいじりネタを見つけたルビーは楽しそうに言いながら、取りあえずそこで会話を終わらせる。

 

「さてさて、リンさん。さっそく鏡面界に飛びますか?」

 

「まさか。探査もせずにそんなことをするわけないでしょ」

 

 リンが足場の不安定なアーチの上でも危なげなく真っすぐに立ち、ステッキを構える。

 

「コンパクトフルオープン。鏡界回廊最大展開」

 

 リンの唇が滑らかに呪文を詠唱する。

 

「鏡像転送準備完了(mirrorstatue redirect preparation completion)万華鏡回路解放(kaleidoscope circuit emancipation)!」

 

 ルビーがそれに応じる。

 瞬間、リンの姿が鮮やかな赤い光に包まれる。

それまで身につけていた衣服が、解ける様に消えていき、赤を基調とした金色のアクセサリーのついた派手な衣装へと変わる。

リンの髪飾りは、猫の耳と入れ替わり、お尻には細くしなやかで長い黒い猫の尻尾が生えた。

 

「魔法少女プリズマ・リン。華麗に転身完…ゴブっ!!?」

 

 ちなみに、このセリフはルビーのモノ。そして、そのセリフを吐いた瞬間、鉄骨に杖頭が叩きこまれた。

 

「恥ずかしいセリフ、付け足さない!」

 

 更に、何度もステッキをガンガンと鉄骨にぶつけるリン。

 

「その辺にしておいた方がいいと思うが。向こうに気がつかれる」

 

「そ、そうね」

 

 アーチャーの指摘に、しぶしぶリンは手を止める。

 幸い、川や海の水音にかき消され下にいる凛たちには気がつかれていない様子。もっとも、遠坂凛とルヴィアのいがみ合いに忙しく、余所へ気配を回す余裕はなさそうではあった。

 

「さて、ルビー。鏡面に探査針を打ちこんで」

 

「あうあう。こんなひどい仕打ちをしたうえ、命令まで。なんてステッキ使いの荒いマスターでしょうか」

 

 涙声で訴える。人の姿をしていればその場にうずくまって泣き崩れているところである。

 

「……そう。本当に申し訳なかったわ。そうね、貴方のおかげで、こうして鏡面界に介入できているんですものね。無礼のお詫びに大師父特製のあの箱の中に戻してあげようかしら。それとも、溶鉱炉の方がお好み?」

 

 訳:余計なボケや小芝居はいらないから、さっさと始めなさい。さもないとお仕置きするわよ(かなり本気)

 

「どっちも遠慮させていただきます。わかりましたよ。やりますよ」

 

 ふてくされつつ、魔法陣を広げる。

 

「鏡界回廊接続(mirrorworld passageway connection) 探査開始(inquiry start)」

 

 ルビーの詠唱により、リンの五感の一部が鏡界に接続される。リン単体でもこの魔術の行使は可能だが、ルビーを通した方がより正確に状況を把握できる。何より、宝石が節約できるという理由の方が、彼女にしてみれば大きい。

 

「……切断っ!」

 

「了解です」

 

 接続を断ったとたん、リンの全身から冷たい汗が噴き上がる。

 

「なによ、あれ……」

 

 茫然と呟く。

 

「どうだった?」

 

 リンのただならぬ様子にアーチャーが声をかける。

 

「今回の敵はキャスター。相も変わらず、理性が吹っ飛んで黒化しているわ。そのくせ……」

 

 見てきた光景を思い出し、頭を抱えて息を吐き出す。

 

「上空に、魔法陣を多数展開してお客が来るのを準備万端で待っているわ」

 

 相手はキャスター、真名は神代の魔女メディア。

 

 キャスターのクラスは魔力に特化したタイプだが、総合力において全クラスの中では最弱とされている。だからこそ、知略を用い地の利を生かした戦いをする。

 

今回、それを最大限に発揮するためにあらかじめ魔法陣を敷いているというわけだ。鏡面界に入った途端、神代の魔術の一斉砲撃を受けることになる。

しかもありがたいことに、彼女の周囲には魔力指向制御平面が形成されており防御面も堅牢。

彼女に向けて魔力弾を放っても、全て反射されることになる。

 

「ふむ……では、こちらも相応の準備をしなければ……っ、何!?」

 

 アーチャーが険しい顔をして声を上げる。

 

「いくらなんでも、うっかりしすぎよ!」

 

 リンもその事態に気がつき、思わず毒づく。

 海浜公園の芝生の上にいた4人は、キャスターに対しなんら対抗策を練ることもなく、0時きっかりに鏡界へと乗り込んでいってしまったのである。

 

「くっ、ルビー。接界(jump)するわよ!」

 

「了解です。限定次元反射炉形成!(limitation dimension reflectionfurnace formation)鏡界回廊一部反転!(mirrorworld passageway turn over)接界!(jump)」

 

 足元に構築されていく魔法陣。

 そして、二人は鏡界へと降り立った。

 

 

※※※

 

 

 そこでは、すでに一方的な戦いが繰り広げられていた。

 

 黒いローブをまるで羽のように広げ、上空に浮かぶキャスターが周囲に展開させた幾つもの魔法陣から、レーザーのような攻撃魔術を矢継ぎ早に打ち出す。

 

 それをイリヤが魔術障壁を最大限に張って防御。

 

 魔術が切れた一瞬に美遊が最大出力で砲射(シュート)を放つ。

 だが、それはキャスターに届く前に制御面によって全て弾かれた。

 

 キャスターが呪文を詠唱する。それはすでに失われた神言であり、何を言っているのか理解できず、耳に届くのはまるでテープを早回しにした時のような奇妙な音のみ。キャスターのたった一言で、瞬間契約(テンカウント)レベルの魔術が構築された。4人の少女たちを取り囲むように風の壁が形成され、上空には半径3メートルにも及ぶ魔法陣が美しく輝く。

 そこに秘められた膨大な魔力は、彼女たちが作る魔力障壁などあっさりと突き破ってなお余りある威力を誇る。

 

「脱出よ、脱出!!」

 

「てててて撤退ですわ!!」

 

 4人が慌てて、鏡界面からの脱出を図る。

 だが間に合わないと思われた、その時、

 

「かわせ、キャスター!!!」

 

 その言葉とともに、冬木大橋のアーチの上からキャスターに向け一直線に矢が放たれた。

 

 矢は魔力指向制御平面すら貫くが、キャスターはかろうじて攻撃をかわし、魔術の行使をやめようとはしない。崩れた体勢、乱れた集中、欠けた魔法陣の中でも地上に向かって、大砲のような砲撃の照準を合わせる。

 

 キャスターが魔術を打ち出す、その一瞬よりも僅かに早く、赤い衣装の魔法少女が割って入った。

 

「ルビー!! 魔力障壁、最大規模を全力で!!」

 

 ステッキを高らかに掲げ、赤い少女が告げる。

 

「はいは〜い」

 

 赤い少女の手の中のステッキが答え、半円状の障壁を張る。障壁は見事、キャスターからの攻撃を防ぐ。

 

「何やってるのよ!! さっさと離界(jump)しなさい!!」

 

 事の成り行きを茫然と見ているイリヤ達を、赤い少女が叱責する。

 

「あ、はい。鏡界回廊一部反転!」

 

 美遊の持つステッキ、サファイアがそれに応じ、足元に魔法陣を展開する。

 

「アーチャー、早く!!」

 

 赤い少女が、弓矢を放った人物へ呼びかける。

 アーチャーは大橋の鉄骨を蹴り、まるで滑空するようにして彼女たちの場所に着地。

 

「離界!」

 

 ほぼ同時に、彼女たちは世界からの脱出を果たした。

 

 


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