プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第5話 トオサカ リンは、魔法少女

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 四人の無言の視線を浴びる二人。赤い派手な衣装を身につけた猫耳な魔法少女と、その隣に控える赤い外套に黒い革鎧の騎士。

 

「お礼を言われるために助けたわけではないけれど、この反応はどうかと思うわ」

 

 不機嫌を隠すこともせず、赤い魔法少女は腰に片手を当てため息を吐き出す。

 

「……お礼は言っておきますわ。それで、貴方達は一体何者なのかしら? 魔術協会からは、私たちの他にカレイドステッキを所有している魔法少女がいるなんて聞いていないのですが?」

 

 ルヴィアがまず最初に切り込む。お礼を口にはするものの、そこには警戒心というものがありありと見てとれた。

 

「その辺は、そちらの愉快型自立魔術礼装の方で察しがついているんじゃないかしら」

 

 彼女は自分の持つステッキで、イリヤと美遊のステッキを指し示す。

 

「あ……まさか……」

 

「別の世界の……可能性?」

 

「正解です〜〜」

 

 ステッキ同士が会話するという、かなりシュールな光景が繰り広げらる。

 

「別の世界? どういうこと?」

 

 意味が分からず、イリヤは自身のステッキに疑問を投げかける。

 

「世界は、選択肢の違いにより様々な世界を生み出します。もしもあの時、AではなくBを選んでいたら……、そんな別の可能性を有する平行世界(パラレルワールド)から、彼女たちは来たということです」

 

 ピョコリと羽飾りを立てて、ルビーが解説する。

 

「そんな魔法じみたことを、どうやってやり遂げたのか気になるけど、そんなことよりも!」

 

 凛は、赤い魔法少女を指さす。

 

「なんで、私が、そんな背格好をしているのよ!!!」

 

 派手な魔法少女の非常に恥ずかしいコスプレは、許せないがまだいい。

だが、彼女はよりにもよってイリヤ達と同世代の姿をさらしているのだ。

 

「そんなの決まってるじゃないですか。私がこの年齢に固着化させているからですよ」

 

 答えはリンではなく彼女のステッキによりもたらされた。

 

「はぁ!!!!?」

 

 その答えに素っ頓狂な声を上げたのは、魔法少女リン本人。

 

「何よソレ!? いつになっても元に戻らないと思っていたら、あんたのせいだったの!?」

 

 自分のステッキを両手で鷲掴みにし、必死の形相で問い詰める。

 

「この姿のせいでアーチャーの維持にも苦労してるのよ!! だから、アーチャーも年齢を下げさせて……って、もしかして、アーチャーが元に戻らないでいてくれているのも!?」

 

 怒鳴り散らすリンの隣で、複雑な表情をして頭を押さえるアーチャー。

彼は、白髪に浅黒い肌という日本人離れした10代後半の少年の姿をしている。

 

「もちろん、私の仕事です」

 

 すっぱり、はっきり、きっちりと答えたステッキを、リンは無言で地面にたたきつける。彼女の細い猫の尻尾が、倍以上に太く逆立つ。

 

「戻せ」

 

 ステッキを足蹴にし、短く冷たく命令を発する。

 

「魔法少女は、プレティーン。これが決まりじゃないですか!!」

 

 足の下で、わけのわからない持論で反論をするルビー。

 

「そうですよ。ハイティーンの魔法少女なんて、恥ずかしいだけじゃないですか」

 

 そして、それを擁護するイリヤのステッキ。

 

「そこ!! 余計な口を出すな!!」

 

 リンが指をさしたかと思うと、黒い何かがイリヤの耳のすぐ横を撃ちぬいた。

ちなみに、現在イリヤにはAランクの攻撃すら防御する魔術障壁が張られている。

それをいともあっさり貫くほどの威力が今の攻撃にはあった。

 

それが、ガンドと言われる指さしの呪いの魔術だというのはイリヤには分からなかったが、ルビーに口を開かせてはならない事だけははっきりと理解する。

 

 イリヤはがっちりと杖頭を両手で包み込むようにして握りこんだ。

手の中でルビーがもがき、くぐもった声を上げるが無視。彼女に口を開かせれば自身の命に関わるという直感に従う。

 

「プレティーンだの、ハイティーンだの、どうでもいい。戻せ」

 

 再度、リンが命令を発する。

 

彼女が背負う気配は、これが最終勧告であることを告げている。

 

「ええっと。ぶっちゃけ、もう戻せない、みたいな?」

 

 そんな空気を読んでも、あえてふざけた口調で答えるのがルビーのルビーたるゆえん。

 

「はあ?」

 

 リンはこめかみに青筋を立てグリグリと、ヒールを使いルビーを地面に埋め込む。

 

 不良やヤンキーと同レベルの恫喝である。

 

「正確に言うなら、できますよ。でも、固着の解除ってエネルギーを喰うんですよね。具体的に言うなら、これまで貯めてきたエネルギー全部? みたいな?」

 

 あはははははは〜〜と、呑気に笑うルビー。

 

「………………」

 

 その言葉に、リンが固まる。

 

年齢固着化の解除のためなどに、エネルギーを回すわけにはいかない。

 

その結論が彼女の中であっさりと出てしまったがゆえに。

 

「なんで? エネルギーがあるなら、戻せばいいじゃない」

 

 イリヤが不思議そうに首をかしげ素朴な疑問を抱く。

 

「私たちが集めているエネルギーは、鏡面界の崩壊時に発生するものでね。そうそう収集できるものではないのだよ。しかも、これを無駄遣いすると、元の世界に戻れなくなる」

 

 茫然自失となっているリンに代わり、アーチャーが肩をすくめつつその理由を明かした。

 

「つまり、貴方がたの目的は、元の世界に戻るということ?」

 

 アーチャーの言葉から、凛は彼らの目的を拾い上げる。

 

「おおむね、その通りだ」

 

 アーチャーが頷く。

 

「だから私たちは、クラスカードの収集には興味がない。その後の鏡面界の崩壊時のエネルギーさえ回収できれば、それでいいのだからな」

 

 自身の行動目的を皮肉げな笑みを浮かべながら説明するアーチャー。

 

「でも崩壊させるためには、英霊を倒さなければならない。なら、協力してもいいんじゃない?」

 

「却下よ」

 

 凛の提案に、はっきりと拒否の意志を示したのはリンだった。

 

「前回と今回。貴方達の戦い方を見せてもらったけれど、協力を結ぶに値しないわ」

 

「どういう意味ですの!?」

 

 その言葉にルヴィアが声を荒げる。

 

「そのままの意味よ。特に、今回の戦いはひどすぎたわ」

 

「それは……っ」

 

 ものの見事な大敗。

もしもリンたちが介入しなければ、命すら危うかったかもしれないという事実に、ルヴィアは言葉をなくす。

 

「確かに、魔力を主体に戦う以上キャスターは格上だし、相性は悪い。それでも、無様すぎる。連携も何もなく、ただ相手の攻撃を防いで砲撃するだけ。アレでは、勝てる相手にも勝てない。それに何より、遠坂凛!」

 

 フルネームの名指しで、リンは凛を指差し睨みつける。

 

「なぜ、鏡面界の探査をしなかったの? 第二魔法である平行世界の運営。その到達を命題としている遠坂の魔術を使うのならば、それは可能だったはずよ」

 

「ぐっ……」

 

 リンの指摘に、反論もできずに唸る。

 

「せめて、もう少し貴方達の情報を開示するべきではなくて。どうしてこの世界に来ることになったのか? どうやってこの件に関する情報を入手できたのか? そしてそちらの少年はいったい何者なのか」

 

 正論で追い詰められながらもルヴィアは、矢継ぎ早に質問を投げかける。

 

「それは〜〜」

 

 リンの足の下でルビーが質問に答えようとするが、

 

「それも、却下よ。貴方に、情報を提示する義理も義務もないわ」

 

 リンの取りつく島もない返答に、ルヴィアが歯ぎしりしそうなほどの形相で睨む。リンはそれを無視し地面に半ば埋まっているルビーを取り出し、軽く土を払った。

 

「行きましょう、アーチャー」

 

 言って、リンは足元に魔法陣を開く。

 その魔法陣は、魔術に通じている者が見れば高度な技術で編み込まれた転移のモノであると読みとることができた。

 アーチャーがその魔法陣の上に乗ると同時に、彼らは一瞬にしてそこから姿を消した。

 

 

 

 


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