プリズマ☆イリヤ クロス   作:-Yamato-

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第9話 魔法少女は、特訓中

 

「んぅぅ、はよう……」

 

 イリヤがフラフラしながら、階段を下りてくる。結局、ベッドに入ったのが早朝とも言える時間帯。睡眠時間が僅か数時間だったため、意識の半分は夢の中だ。

 

「おはよう、イリヤ。随分と眠そうだな。夜更かしでもしたのか?」

 

 焼き上がった鮭の照り焼きをテーブルに並べる士郎。見事な和風善が、テーブルの上には完成している。

 

「あれ、お兄ちゃ………あ、あ、ああああああ!!!」

 

 士郎の顔を見た瞬間、イリヤが素っ頓狂な大声を上げて突進する。

 

「な、なんだよ、イリヤ?」

 

 意味不明な叫び声に、士郎は首をかしげる。

 

「お兄ちゃん! まさか、赤い服着て、髪の毛脱色させて、ガングロになって夜な夜な徘徊してないよね!?」

 

 士郎の腕を掴み、必死の表情で見上げ確認を取る。

 

「なんでさ?」

 

 目を丸くし、キョトンとした顔つきでイリヤを凝視している士郎。

 

「…………って、あれ? そんな似てないような……?」

 

 一瞬、赤い魔法少女リンと一緒にいたアーチャーと士郎がよく似ているような気がしたが、しっかり覚醒した頭で再認識するとあまり似ていない。

 

———アーチャーはカッコつけで、笑ってもなんだか皮肉っぽい。お兄ちゃんは少し無愛想だけど、笑うと可愛い。うん、別人、別人。

  

 アーチャーと士郎の違いを確認し、なぜか安心するイリヤ。

 

「一体なんだよ? ヘンな夢でも見たのか?」

 

 一人で混乱し、一人で納得するイリヤを不思議そうに見る士郎。

 

「うん。夢の話」

 

 にっこりとほほ笑む。

 

「そうか。ほら、早く朝ごはんを食べようか。学校に遅刻しちまう」

 

 ポンとイリヤの背中を軽く押し出し、士郎は朝食の席へと促した。

 

「うん」

 

 イリヤは席につき、士郎謹製の朝食をほおばる。

 こうして、衛宮家の朝は始まった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 学校の裏手の人気のない林の中。

 

 少し歩けば高等部の弓道場があり、そこでは士郎が在籍している弓道部が活動しているはずである。

 だがこの林は、グラウンド一つが収まるくらいの敷地があるものの、整備されていないためあまり人が来ることはない。

 

 そんな場所に、現れたのはピンク色の魔法少女。

 

「魔法少女のわりに地味だよね。林の中で特訓とか」

 

 つい先日も、ライダー戦の前に砲撃の練習をしたことを思い出す。

 さらに、ついでとばかりにルビーに騙され可愛い笑顔とポーズまで取らされたことを思いだしかけ、首を振る。あんな黒歴史は闇に葬り去るべきである。だが、イリヤは知らない。その恥ずかしいポーズの数々はルビーによってしっかりとRECされ、『お宝フォルダ』に保管されていることを。

 

「実際はそんなものです。日々の努力が実を結ぶのですよ」

 

 ルビーが至極正論を述べる。そして当然のことながら、何時なんどき何が起こってもいいように、録画の準備はバッチリのルビーである。

 

「それではまず、飛行をマスターしちゃいましょうか」

 

 そんなことはおくびにも出さず、特訓開始を提案する。

 

「ん、了解。取りあえず、素早く動けるようになればいい?」

 

 その提案に頷きつつ、質問を投げかける。

 

「それもありますが、効率的な魔力の運用が重要です。私は、無制限に魔力を供給できますが、それを発揮するマスターには制限がありますからね」

 

 ピョコンと羽飾りを立てるルビー。

 

「それって、プールの水は大量にあるけど、くみ出せるバケツの大きさは決まっているってこと?」

 

「……魔法少女らしくない、身も蓋もない表現ですが、概ねその通りです」

 

 立てた羽がヘニャリと萎れる。

 

「取りあえず、飛ぼうか」

 

 風が舞い上がり、イリヤの身体が重力から解放され舞い上がる。

 天才魔術師逹が丸一日かけてようやく成し得た神秘をイリヤはいともあっさりやり遂げる。

 しかも、彼女自身はそれがいかに凄いことかを全く理解していない。

 

「ホントに凄いですよね。あっさり、飛ぶなんて。浮くだけでも大抵の人は苦労するというのに」

 

「そんなに凄いことなのかな。魔法少女って飛ぶのが当たり前なんだし」

 

 愉快型魔術礼装を使うのに最も重要なのは強固なイメージ。

 夢と現実の境界が曖昧になりやすい世代というのを抜きにしても、イリヤは魔力を使うことに対し全く抵抗がない。

 

「あ、そうだ。これを預かってきたんだけど、使ってみてもいい?」

 

 そう言って、取り出したのは弓使いが描かれているクラスカード。イリヤ陣営が所有する唯一のカードである。その他のランサー、ライダーはルヴィアたちが所持している。

 

「『アーチャー』のカードですね。いいですよ」

 

「アーチャーって言えば、あの男の子もアーチャーって言われていたよね」

 

 高校生くらいの赤い外套を身にまとった、まるで剣のようなイメージを抱かせる少年。

 彼が魔法少女の方のリンにアーチャーと呼ばれていたことを改めて思い出す。

 

「何か関係あるのかな?」

 

「今の時点では、なんともいえませんね。それより、カードの使い方を説明します。そのカードを私に押し当てて限定展開(インクルード)と唱えてください」

 

「アーチャーと言えば、宝具は弓。一体、どんなのが出てくるのか」

 

 胸を高鳴らせ、イリヤはカードをステッキに押し当て

 

限定展開(インクルード)

 

 ルビーが一瞬だけ赤く瞬き、その姿を艶の消した黒塗りの弓へと姿を変えた。

 

「よし、それじゃぁさっそく試し打ち……アレ? 矢は?」

 

「ありませんよ」

 

 弓の姿になっているルビーが素っ気なく返答する。

 

「ええ〜〜、それじゃあ、役立たずじゃない」

 

 そう言っている間に、ルビーの姿が元に戻る。

 

「はい、時間切れです。一度、カードを使ったらしばらくの間使えなくなるので、注意してください」

 

「注意してくださいも何も、弓だけじゃ使い道がないんだけど……」

 

 ルビーの注意事項の説明に、がっくりと肩を落とす。期待していただけに、がっかり感は大きい。

 

「ねえ、今の弓、アーチャーさんの持っていた弓にそっくりじゃなかった?」

 

「さぁ? もしかしたら、彼は英霊なのかもしれないですけどね」

 

「まさか〜〜」

 

「ですよね〜〜」

 

「「……………………」」

 

 二人はあまり笑えない冗談に、乾いた笑いを上げたあと無言になる。

 

「と、とりあえず特訓しよ」

 

 自分の兄に似ているような気がした人が、英雄。そんな埒のない想像を振り払ってイリヤは飛行の練習を開始した。

 

 

 

※※※ 

 

 

 

「イリヤさん! 上空から質量を伴った物体が落下してきます。回避してください」

 

 飛行訓練をしている最中、何の前触れもなく突然ルビーが危険を知らせる。

 

「うえぇぇえええええ!?」

 

 イリヤが慌ててその場から離脱を図るのと、何かが上空から降ってきたのはほぼ同時。避けられたのはほとんど偶然のようなもの。

 

 落下地点には、小さいながらもクレーターができているところからして、かなりの衝撃が加わったことが分かる。

 

「何? 攻撃?」

 

「違うみたいですね〜〜」

 

 慌てるイリヤに、ノンビリ答えるルビー。

  

「全魔力を物理保護に変換しました。お怪我はありませんか?」

 

 クレーターの中心部から聞き覚えのある抑揚の少ない冷静な少女の声がする。

 

「なんとか……」

 

 ステッキに手をかけ、かろうじて立ち上がる青い魔法少女美遊。

 

「ミユさん……なんで空から? 特訓? 必殺技?」

 

 中空に回避していたイリヤが、疑問符だらけの顔で問いかける。

 

「空を飛ぶためだと、ルヴィア様が……」

 

「なるほど、上空から突き落としたってことですね」

 

 言いよどみながらも説明するサファイアの言葉で、大体の事情を察するルビー。

 

「…………飛んでる」

 

 イリヤが空を飛んでいる様子を見て、美遊がポツリとつぶやく。

 

「はい、見事に飛んでらっしゃいますね。……美遊さま」

 

 サファイアの促しに、美遊は小さく頷く。

 

「……その、昨日の今日で言えたことじゃないんだけど……空が飛べなくちゃ戦えないから」

 

 俯き、頬を赤らめて、少し瞳を潤ませ、美遊は先を続ける。

 

「その……教えてほしい、飛び方……」

 

「っ……かっ……」

 

 イリヤにとっては、否という答えなどありえるはずもない。

 何より、美遊が劇的に

 

———っ……可愛い

 

 普段、まるで人形のように感情の表出が少ない、知的な美少女という彼女。

 それが身の置き所がない様子で上目遣いに見つめてくるのだ。

 危うく、ヘンなスイッチが入って抱きついてしまいそうになるほど、可愛すぎた。

 

「イリヤさん? どうしたんですか?」

 

 ルビーにステッキの柄をくるりと回して問いかけられ、イリヤは我に帰る。

 

「ええっと、教えると言われても、ええっと……」

 

 自分でもどうやって飛んでいるのかよくわかってないのだ。教えてほしいと言われても、何をどう教えればいいのか戸惑う。

 

「イリヤ様は『魔法少女は飛ぶもの』とおっしゃっていました。そのイメージの元になったモノがあるのでは?」

 

「元って、……うん。……あははははははは」

  

 イリヤは乾いた笑いを浮かべた。

 

 

※※※

 

 

 イリヤの秘密を見せるため、帰路についている最中。

 

「あら、偶然ね」

 

 赤いフードパーカーに黒いスカートという出で立ちの少女が声をかけてきた。

 

「ええっと、リンさん?」

 

 イリヤの戸惑い混じりに言葉にリンが笑顔で頷き、二人に並ぶ。

 端から見れば、同級生の集まりにしか見えない。

 

「あの、アーチャーさんは?」

 

 美遊が警戒心を隠さずに問いかける。

 

「あっちよ」

 

 それを気にする風もなく、リンは新都の方に視線を向ける。

 正確に言うなら、ここからでも見える高いビルの屋上を指している。

 

「あんなところで何を?」

「正義の味方は高いところが好きなのよ」

 

 美遊の質問に、リンは本人が聞いていないのを良いことに好きなことを言う。

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

 生真面目な美遊は、誤魔化されまいと更に質問を重ねた。

 

「言葉通りの意味よ。正義の味方は、世間の異常に敏感でないとね」

 

 ふざけた答えを返すリンに美遊は息を吐く。この質問に関してまともな答えは得られないと諦めたようだ。

 

「正義の味方なんて、お兄ちゃんみたい」

 

 イリヤはアーチャーがいるというビルを見る。どれほど目を細めてもアーチャーの姿は捉えられない。けれど、赤い外套をビル風にはためかせながら、街を見下ろす様子は容易に想像できた。

 

「それで、あなたたちは何をしているの?」

「えっと、空を飛ぶ特訓です。キャスターは空にいるから、そこに近づくために」

 

 素直にイリヤが答える。

 その対応に美遊が眉を寄せ、肘でつつく。

 

「ん?」

 

 意図が分からず、首を傾げる。

 

「この人を信用、するの?」

 

 こそりと耳打ちする美遊。

 

「しないの?」

 

 逆に不思議そうに問い返す。

 

「だって……」

 

 隠し事をしている相手を簡単に信用はできないと、さすがに本人を目の前に口にしないが、美遊の目が雄弁に語る。

 

「だって、リンさんだもん。騙すことは……するかもだけど、悪いようにはしないよ、きっと」

「……そう」

 

 それ以上を美遊は言わなかった。

 ただ、ほんの少し羨ましそうに見るだけ。

 

「あの、リンさん」

「何?」

 

 思いきって口を開いたイリヤ。その言葉を聞く姿勢を見せるリン。

 

「リンさんたちも、カードをどうにかしたいんですよね。なら、協力できないんですか」

「昨日も言ったように、私たちはカードに関しては基本的にどうなっても構わないと思っているわ。ただ、エネルギー回収に必要だから対処しているだけよ」

「それなら、」

「昨日の繰り返しになるけれど」

 

 続くイリヤの言葉を言わせないタイミングで続ける。

 

「足手まといは必要ない。それに、私たちはそちらに全く協力していないわけではないのよ」

 

 二人を指差す。

 

「あなた逹が持っているアーチャーとランサーのカード。それを回収したのは私たちよ」

 

 ランサーのカードについては魔術協会と協力はしたが、作戦の主体となったのはリン逹だ。

 

「残りのカードも私たちが取り返して、そちらに流すわ」

 

 もう戦わなくてもいい。そう言うリンへイリヤが返答するよりも早く。

 

「いいえ。回収は私がします」

 

 まっすぐに切り返す美遊。

 

「私が……します」

 

 触れれば切れそうなほどに痛々しく頑なな美遊の態度。

 

「ふうん。どうしてそこまで思い詰めているのかしら。まるで、今回の騒動はあなたのせいみたいに」

 

 探るように見つめるリン。それを真っ向から見返しつつ、口を引き結ぶ美遊。

 その両者に挟まれ、二人を交互に見るイリヤ。

 

「あ、あの。お二人は飛べるんですか?」

 

 最初に耐えきれなくなったのは、当然のごとくイリヤだった。

 強引な話題の転換を図る。

 

「私は、飛べるわよ」

 

 美遊から視線を切り、さらりと答える。

 

「さて、これ以上は特訓の邪魔になるわね」

 

 気がつけば、衛宮邸の前についていた。

 

「それじゃ、特訓がんばってね」

 

 ヒラヒラと手を振ってリンは歩き去った。

 

「……なんの用だったんだろうね」

 

 リンの後ろ姿を見送りながらイリヤは首を傾げる。

 

「たぶん、」

 私を探るため。

 

 美遊の小さな呟きが聞こえたがイリヤは追求しないことにした。

 少しお話しできるようになった美遊と、もっと仲良くなりたかったから。

 

 

※※※

 

 

 ピンク色の髪を一つに結いあげた少女は、二本のステッキを両の手に構える。

 彼女がいるのは、雲の上。逆巻く魔力が雲すら巻き上げ、残像を残しながら滑るように空を飛ぶ。

 

「ここが決戦の場よ。この空で散りなさい!!!」

 

 叫びながら、彼女はステッキを振りかざした———

 

 

 

※※※

 

 

 

「…………コレは……」

 

 ぽかんと口を開いて、美遊はテレビ画面を凝視する。

 

「恥ずかしながら、これが魔法少女のイメージの元かな〜〜?」

 

 あはははは〜〜と笑いつつ、頬をカリカリと掻くイリヤ。

 

「あ、ありえない。航空力学も、重力も、慣性の法則も、全部無視して……物理的な法則も何もない、ありえない動き…………」

 

「いや、そこはアニメなんで、深く考えない方がよいかと……」

 

 アニメをここまで真面目に捉えられてしまうと、なんだか逆に恥ずかしい。

 

「これを全部見れば、美遊様は飛べるようになるのでしょうか……」

 

「ううん。たぶん、無理」

 

 サファイアの問いに、美遊は俯き首を横に振る。

 

「飛ぶのは揚力じゃなくて浮力なのは理解できる。でも、浮力と言うのはただ浮くだけ。そこから移動するためには、別の力を加える必要がある。もしくは……」

 

 どこまでも理論で考えようとする美遊。彼女の切羽詰まった表情からかなり煮詰まっていることが読みとれた。

 

「ルビーデコピン!!!!!」

 

 ぺシンと軽い音とともに、ルビーが美遊のおでこを叩く。常の美遊ならばいざ知らず、この時の彼女は自身の考えに没頭していたため、避けられなかった。

 

「そんな、コチコチの頭では、いつまで経っても飛べませんよ。イリヤさんを見てください。理屈や工程をすっ飛ばして、結果だけイメージする。それくらい能天気で即物的な方が魔法少女に向いているんです」

 

「ね、それ、褒めてないよね、褒めてないよね?」

 

「そうですね、美遊さんにはこの言葉を送りましょう」

 

 相も変わらず、我が道を行くルビーはイリヤの突っ込みなど聞いていない。

 

「『人が空想できること全ては、起こりうる魔法事象』わたしたちの創造主である魔法使いの言葉です」

 

「ん〜〜つまり、アレでしょ。考えるな、空想しろ! って……うわ〜〜全然納得してない顔だね」

 

 ルビーとイリヤの言葉に、げっそりと疲れた顔を向ける美遊。

 

「……あまり、参考にはならなかったけど、少し考え方は分かって気がする」

 

 美遊は立ち上がり、部屋を出ていく。

 

「また、今夜」

 

 その言葉を、素っ気なく残して。

 

 

 そして深夜。

 キャスターとの再戦が始まる—————

 

 

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