ホープとヴァニラが異跡へと突入したその頃、レスト達はというと、
異跡の内部に入っていた。
「あんたら一体何しに来たんだ、戦いに来たんじゃねぇのか!?」
ふとサッズがレスト達に疑問を投げ掛けた。
「....妹だ。」
「妹?」
その疑問に対してライトが答える。
「ルシにされた。」
「......
ライトは頷く。
「ファルシに囚われているらしい...助け出す。」
「そして俺はライトの手助けだ。」
ライトの後にレストも口を出した。
「...レスト、お前は来なくても良かったんだぞ。」
「...そうも言ってられねぇだろ....俺はお前ら姉妹を守るって決めてんだから。」
レストの意思の堅さに対してもはや諦めるしかないとライトは悟る。
「.....分かった。」
「...それで...その妹は、無事なのか?」
話を戻そうとサッズがライトに話し掛ける。
「....」
「....」
だが、二人とも口をつぐみ何も言わなくなる。
「妹さんの使命は?」
二人は首を横に振る。
「その子がルシにされた時、ファルシに何を命令された?......やっぱり「コクーンを壊す」とかそういうもんか?」
サッズはこれでもかとライトとレストに質問責めを行う。
「...聞けなかった。」
「....俺は聞いた。」
「!?」
レストの言葉に驚くライト。
「それは....一体どんな使命なんだ!!!」
「えっ...!」
胸ぐらを掴まれ、左右にレストは揺すられる。
「ちょっ.....ライト....落ち....落ち着けって。」
「お....おい、離してやれ。」
サッズに助け船を出してもらい、何とか助けられた。
「それで、どんな内容なんだ?」
「....なかった。」
「え?」
「だから....教えてくれなかったんだよ、セラは。」
「何でだ!!」
「俺に当たるんじゃねぇよ!.....セラの事だ、俺達に心配かけまいとして言わなかったんだろ。」
「.....そうか。」
ライトはそれ以上、レストに問い詰める事はしなかった。
「...いや、あれは....教えてくれなかったというよりも....」
レストが何か言おうとしたその時、
「!?」
突如、近くの登り階段の上にある壁から赤い紋様の光が輝きだしだが、直ぐに消え、中からうねうねと蠢く生き物のような物体が現れる。
「セラ....そこにいるのか?」
レストがふと口に出して訪ねるもその問いかけに対して答えるものは誰も居なかった。
「いいか....嬢ちゃん、坊主....ファルシは人に呪いを掛けてルシに変える...ルシは「使命」を与えられる。」
「.....」
「.....」
そこで一呼吸置いてまた話し続ける。
「その「使命」が果たせないと━━━ルシはああいう化け物になる。」
サッズの見ている方向に二人は目を向ける。
「...もし妹さんが、ああなってたら.......」
「その時は...俺が殺す。」
レストが剣を鞘から取り出しながら言い放つ。
「レスト....貴様...!!!」
ライトがまたもやレストの胸ぐらを掴む。
「俺の....責任だ。」
レストの左手は、血が滲むかと思われるほど握り締められている。
「俺が....あの時、セラを止めていれば....こうはならなかった筈だ!!!」
「..!!」
レストの強い口調には後悔と自責の念がみてとれた。
「お前.....そこまで.....!!」
ここまで自分を責めたレストをライトは見たことが無かった。
それだけレストはセラの事を思っていたのだとライトは気付いた。
「行くぞ!」
レストは単身、シガイの群れに突っ込んでいく。
「ま、待てレスト!」
ライトも後を追うようにしてレストに続く。
「ああ...もう、話の途中だってのに....!」
そんな二人を追うようにしてサッズも続く。
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「ハアアアアア!!!」
レストは一体、また一体とシガイを切り捨て、先を急ぐ。
(まだだ......まだ、追い付けない.....このままじゃ...!)
先へ先へと進んでいくレスト、その表情には焦りが見えていた。
「おいレスト!」
そんなレストを静止させようとシガイと奮闘するライトと成り行きでシガイと交戦するサッズの二人。
だが、ライトの声はレストには聞こえておらず、ライトがレストの声を聞いたのは、それから数分後のことであった。
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「さっきの話の続きだが......ルシになった人間を助ける方法は無ぇ....たとえ使命を果たしても普通の暮らしはもう出来ねぇ....永久にファルシの奴隷だ。」
「......」
サッズの言葉に苛立ちを見せるライト。
「━━楽にしてやりな。」
「....!」
サッズの言葉にとうとうライトの怒りが爆発する。
「ハッキリ言え!ルシも、ルシになりそうな奴も...一人残らず殺せってな!」
「落ち着け、まだそうとは限らない.....だから俺達は此所に来たんだろうが。」
「...ああ...そうだな。」
だが、レストの言葉により冷静さを直ぐに取り戻す。
「....今は時間が惜しい、先を急ごう。」
レストはまた先行する。だが、今の彼には先程のように暴走している訳ではなく、冷静にそれでいて誰よりも周りを見て行動している様子であった。
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「「セラ!」」
進んだ先でレスト達はセラを発見した、しかし彼女は仰向けになってその場に倒れており、意識は無いように思われた。
「ライト、俺が運ぼう。」
「ああ、頼む。」
「行くぞ、軍の攻撃が始まる前に━━」
レストはセラを背負い、遺跡からの脱出を試みる。だが、
「?....どうした?」
レストがライトに訪ねるが、何も言わない。次にサッズの方を見ると、
「
「だからそれがどうしたんだよ。」
「下界のルシはコクーンの敵だ。」
そう言ってサッズはホルスターから銃を抜こうとする。
「....!ルシは処刑か!」
「使命を果たせなかったらあんなバケモンだしよ......」
「だからって、殺していいとは限らないだろ......!...ん?」
すると突然、レストが背負っていたセラの腕がライトに向かって伸ばされた。
「お姉ちゃん......」
「......!レスト、セラを。」
「...ああ。」
レストはライトが何を言いたいかに気付き、背負っていたセラを下ろし、その場に横たわらせた。
「セラ!」
すると目の前からセラを呼ぶ声が響き渡る。
「スノウ......。」
レストはリフトから飛び降りた目の前の人物の名前を呟いた。この場に来て欲しくは無かったと思いながら。
一方、ライトはというと
「........」
忌々しそうにスノウを睨んだ。この状況を作ったのはお前だと言わんばかりに、
「セラ。」
スノウはセラの手を握って名前を呟く。
「ヒーロー参上......?」
その時のセラは何処か嬉しそうにスノウを見てそう言った。
「.......ああ。」
スノウはそれだけ答えると安堵の表情を浮かべた。
だが、ライトだけはその様子を良しとはしなかったようだ。
「......!」
後からスノウに付いてきたヴァニラとホープが何事かと様子を伺いにやって来る。ヴァニラは横たわっているセラを見て何か思うところがあるような様子であった。
「一緒に帰ろうな。」
「放せ、私が連れて帰る。」
スノウがセラを連れて行こうとするとライトが反発した。
「
「誰が義姉さんだ!....お前はセラを守れなかった、お前のせいで......!」
「守れるよ......!」
「セラ?」
二人の様子を見かねてかセラがライトに呟く。
「守れるよ。」
今度はレスト達にもハッキリと聞こえるように言った。
「だから守って......コクーンを......守って。」
「コクーンを守る....それがお前の使命なのか....セラ?」
レストがセラの言葉からそう結論を導き出す。
「分かった、任せろ...守るよ、俺が守る!...セラもコクーンも、みーんな守る!」
スノウの言葉にライトは再び、怒りを露にし、スノウを睨んだが直ぐにセラに向かって、
「そうだ私が何とかする。」
そう言った。
「セラ、俺もライト達と一緒にコクーンを守るよ。」
レストもセラに近寄ってそう言った。
「安心したろ?」
スノウはセラを見て、そう言った。だがセラは、
「......ごめんね。」
そう言ってスノウに笑いかけた。
するとセラの身体が青白く発光を始め、宙に浮かび始める。
「セラ!?」
セラは段々とライト達の手が届かない場所へと浮かんでいき、手首から徐々にクリスタルへと姿を変えていってしまった。その過程の中でセラは、一滴の涙を流し、結晶化したそれはスノウの手の中に落ちた。
セラのは、まるで祈りを捧げるような姿でクリスタルと化してしまった。
「セラ!セラ!!」
セラの涙を手にしたスノウはセラの名を叫びながら、セラのクリスタルを掴もうとジャンプする。
「.......」
「セラ....」
その光景を見守っていたライトとレストは悲しそうな表情でクリスタルと化してしまったセラをただ見上げるしかなかった。
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「どうして......」
「『ファルシの使命を果たしたルシはクリスタルになって━』『永遠を手に入れる』」
「伝説の通りか......」
「よく......頑張ったな。」
「!...スノウ、その言葉は...!」
レストがスノウの発言に異を唱えようとしたところ、
「頑張っただと?━━ふざけるな!」
ライトがサッズを突き飛ばしてスノウの首根っこを掴んだ。
「セラはっ...セラは......」
「もういい、ライト....そこまでにしておこう、な?」
レストがスノウの首からライトの手を離して、彼女を抱き締める。
「スノウ、セラの今の姿を見て...何故、そう言える?」
「それは....」
「答えろ、何故そうハッキリと言い切れる?」
「....セラは、使命を果たした.....だから、そう言ってセラに休んで貰おうと、」
「....そうか。」
レストはそれだけ聞くと、ライトを抱き締めたままスノウから離れた。
「だけど生きてるっ!!....伝説だ!ルシの伝説だよ!......『使命を果たしたルシはクリスタルになって永遠を手に入れる』セラもそうなんだ!...『永遠』ってことは死ぬ訳ねぇだろ!」
スノウはまるで演説するかのように周囲の人物達に言い聞かせようとする。だが、全員そっぽを向くか、顔を下に向けている。....ライトとレストを除いて、
「セラは俺の未来の嫁さんだ...ずっと一緒って約束した。」
スノウの発言にライトの堪忍袋の緒が切れそうになったその時、
「俺、何年でも待って未来の━━」
「スノウ。」
「ん?....グハッ!」
突然、レストがスノウをぶん殴る。
「いい加減にしろよ、お前.....」
「え?」
「現実見ないで、何が『生きてる』だ!何が『未来』だ!.....セラがどんな気持ちでルシとなり、使命を果たしてクリスタルになったか....お前は考えなかったのか!」
「それは....」
「彼女がルシになってしまったとお前に打ち明けた時、どんな気持ちだったか、俺やライトに打ち明けた時もそうだ...拒絶される事を恐れていたんじゃないのか!?」
「......。」
「スノウ、お前には失望した.....行くぞ、ライト。」
「あ、ああ。」
ライトは自分の代わりにスノウを殴ってくれたこと、自分の代わりにスノウを叱責してくれたことにより、怒りの感情が即座に頭から抜けてしまい、レストに付いて行こうとしたその時、
「....!?」
「何!?」
突然異跡が大きく揺れた。
「軍隊か!?」
━━━━━━━━━━
遺跡の外では、軍隊が下界の異跡を何処かへと運んでいた。
そして、
「やれ!」
その言葉を合図にして、異跡に向かってワイヤーが埋め込まれる。
━━━━━━━━━━
内部では、
地震のような揺れが継続し、レスト達は移動することさえ困難となってしまった。
レスト、ライト、スノウの三人はクリスタルと化したセラを守るように覆い被さる。
他の三人はパニック状態でどうにも出来ない様子である。
「なんなの!?」
「軍隊の総攻撃だろ!この異跡ごとファルシをぶっ壊すんだ」
「下界へ返すんじゃないの!?パージってそういう意味でしょ!?」
「聖府の狙いは下界の奴らをコクーンから「消す」ことだ...「運ぶ」も「殺す」も変わりゃしねぇ。」
その言葉にヴァニラはショックを受けて呆然と立ち尽くしてしまう。
「早く逃げなきゃ、死んじゃうよ!」
ホープはその場に踞ってしまい、最早どうすることも出来ずにいた。
すると突然揺れが収まり、階段の上の扉らしき場所から紅く紋様が輝くと同時に先へと進む道が開かれる。
「すぐ戻る、待ってろ。」
スノウはセラにそう言って先へと進む。
「兄ちゃん、何する気だ?」
サッズが訪ねると、スノウは立ち止まり、
「ファルシに会ってくる。」
そう告げた。
「セラを助けてもらうんだ。」
「へぇ!?...ファルシにお願いするってか!?そんなに甘い訳あるか!...向こうは人間を道具としか思っちゃいねぇんだ。」
「俺は未来を待つだけじゃない!」
スノウの言葉にレストとライトは後に続くようにして前へ歩を進める。
「
「
「あー....俺の事だな。」
「それだと私とレストが付き合ってるみたいじゃないか!」
「いいじゃんかよ、俺は義兄さんって呼ばれて悪い気はしないし。」
「はぁ、もういい。」
レストの発言にこれ以上突っ込みを入れるのは止めようと思ったライト。
「.....ったくもう。」
渋々、サッズも後に続く。
「二人は此所で待ってろ。」
レストはヴァニラとホープにそう言い聞かせて先へと進んだ。だが、二人はレスト達の後に続いて先へと進むのだった。
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「これが....ファルシ。」
レスト達6人の眼前に位置するのは、まるで異跡を動かす為に設置されたような巨大なモーターであった。
「セラはクリスタルになった...あんたが命令した使命を果たしたんだ!...だからもういいだろ!セラを元に戻してくれ!」
だがファルシは何も答えない。
スノウの必死な頼みさえ、ファルシにとっては道具の戯れ言としか認識していないのだろう。
「頼む!セラを助けてくれ!」
スノウはファルシに対して、今度は土下座をして懇願する。
「ハッ...代わりに俺がルシになってもいい!」
だがそれでもファルシは何も答えない。
「バカ野郎が!」
「ああ、大バカ野郎だ!」
ライトとレストが剣を取り出してファルシに突っ込んでいく。
「ファルシが」
「人の願いなんか」
「聞くかっ!」
二人が同時に切りつけた途端、二人の身体がよろめいてしまう。
「義姉さん、義兄さん!」
ハァ、ハァと息をきらしながらファルシを睨み付ける。
「こんな奴のせいでパージが起きて、人間同士殺し合いだ....セラはコクーンを守れと言った....なら、こいつを倒せって事だ!」
レストがスノウ達に対してそう叱咤激励する。
すると周りの壁や床が黄金色に光り始めた。
そして次の瞬間、ファルシが目覚め、その両隣から腕のような部分が飛び出してくる。
そして、固く閉ざされていたファルシの外壁が開き始め、レスト達に姿を現した。
その姿は上からパイプを繋げられた機械のようであった。
ホープはその姿を見るなり、恐ろしくなってしまいその場から逃げようとするも、
「わっ...!?」
出口は紋様で塞がれており、逃げることが出来なかった。
「なぁ......人がファルシに勝てると思うか!?」
「さあな...でも、やってみなきゃ分からねぇよ!」
「セラは私に言い残した。」
レストとライト、そしてスノウは起動したファルシに向かって覚悟を決めて迎え撃つ。
「......ドッジ。」
サッズは誰かの名前を呟く、そして、
「付き合うぜ、素人が邪魔じゃなけりゃな。」
サッズもファルシと戦う覚悟を決めた。
「こいつの始末は、俺の務めだ。」
「....悪いな。」
ライトはサッズにそれだけ言うと、ファルシに向かって行く。
果たして、レスト達はファルシに勝つことが出来るのだろうか?