三話 もこたん、山を出る 寅
「おーい寅の坊主。妹紅が来てやったぞー」
まだケツが青い頃から知っている、日本の大英雄が一人、《闘神》南郷寅次郎の道場を訪れる。
ま、《闘神》なんて呼ばれちゃいるが、私からしたらただのガキさね。まあ会う度に決闘を仕掛けてくるから、めんどくさくて最近会ってないんだけどな。
「む!そこに居る何度殺しても死ななそうな絶壁は、ま、まさか貴様、妹紅師匠だな!?」
「いよーし歳食っても元気なお前に師匠から教えをくれてやろう・・・・・まあそれを活かせるほど生き延びられればだがな!」
奴は言ってはならない事を口にした。よってギルティ。
「もこたん!喧嘩は、メッ!」
「お、おぉう寧々。そ、そうだよな、喧嘩しないから泣かないでおくれ」
塵も残さず焼き尽くすと決めていたのに、寧々が涙目で止めてきたので緊急停止をする。いや、マジで子供には勝てんわ。
「ほっほっほ、すまんな師匠。老いぼれの冗談じゃ。流してくれい」
「お前で老いぼれだったら私は化石だな」
「いやいや。師匠はまだまだ現役じゃい。まあワシ好みでは無いがの!」
「・・・・・寅の坊主。後で
「ほ、ほっほっほ・・・・・ちょーっとやらかしたかのー・・・・・。で、そこの娘は師匠の子かの?いつの間にこさえたんじゃ?」
ほんっとにこのガキは昔っからセクハラが好きなやつだ・・・・・。私だから良いが、そこらの娘に言ったら捕まるだろ。
「違うっての。この娘は昨日山で拾ったんだよ。親に捨てられたらしい」
「ふむ。・・・・・そうか。ままならんものじゃわい」
「ま、いつの時代もそう変わらないってことだ」
いつの時代も、人間は残酷で無情だ。親の都合で産んでおいて、親の都合で捨てる。私も似たような境遇だっただけに、寧々には幸せになって欲しいとも思う。
「それで、師匠が連れてきたということは、儂は何をすれば良いのかの?」
「ああ。寧々を、せめて成人するまで預かってほしい」
「え・・・・・」
寧々が不安そうにこちらを見上げる。親に捨てられたという経験から、また捨てられるのかと怖がっているのだろう。
今にも泣き出しそうな寧々の肩に手を置いて、語りかける。
「・・・・・なあ、寧々。お前は、このじいさんのとこで暮らしてくれないか?お前の事が嫌いな訳じゃない。けど私には子育てなんて出来ないし、世間にも疎いから、私と一緒じゃお前に苦労させることになる」
「いや!もこたんと一緒が良い!」
案の定、寧々はごねてしまう。たった一晩一緒にいただけだが、大分懐かれてしまったらしい。
「ほっほっほ。良いではないか。師匠も一緒に暮らせば」
「はあ?いやだから、私は不老不死だし、人里で暮らすわけには行かないって」
一応《連盟》だか《同盟》だかが接触してきて、私の《伐刀者》としての身分も有るから、無戸籍者として警察に目を付けられるなんて事は無いだろうけど・・・・・それでも不老不死というのは、そこに居るだけで周りを狂わせる。
「別に何百年と住むわけでもなし。寧々が成人するまで一緒に居てやれのう。それが拾った者の責任じゃわい」
「・・・・・だあっ!教え子に説教されてんじゃねえよ私!ああもう分かりました。分かりましたよ!いいじゃねえか私が親代わりになってやるよ!その代わり寅の坊主、お前のとこに居候するからな」
「ほっほっほ。こりゃ珍しい。師匠が親の顔しとるわい。こりゃ後で龍馬にも聞かせてやらんとのう・・・・・ま、居候は了解じゃ。無駄に貯まった金も有るしのう」
全く・・・・・寅の坊主もすっかりジジイの貫禄付けやがって。まあ私と違って、一年一年の密度が濃いからな。何十歳かは知らんが、それに見合った人生経験は積んでるらしい。
「はあ・・・・・そういう事だ。寧々、これから当分、一緒に暮らす事になっちまったわ」
「もこたんは、寧々のこと捨てない?」
「捨てないよ。当分は一緒に居てやるさ」
「うん。・・・・・ママ」
寧々は私に抱き着いてそう告げた。『ママ』、と。こんな化け物みたいなヒトモドキを、母親としてくれたのだ。
そんな優し過ぎる寧々に報いるために、私はきつく寧々を抱きしめた。
(ありがとう。こんな私を、『ママ』と呼んでくれて・・・・・)
「ああ・・・・・ありがとう。寧々」
****
「んじゃ、昼までには帰るわ」
「おじいちゃん、行ってきまーす!」
「ほっほっほ。行ってらっしゃい」
私は服なんて持っていなかった。なので勿論、寧々と私の衣服を用意する必要がある訳だ。ちなみに私の今の服は寅の坊主の家からぱくった和服だ。流石に白昼堂々《固有霊装》を出すのは──現代では、だが──まずいからな。
弟子にたかるのもあれだが、昔にしてやった諸々で相殺という事にしてやった。なので金は十分にある。足りなきゃ家にある骨董品を売るかな。
寅の坊主に貸してもらった、すまーとふぉんとか言う絡繰に従って歩けば目的地に連れて行ってくれるらしい。技術の進歩は凄まじいものだ。
「ママ、ママ!寧々あれが良い!」
「んー?どれどれ?」
しかし私の容姿は少女、もしくは成人したての女性程度なものだから、七歳ぐらいの
私は、何だか最近寒いのでセーターやらひ、ひーとてっく?やらじーぱん?やらなんやら。店員が勧めてきた物から幾つか選んで買った。
逆に寧々は色々とこだわりがあるらしく、幾つも見比べては私に感想を迫る。千年以上も生きてるババアの感性を頼らないで欲しい・・・・・。
最終的に寧々も私と似たような服を選んでいた。何枚かはペアルックだし。まったく可愛いもんよ。
何だか、アイツを思い出しちまう。アイツも小さい頃はこんなだったのかな・・・・・。