頼みに頼み込んで何とか買って貰ったノートパソコンを弄っていてわかった事が三つある。
一つ。俺、森下 暦は前回と比べて頭の回転力および記憶力が格段に良くなっている。
二つ。自滅ネタであった筈の『よくわかる現代魔法』におけるプログラミング技術の基礎理論が知識として刷り込まれている。
三つ。『宇宙のステルヴィア』に登場したマテリアルプログラムの基礎理論が知識として刷り込まれている。
まぁ、二つ目と三つ目は一緒に扱ってもよかったかもしれないが、俺にとって二つ目の部分だけは一緒に扱う訳にはいかなかった。なぜなら、この世界に『よくわかる現代魔法』の小説なりアニメなりといった物が存在するのであるならば、ある意味で今後の平穏は遠退くかもしれないという事でもあるからだ。
それはさておき、冗談のつもりで言っていた魔法が使えるかもしれないという事が現実となってしまった。まさに瓢箪から駒、嘘から出た真。
俺の名前が森下 暦であればこそ、魔法を扱えると思わせておいて盥。等という笑えもしないギャグが発生するかもしれない。
物は試し、とばかりにノートパソコンにコードを打ち込んでいく。
危険なことは何もない。いや、コードこそ危険の無いものかもしれないが、毛細血管の破裂に筋肉痛という部分がどうなるかが不明という事はあるかもしれない。
『よくわかる現代魔法』では電気信号を伝えることのできるシリコン基盤や筋肉が重要となってくる。この世界の魔法は0と1で構成されたコードという名の呪文を利用する事によってこの世界の物理法則と異世界の物理法則の間にある障壁を脆くすることによって異世界の物理法則を持ち込むという物だが、ぶっちゃけ0と1で構成されたプログラムを電気信号を伝えることのできる物に通す事で、不思議な現象を起こす事ができますよって事な訳だ。んで、魔法には自分の体を通電するコードで魔法を起こす古代魔法とパソコン等を用いてシリコン基盤を通電するコードで魔法を起こす現代魔法があるそうな。古代魔法は細かい調整は聞くが人の筋肉が脆いので毛細血管の破裂や筋肉痛が起きるが、現代魔法は調整が難しい代わりに同じコードを何度も流し続ける事ができるため、威力が強い代わりにそれなりのエネルギーを食う。
まぁ、話してみれば、どちらが安全かなど一目瞭然。にも関わらず、今回俺が使用としているのは古代魔法と現代魔法を組み合わせた方法で、原作の森下 こよみが初めてコードに触れた時と同じ方法を使おうとしている。
この理由は至って単純だ。現代魔法だけではコードを見る事が難しいためだ。自身に刷り込まれた知識によると、知覚が多少できるだけで古代魔法を使った事がなければコードを見る事も単身で扱う事も難しいそうな。
故に、一種の好奇心に近いものではあるがただ単純に非導電体を発光させるだけの『セント・エルモ』のコードを99%完成した状態にしてUSBのシリコン基盤に転写する。
あとは簡単だ。ほぼ完成されたコードを読み取り、それを完成させることによって俺自身が魔法の点火装置になる。ただ、それだけだ。
USBを裸足で踏みつけ、手に非導電体の杖という名の木の棒を持つ。
ピリピリとした感覚が足から伝わってくるが、棒に意識を集中しても棒は発光しない。
「そう言えば、原作でも気持ちを落ち着けて自分のやり方を模索しろとか言ってたっけ」
魔法を前にして落ち着くというのも難しい話だ。アニメ版のようにご飯の事に思考が飛んでしまうということも考えられる。流石に、初めて魔法を使うという記念すべき瞬間に考えていた事がそれなのは嫌だというものだろう。
そう、せっかくの魔法だ。思い出に残るようなものにしたい。
『暦~?ご飯出来たから早く来なさい』
「え?」
瞬間。右足から電流が流れるようにして身体中を駆け巡り、下腹部で二重螺旋を描いてから右足から抜け出ていく。
それに合わせるかのように手に持っていた木の棒が光始める。
始めて使った魔法は母からのご飯の呼び掛けによるものであった。
◇◆◇
ご飯魔法事件から約2年、カチューシャを取り上げるという行為をしていた女子を他の女子が張り倒すといった場面に遭遇して、昨今の女の子は怖いものだと考えたり。妙に女子に騒がれつつも特定の女子を執拗に話しかけようとする男子を見て最近の子供はませていると考えさせられる日々が続き、友人が言うにはここから物語が始まるんだとかいう小学三年生になった。
主人公が誰なのかも知らないし、主人公と同学年なのかも知らないが、確かに事件は起きた。
2341。ある日突然日本に向かって発射されたミサイルの数だ。
そして、21。時期を同じくして海鳴市に降り注いだ何かの数だ。
前者は日本に到達する前に白いパワードスーツを纏った誰かに打ち落とされ、後者はリリカルでマジカルな原作が始まったと言うことの証だ。
何故原作をまともに知らない筈の俺がそれを察知できたのか、簡単なことだ。俺の自室にその災厄の種が飛び込んできたからに他ならない。
宇宙船なのかと聞きたくなるほどに静かに、俺の前で着地したそれは友人から話を聞いていた通りの形状にシリアルナンバーが記入されていた。
正直、俺はリリカルでマジカルな原作に関わるつもりはない。というよりも、もっと面倒なものに目を付けられる可能性を考えれば尚の事だ。
2341。この数字を聞き、白いパワードスーツ等といえば考え付くのは『インフィニット・ストラトス』、ISだ。災厄ウサギと災厄の種、どちらも面倒なことには代わり無いが、災厄の種については主人公とやらが解決してくれる筈だから問題ない。
それよりもどこで何をしているかわからない災厄ウサギの方がもっとヤバイに決まってる。PCの中身を見られただけで終わる。ISの原作以上にヤバイ状況になるのは目に見えているってもんだ。
兎にも角にも対策をしなくちゃいけない。親にネットを止められていたのが功を奏した。ネットに繋がっていないものを盗み見るなんて事が災厄ウサギであったとしても無理だ……そう願いたい。
あたふたとしながら対策を考えていると白騎士事件の前日に落ちてきた災厄の種、ジュエルシードがフッと目に入った。
……これ、願いを叶えるんだったよな?願いを歪めちまうらしいけど。
ここで思い出したのは『よくわかる現代魔法』のアニメ版のはじめの方と小説版の第六巻だ。
アニメ版では世界にコードは溢れている。自販機にすらコードが取り巻いているような描写があった。
そして、小説版の第六巻ではこよみの魔法が暴走して人間が金盥になってしまうと言う喜劇にも悲劇にも見えたシーンがあった。……まぁ暴走と言うには少々違うかもしれないが。
ここで重要なのは人間が金盥になったという部分である。ありとあらゆるコードを変換して金盥を召喚するという森下 こよみの持つ呪われているとも取れる能力はコードに対して有効な筈である。そして、自販機や街中にすらコードが取り巻いているような描写を見れば、こう考えてもいいのではないだろうか?
物質にはその物質情報のコードのようなものが存在する。
もちろん、見ることもできなければ森下 こよみの持っているような固有能力の暴走でもなければ干渉することはできないだろう。
だが、これは。ジュエルシードは種類は違うが魔法に関する魔法の産物だ。
これの力の根幹とも言えるコードくらい見る事ができるのではないだろうか。
直接触らないようにして机の上に移動させたそれを観察する。
見えない。……いや、見えないんじゃない。青い光で見切れないだけだ。
何とかできるかはわからない、それでも見えるかもしれないと虫眼鏡を持ってきてさらに観察する。
観察を始めて一時間が経過した頃、漸く青い光が何なのかがわかった。
青い光で構成された0と1の羅列が渦巻いているのだ。それも、ぎゅうぎゅうと押し込めるかのように。
前に一度友人に見せられた画像に魔方陣を展開している物があった気がする。もしかするとリリカルでマジカルな魔法は魔力を介して魔方陣を展開し、魔方陣から魔力にコードを流すという面倒な作業をとっているのかもしれない。しかもコードを認識していないがために魔方陣がたまたま産み出したコードで魔法を使うという事態によって方向性が魔方陣なんかが主体になってしまったという。
非効率というか、なんというか。
まぁ、それは置いておいて、このジュエルシードは恐らく求められた内容のコードを作り出す事を主眼と置いているのだろう。だが、生物の認識ほど曖昧なものない。間違った認識や細部まで考えていなかったが故におかしな形で願いを叶えてしまうのだろう。
他にもコードを作り出しても、魔力の塊であるジュエルシードは細部の確認をする前に実行してしまうからこそバグが多いというのも原因の一端だろう。
「あれ?このコードって俺にぴったりなんじゃ……」
そう。欲しい内容を大雑把にコード化してくれるのだから後はそれに合わせてバグ取りやらなんやらの修正を行えばいいだけだ。
流石に、欲しい内容によっては必要となる電力も変わってくるだろうが、今は置いておこう。
そこまで考えて、俺は何とか見ることのできるコードを急いでPCに打ち込んでいく。
これをこのまま置いておけば、砲撃魔法を連射する魔王や脱げば脱ぐほど速くなるという痴女とやらに狙われるかもしれん。ならば善は急げというものだ。
◇◆◇
大漁大漁。というには少しおかしいかもしれんが、概ねいい結果を残せたという所だろう。
あの後、何とか解析する事のできたコードをPCに永久保存できるようにしてから大本であるジュエルシードを学校の校門の上に投げ置いた。
簡単に見つけられるが子供を見ている教師にもわざわざ登ってまで上を見る事もない子供にも見つけられることはないだろう。
後は主人公とやらに任せておけばいい。
そう思っていたのだが、思っていたよりも主人公の行動範囲が広かった。
外を歩くと何故か主人公が居ると思われる場所にぶつかる。結界のようなものにぶち当たったり、罠のような物で金髪少女を縛り上げたところでピンクのドギツイ砲撃魔法っぽいのを撃って笑っている同じクラスの茶髪ツインテールの女子がいたり。
主人公がどいつだかは知らないが、転移、結界、罠、砲撃と様々な魔法に使われているコードを見る事ができてホクホクだったと同時にあの女子とは関わらないようにしようと心に強く誓った。
そして、ジュエルシードを解析したことで得られた一番の成果が今の俺のノートパソコンだ。
ノートパソコンのOS等を含めた全てのデータを『宇宙のステルヴィア』のマテリアルプログラムに変換した上で、外部からのアクセスはマテリアルプログラムに対応したPCでなければできないようにした。
マテリアルプログラムの基礎理論はわかっていたのだし、0と1で構成されたプログラム言語が使えなくなるわけではないという事で水陸両用ならぬ現在未来両用のシステムを構築するためのコードを作ってくれたジュエルシードのコードには本当に感謝としか言えない。
まぁ、マテリアルプログラムといってもプログラム言語における命令文なんかを立体の図形に置き換えて、それを組み合わせる事でプログラミングができるというパズルっぽいような物なんだけど。今の時代から見れば解析不能か理解不能になってくれるだろう。
既存の概念を打ち破ったとも言える災厄ウサギだが、流石にこのPCにアクセスするのは難しい筈だ。
これで暫くは平穏な人生が送れることだろう。
『暦?私達、引っ越すことになったわよ。しかも東京の一軒家ですって!』
平穏な人生、送れる……よな?
こうして主人公は災厄ウサギの興味を引くことを考えずに行動する。