やっぱり戦闘の描写は難しいです。
「……なぁ、箒」
「なんだ、一夏」
試合当日、第三アリーナのAピット。
俺は一夏と箒と共に試合の準備が整うのを待っていた。
待っていたの、だが……。
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか。気のせいだろう」
「ISの事を教えてくれるのはどうなったんだ?」
「………………」
「目をそらすな!」
何故だか痴話喧嘩に巻き込まれていた。
なんでも、ISについて全く知らなかった一夏にISの事を教えてやるという約束をしていたのだが、一夏のISが届かなかったために剣術の訓練をし続けていたんだそうな。
「それでも、ISの知識とか基本とかあっただろうが!」
「いや、正しい選択だと思うぞ?」
「どこがだよ!」
オレの言った言葉に納得ができなかったのだろう。一夏が興奮しながら詰め寄ってきた。
……うん、止めてくれ。息を荒くした男に詰め寄られるとか拷問だ。
「ISは基本、思考操作だ。その事は試験の時にわかっただろう?」
「まぁ……」
「んで、専用機があっても練習はさせて貰えなかったんだよな。できる限りISに触れる時間が少ない状態での戦闘データが欲しかったらしい」
「はぁ?!じゃあ何か?俺は元々ISの練習はできなかったって事か?」
「ん、そうゆう事。だから、最低限の起動経験があるなら戦闘訓練をしてた方が有意義だったって事だ」
そこまで言うといくらか落ち着いたのか、一夏は一歩後ろに下がってゆっくりと深呼吸をする。
まぁ、その事に気づいてなかったという事は、ISの訓練機を借りるという考えすら持たなかったんだろう。
はっきり言って、その時点でコイツは箒を攻める資格など無いのだが。
「箒、すまん」
「……いや、いい」
『森下』
痴話喧嘩も収まったところで天の声、ならぬ鬼n……織斑先生の声。
『織斑の専用機の到着が遅れるそうだ。先にお前が試合をしろ』
「了解しました」
何もかもが原作通りとはいかないようだ。……オレやリリカルな世界が混じっているんだから仕方がないんだが。
そんなことを考えながら俺は自身の専用機、コード(code)を展開する。
白い装甲の上にコートの様に覆い被さる黒い装甲。
モノクロを体現したかの様なその姿は『よくわかる現代魔法』に登場する姉原 美鎖の姿を彷彿とさせる。
思考操作でシステムの状態を軽くチェックし、ピット・ゲートへと歩を進める。
「暦!」
ゲートが解放され、外に飛び出ようとした俺に一夏が声を掛けてきた。
「勝てよ!」
アイツらしい酷く直球な言葉に思わず苦笑してしまう。
俺はその言葉に答える事をせず、片手を上げながらアリーナへと飛び出した。
◆◇◆
暦がアリーナに入場した時、セシリア オルコットはアリーナ中央で悠然と構えていた。
どちらが勝つかなど一目瞭然。言ってしまえばこれは茶番であるからだ。
一から専用機を開発されている一夏と違い、暦の専用機はテスト用にある企業から回された新素材のパーツや既存のパーツを組み合わせただけのスペックをほぼ無視した機体だ。
その為、スペックは第二世代機後期とも言われたラファールリヴァイブどころか、一般的な第二世代機の打鉄よりも低いものとなっている。
しかも、以降のISに対する詮索を無しとするためにその情報を隠す事なくIS学園に提出するという荒業まで取っていた為、機体情報を試合開始前にセシリアだけでなく観客にすら知られてしまっている。
そこまでお膳立てされた状態で、イギリス代表候補生たるセシリア オルコットが負ける理由はない。
故に、この試合は対戦相手のセシリアや観客である生徒だけでなく、教師陣の人間にすら茶番劇であると認識されていた。
対戦者である森下 暦と二人の生徒を除いて。
「あら、逃げずに来ましたのね」
「逃げる理由がないからな」
「まさか、訓練機にも劣る機体でわたくしに勝つおつもりで?」
「勝て、と激励もされたしな」
「…………笑止、と言わせていただきますわ!」
空気を引き裂くような音を立てて、一筋の閃光が暦を撃ち抜いた。
既に開始の鐘は鳴っている。卑怯と言われる事もない正々堂々とした一撃でもあった。
避けられないのであればその者の技量が低い、ただそれだけで終わる筈だった――
「なぁっ!?」
――セシリアのISと観客用に設置されているパネルに表示されているシールドエネルギーに一切の減りが見られなかったのでなければ。
「いきなり撃ってくるなよな。……いや、開始の鐘は鳴っていたから自業自得か」
セシリアだけでなく、その場の全ての人間がその光景に目を剥いた。
暦が何かをしていたようには見えなかったのだ。
ただ棒立ちになってセシリアによって放たれたレーザーに当たった。それがセシリアを含めた全員の共通の見解だった。
「さて、俺からも仕掛けるか」
そう言って、暦が取り出したのは一本のブレードだった。
ISに関わる人間なら、多くの者が持った事のある打鉄の初期装備。それを手に、暦はセシリアに向かって飛ぶ。
しかし、その動きはやはり鈍い。スペックの問題もあるが、それ以上に暦の起動時間が短かったのが原因だろう。
「……はっ!?わ、わたくし相手に近接装備など、愚の骨頂ですわ!」
故に、暦の接近で我に返ったセシリアによってレーザーを浴びせかけられる。
下手な鉄砲数打ちゃ当たる。
その言葉を体現するかのようにブルーティアーズに備え付けられていたビットが展開され、四方八方から暦に向けてレーザーを浴びせ続ける。
実際に下手というわけではないが、幾らかのレーザーが地面に当たり、地面を抉りつつ砂埃を舞い上げる。
それでもセシリアは打つ事を止めなかった。普段ならば、相手の出方を見ながら正確に撃ち抜いていたところだったが、例え一撃であっても無傷であった機体を相手にそれは意味がないと思ったからだ。
――警告、ロックされています。
「っ!?」
一心不乱に打ち続けていたセシリアに強い衝撃が走る。
何が起きたか理解しないまま、反射だけでその場を回避したセシリアは……いや、その場の全員が驚愕した。
砂埃の向こうから何かが打ち出され続けているからだ。
見えもしない、板状の何かが。
砂埃を掻き分けるように向かってくるそれは呆然としたセシリアのシールドエネルギーを容赦なく削りきった。
『――試合終了。勝者、森下 暦』
そうして、茶番であったはずの試合は予想外の結果で幕を下ろした。