その日、IS学園に激震が走った。
原因は言わずもがな、森下 暦有するIS『code』のデータ上のスペックと試合記録が合致していなかったためだ。
普通であるならば、この事に問題はない。企業や国側が最低限のスペックを公表しても、機体の内部構造や特殊武装に関するデータを秘匿してしまうからだ。
だが、今回の件に関してはそうも言っていられないのが実状だ。
森下 暦はIS学園への入学をするに当たって、自身の専用機を貸し出し、解析させる事でスペックだけでなく、内部構造から初期装備、拡張領域や内部プログラムに至るまで公表していた。それ故に今回の件に関してはIS学園側の落ち度としか言う他ない。
また、ISの返却から試合までの一週間の間に森下 暦が整備室を使った形跡や外部から何かが届いた記録もない。再度解析をしようにも、入学前に交わした契約によって以降のメンテナンスですらできないのが現状だ。
ここまでだけでも頭が痛いというのに今回の試合は密かに世界中から注目されていた内容でもあった。模擬とはいえ、世界初の国家代表候補生と男性操縦者の試合、注目されない筈がなかった。
森下 暦の後に行われた織斑 一夏の試合も多くの人間の心を揺さぶるものではあったが、森下 暦の試合は関係者全員にある事を思い出させていた。
――白騎士事件。
その名前は各国の指導者や軍事関係者にとっては苦い思い出であっただろう。
それまでの兵器が一切通じず、破壊される。それも、人的被害を起こさないと言う余裕すら見せつけられた事件であった。
筱ノ之 束が作った物を除いて、最新鋭に肩を並べる事ができる筈の機体が、一切のダメージを負わせる事ができずに撃破される。正に現在の兵器が通じなかった瞬間だろう。
しかも、公表されていた細かいデータをどれだけ見ても、その結果になると思われる要素が見つからない。唯一考えられたのは森下 暦が持っていたとされるISコアに何かしらの細工がされていたか、単一使用能力が覚醒したかというものだ。だが、前者についてはその多くが解析不能ではあっても通常のコアと差は存在しない事がわかっていたし、後者に至っては夢物語と言えるだろう。
そして、IS学園が最も頭を痛めていたのはとある大国からの度重なる要請という名の脅迫だ。
その内容は森下 暦が最後に行った攻撃、アレは我が国の技術である。単一使用能力でないというのなら、直ちに操縦者及びその機体を引き渡せという物である。
もちろん、技術どころか何故そういった現象が起きたのかすら解らないのだから、その要請は無効である。そもそも、IS学園にいる限り生徒は他国の干渉は受ける事がないという条約があるのだから無意味とも言えるだろう。
それでもそのような要請をしてしまいたくなるような内容が試合の記録映像には残されていた。
砂埃が視界を覆い尽くし、機体の姿すら見る事ができないが、唯一見る事ができた物が攻撃として打ち出された透明な何か。
それを聞いて、多くのIS関係者が真っ先に辿り着いたのが空間圧兵器。
これ以上は言う必要すらないだろう。
この件によって、IS学園は森下 暦のISの記録データの再解析と各国への対応を余儀なくされた。
◆◇◆
試合が終わり、ピットに戻ると一夏と箒を追い抜いて、織斑先生と山田先生が鬼気迫る表情で走ってきた。
「森下!」
「何ですか?」
まぁ、聞かなくてもわかるが。
「なんだ、アレは。貴様の機体情報から見ても有り得ない物しかない!」
「なんだ、と聞かれましても。アレが俺の機体を開発した際に俺が考えていた戦闘スタイルですが」
「……機体情報の提出をしろ」
「一度、文句を言われる事の無いように機体そのものを貸し出しました。その時に交わした契約内容に沿って拒否させていただきます」
今回の事で兎の気を更に引いたのは間違いないだろう。
それに、魔法技術の流出が起きないように対策も施しているのだから、態々提出するつもりもない。
「……はぁ。せめて、何が起きていたかだけでも話していただけませんか?」
溜め息をつきながらお願いしてくる山田先生を見ると、最低限の概要だけならば話してもいいかとも思えてきてしまう。
実際、今回の試合で使用したのは海鳴で生活をしていた頃に見た魔法障壁と『よくわかる現代魔法』で登場した大ロスビーのコードと呼ばれる熱も光もない、透明な剣と化したコードを打ち出す物の二種類だ。
片方はエネルギーバリアとでも言えばいいし、もう片方もエネルギーのみで構成された透明な剣を打ち出したとでも言えばいい。
というよりも、そう言ったのだが。
「……はぁ」
最低限の概要が聞けたのでもういいやと思考停止をしているのだろう。
正確には、この後に起きるであろう各種面倒事への対応を考えて溜め息をついただけなのかもしれないが。
……このあと直ぐに一夏の試合があるというのに、そんな事で大丈夫なのだろうか?