あと拙作『狂い咲く華を求めて』の最終的な落としどころなんですけど、どうしても第三形態のホワイト・テイルを出したいので(恐らく)細かいスペックが確認できる12巻が出るまで完結させるにさせられません……短期連載にしたかったのにこんな落とし穴があるとは……
世界中を震撼させた事件――展開装甲を持つ無人機の違法製造。
もちろんこれをベースにした技術発展もあり得るだろう。でも関係ない潰す。戦争の火種になりかねないのなら潰す。それだけだ。
各国の精鋭が勢揃いした派遣軍の中で、俺は偽装した愛機の整備に励んでいた。
今の俺は織斑一夏ではない。
五反田蘭である。ウィッグとかカラコンとか使ってる。
再度言おう、今の俺は五反田蘭である。
「…………蘭ちゃん、随分背が伸びたね?」
額に青筋をビキバキと浮かべた日本軍将校、相川清香が俺に問う。
どう考えても無理あるもんなこれ。
「成長期ですから(裏声)」
「ふーん……?」
「細かいことを気にしてると清香さんも成長しませんよ(裏声)」
「関係ないでしょォッ!?」
相川が憤怒の表情で殴りかかってきたので、ひょいと避ける。
ぐぬぬと悔しそうに唸る彼女と嘲笑う俺(五反田蘭)を、他の派遣軍はなるべく視界に入れないよう動いていた。
「……はぁーっ、もう、織斑君のこういう奇行にいちいちリアクション取るのも馬鹿らしくなっちゃったよ」
「気づくの遅いぞ」
「それを君が言うのはおかしくない?」
半眼で睨む相川をどうどうと諫める。
国連と国際IS委員会主導で結成された多国籍軍は、各地で頻発する無人機による軍事施設への襲撃に対応していた。一回一回に駆り出される無人機の数はそこまででもないが、相手は展開装甲持ちの第四世代機である。
万全を期すなら三人で小隊を組んで当たる、エースなら一対一で瞬殺する。そうして戦争の火種を踏みつぶしている。
「……戦力としては期待してるけど、その、さ。山田先生から聞かなかったの?」
相川清香は俯きがちに問う。
思わず舌打ちした。
「アレ、お前も噛んでたのか」
「……うん」
条件が委員会サイドからの要望にしては、どうも俺の周囲にいる人間に寄せたものだと思った。
こいつだけじゃない。各国代表は大いに政治的影響力を持っている。これは常識的な問題であって、
イギリスといえば、なんて質問には十人中十人がセシリアと答える。
そういった権力を行使すれば俺への要求を委員会を通して突き付けられるだろう。
相川を横目に、特にやることもなかった整備の手を止めて、考え込んでしまう。
栄光が、かつてほしいと思っていた平穏の中でも最上位に位置する代物が、この手の届きそうな場所に置かれている。
女もいる。金もある。地位もある。どれもこれもクソッタレだ。
でも、とにかく平穏で安定した生活なんて、大本を辿れば一市民である俺はかつて喉から手が出るほどに欲していたはずだ。ISを動かして、戦って……学園に通っていたころならば、うまく立ち回りさえすれば、そこに手が届くのではないかという万能感を得ていた。
戦争が始まって、全てが吹き飛んだ。
それきり欲求すら消えていた。ただ、目の前の敵を屠る力さえあればと願っていた。
敵を殺すたび、力に酔いしれた。
味方がやられるたび、無力感に苛まれた。
その繰り返しで、いつの間にか、何かしらのラインを越えてしまったように、すべてがどうでもよくなった。
万能感はいつしか消えていた。
そこまで考えて、ふと笑いそうになった。
ここまで悩んでるってことは、俺は結局、かつてのようにほしいんだ。
気づかない程度に残っていた未練がかま首をもたげている。
それにしても、自分が元は一市民だったことを思い出した、なんて、妙な言葉だ。
普段から念頭に置いていなくとも、きっとそういう感覚が心のどこか奥底にこびりついていて、浮き上がってきているんだろう。
「……なんだよ、山田先生に報告して、ご破算にしたいのか?」
「! ま、まさか! そんなことないって!」
俺の言葉に、相川は面白いぐらい衝動的な否定をぶつけてきた。
そうだろうな。お前らは俺に、平穏に戻ってほしいと思ってるんだよな。
「分かってるよ。大丈夫だ……」
大丈夫だという言葉を誰に向かっていったのか、自分でも分からないままに、俺は誰かを慰めた。
「作戦を確認する」
鶴の一声、という言葉がある。正確には議論を終わらせるような権威者の言葉という意味らしいが、雑然としていた空間を瞬時に制圧したその声に、俺は思わずその言葉を思い出した。
なにせ、広大な作戦室にひしめく軍人が全員、まったく同時に背筋を正したのだ。
これが、将校としての相川清香か――!
雰囲気を激変させ、完全に場の空気を掌握した彼女を見て、俺は思わず感嘆の息を吐いた。意識的に備えていなければ、俺も釘付けにされていた。それほどのカリスマ性があった。
「各員、送信されたデータを参照しつつ聴け」
それぞれ応答し、手元の端末を操作して空間投影ウィンドウを立ち上げる。
表示されたのは敵性無人機のスペックだ。
「今回我々が強襲する敵施設は、この無人機の製造者のセーフハウスだ。故に護衛用の無人機が存在することが想定される」
カーラが従えていたオートマタタイプとは、異なる機影だった。
量産されていた製造工場を叩いた際に、膨大な数で俺を圧し潰そうとした機体だった。
識別名称『
その文字列を読んで、自分でも表情が歪むのが分かった。因縁か。なんともまあ、忌まわしき名前だ。
未確認無人機にこの名を付けるのは最早通例と化しているのだろうか。世界で一番ゴーレムタイプを撃墜した人間としては、二度と聞きたくない言葉である。
スペックを確認する。
最高速度は第三世代機の標準数値を上回る。
攻撃能力も直撃を受ければ対物理シールドがひしゃげる程。
耐久性こそ低いが、問題は四肢を欠損したとしても何の問題もなく全力の戦闘行動ができる点か。これは無人機固有のメリットと言って差し支えないだろう。
全身に展開装甲。コアは疑似ISコア。継戦能力はさほど高くない。
予想される敵数はさほど多くない。
当然だ、メインの生産ラインは既に潰してある。いうなればこれは残党狩りに過ぎない。
「彼我の
定石だな。
「ただし、単独で撃破を容易に可能だと判断したパイロットのみ例外だ。私と、そこにいるIS学園から出向した二人だ」
視線が俺と、隣にいるのほほんさんに向けられた。
というか大体みんな俺を見ていた。
「五反田蘭です(裏声)」
「布仏本音です~」
なんともいえない感じの目を向けるな。
「……我々三人が第一陣として切り込む。その際には外部取り付け式ブースター『O.V.E.R.S.Ⅱ』を装着するため、第二陣とは相当のラグが発生するだろう」
「質問です。ラグはどの程度発生しますか」
「第二陣に最も多い『
どこかの国から派遣された軍人の質問に、相川がきびきびと答えた。
「……あれが元クラスメイトのお調子者って言われて、信じるか?」
「清香ちゃんは戦役の時からああいう感じちょっと出てたよ~」
それを聞いて、少し複雑な気持ちになった。
一年一組出席番号一番、ハンドボール部所属の、活発な少女だった。
軍属なんてまるで考えていなかっただろう。
戦役時、戦力が摩耗していく中で、学生すら、ISを動かせるなら投入された。最初は専用機持ち。やがて量産機を使う代表候補生。そして最後には一般生徒。
クソッタレ、と何度も怒号を上げた覚えがある。戦場でクラスメイトと再会した時には驚愕し、胸倉を掴んで帰れと叫んだ。こんなところにいるなと怒鳴った。
お前たちはこんなところに来ないでくれと懇願した。
ああ、最初に出会った一般生徒は相川だった。
『帰らないッ! 帰る場所を守るために、私は来たんだよッ! 私は私の意思でここにいるッ!
そう言われて、殴られたんだ。痛かったなあれ。
確かに軍人としての素養があったと思う。二人で撤退戦の殿を務めることすらあった。
最初から向いてたわけじゃない。自分の生命を懸けて、大切な人々のために戦う中で、芽吹いた。
相川の戦い方は決して優雅ではなかった。泥臭い。軍人向きのものだった。例えるなら、事件を華麗に解決する探偵ではなく、自分の足を頼りに地道に調査する刑事だ。
そんな資質があるなんて気づかなくてよかった。気づかないままでいることもありえた。
戦争が全てを台無しにした。
太陽のように眩しい笑顔を浮かべる少女を、今こうして多くの軍人を率いる悪鬼に育て上げた。
反吐が出る。戦争にも、そんなことを神にでもなったかのように考えている俺にも。
俺がもっと早く戦争を終わらせていたら。
相川がいる場所は、どこかのちょっと豪華な一軒家で、夫と一緒に仕事に出て、夕方に帰って、小洒落た夕食でも作って……そんな未来があったかもしれないのに。
「……自分に非がある、なんて、清香ちゃんに失礼だよ?」
のほほんさんの言葉に、俺はバツが悪くなって頬をかいた。
「顔に出てたのか?」
「考えそうだなって~」
勘弁してくれよ。もうニュータイプ通り越してそういう超能力だ。学園都市だろそれは。
と、相川が戦術の説明を開始した。連動してウィンドウ上で敵味方を示す光点が動く。
「第一陣が切り崩した敵陣に、第二陣がアタックを仕掛ける――とにかく組みつき、一機ずつ引きはがせ。そこを第三陣が叩く」
戦術としてはセオリーを踏まえつつ行う波状攻撃だ。
特に欠点も見当たらず、まとまった作戦だろう。戦力的にはこちらが上回っている以上、当然の帰結だ。戦力の量、質、そういったもの全てにおいて劣っているときにこそ奇策が必要となる。
「その段階で、回り込んだ第四陣、並びに敵陣を突破した第一陣で、セーフハウスにいる男……シーラを確保する」
「質問をよろしいでしょうか」
手を挙げた兵士に、相川が視線で許可を出す。
「
言われて、俺は広い作戦室を見渡した。見知った顔は少ない。
世界の争乱の元凶を叩く作戦。そこに最高戦力であるはずの連中がまるで参加していない。
「貴様に――いや、我々にそれを知る必要はない。任務をこなせ」
顔色一つ変えず、ただ圧力だけが増した。
質問をした兵士は慌てて失礼しましたと引き下がった。
軍によくある情報レベルの問題だ。現地で戦う兵士なんて末端の、取り換えの利く部品に過ぎない。上層部の思惑をいちいち知らせるわけもないだろう。いわゆる『need to know』ってやつだ。
まあ俺から種明かしさせてもらおう。
参加しないのではない。
この作戦に国家代表クラスは
さっきも言ったように、国家代表はその国の顔だ。代表候補生はその候補だ。
顔というのは、つまり、最も戦力として頼られる存在。
誰に頼られる? 国だ。国民だ。これは実務は軍が務めていようとも国民の意識として存在する。
つまりこの、世界のどこでいつ爆発が起きるか分からない状態では、国家代表は自国に留まらざるを得ない。
本拠地を潰しましたが自分たちの国は蹂躙され国民が大勢殺されました、ではその時国家代表は何をしていたんですか、となるに決まっている。
国家代表は世界ではなく、自国の味方だ。
「……国家代表クラスの戦力として、織斑一夏にも協力を要請したが、
全員俺を見た。やめろ。俺は五反田蘭だ。
まああれだ、委員会サイドが勝手にそんなことを言っても、俺が勝手に来たってことで。
多国籍軍に従事する軍人らが、感心したような、こう、露骨に俺をキラキラした目で見てくる。
隣ののほほんさんと全員の視線が逸れている相川が頬を引きつらせている。俺は悪くないだろこれ。
あとやっぱり変装がまったく効果を発揮してませんね。むしろ悪目立ちしてる。
「――コホン。では、60分後に作戦を開始する。各員持ち場に付け!」
怒号に近い、はらわたを砕きに来るような命令だった。
すっ転ぶようにして全員立ち上がって敬礼し、蜘蛛の子を散らすように持ち場に向かっていく。
「……おりむー、さいてー」
「嘘だろ」
だから俺悪くないと思うんだけどなあ。
俺は嘆息して、右頬をぎゅーぎゅーつねってくるのほほんさんをなだめた。
野外ピットで、急ごしらえのカタパルトに両足を乗せる。
既に愛機を身にまとった俺は、左右にいる第一陣の頼れる仲間に声をかけた。
「準備はいいよな?」
『おっけーだよ~』
『問題ない……よ』
三人をまとめてアクセスした個人回線であることに気づいて、相川が口調を崩した。
『……やっぱりこういう場所だと、口調、変な感じがしちゃうなあ』
「切り替えは大事だから、間違ってはいないさ。普段の口調の方が俺は好きだが、さっきの口調も魅力的だった」
『…………』
さすがに超高速機動をするので、俺たちはそれぞれ距離を置いたカタパルトから発進する。追突して墜落とか死んでもごめんだ。
というわけで通信しているわけだが、相川は面白いぐらい顔を赤くしてぷいと横を向いた。
『おりむー?』
あだ名で呼ばれただけなのに、何故か俺は死を察知した。
「いやその……ね? 緊張をほぐすためというかですね」
『おりむー?』
「すみませんでした」
ああもう、学生時代からのほほんさんには強気に出れないんだよな。
キャラもあるし、多分一番でかいのは京都での一件だ。
異性に抱きしめられた状態で泣くなんて、最高の黒歴史だろう。男も女も変わらないはずだ。
『O.V.E.R.S.Ⅱ、接続完了』
「ん」
更なる進化を遂げたこのブースターは最高だ、ほとんど本体のエネルギーを食わずに超高速移動ができる。
途中でパージしちゃうから回収班にはがんばってほしい。
『発進、いつでもどうぞ』
「了解」
前方までカタパルトの誘導灯が続いている。腰を落として、衝撃に備える。
『相川清香、『
『布仏本音ー、『九尾ノ魂』――行きます!』
二人が先んじて発進する。
「……なあこれさ、なんて名乗ればいい?」
まさかこの超真面目シーンで裏声使うのか?
『……レコーダーを切りました』
「助かる」
瞬時に精神を切り替える。遊びじゃない。ウィッグとカラコンを捨てた。
「織斑一夏、『白式』、行きますッ!」
あと俺を差し置いて主人公の発進ボイス使ってんじゃねーぞのほほん。
ブースターを点火。最高速度を叩き出す出力になるまでは腰に取り付けられたワイヤーが俺を引き留め――出力を確認して解除。
凄まじいGと共に、世界がごちゃごちゃになった。
山間部の緑が夜闇の中でうごめき、俺の身体が瞬時にそれを飛び越えていく。
目標地点までのガイドビーコンが四角く表示される中を潜り抜ける。
『すごい……! お三方とも、この速度でビーコンを正確に潜るなんて……!』
オペレーターの感嘆の声に応じている余裕はなかった。
本当に早い。さすがは世界一周のタイムアタックなんて馬鹿げた新部門をモンド・グロッソに立ち上げさせた装備なだけある。
『
『――ッ、すみません! 第二陣も順次発進を開始しています!』
相川の鋭い叱責に、オペレーターが応答する。
俺結構の速度で移動するのきついんだが、相川すごいな。
『おりむっ、これっ』
「ああ、俺も、結構きつい」
『……学園でやってることとは全然違うからね、しょーがないよ』
一転して砕けた口調の相川に慰められた、が。
『――来た。備えろ!』
「ッ」
愛機が自動で『O.V.E.R.S.Ⅱ』を切り離すと同時、やっと視界がマーブル模様から平時のものに戻った。
セーフハウスのある地点まで数キロ。周囲に待機していたであろう無人機が空に舞い上がる。
使い慣れた刀を右手に顕現させた。
『各員、戦闘行動開始ッ』
「ルアアアアアアアッ!」
まず俺が飛び出した。陣形を整える前に最速で突っ込み、すれ違いざまに『ゴーレム・コンデンスド』数機を真っ二つにする。コアの位置は把握している、コアごと切り裂くのみだ。
羽虫のように湧いて出てくるゴーレムを、視界に入る端から切り捨てる。
「負けないよー!」
のほほんさんが専用機『九尾ノ魂』の特殊兵装を起動させた。
周囲に雷撃がまき散らされ、直撃したゴーレムの動きが目に見えて鈍くなる。
IS学園で開発された第三世代機、そして展開装甲を増設し第四世代機に繰り上げされたその機体。
背部に浮かぶユニットが円を描くように展開され、紫電を散らしている。
イメージ・インターフェースを用いた特殊兵装。
その名は『雷電招雷』。
おりゃー! とどこか間の抜けた声と共に、のほほんさんは背部から伸ばした刃で敵のコアを正確に穿つ。狐の尾を元にしてるっつーわりには凶悪だな。
両手にはおみくじを模した爆弾を握り、空中でそれを置き土産とばかりに散布しては敵を爆発四散させて回っていた。
電撃で足を止め、周囲の相手をテイルブレードで貫きつつ撃ち漏らした敵を爆殺して回る。
狐要素どこだよ。
「ふッ――!」
一方の相川は右手に持った長刀と左手に持ったIS用ライフルで確実に敵を堕として回る。
剣で敵を切り刻み、露出したコアに弾丸を叩き込み、相手を沈黙させる。
見栄えは悪い。これが競技なら視聴率は稼げない。だが戦場においては最も信頼できる戦い方だ。
そもそも彼女の剣の振るい方は日本軍のエリートが学べる、洗練された代物だ。
警視流だったか、多くの流派の剣術を変幻自在に披露されては無人機如きでは反応できないだろう。
「一体一体は、やっぱ相手にならねえな!」
敵が陣形を組む暇など与えない。
三人は散らばり、各々の範囲に踏み込んできたゴーレムを即座に処分して回っている。
とはいえ数は多いから、殲滅は不可能だ。そのために第二陣、第三陣が――
――待った。なんだ、この数?
嘘だろ。生産工場は破壊した。それなのにこれだけの数を揃えているだと?
あの規模の生産ラインが、他にもあったってことか――!
「相川ァッ!」
『CP、第三陣も今すぐ出撃させろ! 敵数が想定以上だ!』
『は、はい!』
相川清香も気づいていた。焦燥を露わにCPへ命令を下している。
「どうするっ!? この数、私たちだけ抜け出すのはっ」
のほほんさんの絶叫に、俺は必死に頭を回す。
目的を果たすためにはシーラの元まで誰かがたどり着かなくてはならない。
「セーフハウス制圧は第四陣に託すッ! ここを抑えるのに第一陣も使うッ!」
相川が叫ぶ。俺もそれ以外に思いつかなかった。
その時だ。
一機、山中からゆっくりと浮かび上がってきた。
ゴーレムタイプとは違う。俺の知る、オートマタに類する敵影。
ああ、知っている。
相川とのほほんさんがぎょっとして、俺を見た。
浮かび上がった敵ISは無人機だった。
『いやあ、やっとの思いで、
その無人機が声を出した。
シーラだ。
更識家と共に突っ込んだ戦闘領域で、聞いた声だ。あの時に逃した声だ。
「俺のデータを使って、『オートマタ・スノーホワイト』を改良したのか……!」
『うんうん、その通りだよ。ハハハッ、
背部のウィングスラスターを蠢動させるそいつは、相川とのほほんさんには目もくれず、ただ俺を見ていた。
『――『オートマタ・スノーホワイト・リヴァイヴ』ッ! 新たなるボクの最高傑作さ!』
そいつが不意に、視界から消えた。
俺が咄嗟に左へ振るった剣が、『スノーホワイト』の蹴りとぶつかり火花を散らした。
展開装甲の攻性ブレードと愛刀が、互いを食いちぎらんと火花を散らしている。
「織斑君ッ」
「おりむーッ」
二人が近寄ろうとした瞬間叫ぶ。
「駄目だ!」
あの時の戦闘データを再現したんだとしたら、危険すぎる。
接近した相川に対して、『スノーホワイト』はぞんざいに片手を向けた。
掌がスパークし、極光が放出される。相川はすんでのところで急制動、掠めるように回避した。
「な、にッ、この出力ッ」
掠めただけなのに、『打鉄・新改二』の左肩部シールドが融解している。
間違いない。
「荷電粒子砲――おりむーこれって!」
「分かってるッ!」
愛刀を真っ向から振るう。無人機はそれを両腕で受け止めてから、俺の腹部に蹴りを叩き込んだ。
回避しようと独楽のように回転した俺を、突き出された足の展開装甲から放たれたエネルギー弾が滅多打ちにする。
視界がぐらついた。絶対防御を貫通した衝撃。意識が霞む。直感で刀を振るう。運よく直撃して、『スノーホワイト』が後ろに弾かれた。
頭を振った。曖昧になっていた視界を明瞭にし、意識を引き戻す。
無人機に、こたえた様子はまるでない。
視線とバイザーアイの光が結ばれ、同時に加速、激突。
全身が凶器である奴に対して刀一本では厳しい。選択肢はある。だが……
『Arrrrrrrrrrr!』
俺を模した叫び声か。
超至近距離で、奴の馬力が増し、攻性ブレードが押し込まれ、俺の肩に食い込む。ISアーマーが火花を散らし砕け、
だめだ勝てねえ。
『白式』じゃ無理だこれ。
「おりむー!」
「ああクソ、やってやろうじゃねえか……!」
押し込まれたつばぜり合いを、バックブーストして空振らせる。
俺を再現している相手にそこを突くことなどできない、カウンターで死ぬ。
距離を置いて、俺は息を吸った。
判断は一瞬だった。
時間をかける必要はない。出し惜しむ必要もない。
相手は、対応基準のラインを越えてきた。
なら俺も超えるだけだ。
「
【Second Shift】
愛機が俺の叫びに応え、眩い光を放つ。
装甲が光の粒子に還元され、一秒と経たず再構成。より鋭角なISアーマー。増設されるウィングスラスター。左腕を覆う複合兵装。
解放すれば国際IS委員会に通知が行く。俺の担当は確か山田先生か。
栄光も地位も、今この瞬間に全部吹き飛んだ。
でもそれをせざるを得なかった。
この戦場に俺がいてよかったと、心の底から思った。
銘は――第二形態『
「ぶっ潰してやるよ」
『Arrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!』
再度、激突し――
俺はまだ知らなかった。
戦いの結末に残るものなんて、容易に想像がつくのに。
俺はまだ――巻き返せると、ここから
シャル&ラウラ編のワンサマ「タキシード飽きた」
クラリッサ編のワンサマ「俺の一張羅はタキシードだ」
クッソ矛盾してて草
本当にすみません……適当な性格だからってことで許してください……
感想評価待ってます。