狂い咲く華を求めて   作:佐遊樹

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本日二度目ですー
今更なんですけど推薦されてました! 通知とか来ないんですね
推薦ありがとうございました。励みになります。


影の薄い親友は有能・後編

 五反田弾はご満悦だった。

 無人市街地――『エクリブリウム計画』の産物であるこの鉄の街は、彼にとっては知的好奇心を満たす絶好の場所だった。そこらを行き交うドローンを観察し、そのパターンを把握する。食品を運ぶもの、鉄鋼製品を運ぶもの、液体を運ぶもの、すべてが特徴的だ。

 その中でも鉄鋼製品は別格だ。ドローンによって運ばれていくパーツはそれぞれ弾をもってしても何の材料か不明であった。

 

「ありゃ何だ? 何のための部品だと思うよ、翔太」

 

 一方の藍沢翔太もまた、市街地を抜け目なく観察していた。

 弾とは違い、その視線は鋭い。

 相棒の指さした部品を見つめる――視線がさらに鋭くなる。指を顎に当てて、数秒考えこんでから、やっと言葉を絞り出した。

 

「あれ……()()()()()()だ」

「へえ、ISか……は?」

 

 IS――超兵器インフィニット・ストラトス。

 無人市街地で何故そんなものが……弾はショータが指さすドローンを目で追った。

 

『お二方とも、そろそろ移動します』

「あ、ああ」

「……了解だ」

 

 二人は音声の聞こえた先、自動運転のEVに乗り込んだ。

 車の中から外は見通せない。無人運転を前提とした設計のため、窓がないのだ。車体各部のセンサーとGPSを用いてこの車両は走っている。

 

『次は発電区域をご案内します』

「はいよ」

「分かった」

 

 車内の照明がほんわりと点いた――座席は広い。

 ひじ掛けもあってファーストクラスの座席程度のスペースは確保されている。ツアーが始まって三十分ほど、二人はもう車内に準備されていたミネラルウォーターを飲むほどには警戒を解いている。

 

 二人は今――全自動の見学ツアーに付き合わされていた。

 中央AIの下へ直行するかと思いきや、市街地各部の名所、あるいは重要なポイントをめぐっている。先ほどまでいた場所は人々が憩うために設計された見晴らしの良い展望台だ。

 最後には中央管制部へ案内するというが、一体全体その前に何故こんな観光ごっこをしなければならないのだろうか。弾は首をひねりつつも、素直に応じていた。現状、こちらが好き勝手にすることはできない。車から放り出されたら150キロの旅を敵地ですることになってしまう。エンジニアとネゴシエーターのみでは不可能だ。せめて武装した護衛が一人は欲しかったと痛烈に思う。

 

「それにしても、なんで俺らを素直に招き入れた挙句、こんな観光ツアーをやらせてんのかね」

「さあな……いや。目的自体は、なんとなく分かるんじゃないか?」

「何?」

「もう交渉は始まってるってことだ――そうだろ、『()()()』さん」

『肯定します、あえて、ね』

 

 ドヤ顔が透けて見えた――弾は頬をひきつらせた。呆れの心情よりも、AIに携わっていた人間としての強い情念がそうさせていた。声に乗る感情。トーンや大きさによってある程度操作できる、人間の肉声に込められた感情の数値。かつて人工知能に関して最先端の研究を行っていた男だからこそ分かる――このAI『スリーピングビューティー』の完成度は極めて高い。今まで見てきたものの中で一番高い。つまりは、世界最高峰のAIということだ。

 それが人類に反旗を翻した。自分の双肩にかかっている重圧を再度確認させられ、弾は乱暴に水を飲み下した。

 

「気負うなよ、弾。気楽にいつも通りでいいさ」

「んなこと言ったってよぉ」

「相手はこんなしょーもないタイミングでドヤってくる小娘だぞ。俺たちからすりゃ一回りも下だ。年下の女は苦手か?」

「あー……妹のせいかもしれねえな」

「そりゃあ、また。さぞ気の強い妹さんなんだろうな」

 

 そこまで言った覚えはないが――不思議と見透かされた。ショータは何かに思いをはせるような表情だった。弾はそういった顔をするショータを見るたびに、咄嗟に見なかったフリをしていた。

 

『あの……』

「あんだよ小娘、こちとらお前より一回り上だかんな? つーか敬語使えや」

「落ち着け弾、俺の言ったことをそのまま繰り返してると馬鹿がバレる。つーか敬語使ってんだろうが」

『いえその、私は電子信号の速度で思考しているので、お二人の時間軸に合わせて計算するならざっと五百歳ほどになります……

 

 男二人は顔を合わせた。

 スローモーションで目がカッと開かれ、同時に絶叫する。

 

「「ロリババアじゃねーかっ!」」

 

「AIでロリババアって、おま、お前貪欲すぎるわ!」

「弾、やべえ、ちょっとテンション上がってきちゃったわ俺」

『あ、お二方ってやっぱり馬鹿だったんですね』

 

 辛辣な言葉には呆れの感情が多分に乗っていたが――二人はかしこいので無視した。

 

『あ、着きましたよ……あの、聞いてください。着きました。下りてください』

「今俺たちロリババアに命令されてんだよな。興奮してきちゃった」

「翔太、お前、マジでキモい」

「お前もどっこいどっこいだろ!?」

『あのー……』

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、(バカ)二人は車から降りる。

 馬鹿騒ぎをしながら――車の外に出て、乗っていたEVを見て、ショータは表情を鋭いものに戻した。

 

「ところでなんだが姫様、()()()()()()()()?」

「無音無反動加速技術が搭載されてるし、我らが日本製――ってわけでもなさそうだな」

 

 二人は馬鹿だが――愚か者ではない。

 慧眼を誤魔化すことはできないと割り切っていたのか、中央AIは素直に返答する。

 

『私たちのお手製です』

「へぇ……精密部品の製造だけじゃなく、そのパーツ組み上げもやってるんだっけか」

「作業用ロボットもいるし、工場を拡張したんだろうよ」

 

 そこで、男たちは発電区域を見渡した。呻いた。予め頭に叩き込んでいたデータの二倍ほどの大きさに、発電区域が膨れ上がっていた。太陽光や風力、地熱まで用いたクリーンエネルギー発電所。巨大な市街地を運営するために用意されていた代物、()()()()()()()()()()

 つまり――

 

「何を造ってやがる」

 

 弾が漏らした言葉に、ショータも頷く。

 当初の予定にないものを、何か製造している。それは分かり切ったことだった。

 

『ええ。ご説明します。では車に戻ってください――対面と行きましょう』

 

 車から聞こえてきた声――二人は思わず居住まいをただした。

 自分たちが呼ばれた理由に直結すると、激動の人生の中で磨かれてきた直感が告げていた。合図は不必要だった。車内に戻り、ドアが自動で閉まる。互いに仕事道具を詰め込んだ鞄の持ち手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央管制タワー前で車が停まり、無言の男二人が出てくる。

 時には修学旅行中の男子生徒のような騒ぎ方をしていた――今は既に、仕事人の冷徹な表情になっている。それを確認して『スリーピングビューティー』は嬉しそうな声を上げた。

 

『お二人を選出したのは間違いではなかったようです――私、うれしいです。二人とも憧れでしたから』

「……知り合いか?」

「悪いが女の顔はいちいち覚えてないんだ」

 

 ショータの切り返しに弾は拳を握った――殺してやると眼が語っていた。

 

『嘘でしょう!? 真面目な空気出してたじゃないですか! 今更仲間割れとかやめてくださいよ!』

「かかって来やがれネゴシエーター。俺にはスパナがあるぜ」

「上等だ」

 

 ショータは鞄を開いた。手のひらに乗るサイズの黒い箱を取り出し投球フォームを取る。

 中央AIが悲鳴を上げた。箱を即座に解析し、TNT換算値をはじき出したようだった。実際問題、ショータの計算通りなら、この場で爆破すればタワーそのものを崩壊させることができた。代償として二人は死ぬ。だが彼もまた、一人の男として本気の眼光だった。

 

「爆弾魔の本領を見せてやるよ」

「…………俺が、悪かった……」

 

 五反田弾は賢かった――両手を挙げて首を横に振った。

 二人はおとなしく構えを解き、ショータはひみつどうぐを鞄に戻す。

 

「ていうか弾、お前だって恋人いるじゃねえか」

「それとこれとは別だ。モテるやつは全員俺の敵だ」

「…………そうかい」

 

 タワーに向き直る。既に入り口は開かれていた。

 

『あの、それ爆破させるのはやめてくださいね? ほんとにやめてくださいね!?』

「だってよ、色男」

「ロリバアアが必死に懇願してると思うと正直興奮する」

 

 救いようのない言葉だった――弾はごみを見る目で相棒を見た。

 派遣されたネゴシエーターは頬を赤らめて息を荒げている。距離を取った。何か悪いウィルスが感染するかもしれない。

 

 変態を引き連れて、弾はタワーの内部に入り込んだ。実に間抜けなことに、タワー内部はほとんど空洞だった。見上げれば何もない空間が天井まで続いている。

 外観からして、五十階建てのビル程度の高さだったが――ほとんど空洞だったのか、と愕然とする。

 

「……スカスカだな」

私の部屋(メインコンピュータ)は一階にありまして、上は全部居住スペースでした――邪魔なので解体して、これからタワー自体も一軒家に改築する予定です』

「まさに自宅だな。姫の住む場所はお城だって相場が決まってるもんだが」

『『眠れる森の美女(スリーピングビューティー)』は小屋に隠れていたでしょう?』

 

 少女の声がうまいこと言ってやったぜ、という自信に満ちているのを確認して、弾は苦笑いを浮かべた。

 ディズニー版じゃねえか、とショータが独り言ちた。

 

『では、本題に入りましょう――何故お二人をお招きしたのか、説明します』

 

 二人の前には、何もなかった。存在するはずのメインコンピュータは見当たらない。

 仮想人格が存在するなら、空間に自身を投影することも可能だろうが、どうやらそういった仮想外見は構築していないのか声だけが響き渡る。

 

『まず藍沢翔太さん――あなたは保険です。必要に応じて、()()()()()()()()()()をこなしてください――仮面をかぶることは得意でしょう?』

「悪いは俺は仮面ライダーじゃない」

 

 真顔で言い切ったショータは、しかし冷や汗を一筋流していた。

 次は自分の番だと弾は直感した。

 

『そして、五反田弾さん――いいえ。こう呼ぶのが適切でしょうね……』

 

 

 

 ――我が創造主。

 

 

 

「…………は?」

 

 愕然とした。記憶にはない。確認もした。自分は一切『スリーピングビューティー』の開発に携わっていない。

 

『貴方の研究をもとに私は生み出されました。覚えてはいませんか? 人工知能の学習プログラムを組み上げたことを』

「待て……待て! 学習プログラムだと? それは公表していない! 大体使えなかったんだ! AIを指導するAIは成立しなかった! テスト中に指導AIと実験AIで互いに疑問が連鎖して、学習が進まなくなった!」

『ええ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今度こそ、二の句が継げなくなった――

 かつて計画していたAIによるAIの育成。

 指導担当のAIと、指導されるAIを用意した。本命は前者だったが、二つの仮想人格は互いに巻き込みあうエラーを起こし、凍結された。弾の管轄を離れ、別の研究所に安置されることになった。

 それが今ここにいる、ということは。

 

「流用されたってことじゃねえか……ッ!?」

『貴方は高度なAIを求めていた――思考能力に長けたAI。それは私であり、また、()()の求める役割に必要だった』

 

 弾は絶叫しそうになった。かつての研究成果の残滓が誰かに勝手に使われていた。

 何故そんなことをしたのか、などすぐに想像がつく――表だってはできないことをやらせる必要があった。故に、書類上は研究所の奥底に安置されているAIを引っ張ってきた。

 

「――彼らの求める役割、ってのは何だよ?」

 

 ショータの問いがタワーに響いた。

 弾は耳をふさごうとした――聞いてはいけないと、意識が追いつかないスピードで回転していたその頭脳が叫んでいた。

 

 

『無人機の量産。世界中にそれを配備し、効率的に、かつ予測不可能な動きで各所を襲撃させる作戦の実行』

 

 

 弾が、膝から崩れ落ちた。

 かつての研究が、自分が生み出した存在が、世界的テロ事件の核心に据えられていた。呼吸が詰まる。視界が跳ねる。

 同時に納得も行った。ISのパーツ。発電所の増設。何かを造っている。何を造っていたのか、回答が明かされた。あまりに残酷な答えだった。視界が明滅した。心臓の音が頭蓋骨を揺らしている。

 

『お呼びしたのは、他でもないそれについてです。私としての仮想人格は行動を制限されています。人間を締め出したのは第一段階。次で終わりです――どうせなら私は、貴方がいい。私を破壊してください、五反田弾(おとうさん)

 

 彼女の声には、今までとは違って、何の感情も乗ってはいなかった。

 それは聞いてきた中で最も、()()()()()()()声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・スリーピングビューティー
 家族が増えたよ、やったね弾くん!
 少女の外見を投影させるかどうか悩んだんですけど性癖を優先して声だけにしました
 ゆるして
 声とか口調とかは高校生程度をイメージしています
 まあ五百歳なんですけど
 やっぱり……ロリババアのヒロインを……最高やな!

感想評価ありがとうございます。
弾君編も後半戦です、やっていきます。
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