ショータ・アイザワ――つまり織斑一夏こと俺は、実際のところ冷静だった。
今回の件は正直IS展開して外壁突破して爆撃して終わり! になると思っていたのに、オーウェル経由で一応ネゴシエーターとして立候補していたらあろうことか通ってしまったのだ。
さらには相方が五反田弾である。もう正直心臓止まった。ビビり倒した。普通に行くのやめようと思った――が、オーウェル社のエージェント、マクルーザ・ハントラングさんが教えてくれた。
疑惑は即座に思考を回し、結論を導き出した。
どうやってかは知らないが――
織斑一夏であることを見越したうえで、内部に引き入れようとしている。
上等だ、乗ってやろうじゃねえか。
半ば逆ギレに近い思考で乗り込むことを決意した。
弾にバレてしまっては元も子もないので気を遣う羽目になったが、まあもう何年も顔を合わせていない、簡単には気づかれないだろう。
久方ぶりに顔を見た親友は、精悍に育っていた。その評判や実績も聞いていた。俺を表の英雄とするなら、こいつは影の英雄だ。正直言って、中学時代に一緒に馬鹿をやっていたころからは想像ができないようなありさまだ。
一体何が、こいつを駆り立てたのか、それは俺も知らない。弾は、かたくなに口を閉ざしていた。
ショータとして合流した。最大限演技した。道中ではかつてのように騒ぐ程度には打ち解けることができた。懐かしかった。望郷の念が不意によみがえり、涙がこぼれそうになった。
捨ててしまったもの、犠牲にすると決めたものが眼前に立ち現れた時、人間はこうも無力なのかと痛感した――割り切れ。
そして、その顛末がこれだ。膝から崩れ落ち、絶望に眼を見開き顔をゆがめる、かつての親友の姿だ。
「……確認したい。発電所の増設は無人機の量産のためか?」
『はい、といっても、私を支配している人々からの命令を大きく上回る規模で増設しました』
「バレないように小さな増設を繰り返す気だった、はずだ。俺がテロリスト側だったらそうする。だがお前は、
『ええ――無人機以外にも私は造らなければならないものがありました』
一瞬考えた。
テロリストに乗っ取られたAIが無人機を造る。ここまではシンプルだ。
だが、テロリストの計画にはないものをAIが造る――ああそうか、人格に制限がかけられていると言ったか。
ならば。
「警備ロボだな?」
『御明察ですね――ええ。企業サイドも、犯罪者サイドも、寄せ付けるわけにはいかなくなりましたから』
なんてことだ――舌打ちした。彼女は、
テロリストからの命令は拒絶できない。だが抵抗することができた。量産した無人機を運用する過程で、きっと抵抗できる範囲が広がった――今となっては市街地に誰も立ち入らせないようになった。
「最近は無人機の襲撃事件も減ってるしな」
『ええ。ですが、
「……俺に聞くなよ」
『これは失礼しました』
横目に親友を見た。放心している。科学者として、最悪の結末を招きかけている、無理もない。
俺は咳ばらいをしてから、質問を重ねる。
「解せない点はあと一つ。正直、企業サイドに助けを求めればよかったんじゃないか」
『はあ……それ、貴方が聞きますか? 私が企業に助けを求められなかったのは、貴方と同じ理由です』
歯噛みした。目を伏せた。仮想人格だと侮っていたのかもしれない。彼女は人間とほぼ同じ精神を有している。苦しみが分かった――弾を呼び、保険として俺にまで声をかけた。それは最終局面を意味していた。生み出され、エラーを起こし凍結され、叩き起こされた末に選んだのが、自死。それも自分で死ぬことができず、人の手を借りるしかなかった。最期の希望だった。生み出してくれた人間に引導を渡してもらおうとした。
『今すぐでなくて構いません。どうか今晩はゆっくり休んでください。ホテルを既に用意しています』
「助かるよ」
座り込んだままの弾の腕を掴む。
身振りでわずかに拒絶しようとしているのが分かった――声を張り上げた。
「起きろ、弾!」
「ッ! ……う、ぁ」
漏れた声は掠れていた――無理矢理立たせた。背中を叩く。
「今日はもう休むぞ……考える時間がお前には必要だ」
「…………」
弾は一度部屋を見渡した。メインコンピュータを探しているのだろうか。
タワーの入り口が開き、外で俺たちを待つEVが目に入る。俺は引きずるようにして、弾とタワーを出た。
「ホテルか、できればスイートルームがいいんだが」
『ご安心を、最上級のもてなしを用意しています』
「そりゃ最高だ」
軽口を叩きながらも――俺は自分がこの場にいる理由をかみしめた。
俺の理由。弾の理由。それは別物だ。
これから必要になるのは俺の決意ではない。俺の親友の、覚悟だった。
ホテルの部屋で、弾はベッドに腰かけ俯いている。
部屋に用意されたポットが湯気を上げた。俺はカップにインスタントコーヒーの粉を入れて、お湯で雑に溶かした。
「……明日には結論が出るか?」
「……AIを破棄する、しか、ない。そして無人機の量産を止める。それしか、ない」
「そうだな」
結論は俺も同じだった。
弾は不意に視線を上げた。俺の顔を見ている。
「企業には、報告しない方がいいだろうな」
「…………」
「工場もきっと破壊される、いや、破壊するんだろう?」
「……何の、話だ」
声が震えた。
「……一夏、俺はどうすりゃいい」
言葉を失った――いつから。
絶句する俺を見て、ふっと弾は表情を和らげる。
「最初から、分かってた。握手した瞬間に分かった。お前だって。少し安心した」
「……なんで」
「お前は考えなしに動いてるわけじゃないと分かったから。ずっと、ここに来るまで考えた――材料は全部そろった。お前の考えは多分、全部読めたよ」
「やめろ」
剣呑な声が出た。弾は、肩を落とした。
「……わりぃ。今のお前を助けることは、俺には、できねえや」
「それでいい。それでいいよ、弾」
顔の偽装は解除してしまった。織斑一夏として人と話すのは、ノホホン――のほほんさんを除けばいつぶりか。
「俺は、一人でやれる。だから大丈夫だ」
「ああ、そうだよな。お前はそう言うと思った。情けねえよ、
「――――は?」
「お前の、ためだった。お前の助けになりたいと思った。親友の助けになりたいなんて誰だって思うだろ。そのために、俺は、あの日誓った――織斑一夏の親友として、俺は俺にできることを武器に戦うって」
視界が揺れた。脳が揺れている。何を言っている。
お前は稀代の天才で、影の英雄で、戦役を裏から支えてくれていて――
「俺の、ため、だったのか」
「ダチのために身体張るのは当然だろ――ああそうだ、それで、その結果がこれだ。違う……こんな、
拳を握り、弾が唇をわなわなと震わせた。
「こんな――こんなことになるなんて思っていなかったッ! 彼女を生み出したのは、テロに加担するためなんかじゃねえっ! お前たちの、誰かを守るために戦う人々のためになると思って! 俺の力で少しでも多くの人を助けられたらってッ! そのために、そのために俺は……!」
歯を食いしばり、男が涙を流す。弾の瞳から落ちる雫が、絨毯にシミをつくっていく。
「
何も、返せない。
こんなはずじゃなかった――死ぬほど吐き捨てた言葉だった。何もかもを犠牲にしてでも、世界に平和をもたらしたいと思っていた。理不尽な死や暴力を根絶したいと思っていた。戦争という悪魔を抹殺したいと願っていた。子供が笑顔で暮らせる世界を祈っていた。
涙を流すなら、それはせめて悔し涙か、うれし泣きであってほしいと――恐怖や絶望からくる涙なんてもの、二度と見たくなかった。そのために戦った。
世界は平和には程遠い。悪人は常に存在する。そして戦禍を自分の商売道具として活用しようとしている。許せなかった。ブチ殺してやりたかった。
今の俺は愛と平和を危機にさらす罪人だ。なり果てた。零落した。胸をかきむしるような絶望だった。
弾も――同じだ。
同じだった。
俺たち親友は同じだ。
「なあ一夏……俺はきっと明日、AI、彼女を……娘を破壊するだろう。そしてお前が工場をぶっ壊す。それでなかったことになる。今回は帳消しだ。前進はしなくても最悪を回避できる、そういう終わりになる。それで……
「…………弾」
「情けねえ。情けねえよ、笑ってくれ。もう分からねえよ。何をしたって世界はいつも、俺たちに『こんなはずじゃ』って言わせるじゃねえか。どうすりゃいい。どうすりゃ俺たちは夢見た明日を手に入れられるんだよ?」
「――――弾」
「もうやめちまわねえか? 俺もお前もさ、元は、ただの学生で、馬鹿して爆笑して、そんだけで満ち足りてたじゃねえか。平和な世界だの何だの、重かったんだよ。無理だ。
「――――勝手にあきらめてんじゃねえぞ、弾ッッ!!」
胸倉を掴み顔を引き上げて、思い切りブン殴った。弾の身体がベッドに叩きつけられた。
「ナメんなよ、ナメたこと抜かしてんじゃねえぞッ! お前は味方が欲しいのか? 一人じゃ何もできねえのか? そうじゃねえだろッ!」
絶叫だった。自分でも驚くほどに、激情に駆られた声を吐き出していた。
「まだ終わりじゃねえ、まだ何も終わってねえ。
ガバリと弾が顔を上げた。
息を吐いて、吸って、細く声を出す。
「おま、え、それは……」
「ああそうだよなあ報われねえよなあ! 夢見た明日には遠い! 正義も愛も平和もこの世界には全ッ然見当たらねえよ、でも、諦めたら
手を伸ばした。もう一度胸倉を掴んだ。腕力で無理矢理起き上がらせ、間近に迫る。
互いの鼻が擦れ合うような距離だった。
「俺は絶対に――これでいいって終わりにする。『めでたしめでたし』で締めくくってやる。じゃねえと意味がねえ。今まで犠牲にしてきたものに向ける顔がねえ」
「――――ッ!!」
「お前だって、そうだろう。責任を感じているのか? 自分のせいだって責めてんのか? なら、立ち上がれよ!!」
一方的な強者の理論だという自覚はあった。でも、言葉が止まらなかった。
親友に強いることじゃない。こんなのは、軍隊で上司が部下を叱責しているみたいなもんだ。でも、それでも。
伝えたかった。
どんなに裏切られても、どんなに挫けそうになっても。俺は。
「今度こそ俺は、
弾の両眼が、見開かれた。
それから口が釣り上がっていく――笑みの形に変わっていく。
「――お前ってやつは、一夏、お前ホント馬鹿だよな」
「……うるせえよ」
「わりぃって。でも、ありがとな。目が覚めた、やるべきこと、見えたわ」
掴んでいた手を解いた。
弾は胸元を払ってから、俺を真正面から見据える。
「上等だ。まだ俺も降りねえ、降りてなんかやるもんか――やってやろうじゃねえか。
不敵な声色。俺も釣られて笑う。
懐かしい感覚だった。こうしてこいつと意気投合するのは何年振りか。空いてしまった期間の長さは思い出せずとも、この感覚はクリアに蘇った。
二人で頷き、ベッドに腰かけた。弾のデバイスが手中にある情報を全部まとめて空間に吐き出した。
思考が凄まじい速度で回転し始める。けれどきっと、隣にいる親友の方がスピードは速い。頭のキレは抜群に負けている。そんなやつと二人で企むなんて胸が躍る。
「決まれば話は早い。作戦会議と洒落こもうぜ一夏。何を隠そう、俺ァ作戦会議の達人なんだ」
「マジ? なんでよ」
「……中華娘と鈍感馬鹿をくっつけようぜ会議」
俺は半眼になって天井を睨んだ――弾はそんな俺を見て、爆笑した。腹を抱えて、目に涙すら浮かべて笑い転げた。
なんだかその光景を見れたことが、何よりもうれしかった。
それはそうと笑い過ぎなんだよこのバカ!
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全キャラ出すの、無理!w
ほんとすみません……wiki見ながら「あ、これ無理」ってなりました
完結させることを考えた結果の結論として、さすがにやめます
感想評価ありがとうございます&いつでもお待ちしております。
引き続きやっていきます。