狂い咲く華を求めて   作:佐遊樹

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数日にわたって別の作品を短期集中連載して、無事完結しました。
『転生したら天災(♂)だったし一夏は一夏ちゃんだしハーレムフルチャンやんけ!!』という作品です、良かったらどうぞ。

今回一部大変読みにくい表現を用いております、大変申し訳ありません。
ハメの機能を多用すればするほどに楽しくなってしまう……


バトルモノで『正義』を問わないのはミスだと思うんスよ・後編

 すべては跡形もなく片付いた。

 監視衛星が織斑一夏を確認、急遽IS部隊を派遣し、そして間に合わなかった。

 

「…………死ぬかと思ったぜ」

 

 もう俺の想定をはるかに上回るスピードでシャルが来たときは死を覚悟した。

 あいつ、『リィン=カーネイション』が動かせねえからって評価試験中の新型ラファール勝手に持ち出してカッ飛んできやがった。

 ハイパーセンサーだと俺の擬態即座に看破されちゃうので、IS部隊が来てからはずっと負傷してるんでとか適当に言い訳して身を隠す羽目になったわ。

 

「ようショータ、元気になったか?」

 

 パリの中枢、俺は立ち並ぶマンションの隙間でぼうっと壁に背を預けていた。

 位置情報を送ってから少しして、五反田弾がアロハシャツ姿でやって来た。

 口にくわえていた煙草を携帯灰皿にねじ込む。弾は目ざとく片手を突き出した。

 

「一本くれや」

「……普通に嫌だが」

「調子こいてるとシャルロットにバラすぞこの野郎」

「気安く人の生命を危機にさらすな」

 

 マジで笑うに笑えねえんだけどその脅し。来たとき相当殺気立ってたらしいじゃないですか。

 仕方なく煙草を一本、弾に突き付けた。フランスで買った、きついにおいのやつだ。

 

「いいのか。多分だけど嫁さん、煙草嫌いだろ」

「外ならいいんだよ。あとまだ嫁さんじゃねえ」

「デキ婚なんて知ったら皆ビビるだろうな……」

「鈴は祝福してくれたぜ」

「もう連絡したんだな」

 

 ライターを差し出し、火をつけてやった。薄暗い路地裏に、赤い灯が浮かぶ。

 紫煙を空に吹きかけるようにして吐いて、弾は目を閉じる。

 

「……ありがとよ、親友。お前のおかげで俺は、色んなものを失わずに済んだ」

「お互い様さ」

 

 無人市街地――『エクリブリウム計画』は、一時的な凍結を余儀なくされている。

 サイバーテロの可能性もあって操作されているが、何せ調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()

 結局はAIの暴走であり、そのAIは世紀の天才の手によって抹消された、ということだ。

 

『……申し訳ありません、ショータさん。危ない橋を渡らせてしまいました』

 

 弾の端末から声が響いた――弾は苦い表情を浮かべる。

 

「待て。姫ちゃんお前、また端末の防壁破ってアクセスしてきたのか」

『この私が突破に35分かかったのです。誇ってくださいお父さん……煙草については、既にお母さんに報告していますが』

「ざっけんなよコラ!」

 

 男の絶叫に、俺は顔をしかめた。

 自業自得だ――崩れ落ちる親友をしり目に、俺は煙草を一本引き抜いて火をつけた。今日はスーツじゃないから、多少においがついてもいいのだ。空を見上げれば、浮いている雲が綿あめのようで、優しい光景だった。いつもこんな空だったのかもしれない。命を懸けて戦っている間も、空は変わらず平和だったのかもしれない。

 

 空を見上げる時に、俺は今まで、空を見ていただろうか。

 

『あ、お母さんから早く帰ってくるようにとのお達しです。結構本気でキレてますね。どんまい』

「オッメェのせいだろーがよォなあおい!」

 

 弾の怨嗟の声が路地裏に響いて、俺は嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ショーショー」

「……なんだよ」

「私、聞いてない」

 

 ノホホン――本野乃穂(ほんののほ)は完全に怯えていた。

 理由は一つ。眼前にいる弾の恋人、布仏虚さんだ。

 

「すぐに弾が食事をお持ちしますから」

 

 合流してから、弾は俺を家に連れて行った――あらかじめ位置座標を教えておいて、ノホホンにも来るよう伝えていた。

 俺としては姉妹で話すべきことがあるんじゃないかなあと思っていたが、それ以前の問題として、虚さんはブチギレていた。雰囲気がスゲエことになっている。

 

「顔が違っても、やっぱすぐ分かるんですか?」

「話し方もありますが……やはり特徴的ですから」

 

 言葉には出さない。家に入る前に、弾が盗聴をハンドサインで示してくれた。

 同じように、のほほんさんにも忠告したんだろう。

 

『眠り姫』もまた、この家の中では言葉を発せないらしい。

 盗聴が仕掛けられたのは『エクリブリウム計画』にかかわってから。だからそのうち、近々解除されるだろうと言っていた。

 

「待たせたな」

 

 キッチンから、弾が大きな皿をいくつも抱えてきた。

 身重な虚さんには持たせたくないらしく、視線で促され俺は立ち上がり、皿を受け取ろうとし――硬直した。

 

「……はは、やっぱり()()()()()()はびっくりするんだよな。五反田家秘伝のメニューだぜ」

「……なんて、言うんだ」

「業火野菜炒めっていうんだ」

 

 震える手で皿を受け取り、テーブルに並べる。ノホホンがその豪快な量に仰天しているが、彼女用にはいくらか控えめな盛り付けの皿が置かれる。

 

「フランスとはいえ、日本人が四人だ――手と手を合わせて、いただきます」

「いただきます」

「いただきます~」

「…………いただきます」

 

 手を合わせて、三人が箸を手に取った。自分の手が動かない。

 三人は、示し合わせたように、そんな俺を気にせず雑談を始めた。

 

「それで本野さん、実際どうなんでしょう(あぶないことはしてないだろうな)

「う~ん、ショーショーはよくやってるよ~(あぶないけどなんとかなってる)

「確かに、翔太はかなりデキるってのは分かるからな(いちかがいるかぎりはしんぱいない)俺はこれからの展望とかも聞きたいんだが(ただ、いつまでこのままでいるかはききたい)

 

 たわいもない雑談、そしてその裏で交わされる意志。

 二人は俺たちを心配してくれていた。だから俺も何か言おうと思う。でも、うまく言葉が出てこない。

 

 目の前に置かれた業火野菜炒めを、俺は馬鹿みたいに凝視していた。

 冗談のように盛られた野菜と白米が湯気を立てている。

 二度と味わうことはないだろうと思っていた味だった。

 ショータにとって……否、織斑一夏にとって、それは望郷の味とも言えた。よみがえる過去の記憶に、抗えない。

 

 机の上で、さっと弾がメモにペンを走らせている。

 何かを書き終えてから、それを俺の方へ滑らせた。書かれているのは乱雑な日本語。

 

『姫ちゃんが統括を外れた直後の無人機から、情報伝達経路が割れたらしい。国連が各国に武力行使を打診している』

「――ッ!」

 

 望郷の念を振り払って、俺は口を開いた。

 

弾も仕事は順調か?(ばしょがわかったのか!?)

「おうともさあ。近々、デカい案件が控えてる(こっかだいひょうをだすらしい)

「……ッ! そりゃいい報告だな。だが式だってあるんだろ(それはいつだ)その前に片付きそうか(いつなんだそれは)?」

「――プロなんだぜ? 二日以内には終わるさ」

 

 情報を整理しつつ、相槌を打って、野菜炒めと白米を頬張る。

 

 逆ハッキング――『スリーピングビューティー』を介さない襲撃で、シーラがヘマをやらかしたようだ。すぐにでも隠れ家を移そうとしているだろう。その前に叩くつもりか。

 国家代表を出す。その間国の防衛はできない。だからどこの国も渋っていたはず――

 

 

 発想の逆転。

 全国家が勢力を出すことで、一気に終わらせる。防衛を完全に捨てた攻撃。

 そこまで追い詰められているのか? 違う。襲撃の件数が減っている今だからこそ、好機だと考えている。そしてそれは事実だ。

 襲撃を統括していたAIは消滅した。自分の手でやって、しくじった。

 今、シーラは世界中への攻撃が迂闊にできないはずだ。

 

 

 アイコンタクトで国家代表の内訳を聞く。

 弾の回答――俺の知っている人間は全員。うめき声を上げそうになった。悪夢だ。

 

「それで、翔太はどうなんだ?」

「……俺の仕事に、最近は割り込みたがるやつが増えていてな。こっちも近々、そういう連中をまとめて片付けようと思ってたんだ。大掃除になるぜこりゃ」

 

 軽口を叩いた――隣からノホホンの手が伸びて、俺の手に重なった。俺の手は震えていた。

 

「ショーショーなら大丈夫だよ~」

 

 言葉とは裏腹に、瞳も声も揺れていた。

 行かないでほしいと語っていた。

 手をゆっくりと振りほどく。息を軽く吸ってから、目の前の業火野菜炒めを一気にかき込んだ。

 

「まあ時間がないのはお互い様かもな。こうも忙しいとバカンスに行きたくなるぜ。例えば――()()とか」

「ッ!」

 

 ダイレクトな言葉が出てきて、身を強張らせた。南極だと? そんなところに潜んでいやがったのか、あの野郎。

 

 襲撃まであとどのくらいか。二日以内。恐らくそれは攻撃を始めるということだ。その前に終わらせなければならない。この手でシーラを殺さなくてはならない。すべてを闇の中に葬らなくてはならない。

 既に包囲網を形成しつつあるはずだ――今すぐにでも行かなくては。

 

 最後に緑茶を飲み干して、俺は立ち上がった。ノホホンもつられて立とうとする。視線で押し留めた。

 

「ありがとう――ごちそうさまでした」

「ショーショー!?」

「駄目だ」

 

 ノホホンは、咄嗟に俺の親友と自分の姉を見た。

 二人とも、諦めたように首を横に振っている。

 

「呆れる話だぜ。男ってのはどうしても、行かなきゃいけない時があるんだ」

「……私たちは、そんなときには待つことしかできません」

 

 予期していたんだろう。

 俺が一人で突っ込むこと。

 俺がノホホンを、のほほんさんを最後には置いていくこと。

 

 今までありがとうと。視線で告げた。言葉で告げられないのが悲しかった。頭を振った。

 

「そういうことだ」

「でも、でも……ッ!」

「いいんだよ。俺は……うれしかった」

 

 髪をかき混ぜてやってから、息を吐く。

 出し惜しみは本当にできない。最初から第三形態の必要があるだろう。包囲網に国家代表が参戦しているのなら、全員打倒して進まなければならない。

 

 地獄という言葉でさえもが生ぬるい。

 

「無理、だよ……」

「無理じゃねえ。俺はやってやる。そのために、俺は……」

 

 勝算はあった。

 俺が世界の中心だってのを思い知らせてやるよ。

 

「……じゃあ、ちゃんと帰ってきて」

「分かってる」

「無事に、ちゃんと帰ってきて」

「分かってる」

 

 あんまりそういうこと言うな。盗聴されてるんだぞこれ。

 

「私は」

「うん」

「ショーショーを……信じてるから」

 

 その言葉に、俺は笑った。

 彼女がいたから、ここまで来れたのかもしれないと思った。

 

 人質としてなんて一度も使わなかったけれども。

 世界を敵に回している間、ずっと彼女は傍にいてくれた。

 俺を信じていると言ってくれた。

 俺の()()()()()()()()()()

 

 だから。最後にはまたきっと、君の下に帰って来る。

 

 唇を額に落とした――虚さんは視線を逸らしてくれた。弾が口笛を吹く。

 

「行ってくる」

「……行ってらっしゃい」

 

 のほほんさんは泣いていた。泣いているけれど、笑顔を何とか作ってくれた。

 彼女の笑顔を最後に見れたのは、俺にとって何よりも救いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顕現――『白式』から即座に第二形態『雪羅』へ。

 

 直後、再構成。

 ウィングスラスターが、外部取り付け式ブースター『O.V.E.R.S.』の意匠を含む大型のものへ変貌。

 左腕の複合兵装がオミット。

 第二形態に蓄積されていたダメージが消滅。

 

 傷一つない真白い装甲。

 新生。

 

 第三形態『王理』――またの名を『ホワイト・テイル』

 

 二度と使いたくないと思っていた。

 これはISと戦うためのISだから。

 そんな必要性のない世界を願っていた。

 

 これで最後にしよう。

 

 フランス上空に出現した俺に対して、ひっきりなしにアラートや通信がかかって来る。

 その中の一つを選択して、通話を開いた。

 

 

『――――やあ、一夏』

「久しぶりだな、シャルロット」

 

 

 現世界最強(ブリュンヒルデ)。最大の難敵。

 

「そっちの調子はどうだ、ペンギンは可愛いか?」

『来るんだね』

「ああ。本拠地を襲撃されるとなっちゃ、黙ってられねえよ。シーラから助けてワンサマーってSOSが届いてんだ」

『本当に、君は……僕らの敵なの?』

 

 最後の確認だった。

 彼女の中の良心が、最後まで粘っていることが分かった。

 

 俺は――嘲笑を浮かべ、スラスターを吹かした。

 

「ああそうだ。今からお前らをボコりに行く」

『…………そっか』

 

 超高速で飛翔。

 

『分かったよ』

 

 南極まであとどれくらいかかるだろうか。俺の襲撃を知ったなら、今すぐにでも動き出す。

 シーラへの襲撃を前倒しにしつつ、俺へ対応するための部隊も編成するはずだ。

 

 総力戦になる。身体が昂る。息が熱を持っている。

 

『僕は君を信じようと思った』

「そうかい、ご丁寧にどうも」

『一夏には、事情があると今も思ってるよ』

「そうかい、わざわざありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでも敵だっていうなら()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体が、勝手に、咄嗟に回避機動を取った――遥かに離れているというのに、確かに、彼女の殺気が俺に届いた。

 冷や汗がブワッと出た。

 俺の知るシャルではない。これが世界最強。俺が教師をやっている間にも、ずっと腕を磨き続けてきた、世界最強。

 乾いた笑みが出た――他の代表連中も、たぶん俺の想定よりずっと強くなっている。

 勝算はあるけれど、やはり、怖い。無理だろと思う自分がいる。

 

 でも負けられねえんだ。

 

「そのまま返すぜ」

『分かった……じゃあ、()()()()

 

 待ち合わせの予定を取り付けた直後みたいに、俺たちは挨拶を交わして通信を切った。

 超高速が周囲を景色をごちゃまぜにして、マーブル状になった世界を疾走する。

 

「そんじゃあ、ボスラッシュ、行ってみようかねえ――――!!」

 

 自分を奮い立たせる言葉を吐き捨てて、俺は再び、一段と加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二部完!
ISちゃんねる挟んで第三部始めようかなと思ってるので、次々回開始とかいう表記が大嘘になってしまいました……すみません……

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