狂い咲く華を求めて   作:佐遊樹

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第三部開始です
サブタイの感じ変えます
ボスラッシュです、どんどんきつくなるけど頑張っていこうね!(難易度順とは言ってない)


第三部 絶戦領域
輪廻の花冠Ⅰ


 超高速機動の余波が海を割り、飛沫を散らす。

 ハイパーセンサーが拾うその音を聞きながら、俺は海上キャノンボール・ファストに興じていた。

 いかんせん障害物はなく、ただ一直線に進むだけなので味気ない。

 懐かしいなと思った。学園に通っていたころの催し物。最近は教師として見守る側だったが、いつか、俺もあれの選手だったんだ。あーでも妨害受けて中断したっけな……あれ!? 俺の記憶にあるお祭りごと、大体全部亡国機業に潰されてるな!?

 勝ったはずの相手から言いようのない敗北感を突き付けられ、思わずげんなりとしてしまう。

 

 その時。

 愛機『ホワイト・テイル』がアラートを鳴らした。近づいてきた。

 もうすぐ――攻撃可能領域に入る。

 

 目的地は南極。

 そこに展開された国連軍を蹴散らしてシーラの下へたどり着き、奴を殺す。

 間に存在する敵も全て打倒する。

 

 日本代表。

 英国代表。

 中国代表。

 仏国代表。

 独国代表。

 露国代表。

 

 考えるのもアホらしいメンツだ。絶対に1人で突っ込んではいけない。

 さすがに戦役末期レベルのテクを維持しているとは思わない。俺だって腕落ちてるし。

 生きるために必死だったあの頃の全力戦闘は、皆()()()()()()()()()()()()()()()()()

 装甲が融解しようとも、銃口が焼け付こうとも、臓物が千切れようとも、絶対に引き下がらなかった。背後には人々の平和があった。譲れない戦いだった。

 

 もう必要ない。そんな覚悟のいらない時代。そのはずだった。

 俺たちまたは戦場に集う。懐かしい場所で、懐かしい顔ぶれで。

 

「……やっぱ、条約違反兵器使ってくるよなあ」

 

 ぼやいた。相手は世界を危機に陥れたテロリスト。国連が俺個人に対する武力制裁決議を可決したのはつい最近だ。どう考えても、『ホワイト・テイル』が敵ならエネルギー削るんじゃなくて俺本体にダメージを与えるべきである。

 この土壇場に来て条約をみんなで守りましょうなんてほざく野郎はアホだ。間抜けだ。条約は世界を守るためのものであって、条約を守るためにみんながいるわけじゃない。

 

 愛機の動作を確認。

 背部のエネルギー・ウィングはオールグリーン。

 各展開装甲も問題なく動く。

 そして使ってしまった切り札――限定解除とは()()()()()()()も準備万端だ。

 

 そも、俺は各国代表とまともにやり合おうなんて考えちゃいねえ。さっきも言ったがそんなことをするやつは馬鹿だ。

 故に伏せ札が必要となる――ほとんど使ったことのない、それこそ亡国機業戦役では使()()()()()()()()()()()()()()()

 無人機相手だとただのゴミだったので、こいつは肝心な戦役の際にお役御免となっていたが、今は違う。今こそこいつの本領発揮だ。

 

 攻撃可能領域に入って、南極大陸がセンサーの望遠機能により目視できる。

 超長距離狙撃なら届く。

 まあこの速度で疾走する俺相手に狙撃を敢行しようとするやつがいるわけ――

 

 

 

 ――――全身全霊の回避機動。機体のアラートとまったく同時に、脚部装甲を弾丸が掠めそうになった。

 

 

 

「ッッッ!?」

 

 なんだ、今のッ!? 実弾――セシリアの新型? いや違う!

 

 

()()()()()()()

 

 通信はオープンチャンネルだった。

 距離を詰めたことでいよいよ敵影が目視できた。俺を迎え撃つために展開されたIS部隊。『打鉄(うちがね)(あらた)』やデュノア社のコスモス系統、オーウェル社のファング・クエイク系統の機体が並んでいる。

 それだけでも壮観だというのに。

 ハイパーセンサーが、絶対にそこにいてはいけない存在を確認した。

 伏射の姿勢で、二脚(バイポッド)を用いてロングレンジ・スナイパーライフルの銃口をこちらに向ける彼女。

 

 世界最強(ブリュンヒルデ)――フランス国家代表、シャルロット・デュノア。

 

 うめき声を出す暇もない。ランダム回避機動。陣形の中心に居座る彼女が、距離も速度もお構いなしにクリティカルヒット確定の弾丸を射出する。愛機が解析してくれたけど、これ絶対防御にエラー起こす特殊弾頭じゃねえか! 殺す気か! 殺す気ですよね知ってた!

 見れば彼女の専用機『リィン=カーネイション』は機能特化専用換装装備(パッケージ)――オートクチュールを使用している。やる気満々じゃねーか。

 ていうかさ。

 

「おいおいおいおいおい! お前、狙撃こんな上手かったっけ……!?」

『セシリアには譲るよ。僕は僕にできることを積み上げてきただけで、それは特定分野を極めたエキスパートには届かない』

「器用貧乏ってワケか――っとぉ! いや嘘つけ! お前みたいな器用貧乏がいてたまるか!」

 

 びゅんびゅん飛んでくる特殊弾丸を半泣きで回避しながら叫ぶ。当たったら死ぬほど痛いんだよこれ。

 オープンチャンネル故、シャルの傍に控えていた一般兵士が『ほんとですよね』『一夏さんに完全同意です』と俺の絶叫に返事をくれた。

 思わず肩の力が抜けそうになるが、シャルからの攻撃は絶え間なく続いてるし他の兵士らも自分に狙える距離まで俺を引き付けようとしている。カジュアルに返答してるけど俺への殺意は高い。

 

『残念ですがここで終わっていただきます、師匠』

『あなたにはお世話になりましたが――それはそれです。倒して、捕まえて、罪を償ってください』

「ああいいぜ! でも、()()()()()ッ!」

 

 どうやら各国から集められた精鋭の中には、俺の教え子も混じっているらしい。

 ちょうどいい、卒業後考査の時間か?

 一気に加速し距離を詰める。もはやハイパーセンサーがなくとも敵機を視認可能だ。

 

「ふふ……さすが一夏。これぐらいじゃ落ちてくれないか」

 

 ここ――だ。

 エネルギー・ウィングを推進機構としてではなく、特定エネルギー波の拡散器に変換。

 

 悪いがチャンバラしてる暇なんてねえんだ。

 最速で通らせてもらうぜ。

 

 愛機が俺の意志を察知し自動でウィンドウを投影する。

 

 

 

【コード・レッド】

「【コード・レッド】――発動ッ!!」

 

 

 

 かつての小競り合い。

『紅椿』に眠る人格『赤月』が発動させた特殊プログラム。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という反則を通り越した神の御業。

 

 俺は『ホワイト・テイル』にその機能、もとい権能を移譲されていた。

 篠ノ之束の最後の野望。俺を全てのISの頂点に君臨する王へとする。だからこその第三形態『()()』だった。

 結論としては、その野望は他ならぬ俺の手によって頓挫することとなった――が、権能自体は生きている。

 範囲として既に南極大陸全域を狙えた。

 

 ここで終わらせる。終わるのはテメーらだ。

 

 エネルギー・ウィングが蠢動し、対IS戦闘における絶対の禁じ手をまき散らし始める。

 すぐにでも視界に収まる範囲、否、この戦域におけるISは全て動かなくなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たよ、簪」

『――――任せて。【コード・ブレイカー】、起動』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、俺の手元に存在した『コード・レッド』のウィンドウが、()()()()()()()()

 

「ん、な、ァッ!?」

 

 何度目の驚愕か――!

 すべてのISを統べるはずの権能が、跡形もなく粉砕される。発動していない。効果が発揮されていない。完璧に、無力化されている。

 

「なん……だと……?」

「対策してないと思った? 僕らなりに、篠ノ之束博士に類する敵が現れた際も対応できるよう研究していたんだよ……ね、簪」

『……ごめんね、一夏。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 拳を握る。何だ、何だよそれは。

 絶対的な伏せ札として握っていた代物が、看破され、対策されていた。別にいい。ある程度は読まれるはずだった。

 だが、ここまで完璧に対処されるだと。

 

『私は……ずっと、貴方達の戦いを、後ろから見ていた』

 

 オープンチャンネルで、俺が進む先にいるであろう簪が言葉を紡ぐ。

 ウィンドウが映す彼女の瞳が、まっすぐ俺を捉える。

 

『ずっと後ろから……神代の争いのような、そんな戦いを見ていた。テレビを見る幼子みたいに』

「…………」

『ずっと後ろで、思ってた……私に何ができるのか。そんなに多くはないよ。でも私にだって、できることはあるはずだって』

 

 彼女の瞳に灯る焔が、俺の身体を焼き尽くさんと猛っている。

 

『その結果を一夏に振るうのは、残念だけど……でも、今はそれでいい。私は絶対に、一夏を止めてみせる』

「……お前のことだ。【コード・ブレイカー】とやらだって、お前を倒せば無力化できる、ってわけじゃないんだろう?」

『うん。教えてあげるね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「クソッタレがっ」

 

 悪態を吐いた。返事と言わんばかりに、シャル以外の兵士が一斉にトリガーを引く。

 大きく旋回して全弾回避――視界の隅で世界最強が動いた。

 手にしていたロングレンジ・スナイパーライフルが、二つに分割された。

 ――連結兵装ッ!? デュノア社製品でそんなものがあるなんて聞いたことねえぞ!?

 

 距離を詰めた分、使用銃器も変わる。

 他の兵士らが武装を量子化し切り替える。その間隙を突くはずだった。

 

「僕専用の特殊複合兵装ッ――父さんに上目遣いして作ってもらったのさッ!」

「アラサーのやることかよぉっ!」

 

 突撃姿勢だった俺に対して、シャルが弾幕を張った。

 あえなく軌道を折って距離を開ける。容赦なく踏み込んでくるシャルと、アサルトライフルを構え猟犬のように追随してくる兵士たち。

 降り注ぐ弾丸と弾丸の隙間をすり抜けるようにして動き回る。一般兵まで条約違反の特殊弾頭を使ってやがる。

 シャルの背部スラスターの武装固定部に粒子が集まり、小型ガトリングガンとして結ばれる。当然管制機能付きだ、俺めがけて弾丸が放たれた。

 

「大体なんだよそのオートクチュールッ! そっちも初見だ!」

「『リィン=カーネイション』の耐久力任せに、高性能オートクチュールを実験用に複数開発してたのを引っ張ってきたッ!」

 

 愛機がその識別名称を解析。

 オートクチュール――『ブラスト・シルエット』。遠中距離における砲撃・射撃戦を制するため製造された換装装備(パッケージ)

 見て、動きを把握して、火器を確認して、ピンと来た。

 

「そいつ――()()()()()()()()()()()()()()()()()だな!?」

「ご名答ッ!」

 

 シャルが弾幕を更に苛烈なものにする。

 ローリングするようにスピンしつつ後続を振り払う――ロックオンアラート。追尾ミサイルが放たれる。

 ミサイル――このタイミングで。撃ったのは一般兵か。俺の教え子か?

 卒業後考査は落第だな。

 

 弾頭の先を俺に向けて飛翔したミサイルが爆発し、爆炎を噴き上げる。

 

「なッ――今の撃ったの誰ッ!?」

「ひっ!?」

 

 シャルが発したのは怒号だった。

 ミサイルを撃った一般兵が震えあがり、おずおずと手を挙げる。

 

「わ、私です……」

「何を考えてるんだ君は!? 撃つ必要のないものを撃つんじゃないッ!!」

「ごごごめんなさい!」

「――ほら、()()()()……!」

 

 そう。

 爆炎が晴れた先に、俺の姿はない。

 じゃあどこでしょう。

 シャルが視線を巡らせたのが分かった。視線が重なることはなくとも、彼女は俺の存在を察知する。

 

「くっ――全員その場から退避ッ!!」

 

 でも遅い。

 部隊の足元――南極大陸の大地を突き破って現れた俺が、即座に零落白夜の翼を振り回して何機も叩き落した。

 

「きゃああっ!?」

「ど、どこからっ!?」

 

 爆炎と共に瞬時加速で海に突っ込んで、大陸の海に沈んでる部分を削ってお前らの真下まで移動したんだよ。

 素早くセンサーで周囲を確認する。シャルのおともは半分ほど今の不意打ちで沈めた。エネルギー・ウィング様様だぜ。できればシャル自身も落としたかったが、まあ普通に引き下がられて無理だった。

 

「随分とまあ、ドブネズミみたいな動きが得意なんだね!」

「お前ひどすぎない!?」

 

 シャルがオートクチュールをパージして、近接用デュアルブレード『ジキル・ハイド』を展開し切りかかって来る。

 それに対して『雪片弐型』をぶつけようとし――瞬きすらできぬ刹那の内にシャルが引いた。手に持つのは既に十連装ショットガン『タラスク』へ変貌している。

 近接攻撃を挑んできたのが、まるで蜃気楼であったかのような感覚。ゼロコンマゼロ数秒で行われるイリュージョン。学生時代ですら早かったそれは、既に疾さという面で人類の限界を超えている。

 常人の目をもってすれば、この瞬間シャルロット・デュノアが二人いるようにすら見えただろう。

 

砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)、少し鈍ってるんじゃねーか……!?」

 

 求めるほどに遠く、諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、綾やかなる褐色の死へと進む。

 だが俺には通用しない。射撃を見切り、すでに右側へ回っている。

 そこで、銃口とカチ合った。

 

「――――チィィ!」

 

 咄嗟に身体を捻って弾丸を回避。

 したと思いきや、それは放たれる殺気が俺の脳をバグらせて見せた弾丸で、飛んできたのは『ジキル・ハイド』。

 今度こそ剣で受け止めた――衝撃に火花が散る。その時には既に、シャルは近接戦闘領域を離れ俺にライフルを向けていた。

 発射された弾丸、即座の切り返して弾丸を真っ二つにする。剣を振り抜いた俺の眼前に、パイルバンカーを構えたシャルがいる。

 

「お前――何人いるんだよッッッ!?」

 

 距離の調節なんてもんじゃねえ! 何だこいつ!? 分身してるよなぁオイ!?

 パイルバンカーだけは絶対に受けてはいけない。必死に後ろへ下がって、氷の大地を足底で削りながら距離を置く。

 

 距離を置いた瞬間、先ほどパージしたように見えていた『ブラスト・シルエット』の全砲門が俺に向けられた。

 ぎゃああああぁあああぁああぁぁあああ!?

 転がるようにして弾丸を回避。なんとかすり抜けに成功する。

 

「……さっきから織斑先生とデュノア代表、何人いる?」

「私はどっちも六人ぐらい見える」

「IS乗りやめます」

 

 後輩たちの心がバキボキ折れていく音が聞こえた。

 

「シャルッ! お前ッ! 俺の機動は教育に悪いとか言ってたけどお前も大概じゃねぇかッ!」

「記憶にないこと言われても困るよっ!」

 

 まさかの責任放棄をしながら、シャルが突撃してくる。

 俺は涙目になりながら、超高速回転する頭脳と愛刀を武器に、オレンジ色のゴリラへと立ち向かった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




(打ち切りでは)ないです

・ブラストシルエット
 あのさあ……MGさあ……いつ出るん? はーつっかえ
 お前ほんま使えんわ あーつっかえ
 連結兵装って「ラピッドスイッチ」の方が早くね?と思われると思うんすけど
 色々武装詰め込みたいって娘が言ってくるンゴ……でもスロットパンパンにしても満足してくれないンゴ……せや!
 二つのライフルと一つのロングライフルで三枠
 もしかして……二つのライフル連結してロングライフルにできるようにしたら一枠空くんやないか?
 という社長の天才閃きから発案されたという裏設定があります
 あと装甲に武装を組み込むというちょっと展開装甲を応用した技術のおかげで腰部増設装甲に小型レールガンがあったりします
 シャルロット・ストライクフリーダムインフィニットジャスティス・デュノア君!?
 まあ他のシルエットも出すんですけど……

・コードレッド
 ぶっちゃけ12巻から本作へつなげるために苦肉の策として
 赤月は一度再生しています
 その辺のごたごたは過去編とかでやりたいですね~
 いろいろあってコード系三つ(赤白紫)全部をワンサマが保持してます
 実は選手になったり兵士になったりしなかったのはこの辺のせいです
 まあ完封されるんですけど

・オレンジ色のゴリラ
 砂漠の逃げ水って多分最終形態としてはこんな感じになるんじゃないでしょうか
 機体そのものが分離合体するという利点を完全に潰しているので若干悩んだんですけど


感想評価ありがとうございます。
やっていきます。

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