というわけで落とされた人たちは装甲はギリ維持できるぐらいで下がってます
無人機相手にガチで撃墜されたら死んでるんじゃない? まあ今回は各国代表がアホみたいにいるおかげで死者出てないんですけど
空が割れるような轟音。
シャルロット・デュノアが放つ無尽蔵の弾丸が氷の大地を砕いている。飛び散る氷の破片は、まるで地面が血飛沫を上げているようだった。
左右に揺さぶりをかけつつの機動で弾幕をすり抜ける。地面を滑るように回避し続ける俺を、シャルは上空から追尾しつつ撃ちまくっている。いわばフワジャンに近い――互いに出し惜しみをしている。
ただの射撃。ただの回避機動。俺もシャルも、
全盛期からほど遠いのは容易に分かる――では問題は今どこまでやれるか。
迂闊に全力を出して、そこを自身以上の全力で打倒されたら目も当てられない。特に俺はここから連戦が前提である以上、慎重な戦闘が求められている。
「織斑先生――ッ!」
真横からアラート。『打鉄・新』を身にまとった一般兵が飛び込んできた。
弾幕に臆さず飛び込めるからこそこの場にいる。
一般兵とて隙を見せれば即座に俺の首を落としに来ていた――が。
「タイミングは悪くねえなッ」
翼で薙ぎ払う。それを見越したように一般兵が跳び上がり、エネルギー・ウィングの薙ぎを軽々超えてみせた。
俺の斜め上を取る形。既に銃口は俺へ向けられている。射線からわずかに身体を逸らす――マズルファイアが目を焼いた。違う。閃光弾かッ!?
飛来した弾丸が、俺の眼前で弾けて眩い光を放つ。
有視界戦闘を中断させるための兵器。だがハイパーセンサーに切り替えればッ。
「デュノア代表ッ!!」
「――――ッ!」
間隙。シャルが飛び込んでくる。気配と殺気のみに意識を向けて、大きく横へ転がる。俺のいた大地が粉砕された――パイルバンカーか。砲撃用オートクチュールを装備しながらよくやる。
愛刀を投擲した。視線すら向けることなく、フランス代表の背中に取り付けられたカノン砲がそれを打ち落とす。吹き飛ぶ『雪片弐型』――が、空中で量子化された。
「ッ!」
防御姿勢を取るシャルをしり目に一般兵の懐へ飛び込み、
大体オメーその防御姿勢ブラフじゃねえか。今切りかかってたら楯の下に忍ばせたハンドガンのカウンター受けて絶対防御吹き飛んでるぞ俺。
「ぐっ……! デュノア代表、すみません……!」
「いいや、今のは悪くなかった、よくやった! 安全地帯まで下がってて!」
装甲を維持するエネルギーしか残っていない兵卒らが、後退していく。
今ので最後だった。
「……一騎打ち、だね」
「ああ、そうだな。……最悪だ」
氷の地面に降り立ち、銃口も切っ先も下げた。久しぶりに見る彼女の貌。血色はいい。コンディションはよさそうだ。
互いに笑みを交わした。
もう巻き込む心配がなかった。
それはつまりギアが一つ上がるということ。
剣で攻撃する。それは剣を振り上げて、振り落とすという動作。あるいは剣を構え、突き込むという動作。
攻撃とは複数の動作が連動し結果を叩き込むという、いわば一つのシークエンスと言える。
速さを極めようとするなら、このシークエンスを完了させるまでのタイムを縮めることを意識せねばならない。
俺たち人間にはどうしても行動速度の限界がある。それは筋肉が反応するまでのラグであり、脳から送り出される信号の遅さである。
ここで相対する悪鬼二人は――非常に残念ながら、そういう意味では人間ではなかった。
俺が踏み込む。俺が踏み込むというのはつまり、距離が殺され剣が振り抜かれていたということ。
シャルが撃つ。シャルが撃つというのはつまり、既に弾丸がターゲットを射抜いていたということ。
面と向かい合っていた構図から、瞬きもできない時間を挟んで、位置が入れ替わった。
音を超えた――軌道の余波だけで、一秒の沈黙後に大地が爆砕される。津波となって海がはじけ飛び、砕かれた大地が流氷となり流れていく。
俺の胸部装甲が砕け散り、激痛に全身が悲鳴を上げ衝撃に血反吐が喉をせり上がる。
彼女の全身の装甲が切り裂かれ、シールドエネルギーが危険域まで一気に減少する。
「……ッ!」
それだけじゃない――久々の全力機動で脳がくらくらするが、確かに絶対防御を貫通する威力で喉に突き込んだ。
シャルが膝から崩れ落ちる。だが瞳に戦意は衰えていない。外した――コンマゼロゼロの世界で、確かに彼女は俺の攻撃を全て見切っていた。当たったのは、たぶん、砲撃用『ブラスト・シルエット』のせいで動きが鈍くなっていたからだ。
「――――ァァァアアアアアアアァアァァアァァアアアッ!!」
激痛に顔をしかめながらも、当分動けなくなったはずのシャルが、流氷の上で流されていくのを見ていた。狙い通りに、彼女を撃墜せずとも動けなくして、
だというのに。
シャルロット・デュノアが雄たけびを上げて、自分の太ももに、ブレードを突き立てた。
「な、お前、マジかよ……!?」
「まだ、だァッ!」
数分は呼吸困難にあえぐ威力を打ち込んだ――痛みでそれを上書きし、彼女は悠然と立ち上がる。ブレードの自傷による返り血が頬を深紅に染めている。
真白い世界の中で、鮮やかな赤が彼女を彩っていた。
「逃がさない……! 逃がすわけ、ないだろう……!?」
「クソ、お前と遊んでる暇はねえんだよ……ッ! 大体絶対防御はどうしたぁ!?」
「絶対防御を貫通できなくて何が国家代表だッ!」
言い分がむちゃくちゃすぎるだろ!
飛び込んできたシャル――空中で『ブラスト・シルエット』をパージし、一気に加速してくる。
剣筋を読み切り、かち合わせる――パージされた『ブラスト・シルエット』が、独立して俺を砲撃する。そんなのありかよ。
自分ごと砲撃に巻き込ませようとする狂気。放たれた砲弾と彼女の手の中の刃が視界を埋め尽くす。大きく下がった。
砲撃が大地を割り爆炎を上げる。視界が塗りつぶされる。その中から金髪を振り乱し、戦乙女が再度俺に飛びかかる。その時には既に刀を構えていた。
「吹き飛べェッ!」
全身全霊に近かった。
振り上げた刀が空間を破壊し、衝撃のみで大陸の端っこを木っ端みじんに砕く。生態系への影響なんて考えてる場合じゃなかった。
俺の全力の一閃――速さから空間を捻じ曲げ、局所的なブラックホールに近い破壊の渦を創り出す剣戟。
シャルロットは――俺が生み出したそれに対して、迷うことなく拳を叩きつけた。
「――ッ!?」
「邪魔だああああああああああッ!!」
鋼鉄もズタボロにするその破壊の渦が、シャルロットの拳を引き裂く――前に、渦そのものが、彼女の手で砕け散る。
嘘だろ。人体でやっていいことじゃねえよ。
腕部装甲を喪失しつつ、シャルが接近。サイドブーストをかけようとする――移動先を見た。確かにそこに既に、シャルロット・デュノアがいる。思考を読まれた? 違う、きっと直感で俺の移動先を見切っている。
逡巡だった。
「終わりだよ、一夏」
俺の移動先にいるはずのシャルは、コンマ数秒前と変わらず俺に突っ込んでいた。
幻覚――違う。本当にそこに移動してから、瞬時に戻ってきたということか。
パイルバンカーが射出用薬莢をカチリと押し込む。トリガーにかけられた指が引き絞られる。刀を乱雑に、必死に振るった。潜るようにしてかわされ、俺の懐へ潜り込まれる。
返す刀で今度こそ両断しようとし――刀身が、
「は?」
「篠ノ之流が奥義――『明鏡止水』」
酷薄に告げられた言葉と同時、パイルバンカーの先端が、俺の胸に叩き込まれる。
スパーク。思考が光に埋め尽くされる。忘れていた感覚。死線。戦役。友達だった肉塊。吹き飛ぶ生命。忘れていた。あの時の俺は、今までずっと眠っていた。
シャルも同じだったんだろう。戦いの中で互いの動きのキレが上がっているのは分かっていた。上がるというのは不正確だ。あの時に近づいていた。あの時に、
故に。
パイルバンカーを撃ち出した姿勢のまま、シャルが深く息を吐く。
空薬莢が排出され、地面にカランと転がった。
「……やっぱり、君もか」
「――篠ノ之流が奥義。お前より俺の方が先に至ってんだ、舐めんな――『明鏡止水』」
互いの攻撃を完全に回避して、俺たちは同時に距離を置く。
『――シャルロットさんッ! 最前線で異常発生! 強力な個体が出てきたようです!』
「……僕かい? 今、たぶんこの場で最も強力な個体と戦ってるんだけど」
『
目前の彼女の視線が、退避して見守っている兵卒に向けられた。
「違いないね……お預けだ。先で待っているよ」
シャルがスラスターを吹かす。ブラフの可能性を考慮して身構えたが、一瞬で彼女の姿はかき消えた。
センサーが戦線の奥へ超高速で向かう彼女を知らせる。ご丁寧に『ブラスト・シルエット』を身にまとっていた。どんなイリュージョンだ。
「――か、は」
膝をついた。せり上がっていた血の塊を吐き捨てる。
モロに弾丸を食らった――絶対防御がエラーを起こして停止している。クソ、しょっぱなでこれかよ。
胸部装甲全損。幸いにも戦闘機動自体は行えるが、大きなビハインドだ。
『推奨:応急処置』
「してる、暇が、ねえ」
絞り出すような声で愛機に応じてから、飛翔する。兵卒らはそんな俺を、黙って見上げていた。
「先生、何の、何のために――」
一人の兵士が、俺を見上げて叫ぶ。
教え子。懐かしかった。捨ててしまった過去だった。
「
ふざけた台詞を返した――まあ、生徒に嘘ばっかり言ってたけど、こればかりは本当だから許してくれ。
奥へと進む。
ちょっかいをかけてくる一般兵卒は即座に落とすか、無視する。突き進むほどにISの密度が高くなる。
このあたりは戦闘がない。後詰めということだろう。
「次の対戦相手はどなただぁ?」
痛みは引かないが、軽口を叩いた。自分を鼓舞するための言葉。
オープンチャンネルに吐き捨てた言葉は、意外にも答えがちゃんと帰ってきた。
『私ですわよ』
「――――ッ!!」
その場で身体をよじった――四方から撃ち込まれたレーザーの間隙を縫い、曲芸のような動作で回避する。
過ぎ去ったレーザーは、当然向きを変えて再度俺へ向かってくる。冷静にエネルギー・ウィングで弾いた。
「……残念ながら、やはりその状態の一夏さん相手では相性が悪すぎますわね」
「ま、翼で完封できちゃうからなあ」
視線を上げた。高高度に滞空している彼女。
誇り高いその英国代表は、髪を凍てつく風になびかせてほほ笑む。
「ですが、簡単に落とされるつもりはありません」
「そーかい。一応聞いておくけど、今まで何回落とされたことあるんだ?」
「……? それこそシャルロットさんたち相手ぐらいですわよ」
「いや、多次元のクラス代表決定戦的な話で」
「やめてくださいます?」
セシリア・オルコットは首を横に振り、全身で俺の問いを拒絶した。
・篠ノ之流
国家代表全員習得してるわけではないけどシャルは手当たり次第に何でもやってそう
こう、なんか、自分と相手の動きを完全に連動させることで攻撃が当たらずすり抜けるみたいな感じ、いやなんだろうこの技、まあ世界最強クラスならこんぐらいできるんじゃない?
箒ちゃんの方が上手です
全盛期モッピーは弾丸も斬撃もすり抜けて悠然と歩いてきて、後ろに下がったらなんかそれより早く距離詰められて着地狩りされるイメージ 鬼かな?
ストフリワンサマと隠者シャルは万全でやり合うと互いに明鏡止水連発して話になりません
そもそも篠ノ之流自体が習得難度クッソ高い想定だし……その奥義だから……
・翼で完封できちゃう
エネルギー無効化されたらセッシーは実際どうすりゃいいんだろうねと考えてます
これはIS二次創作書いてる人みんな考えてるんじゃないですかね
今更なんですけど捏造未来設定の癖に専用機はなるべく原作からかけ離れないようにしてるので、オリ武器でなんとかするみたいな感じにはしたくないです
ほら……実は機体の名前がみんな原作の時と変わってないし……オリISは量産機とか無人機だけで満足してるし……あと専用機も内部はきちんとアップグレードしてるし……
オートクチュールだけはゆるして
・輪廻の花冠Ⅱ
ⅢもⅣもⅤもあるに決まってんダルルォ!?
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