狂い咲く華を求めて   作:佐遊樹

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今回そんなバトルしてないです
セッシー全然終わんないし完全に計算ミスりました
次からはもっとスムーズに…


蒼雫Ⅱ

 視界を焼き尽くさんとする閃光――その中でセシリアは、冷静にすべてを見ていた。

 精神攻撃。舌戦とも言うそれによって、織斑一夏の冷静な思考を奪うことには成功した。

 至近距離。互いの得物をぶつけ合い、火花を散らした。その最中で横から最大出力のレーザーを叩きつけた。

 片手に持った『インターセプターⅡ』を見た。ISが伝える耐久値が大幅に減損している。後一度、それこそ岩にでもぶつければ砕けてしまうだろう。実際、先ほどの剣戟は一夏の精神が揺らいでいたからこそ成立した。

 恐ろしい威力の斬撃。それを放つのは目にもとまらぬ速さで戦場を駆け抜ける男。

 セシリア・オルコットがそれに対応してみせたのは、他ならぬ彼女の両眼があったから。

 

 それはハイパーセンサーを用いずとも、戦場を俯瞰し。

 それは自身にとって死角であっても、感覚的に総てを見透かす。

 人智を超えた超感覚。人間の脳髄が通常は使用されない領域まで稼働し、処理能力を底上げするからこその権能。

 

 ――人はそれを『天眼』を呼び、その持ち主から放たれるレーザーを神の雷と呼んだ。

 故に、ケラウノス(Keraunos)

 

(…………前線は膠着状態。シャルロットさんは一般兵のフォローを重視しているようですわね)

 

 ハイパーセンサーの望遠機能も相まって、今セシリアは南極大陸全域を完全に掌握していた。

 既に攻略すべき敵の基地は包囲網が完成しており、逃げ出す場はない。

 だからこそ攻略には時間をかけることができる。シャルロットはこの戦場を、ほとんど実戦訓練に近いものとして扱っているようだ。

 反対に、織斑一夏は包囲網の突破に時間をかけられない。それは彼の行動パターンから読み取った予測であり、彼の目を見た瞬間に確信へと変わった。

 セシリアはそこに、ほんのわずかな勝機の目を見出した。

 強引な突破を図る相手に対して持久戦を仕掛けつつ、本来の長所が生かせないよう徹底的にメタを張る。具体的には、短期決戦を阻害する楯を引っ張り出して自身を守りつつ、ひたすらに撃ちまくる。そして焦れてきたところで精神に揺さぶりをかける。隙ができればそこを突く。

 

 すべては計算通りに進んだ。

 だが彼の防衛本能がここに来て噛み合ったらしい。ウィングが蠢いた。察知して後退すると同時、局所的なサイクロンが巻き起こったかのように、アンチエネルギー・ビームの奔流が迸る。

 狙いすました百に届かんとするレーザーがまとめて消し飛ばされ、改めて相性の悪さに歯噛みした。彼が適当に翼を振り回すだけで、専用の装備がなければセシリアは完封されてしまう。

 一夏はそのまま後退し、氷の大地に膝をついて荒く息を吐いている。雪片弐型が地面に突き立てられ、鈍く光っていた。

 

『調子はどう?』

「……鈴さんですか」

 

 セシリアより一つ奥の戦線で、侵攻してきたゴーレム・コンデンスドを後輩に狩らせ、時折フォローしている中国代表からの通信。

 凰鈴音――セシリアとは違い、普段の装備そのままで出陣している。展開装甲を全身に埋め込まれた『甲龍』だったが、鈴は展開装甲を多用していなかった。

 手にしていたスナイパーライフルから適当にレーザーを連射して手持ちの駒を増やしながら、セシリアは顎に指をあてた。

 

「現状有利ですわ。そちらは?」

『あんたは()()()()()()()()……絶対防御妨害装置への妨害装置がうまいことハマってなんとかなってるわ。もしカウンターし損ねてたら侵攻速度が75%は落ちてたでしょうね。簪様様よ』

「それはよい知らせですわね」

 

 度重なる絶対防御を無効化する装置の猛威に対して、簪は静かにキレた。

 一夏への対抗策である【コード・ブレイカー】と並行して製作されていた、アンチ・アンチ絶対防御システムとも呼べる新兵器。当然のように犠牲者が出るであろうカードを切ってきたテロリストに対して、簪は半ギレで新兵器を作動させ見事に無効化した。

 

「戦域全体での貢献度は間違いなく彼女がナンバーワンですわね」

『ほーんとね。ただ、絶対防御がなくても、ゴーレムの攻撃を受けすぎると具現維持限界(リミット・ダウン)通り越して生身で南極に放り出されちゃうから、そのあたりは注意してるわ』

「そもそも鈴さんのところまで侵攻できる敵は少ないでしょうに」

『ほぼほぼシャルロットが抹殺してるわ』

 

 剣呑な言葉だった。セシリアは前線に意識を向けた――縦横無尽に駆けるシャルロット・デュノアが、ゴーレムをその手に持つ対艦刀で真っ二つにして回っている。

 そう――()()()! 戦艦を一刀両断することを可能にする質量と体積を持つ変態兵器。

 シャルロットはそれを左右に一本ずつ持ち、背丈以上の大剣を軽々と振り回していた。

 思わず、驚愕の声がセシリアの口から漏れる。

 

「――『ソード・シルエット』!? まさかシャルロットさん、貴女、シルエットシステムを全て持った来たのですか!?」

『え? うん。一夏倒すならこれぐらい必要でしょ』

 

 通信はオープンだったので、シャルロットが平然と敵を切り捨てながら会話に参加した。

 シルエットシステム――デュノア社が次世代型ISを開発する上で一時取り組んでいた設計思想である。

 単一の機体を装備換装で様々な戦局に対応させる。今まで開発されていた換装装備(パッケージ)システムを見直し、より高度な特化型装備を用いて戦局を打開するという第三世代機の次を見据えた計画。

 これはIS条約におけるコア保有上限数の取り決めへの対策という側面も持ち合わせていた。単体のコアで複数の機体のような立ち回りができるなら、コアの数は問題にならなくなる。

 そう――展開装甲の存在を踏まえれば、ある意味()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一般的に、第四世代機最大の特徴である展開装甲のメリットは、装備の換装なしにあらゆる局面へ対応するという点だ。

 確かにいちいち装備を換装する手間が省けるならシルエットシステムの完全上位互換と言える。

 故に展開装甲の量産が可能となってからは、開発は中止・凍結されていた。

 

 そこに目を付けたのがシャルロット・デュノアだった。

 

「貴女の『リィン=カーネイション』には展開装甲があるでしょう!?」

『だって僕、()()()()()()()()()()()()()()()

『……うわー、出たわね。世界最強(ブリュンヒルデ)特有の意味不明な好き嫌い』

 

 織斑千冬は射撃兵装を好まなかった。更識楯無はアクアナノマシンを用いない通常兵装を好まなかった。

 それに連なるかのように、シャルロット・デュノアもまた展開装甲を好んでいない。

 

『ちょっと、おねーさんまで一緒くたにされるのは心外なんですけどー?』

『お姉ちゃんも……同じ穴の狢』

『あ、かんちゃん、いっとく? 久々の姉妹喧嘩いっとく?』

 

 オープン通信に割り込んできた更識姉妹が、瞬時に仲間割れを起こした。

 戦場とは思えない和気あいあいとした空気に、思わず嘆息が漏れる。

 

『まったく……攻略自体は順調だ。後門の狼がどうなっているかは、セシリア次第だが』

「ラウラさん。残念ながら順調ですわ」

『そうか。なるほどな。ところで……一夏のやつは、いつもこうして負ける寸前になってから、ひっくり返すのが得意だったな』

 

 貴女どっちの味方なんですの? という至極まっとうなツッコミを、セシリアはなんとかこらえた。

 ただ言われた内容には心当たりがある。あり過ぎる。

 負けが確定してもあがき続ける折れない心。

 それが奇跡を引き寄せる。ああそうだ、彼はいつも自分の方から、奇跡を掴み取りに手を伸ばしていた。

 

 ――セシリア・オルコットは織斑一夏のそういうところが、好きなのだから。

 

 油断も慢心もなく、ただ彼女は眼下の彼を見据えた。

 既に周囲で出番を待つレーザーは五百に届こうとしている。

 無防備な状態に撃ち込めば、絶対防御を飽和させることも可能。ましてや今、彼は絶対防御を起動できていない。死は確実だった。

 だが。

 

 貌がゆらりと、起き上がった。

 視線が結ばれる。背筋が震える。彼のギラつく瞳が、その奥に燃え盛る炎がセシリアの眼を捉えて離さない。『天眼』でも見通せないその最奥。

 

「鈴さん」

『……何よ』

「わたしくが駄目だったら、後は頼みます」

『ハッ――上等』

 

 それきり、セシリアは通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――思い、出した」

 

 痛みで脳がしっちゃかめっちゃかだった。

 

「ああそうだ……思い出したよ。そうだ」

 

 だからこそ意識は鋭く尖り、織斑一夏を覚醒させる。

 両手で地面を押し、上体を上げ天空の支配者を見上げる。

 身体から噴き出た鮮血が、白銀の大地を赤く染め上げる。構わない。

 

「俺は確かに、箒の敵だけど……()()()()

 

 吹き飛んだ装甲が身体に突き刺さっているのを強引に引き抜く。ISが緊急止血する。構わない。

 

「それでも譲れないものがある。箒の敵として、()()()()()()()()()譲れない――そして、そんな俺を信じてくれている人もいる」

 

 クリアになった思考が、先ほど精神攻撃ごときで揺らいだ自身を叱咤する。

 行け。行け織斑一夏! 自分を鼓舞する声は自分の内側から湧いて出てくる。

 

「なら応える。何を犠牲にしてでも。どんなに重い運命でも背負う。だって――信じてるから。俺の選択は絶対に間違っていないと、それこそが明日を切り拓くと信じているからッ!!」

 

 宣誓だった――世界で唯一ISを扱える男子が、地面に突き立てられていた愛刀を引き抜き、立ち上がる。

 切っ先をかつての級友にして愛する女に突き付け、悪鬼の如き表情で彼は叫ぶ。

 

「セシリアッ! そこをどけ、邪魔をするなァァァァァッ!!」

 

 二段階加速(ダブル・イグニッション)――度重なる過負荷にウィングスラスターが火花を散らす。構わない!

 明日のために。愛と希望のために。他ならぬ篠ノ之箒のために。

 織斑一夏はテロリストとして勝利し、テロリストとして死なねばならない。

 雄たけびを上げ突っ込んで来る愛する男をターゲットサイトに捉えながら、セシリアは歯噛みした。

 

「では――撃ち抜きます。貴方がそんな世迷いごとを二度と喋れなくなるように」

 

 縦横無尽に駆け巡っていた光の線が、ここに来て一斉に彼へ牙を向いた。

 充血した瞳でそれらを見定め、一夏が突撃する。

 刀を振り回し――閃光が飛散する。

 

 セシリアが目を見開いた。

 

(エネルギー・ウィングが……展開されていない……ッ!?)

 

 文字通り、全てのレーザーを一夏は叩き切っている。

 それがどんな方向であろうとも。真上真下背後全てを、如何なる原理か雪片弐型の刀身で弾いている。

 馬鹿げた光景だった。あり得ない。不可能だ。

 不可能を可能にするからこそ、この男は相手取りたくないのだ。

 

「ええいっ……! 全砲門斉射(フルバースト)ッ!」

 

 ここに来てセシリアは新たなカードを切った。

 レーザーを垂れ流す装置と化していた、装甲各部に搭載されているビットがのそりと顔を上げ、浮き上がり、自律して銃口を一夏へ向ける。

 偏向射撃による全方位からの絶え間ない攻撃、それはある種のリズムとなる。

 そこにセシリアは毒を仕込んでいた。リズムに乗せて、攻撃に対する迎撃を操作する。『天眼』を単一の敵に絞って行われる曲芸。

 タイミングを計る――発射。

 前方から計四門のレーザーが飛び込んできて、果たして彼は対応するだろうか。

 

「ルアアアアァァッ!」

 

 振るわれた剣筋を正確にセシリアは見ていた。一刀で三発、切り返しで他の偏向射撃とまとめて一発。無事対応された。

 そして崩れたリズムは、一転して彼の味方となる。

 わずかに薄くなった前面のレーザー包囲網を突き破り、一夏が迫る。

 シールドビット展開――だが止まらなかった。セシリアの『天眼』は、楯ごと切り裂かれる自身の幻影を予知した。

 剣域まであと一呼吸。

 

 

 

「――――かかりましたわ」

 

 

 

 策を弄した。

 対策を講じた。

 そしてそれを、全て乗り越えられることを、セシリア・オルコットは冷静に予期していた。

 自信のなさではない――純然たる、客観的な評価に基づく敗北の未来。

 だが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六基あってよ!」

 

 

 

 

 

 脚部装甲が展開され、放たれるのはミサイル型のBT兵器。

 一夏が目を見開く――戦役時には効率面を見てレーザービット型に変更されていた。初速の遅さから装備していても撃つはずがなかった。結果として頭から抜け落ちていた。

 既に減速は間に合わない。超高速で真っ向から、ミサイルへと突っ込む。

 弾頭に搭載された火薬がチリと火を起こし、瞬時に鉄をも砕く威力を秘めた爆炎へと変貌する。

 至近距離の大爆発。セシリアが瞬時に呼び戻したシールドビットが彼女を守る。

 

(…………申し訳ないとは思っています。騙し討ちに舌戦に、卑怯な手を全て使わせていただきました)

 

 それでも勝つしかなかった。

 負けるわけにはいかなかった――彼の凶行を止めるために。

 これから償ってほしいと。

 自分の犯した過ちを清算してほしいと。

 そうセシリアは祈りを込めて、墜落していく一夏を見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――まだだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零落する英雄に寄り添うような業火の翼。

 自身のすべてを燃料に変換して、彼は羽撃(はばた)く。

 撃たれた? 爆破に巻き込まれた? だからどうしたまだ心は折れていない。

 前へ進まなければならない、犠牲にした人々のために、平穏を享受するべき人々のために、この心は依然として燃え盛っている。

 

 その姿は正義の味方からは、かけ離れていた。

 何度でも告げよう。

 

 織斑一夏は、悪の敵である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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