生きる事は悩むこと   作:天海つづみ

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足りないもの3

 

 パティ「寝る?」

 

 アルト「そう、寝る」

 

 

 

 

 数秒……

 

 

 ボンと音が聞こえそうなほど

 耳まで真っ赤になり

 

 「ねねね寝るというここ行為ははいいい

 わゆる睡眠とはことなるあああのような

 ことを指さしわわわ私じじ自身もそその

 興味がなないととわいいい言いきれず

 おおおおお兄ちゃちゃんををったたす

 助けるためななななら……」

 (早口、裏声、状態異常 混乱)

 

 アルトはパティの肩を掴み揺さぶる。

 「ゴメン言い方悪かった!戻れ、戻って来て」

 (この子耐性なかったかぁ)

 

 

 

 

 

 「落ち着いた?」

 アルトは困った顔で聞く

 

 「すいません取り乱しまして…」

 恥ずかしそうに座り直し

 

 「ただ抱きながら寝る…と?」

 不思議そうに聞く

 

 「そう頭を撫でながらだと

 もっと良いかも、

 とにかく触れてやって」

 

 アルトはパティを真っ直ぐ見て言う。

 

 「親子が寝るように寝るっていうか、

 クロフがアンタにしたようにっていうか、

 昔みたいに」

 

 

 「アンタが貰った物を

 クロフにあげるんだ」

 

 アイルーの親子の話をすると

 

 「納得出来ます、私やってみます」

 真剣な顔で

 

 「ただ」

 パティは顔を隠す

 

 「ただ?」

 

 「その…その先まで求められ…あの…

 私…」

 真っ赤で俯く

 

 「い…いや自分の子供だと思って

 抱いてくれれば良いから…」

 アルトも下を向くしかない。

 

 無理やりだけどなぁ

 

 嫌いじゃないみたいだし

 最悪そうなっても、

 

 いや最良かも。

 

 「ところで気になった事があるんだけど

 いつもクロフが帰る時なんで悲しそうなの?

 あとお兄ちゃんって?」

 

 「見てたんですか?」

 顔を上げる

 

 「元々お兄ちゃんって呼んでいたんですが、

 一年位前に研修から帰って来た時から

 呼ばなくなりました」

 

 「ギルドマネージャーの研修か」

 

 「その…帰って…お兄ちゃん見たとき…」

 

 「見たとき?」

 

 「なんだか…凄く寂しそうな…

 泣いてる…子供…みたいな」

 パティは顔を覆う

 

 「それからお兄ちゃんって呼ぶのが

 何か……全然笑ってくれなくて…」

 

 パンと胸の前で手を叩く

 「そうかアンタは見えてるんだ!

 アタシもようやくイメージ出来た!」

 

 

 「昨日道具屋で見たクロフは

 そのまま大人になっただけだ」

 

 「昨日の?」

 

 「あぁ、膝を抱えて泣いてた」

 

 「パティは外の世界を見て成長した、

 クロフは小さいまま置き去りになった」

 

 「私が、お兄ちゃんを置き去り…」

 泣きそうなパティ

 

 「追い付こうと本を読んだ、

 外の世界を知るために」

 

 「あの部屋は自分で自分を

 造ろうとしたんだ!」

 

 「だから最初に会った時、心が空っぽに

 見えたんだ!」

 

 距離の取り方が解らない

 人との接し方が解らない

 そして

 何とかパティに追い付くように

 本で壁を作った

 

 だが本当に自分を最初に認識するのは

 言葉のいらない親のスキンシップだ。

 

 

 最初が無ければ積み重ねられない、

 空っぽだ。

 

 

 

 よし、後は確認。

 

 

 村長と話す

 「クロフを誉めたこと?

 ヤハハ、いっぱいあるよ」

 

 「どうやって誉めたか?」

 

 「良くできたね…とか?」

 

 「口で言えば分かるよ」

 

 やっぱり言葉だ!

 

 

 店番のヨシに聞く

 「昨日の話かい?あぁ口で誉めたぞ?」

 

 「頭を撫でたりしたこと?」

 

 「姐さんよ、あんまり言いたくない事だ、

 どうしても聞きたいか?」

 ヨシの目がきつくなる。

 

 「俺もメヒコも戦の時代の人間だ、

 人に言えない事もしてきた」

 

 「血塗れなんだよ、俺達の手は」

 

 「まぶしいんだ、クロフとパティは」

 

 「村中の希望だ

 俺達の手で触れるのはいけねぇ」

 

 「それに最初、二人を除け者にした」

 

 「バカなことしたもんだ」

 

 「あいつらには穢れて欲しくねぇ」

 

 

 村長は言葉で十分と考えた、

 道具屋は罪の意識で触れられなかった

 パティ以外はクロフに触れた事が無い!

 

 

 クロフはこうして出来たんだ!!!!

 

 

 

 

 

 夕方、船乗りも行商人もいないギルドは

 数人の村人だけ。

 

 「ドスランポスまで狩るとは

 流石に師匠が四英雄だよ」

 

 「アッハ!あいつ自身の努力を認めて

 やってよ」

 

 「あのガリガリだった小僧が…

 立派になったもんだ…」

 

 「あぁ、なんか

 最近言った事に反応するしな」

 

 「ところで、なんで姐さんが料理?」

 

 「アッハ!パティは取り込み中でさ」

 (湯浴み中とは言えんわなぁ)

 

 

 

 日はすっかり落ちた、皆家に帰って行った。

 パティはソワソワ落ち着かないが、

 クロフは何も気付いていない

 

 ギルドにはクロフと三人のみ

 小さな篝火が揺れる

 

 「ハンターになったんだから

 たまにはそこで寝てみな」

 

 言われてハンター小屋に入ってみる、

 道具屋とほとんど変わらない質素な

 部屋。

 違いは大きな鍵の付いた箱

 アイテムボックス

 後はベッドのみ

 本も無いし仕事もない、

 

 装備をはずして伸びをする

 

 クロフは寝るしかなかった。

 

 

 

 

 しばらくしてパティがこちらを見る、

 

 アルトが頷くとハンター小屋の前で

 立ち止まり、

 大きく息を吸い込んで小屋に入っていく

 

 「ヤ!今はクふぉふがふ」

 アルトが村長の口を押さえる。

 

 

 

 

 

 「ヤー、そういうことですか」

 

 「そ、邪魔しないの」

 

 「多分正解なんでしょうね」

 

 「これで外れてたらパティに何て言おう」

 

 「ヤ、気にする事はありません」

 

 「アンタにとって損は無いしな」

 

 「ヤハハ、それはまたなぜ?」

 

 「この村で最初に異常を感じたことがある、

 ハンターが来た時、獲物を捕ってきた時、

 真っ先に寄ってくる存在がいない」

 

 「バレてますか」

 

 「バレバレだっての、

 子供が一人も居ないじゃん、

 あの二人に子供ができたらベストだろ?」

 

 村長は頭を掻いている。

 

 「いずれは新しい世代の

 村長にする気だろ?」

 

 「ヤー、敵いませんね」

 

 

 

 

 暗い部屋

 誰かが入ってくる。

 

 (………あれ?まさか師匠?)

 クロフは起き上がるが

 

 

 

 「……お兄ちゃん……」

 

 パティ!!!

 

 「な…な何?」

 

 「昔みたいに一緒に寝ようかなって」

 

 「あ…あ…あの、え…えっ」

 

 衣擦れの音、ギルドスタッフの

 ヘルパー装備を脱いでいる

 

 クロフは思わず背中を向ける

 

 「お邪魔します」

 ベッドに入ってくる、

 覚悟を決めると女の方が強い

 

 横を向いたクロフの背中にくっつく

 

 「あったかい、いつもみたいにして」

 

 「いい…いつもみたいにってて?」

 

 「こっち向いて」

 クロフは向き直る、パティは胸に

 しがみつく

 

 「ずっとこうだったよね、

 私が泣いた時とか、お腹空いてたとき」

 

 「そそそうだっけ」

 クロフは小刻みに震える

 

 「辛かったよね、私が遠くに行って」

 

 「……うん」

 

 「村の人も皆怖かったよね」

 

 「うん」

 

 「でもね?今は皆お兄ちゃんが

 好きなんだよ」

 

 「それは…」

 

 「お兄ちゃんだって

 ホントはわかってるよね」

 

 「うん…………でも」

 

 「でも?………なぁに?」

 

 「そ…そしたら…前の、」

 

 「前の?」

 パティは上目使いになる

 暗さに目が慣れてきた

 

 「小さい…ころ…辛かった…のに」

 

 「誰も助けてくれなかったのね」

 

 クロフはまた背中を向ける

 

 大の男が慰められる情けなさ、

 プライド、

 自分より小さい、いや、小さかった存在、

 だけど嬉しさ、

 色々な感情がこみ上げる、

 押さえていた感情。

 

 パティを抱えて自分が泣けなかった

 あの日々。

 

 「うん……えぅ…あう…うあぁぁ」

 

 もっとワガママで

 もっと泣いて良い筈のあの頃

 

 パティはクロフの頭を胸に抱く

 頭を撫でながら

 

 「辛かったよね、ずっと辛かったよね、

 なのに私を見捨てなかったよね、

 ありがとう、いっぱいありがとう」

 

 「だ…ぇど…いば…ゆづ」

 

 しゃくり上げながらクロフはパティに

 背中を向けて泣く

 

 パティは背中を抱きながら撫でる。

 

 お兄ちゃんと、

 いつも木の根元の穴で寝ていた、

 

 お兄ちゃんは私を穴から出してくれた、

 

 今度は私が引っ張り出す!

 

 クロフはずっと泣いている

 パティは撫でる、母親のように。

 

 「偉かったねぇ、頑張ったもんね」

 

 

 

 

 

 「これで器が出来たかなぁ」

 

 「え、器ならもうできてません?」

 

 「えっ?」

 

 「ヤハハ、いつも無表情のクロフが

 感情を表し始めてるでしょう」

 

 「???」

 

 「何かしたんですよね?誉めても

 クロフはいつも無表情なのに

 昨日は走りだしましたよ?」

 

 「え?…えぇっ!?」

 

 「頭を撫でられて嫌そうに

 照れてみたり」

 

 「え?あれ?あれ?アタシ何かしたっけ?」

 

 

 ヤハハ、たった一日で

 ただいまっていった

 止めてください!

 嫌だ

 

 「アタシか?」

 

 触れてやる…

 

 グリグリ撫でる…

 

 「アタシかあぁぁぁっ!???」

 

 じゃあパティは何の為に…

 何て言い訳しよう…

 

 

 

 

 

 「アルト?アルトって言うんじゃな!」

 「じはがげんだな」

 「綺麗な字だ」

 「よし!オメェは今からドンドルマの子だ!」

 

 グリグリ頭を撫でる

 喋れない少女は思う

 

 『アタシはここに居ていいんだ』

 

 でかくてゴツい手で撫でられるのは

 ちょっと痛いけど

 

 「温かかった、バカだなぁアタシ、

 自分も通った道じゃんか」

 

 言葉じゃないんだ。

 

 そして気付かぬ内に

 同じことしてたんだ。

 

 

 

 あれ?それじゃまるでアタシが母親じゃ…

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 アルトは早起きしてギルドへ

 

 「お…お早う」

 (うわー聞き辛い)

 

 「あ…お早うございます…」

 

 「こんなこと…あ、あんまり聞くことじゃ

 無いけど」

 

 「ああああのなにも…

 何もないです…」

 真っ赤で下を向く

 

 「そ、そうか、ありがとうパティ」

 

 ハンター小屋からクロフが出て

 ギルドへ来る

 「お…お早う…」

 

 パティと顔を会わせたとたん

 二人とも真っ赤な顔で下を向いて

 言葉を発しない。

 

 (うっわこの空気はもう恋人同士じゃん、

 分かってたけど、なんか腹立つ)

 

 「クロフ、何か行ってみたいクエスト…

 ってもランポ」

 

 「クック…」

 

 「えっ?」

 

 「クック行きたい」

 

 自信と動機…

 

 (マズイ…へんに自信ついたか?)

 

 アルトはクロフにそこで待ってろ、と言うと

 パティと共にハンター小屋へ。

 

 男に一晩で自信を付ける方法は

 女ならもってるが

 

 「ホントに何もなかった?」

 

 「はい、朝になって起きたら凄く

 恥ずかしくなりましたけど」

 

 起きたらお互いインナーだけで

 抱き合ってたら無理もない

 

 「ゴメン、アタシの思い付きで」

 

 「私もお兄ちゃんにお礼言えたし

 良かったです」

 

 「ただひとつ、クロフに言い含めて

 欲しい事があるんだけど…」

 

 

 

 ギルドでクエストの許可を得る

 

 「クロフ、自分で思い付く道具持ってきな」

 レザーXとグロンド・ギガで装備を

 終えている。

 

 クロフはあれこれ選び、持っていく

 

 

 

 

 

 森と丘のキャンプ

 「さて、何持ってきた?」

 クロフは道具屋の知識がある

 割りと的確

 

 「よし、回復薬、砥石、こんがり肉

 この三つは絶対に必要、柱だ、

 どんなクエストでもだ!」

 

 「そして必要ならハチミツと調合書」

 

 「ペイントボール、閃光玉」

 

 「こんなとこだ、質問は?」

 

 「音爆弾が有効…だと」

 クロフはポーチから出して見せる

 

 「んー支給品のだけで良いわ、

 それからアタシは一切攻撃しないよ?」

 

 「はい、やってみます」

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマ

 伝書鳩の小屋、鳩が飛ぶたび羽が舞い

 ホコリっぽい中、

 女性のギルドスタッフが手紙を

 次々取り出していく。

 

 

 

 ドンドルマ、ギルドマスターの部屋

 豪華な敷物にモンスターの牙や角が

 ズラリと並ぶ。

 

 「ホッホッ、ベッキーよ、

 良いクエスト有りそうか?」

 

 小さな竜人のギルドマスターが聞くと

 

 「緊急依頼も含めて今日も順調です」

 ベッキーは手紙を読み、続ける

 「ひとつだけ真意の解らない手紙が」

 

 「ホッ?読み上げてくれ」

 

 ベッキーが読む

 「御依頼の件、滞りなく、ジャンボ村」

 

 「アルトめ、頑張っとるな」

 ギルドマスターは笑う

 

 「あら、それって姉さんに弟子を

 持たせる計画ですか?」

 メイド装備で人差し指を口へ、

 内密な内容らしい。

 

 ベッキーは目を細め笑う

 

 「左様、うまくいっとるようじゃ」

 

 ベッキーは手紙をもう一度見る

 なんだか余白が多い

 不審に思いランプの火にかざすと

 

 「つきましてはジャンボ村特産キノコを

 中央相場の二割増しで今後は

 買い取って頂き…」

 

 「マスター…これって…」

 

 「あヤツめ……しっかりしとんのぉ」

 

 やれやれとパイプを吹かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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