「ただいま」
「おかえり、お兄ちゃん」
「おかえりなさい、アルトさん、
手紙…来ましたよ」
パティが持ってくる
「7日で来るとは早いな」
「ヤ、これなんですが…」
小さな入れ物から巻き紙を取りだし
アルトに渡す
村中が注目する
封蝋を開ける
「王都に帰投しろ…か」
やっぱり……皆肩を落とす
「交易船はまだ数日は来ませんよ」
パティが心配そうに気を使う
「飛行船を寄越すってさ、明日森と丘に
着陸する…準備しなきゃね」
行っちゃうのか…
「クロフ、手伝いな」
「ボウガン、勿体なかったですね」
「仕方ないさ、アンタが無事ならそれで
いいじゃん」
笑いながら言う
G級の武器はとんでもない値段だと聞くが
「それよりさ、アンタの武器頼んであげる、
ハンターナイフ改しかないんだろ?」
チーフククリも落としてきた
「素材はありますが…」
「だからお金出してあげるよ」
「え…そういうの良いんですか」
「甘えて人を当てにするような
人間じゃないからね、
アンタは遠慮を知ってるから
調子に乗らないし」
あれから数日、村は落ち着き、
行商人の話によると、隣村にも被害はなく
途中で痕跡が消えているとのこと。
「毎回こうだよ、突然現れちゃあ
何処かに消える」
「分からないんですか…」
「突然地中から現れたって話が
あるほかはほとんどね」
空を指さし
「翼は無いんだから地面しかないはず
なんだよなぁ」
「村長、アタシの素材さ、現金化できる?」
「ヤ、十分ありますよ」
「荷物減らしておかないとね」
「そうか、姐さん行っちゃうのか」
村の人達も残念に思っている
「さて、まだ日が高いし密林の様
子でも見に行こうか」
「ヤ、オイラも行きます、もしも狩場を一つ
失うとなればこの先大変ですから」
振り返り
「じゃパティ、あとは頼んだよ」
いざとなったらパティの合図で村は
一斉に避難する手筈になったそうだ、
なんと、この歳で村長代理
密林7番
「アッハ!無事に育ってる」
雛たちは羽をパタパタやっている
「親が逃げたらどうなるんです?」
「ヤー、さすがに他の肉食に喰われるかな」
リオス夫婦は見えないが健在だろう
ここ数日、夫婦が混乱してないか
心配だった
7番は良いとして
三人は3番へ入る
「ヤー、サッパリしちゃったな」
視界を遮っていた木々は根元から
折れ、踏み潰されている。
「アッハ!尻尾でみんな
キレイに掃除されてるわ」
一面の泥と泥濘、
空まで覆っていた緑は消え
一面茶色の平地になった
「笑い事じゃないですよ」
ここにはハチミツもあったしファンゴや
獰猛な猿、コンガなども来る場所だ、
昆虫類も豊富で不死虫なども捕れた
昔パティと二人の時も良く来た
「村の収入が…」
クロフにとって子供の頃から採取を通して
慣れ親しんだ場所だ、
その風景が一変するのは何か寂しい。
「ヤハハ、ラオシャンロンとなれば、この
場所だけで済んだ事を幸運に
思うべきだよ」
「アッハ!本当」
クロフに向き
「村を通過したら最悪全滅だってありえる」
だから天災
生態不明、正体不明の古竜の中でも
最大級の龍だ
「あ、ボウガン」
クロフが見つけた、拾い上げる
「えっ?」
見ると泥の中から半分ほど出ているが
クロフが持ち上げると蝶番の後ろ側が無い
「まっ、仕方ないさ、
さて村長、クロフ、大事な話だ」
「ヤ、クロフをドンドルマへ
行かせるのは賛成しますよ」
「俺も行きたいです」
「よし、だけど条件を出す」
「条件?」
「あのガノトトスだけは狩ってから
村を出るんだ」
「あのデッカイの!?」
「村や家族の不安要素に立ち向かう、
それは一人前の人間なら誰でも
やってる、アンタも自覚してるじゃん」
「…そうですか?」
「ヤハハ、気付いてないんだ?
このエリアを見たとき、さっき何て
言ったか分かる?」
「?」
「ヤ、村の収入って言ったんだよ、
もうクロフ、君は人として村の一員として
村を守ろうとしてるよ」
パティと同じかそれ以上に
(前から思ってたけど…その時は…
道具屋のため?…自分のため……
だったかも)
次の日 森と丘は晴天
中央のエリア4に飛行船が降りている
「初めて間近で見たぞ」
「こんなのが空飛ぶとはなぁ」
村中が見送りに来ている。
「アルト殿、お早く!!」
小さな竜人が上から呼び掛ける。
青くて何だかカッコいい装備の
男がいる。
「お荷物お持ちいたします」
その様子を見る限り、アルトが社会的立場が
高い人物なのは容易に見て取れる。
「アッハ!ゼニスじゃん、何よ
代わりにアンタが追跡?」
「はい、ラオシャンロンの追跡
調査の司令を受けました」
ゼニスと言われた男は荷物を
積み込むと飛び降りる。
アルトが乗り込み上から言う
「クロフ!無理はしなくて良いからな、
ガノトトス倒したら交易船に乗りな!」
「本当に色々ありがとうございまじだ!」
パティは泣きながら手を振る
「ヤハハ!またぜひ来てください!」
「村長、ホントはじいちゃんからの
依頼だろ?」
「ヤ、なぜ?」
「なんでドンドルマの伝書鳩が
常備されてんだ?」
「ヤー、バレましたか…」
「師匠!追いかけます!!」
「あぁ!!必ず来な!!」
アルトは上から手を伸ばし拳を作る
「?」
「アンタも!別れの挨拶だ!」
クロフも拳を作り手を伸ばす
拳をぶつけて
「また会おう!!」
「はい!!」
飛行船はゆっくり上昇すると、
西へ向かって飛び始めた。
「姐さーんまた来いよー!!!」
飛行船が小さくなる
「さて、早速仕事に取り掛かりたい」
ゼニスと呼ばれた男が言う
「ラオシャンロンを見た方は?」
クロフより少し背が低い、声は高い、
パティと同じか?15歳位だろうか
「はい、俺です」
「お弟子さんでしたか、見た場所へ案内を」
夕方、ゼニスが戻って村へ来た
「ヤ、ゼニスさん、何か分かりましたか」
「いえ、密林から東へ走りましたが、
やはり痕跡は途中で…」
「あんな大きいのに…」
クロフが見た限り200メートル位
この村より大きい
「道端から推測する限りですが、
全幅で50メートルほど有るかと」
どうやらもっと大きそうだ
「ヤー、ゼニスさん今夜はこの村に滞在
されますか?」
「よろしければ御厄介になりたいです…」
「じゃ何か話してよぉ」
村の女達が言う、
パティもビールを持ってくる
装備のせいか、話し方か、
まだ若いのにキチンとした物言い、
顔は帽子であまり見えないが中性的で、
メリハリのある立ち振舞いは、
私服のアルトを思い出す。
「あ、私は酒は…」
「一杯位付き合いなよぉ」
「じゃあ一杯だけ…」
クロフはほとんど酒は飲めない…
「あたしゃあですねぇ!こおぉうみえてぇ…」
ゼニスはベロンベロンに酔っている
自分より弱い人を初めて見た…
「たった一杯でこれぇ?」
女たちも呆れている
ヤ、今夜は解散で!と村長は皆を帰し、
ハンター小屋へゼニスを運ぶ
「さて、もう良いでしょう?」
村長は静かに話す
ゼニスは笑う、クスクスと
「ヤハハ、昼間は上手かったですね、
あれなら飛行船に『乗って来た』と
誰もが思うでしょう」
「敵いませんね、人の目は誤魔化せる
んですが」
「で?クロフは合格ですか?」
「はい、ご心配なく」
まだパティと同じ位に見える童顔
「ヤハハ、正体晒したのは…」
「警護対象が帰還されましたから」
「ヤー、驚きましたよ、本部のあなたが
アルトさんと一緒にこの村に
来るんですから」
「自信有ったんですがね、行商人、
アルト様にもバレなかったし」
帽子をかぶり直す
「で貴方はどんな依頼を?」
村長の目が珍しく鋭くなる
「解ってるでしょうに…」
金髪を三つ編みにした髪を揺らす
クスクス笑っている
「ギルドマスターもヒドいな、アルトさんに
弟子を持たせる依頼したくせに、
気に入らなければ…………」
「ま、一人目の弟子が酷くて
粛清されましたから」
「貴方が……?」
「いえ、上司が、私は歳が…」
「ヤー、あの子は今から幸せに
なって欲しいんですがね……」
「あなたがココの南で起こした
戦乱の犠牲者ですものね」
「どうか………命は……」
「アルト様の名を利用しようなんて
考えたら遠慮なく………」
ゼニスはギルドナイトセイバーの柄を触る
「あのお方は四大英雄の娘にしてアルマ
の孫、そして王立直下ですから、
後ろにいるお方達の権力たるや……」
「恐ろしい人の弟子にクロフは
なったもんだ……」
村長は腕組みして天井を見上げる
「孤児に弱すぎて…助けますから」
「ヤー…本人は自由奔放だからね」
「お陰で我々は心労が絶えませんよ」
あどけない顔でニコリと笑う
明くる朝
回復薬、シビレ罠、ハチミツ…
「強いんでしょ?そのガノトトス」
パティは困った顔
「うん、でも一回だけ避けられたんだ」
ヒントは掴んだような
ギルドで準備していると
「クロフ」
「アキシさん、どうしたの?」
「姐さんから頼まれた品なんだが…」
大きな布を捲る
「これで良かったのか?」
フルミナントソード!!
「え?大剣?なんで…???」
首をかしげる
「確かにこれ作ってくれと…」
こっちも首をかしげる
「お兄ちゃん、大剣できるの?」
パティも首をかしげる
「大剣使えってこと……?」
「それから伝言だ、走って抜刀斬り、前転、
納刀、で走れ?」
アキシは小さな紙を見せる
ホントにそれしか書いてない
あ、そうか、初日にやったあれだ
森と丘のキャンプで散々やった基本の動き
「ありがとうアキシさん、解った」
「これで解ったのか?」
「うん、師匠らしい」
「行ってらっしゃい、無事で…」
泣きそうな顔をする
「大丈夫、無理だったら逃げるから」
パティに見送られる
ブオオオオン!!!!
ガード!切っ先を地面に着け斜めに!
「ガシュッ!!!」
重みのせいかガードが片手剣より楽!
腕が痺れない!
その代わり………
足の間に走り込み、
「おいしょー!!」
抜刀斬り、前転
「あわわ!」
急いで納刀
「うおぉぉぉ!!!」
全力で走る
ブオオオオ!!……
後ろから尻尾のヒレ!!!
緊急回避!!泥だらけになりながら
また走る
一回しか攻撃できない!
連続攻撃は無理!!
泥だらけで不様に走り回る
属性のお陰か、たまにトトスの動きが
止まるが……
思い出す、一人でランポスを3頭狩った
あの時を。
3回位斬ったら隣のエリアに逃げるを
繰り返す!!
おやおや、無駄な動きの多いこと♪
しかしこの人、独り言多いですねぇ
2番の坂道から見下ろすゼニス
頭に当てる技術などないし
典型的な素人、しかし一度したミスは
覚えているようだ、これなら大物
になれるか………?
ガノトトスが体を引く
「あっ!!!」
「ドンッ!!!!」
白とタマが運んでいく
…愚直過ぎて…助けてあげたく…
なりますね………
いやいや、服務規程違反です、
監視に徹底
キャンプでひたすら基本の動きを繰り返す
この前一回だけ回避できたんだ、
あれをもう一度…
回復薬グレートの調合、肉を食べる
居た、隣の4番、シビレ罠を置く
飛び出し這いずり!ガード!
尻尾!頭方向に回避!
体を引く
ここだ!!!狙うはガノトトスの頭の方!
右前方へ回避!!!
「ブオッ!」音を立てて空振り!
後ろから振り下ろす、怯んだ!
ついでに横凪ぎ!
出来た!!!回避!!!
もう怖くない!!
ブオオオオン!!!
いやまだこれが!!
シビレ罠を踏みトトスが止まる、
頭へ回り振り下ろしから斬り上げ!
繰り返す!
罠から解放されると一瞬首を持ち上げる
これって!?
反射的にガノトトスに向かって走る!!
ブシュウーー!!!
高圧の水が、すぐ横を飛んでいる
頭!低い!止まってる!!!
頭に抜刀斬り!!!
突然トトスは倒れる、
動く気配はない……
「勝った………?」
30メートルはあるかもしれない生臭い
巨体の横、ゼイゼイと息をする。
疲れで足がガクガク、
大剣を杖にする。
「貴方の勝ちです」
パチパチと拍手しながらゼニスが
現れた。
「ゼニスさん…寝ていい?」
「は?」
「ドシャッ!」
クロフはそのまま波打ち際に倒れ込み
動かない、寝ている。
限界だったんでしょうねぇ、まったく、
半日近く走りっぱなしでしたし…
憎めないひとですね、悪意がないし
欲もない
人を騙そうとか貶めようとか日陰の感情
がない上、闘争心も薄い
四英雄の弟子になったというのに
功名心もない
私に対する最低限の警戒心すらない
余程の大物か大バカか…
野心ってものが欠落してるのか?
こんな男は見たことない。
「いけない、私に感情は必要ない」
始末する必要はないな
半月後、
「行ってきます」
クロフがドンドルマに旅立つ
「ヤー、辛くなったらいつでも帰っておいで」
村中が見送る
「お兄ちゃん、待ってるからね」
パティが抱きつく、船員達からは
敵意よりも冷やかしが飛ぶ。
「クロフ、あのな…」
ヨシとメヒコが近付く
「その……なんだ……」
二人とも言い淀む、本当の親子であれば
それなりの別れになるだろうが…
「おじさん、ハンター始めた日に釣り
した時、俺にありがとうって言ったよね」
「あ……ああ」
「俺の方こそありがとう、いっぱい
教えてくれて、ずっと先生だったよ」
「そうか…そうか分かるか……」
涙ぐむ
「おばさん、ここまで大きくしてくれて
ありがとう、普通に生活できることって、
支えられてる事だった、俺、気付けたよ」
「通じたねぇ…」メヒコは顔を覆う
「道具屋、続けてよ?俺が帰る場所
だからね、帰る家だからね」
ぎこちなく二人と抱き合う
「村長、お願いが」
「ヤー、なんでも」
「村の拡張は良いけど、藪の中の木を
残して貰いたいんだけど」
「お兄ちゃん、大丈夫!私が見てるから」
今日は泣かない、そう決めた
「時間じゃ!錨を上げぃ!!」
船長の声が響く
「道中は私が付き添います」
ゼニスも一緒に乗り込む
船が動き出す
村中が手を振る、岸から離れる
俺、ここが好きだったんだ…
嫌な思い出から始まったけど…
たくさんのモノを貰ってた…
それに気付けなかった…
涙が止まらない
振り返り手を振る
思いっきり叫ぶ!
「行ってきます!!父さん!!母さん!!」
10年家族の真似事だった
偽物の親子だった
でも与えられたモノは本当の親子だった!
赤の他人の子供を引き取り、多くの
愛情をくれていた
バカな子供は拒否し続けて
感謝の一つも出来なかった
それが分かる、分かる人間になれた!
ヨシとメヒコは泣き崩れる
無駄じゃなかった、今までの日常…
戦乱から村造りの苦労、
クロフを育てた事で得られたモノ…
今すべてが報われた。
ジャンボ村が報われた。
「いっでらっじゃぁああぁぁ…」
パティが泣き出す
恋人なんて軽いモノじゃない
兄妹であり、お互いが親であり子でもある
言葉をいくら並べても表せない絆がある
許された…今この村の罪が許された…
オイラの罪が許してもらえた、
村人の罪が許してもらえた、
大丈夫!この村はもう人だけで歩ける!!
オイラも…………