遠いような近いような……ボウガンの
発射音が朝霧の谷間にコダマする
……始まった……
エリア1には高台があり、
そこから射撃するそうだ
クロフ達近接部隊はエリア2で待機中
「フム、下位は全員最前列!!
戦う資格があるか見る!!」
ガルダが指示する
「私が一番手よ!!」
カンナは人を押し退け、
太刀で真ん中に陣取るが
「おいおい、おめぇ一人じゃアブねぇ」
イシズキが双剣でズイッと寄る
「二人とも、そんな時じゃないでしょ」
「「マリンこそ♪」」
まだ薄暗い霧の中、
ボウガンの音が減って行く
緊張する………もうすぐだ……
ガリガリガリガリ……
何かで岩を削る音が続く、
両側の壁に触れるほどデカイ存在
霧の中に巨大なシルエットが浮かぶ
「来たぁ!!」
カンナは太刀を抜刀
「やるぜぇ!!」
イシズキも双剣を抜き構える
下位達が一斉に抜刀する
いつもの4人ではない、
ギルドのほぼ全員、怖いものなどない。
ズシン……
一歩一歩近づいて来る
この感じ…この振動…
アイツだ、間違い無い…
一歩……また一歩……
ズシン……
三人とも……いや、クロフ以外の下位は
全員武器を構えていた。
霧の中にある大きな影を斬ろうと
聞けばこのモンスターは歩くだけ、
ただ歩くだけで攻撃し放題だとか、
有名になれる!!英雄になれる!!
影が霧を出る
蒼い巨大な顔が霧を突き破る!
下位は正面から見ているはずなのに、
理解するのに数秒を要する
顔……?え?……これ顔だけ?
頭だけでこんなに…
頭だけでこんナニデカ…イ……?
歯をガチガチ鳴らし膝をつく
眼前はラオの顔で視界が一杯、
なのにまだ切っ先は全然届かない!!
それが証明する圧倒的な存在の差!!
生命力の差!!その距離!!
自分たちの常識なんてモノは
通用しない……
下位達はそのまま固まってしまう。
空……朝のぼんやり白い空……
あれぇ……私……ラオ……
「うわぁ!!」
カンナは飛び起きる
「あれ、私今……?」
横を見るとゼルドとガルダが、下位の
ハンター達を後ろに倒して行く
前を見たまま固まった下位が
面白いように後ろに転がり空を見る
「「うわぁ!!」」
イシズキとマリンも起き上がる
思い出すクロフの言葉
「動けなかったぁ!?」
カンナは笑う
クロフが初めてラオに遭遇した
時の話を聞く
「なっさけなぁい」
「ただ歩くだけらしいじゃねぇか?」
片方の眉を吊り上げて
「信じられないな、クロフがそこまで」
マリンは真剣に聞く
「腰が抜けたってやつぅ??」
クロフを笑うカンナ
さすがに理解する、
腰抜かした……私……
イシズキとマリンを見る……
お互い同じ事を考えたようだ、
三人で苦笑い
生物としての格が違う、レベルが
違う、人間なんて石ころ同然…
それをただ歩くだけで雄弁に語る…
クロフを見ると……
「……?何?」クロフが気付く
構えるどころかボーッと見ている
「アンタは何でそう素なのよぉ!!」
さて………
ガルダが叫ぶ
「今倒された者は補給を担当しろ!!」
「「「ええっ!!?」」」
事前に決まっていた役割、補給担当
にされてしまった
情けない……三人を含めた若手は
肩を落としてキャンプに向かう
クロフに二人が話かける
「フム、よく平気だな」
「一度見てなかったら同じでしたよ」
クロフはようやく大剣を抜刀する
「どぎょうがづいだんだなぁ」
ハンター専用の通路の先に
キャンプがある
各商店の荷車が、物資を運び入れた
後で、ゴチャゴチャして
狭いスペースしかないが
「よし、皆調合だ!!」
G級の指揮で調合開始
爆薬、大樽爆弾、弾丸を次々に調合
「なんで作っておかないの」
カンナは調合が得意ではない
「カンナ、爆薬はシケちゃうし…」
マリンは器用
「大量に保管しといて
事故があったらよ、どうなる?」
「あー……納得」
街の男衆や加工屋も、作っておいた
砲弾を運び込む
「ドドドドオオォォーーーーン!!!!」
ビリビリと谷間に響く轟音
一斉に大樽爆弾が50個起爆
「フン、怯みもしない…」
「がんじょうなやづだ…」
悠然と歩くラオシャンロン
「勝って名を上げるぞぉぉぉ!!!」
ハンター達は斬りかかる
エリア1からガンナーが到着、
剣士の後ろに展開して射撃
「拡散弾は使うな!!誘爆する!!」
門の上、ギルドマスターは耳を澄まし
昔を思い出す
小さな竜人三人と一人の若者
「俺は…ココに残る…あいつの
墓もあるしな」
「じゃあ俺は西だ」
「なら俺は東の岩山だ」
「ガストン、お前は?」
「んー、じゃ俺は小兄ィの所から順番に」
「また会おう」拳をぶつける
「ホッホッホ、思えば遠くへ来たもんじゃ」
門の後ろにドンドルマの街は広がる
あの湧水だけの名もない集落が、今や
東の交易拠点か、成長したもんじゃ。
数人のガンナーを引き連れロクスが
来た。
「始まったぞ」
オオナズチのガンナー装備、
ヘビィボウガンを担ぐロクス
「近接戦闘に入ったようじゃな」
パイプを吹かす
「過去最大じゃ、見たことないわい、
今回ばかりは被害が出そうだのぉ」
ガンナー達はバリスタに着く、
砲手を担当、細かい調整に入る
「四英雄が居なくとも赤鬼青鬼が
おるし…お前もおるしな」
「やれやれ…引退したのにのぉ」
「孫が産まれるんじゃろ……お前……
退いて良いんじゃが……」
ギルドマスターはロクスに笑いかける
「冗談はやめてくれぃ……だからこそ
退けんからのぉ」
「休むなァ!!撃ち続けろ!!」
「手を止めるなァ!!」
「隣のヤツにブツケんなよ!!」
剣士はひたすら斬る
補給達は走りまわる
「応急薬と携帯食料あります!!」
マリンが叫ぶ、ラオにぶつかった者
へ配って行く
「砥石は俺が持ってるぜ!!」
イシズキも配って走る
「弾が足りねぇぞ!!」
「はい貫通弾!!」
カンナは弾丸を持ち走る、
下位はキャンプと現場を往復する
ハンター全員がラオの進攻を
食い止める
最前列に近接部隊、
一定時間で交代の2部隊制
交代で研ぎ、回復
後衛にガンナー
的は大きいため外しようがない
下位のハンターは補給と調合
そして運搬
街の男衆は崖の上から
岩を落とす
後退しながらの総力戦、少しでも
歩みを遅くしたい
「後方爆弾準備完了!!」
「良し!ガンナーは爆弾の後方へ!!」
「ぎりつづげろぉ!!」
剣士は斬る
ゼルドとガルダが的確な指示を
飛ばす
「ぎるのやめぇ!!」
一斉に納刀、
「剣士退避!!!………点火!!」
「ドドドドオオォォーーーーン!!!!」
大樽爆弾が数十個炸裂!!
「グオオオオォォォ…」
初めて数秒、歩みが止まった
「おぉスゲェ!!!」
「さすがにあれだけ食らえばな!!」
若手達は騒ぐ
「休むなァ!!」
ベテランが叫ぶ
「フム、怯んだな」
「ようやぐだ」
しかし二人は気付く
(今回は危険だ!!!このペースでは
物資がギリギリ…過去最大の体力だ)
分かっていても口には出さない、
士気が下がっては……まずい
二人の予想通り
「おい!素材足りねぇ!!」
「今商会が取りに行ってる!!」
「樽が無くなるぞ!!」
「調合まだか!!?」
キャンプの中もまるで戦争
「伝令!!ゼルド、ガルダ両名より!!」
ギルドガールの一人
「うむ、何じゃ」
「物資が足らなくなります、爆薬が……」
「さて……」
門の上から後ろの街へ
「ベッキー!爆薬素材を至急集めよ!!
値段は問わん!!」
残っていた行商人から歓声が挙がるが
「ふっかけたら次の取引は無いと思え!!」
町長が渇を入れる
「爆弾調合次第、エリア3、4の
入り口に固めろと伝えよ!!」
「ハッ!!」
クロフは汗だく、
経験の少ないハンターは、ラオが
怯んで腹を着くのが回避出来ない、
弱点の一つ、腹の下は
経験豊富な者が担当、
察知して壁際の隙間に避ける。
「凄い……こんなデカイヤツの下で」
「おい!やられたぞ!!引っ張り出せ!!」
それでも大きすぎるため、完全に
回避は難しいようだ
何人かキャンプに送られた
顎を斬る、大剣で何回斬ったろう、
何回研いだろう……
「ごうだいだぁ!!」
ゼルドが手を上げる
クロフは休む番
「おい、砥石だ!!」
ゼェゼェ言いながら
「ありがと……イシズキ……」
「疲れた?」
マリンが携帯食料を渡す
「なんか……全然効いてなさそうで」
まるで岩を斬り続ける作業だ、
腕がダルい、手が痺れる
そう、ラオは歩いているだけ……
それだけ……
他のモンスターの様に威嚇しない
怒りもしない……
ただ本能のままに歩くだけ……
なんかこっちが悪者に思える……
そもそも……ラオは……
戦ってさえいない……
人間自体が見えてない……?
「ボーッとしないの!!
下位であんた位なんだから!!
参加してんの!!」
カンナは悔しい
「バキンッ!!」後ろで音がする
「ちぃっ!限界か!!」
何百発も連続で撃ったボウガンが
高熱で悲鳴を上げる、
陽炎が立ち昇るボウガンなんて
初めて見る。
「おい!代わり持ってこい!!」
運搬がハンターライフルを持って来る、
壊れた方は加工屋へ
(フム、疲れも溜まった、武器も限界か)
「三番へ移動!!銃身を冷やせ!!」
三番
「もう朝日が昇ってたのか」
忙し過ぎて、そんな事に今気付く
大樽爆弾が数十個用意されている
「矢をもっと持ってこい!!」
「剣が折れそうだ!!加工屋いるか!?」
「手持ちの弾丸がもう無いぞ!!」
「ねぇ!火薬残ってるよ」
「あれは砲弾用だ、使うな!!」
ズシン……
ラオが入ってくる
「でんがぁ!!」
「ドドドドオオォォーン!!!!」
「よぉし!撃て撃てぇーーー!!」
貫通弾が甲殻の表面を滑る、
弾丸が刺さらない
効果あるのか?
「第1部隊攻撃開始!!」
「オオオオォォォ!!!」
クロフ達は走り込み抜刀斬り!!
三番の起爆音……早い……
予定よりも怯んだ回数が少ない……
ギルドマスターは街に向かい
「女子供は避難開始!!武器屋は
商品を最終エリアへ搬入せよ!!」
ベッキー達ギルドスタッフは、人々を
避難させる
門から外に出て西へ整然と歩く
「足の不自由な人は台車へ」
「慌てないで、歩いても間に合うから」
「今回の出費は痛いのぉ」
ロクス達は拡散弾を大量に調合する
「仕方あるまい、ドンドルマと
人が無事ならそれで良いわい」
武器屋達が売り物の武器を最終
エリアに運ぶ
腕が上がらない、呼吸が苦しい
「どうした!?もうバテたかクロフ!!」
「アルトに笑われっぞ!!」
「アッハ!!だらしないってなぁ!!」
「頭グリグリ撫でて貰えねぇぞ!!」
「ちげぇねぇ!!」
「ヒャッヒャッヒャ!!」
こんな大変な時なのに、
周りのG級達は軽口を叩く
最初は余裕があってふざけてると
思ったが………
違う……みんな余裕が無いんだ……
必死なんだ……
何とかしようと全力なんだ
「バキィ!!」
「ちぃっ!折れちまった!!!」
折れた太刀を捨てる
え!?高そうなG級武器を…
「武器持ってこい!!!」
代わりのアイアンソードで斬る
「士気は高いが……」
「G級はきずいだな……」
ゼルドとガルダは察知する
応急薬を作る下位達
ラオが歩く振動で、パラパラと小石や
埃が落ちてくる
「もう爆弾の素材ないの??」
カンナは見回す
「四番に配置したヤツで全部だよ」
「なんか……危なくねぇか?」
イシズキもキョロキョロ
「伝令!!バリスタの弾を運べ!!」
「予定より早くねぇか?」
イシズキは小声でマリンに言うが
「いいから速く!!!」
ギルドガールは悲鳴の様に叫ぶ
(これ…余裕がねぇんじゃ?)
四番
「ドドドドオオォォーン!!!!」
「ごれでばぐだんぜんぶが…」
「フム、ここからは武器だけだ」
負傷者は増えないが…
「バキンッ!!」
「ちぃっ!こっちも武器持ってこい!!」
「弦が切れた!!代わりあるか!!?」
「弾丸持ってこい!!!」
剣士達は息が上がる
クロフも限界が近い
下位の数人はバリスタの弾の
運搬を始める、
そして
キャンプに用意した資材が底を
つき始める
「ヤバくない?コレ?」
「カンナ、今は皆を信じてやるしかない」
「けどよマリン、あれだけあった
爆弾全部だぜ?」
四番の起爆音……
「ハンター以外は退避開始!!」
最終エリアの武器屋達、加工屋、
商店の人達が避難する、
一部の人々は門の裏へ待機
「門閉めぇい!!!!」
低い金属の摩擦音を響かせ
「ギギギ…ガゴオォーーーン…」
門が閉まる
「配置に着けぇい!!!」
バリスタ、大砲、撃龍槍へ担当が走る
最終エリア5
ここを突破されると街が破壊される、
防ぐ方法は二つ、
殺すか、西に伸びる通路へラオが
逃げれば……
ズシン……
ここは少し広い、剣士もガンナーも
ラオの周囲全体に展開
「よぉし!解禁だ!!」
G級達が騒ぐ、下位は
意味が分からないが…
「拡散弾解禁!!!背中に撃てぇ!!!!」
ロクスが撃ちながら指示している
「フム、それじゃあ」
「いぐぞおおぉ!!!」
ゼルドとガルダも飛び込む!
前足付近に斬りかかる。
ロクスの指示が飛ぶ
「大砲!撃ち方始め!!」
「バリスタ!!剣士に当たらんよう
背中を狙え!!!」
「運搬!!速くしろ!!!!」
指示しながらボウガンを撃つ
バシュッ!!!
唸りを上げてバリスタの槍が飛び刺さる、
しかし数歩の震動で抜け落ちる
まだ遠いのぉ……甲殻が厚すぎて
深く刺さらん……引き付けるか、
ロクスは指示を出す。
「撃龍槍の準備はどうじゃ?」
ギルドマスターが伝声管で
内部に聞く
「こちら担当の商工会!!
いつでも!!ウズウズしてますぜ!!」
「確実に出番があるぞ!!」
エリア6と呼ばれるキャンプからの
通路、しかも坂道
「くっそー!重てぇ!!!」
よたよたと砲弾を運ぶイシズキ
「大丈夫か?」
マリンはまだ人を気遣う、
砲弾を持っているのに
「…女のお前に心配されるのは……」
「そんな事言うな、みんな必死なんだ」
「二人とも!頑張って!!」
カンナも弾丸を持って走る
広い場所だから振り上げもやりやすい、
けど腕が……
「づらがっだらやずめぇ!!」
前足に溜め斬り
ゼルドが横にいる、そんな事さえ
今知った……余裕がない……
剣士の部隊は交代が無くなり
斬り続ける
クロフは一旦壁際に退く、
「ゼヒュー……ゼヒュー……」
限界……座り込みたくなるが、
辺りを見る
鉄刀やアイアンソード、店で売ってる
基本的な武器が壁に
立て掛けてある。
こんな弱い武器じゃ通用しな……!
ハッとする
こんな武器まで使うほど……?
追い詰められてる?……と、
あれ……音が……無音?何で?
「グオオオオオオオオォォォ!!!!」
「うがああぁっ!!!!」
ラオの咆哮!!耳を塞ぎしゃがみこむ
腹の底なんてもんじゃない!!
体全部に響く!!谷間に爆音が響く!!
首を振るとゆっくり立ち上がる…
あまりの重量に地面が沈む!!
門の上
「うお……」
「ちょっとコレは……」
砲手達に動揺が走る
「これほどとはな………」
ギルドマスターは目を見張る、
今まで来たラオは、立ち上がると
頭が門の上、大きい個体でも
胸の辺りだ。
ズシン……
こいつは違う……腹だ…
ズシン……
歩く…この巨体で…
恐らく頭頂は100メートル近く…
ズシン……
頼むぞ……
祈るように……
「撃龍槍発射ァ!!!!」