「…………ジ……」
「………………う……」
「……ヤジ!!」
「…………何だ?…………」
急激に音が戻って来る
「オヤジ!!!」
「…………な!ホルトぉ!?」
体当たりで歪んだ鉄扉の隙間から
ホルトが叫ぶ
「立てぇ!オヤジ!!」
「やかましい!!言われんでも立つわ!!」
肋骨が数本……打撲も多い、
左腕が動かない
立ち上がるだけで激痛が走るが、
ホルトの前で声を上げるのは情けない、
声を抑えて立つ。
「オヤジ!!聞け!撃龍槍がまだ
使えるかも知れない!!」
「バカ野郎!!避難しろ!
お前は親になるんじゃ!!!」
胸が痛む、呼吸がしづらい
「店の皆もいる!そっちから
指示してくれ!」
ホルトは引っ込む
「聞けぇ!ホルトォ!!」
門の裏、崩れて撃龍槍の発車管が
出ている
「よし!!やるぞ!!」
閉塞の蓋を開けると大きな鎖が見える、
鉤棒やロープを鎖に引っ掛け、
「引き込めぇ!!」
数十人掛かりで鎖を引っ張る、
煤で手も体も真っ黒にしながら
商工会は作業に入る。
「おい!あれ!!」
指差し
「引き込んでるぞ!!」
「うでるのがぁ!?」
「ホルトのバカが準備しとる!!」
「いょおし!!」
万策尽きていたはずの中、
一筋の光明、
ハンター達の士気は上がる
折れた剣で斬りかかる!!
「時間を稼げぇ!!」
「まだやれるぞぉ!!」
「まだ終わらねェぞ俺達は!!!」
「爆弾はあるのかぁ!!?」
ロクスが叫ぶと
「上から砲弾用の火薬袋が落ちて
きた!これを使う!」
しかし……
ラオの体当たりが来る
「一旦さがれ!ホルトォ!!」
ロクスと商工会は退避、
ゆっくりと……
四つん這いで……
ドオオォォーン!!!!
大量の瓦礫が降り注ぐ!
既に門の半分ほどが崩された
しかも……
「ギギギギィー……ドオオォン!!」
鉄扉の片方が倒れた……
「ゼルドオォーっ!!!!」
ガルダの叫びがコダマする、
撃龍槍を守ろうとギリギリまで粘った
「げ……げぎりゅうぞうは!!」
半分瓦礫に埋まったゼルド
「バカ野郎!!腕が……」
ゼルドは立ち上がるが……
「ぐぅうう!!」
ゼルドの右の肩からは、血塗れに
なったボロ布が垂れ下がる、
ついさっきまで右腕と呼ばれ、
産まれた時から当然のように、
自分の意思で動いたハズのモノ。
倒れそうになるゼルドをガルダが
支え、ゆっくり壁際へ避難
「オ、オヤジ、ほめでぐれっがなぁ!」
ゼイゼイと荒い呼吸
「あぁ!!誉めるさ!!少し休め!!」
ゼルドの肩を弓の弦で縛り寝かせる、
止血は出来ても……このままでは……
首を振り……
ゆっくりと立ち上がる
開いた門からホルトが見上げる……
こんな……バケモノ……
堅固な要塞となったドンドルマ
しかし今は……
遠くから見たらラオの前に、小さな
砂の山がある程度だろう……
「ホルトォ!しっかりせい!!」
ロクスに頬を叩かれる
呑まれちゃダメだ!!
「分かってる!!タイミング教えろ!!」
ロクスは見極める。
ズシン……
すまんのぉ、ラオよ……
お前らにとっては自分の道に邪魔な
モノ……
大樽が現れたようなもんじゃろ。
ズシン……
じゃがの?その樽の中で生きてる者が
いるんじゃ
意地はって気ィはって戦うんじゃ、
ズシン……
最後の意地じゃ……
ズシン……
「撃てーーーぃ!!!!」
「おお!!!!」
火種を蓋の小さな穴に投げる
ドガアァーーン!!!!
ラオの左足に命中!!
鎖が切れて刺さったままだが
「うらぁ!!当たったぁ!!」
「どうだぁ!!」
「最後の意地だ!!」
ハンター達は騒ぐ……
ラオはゆっくりと退がると
四つん這い
しかし
ズシン……
西ではなく門へ
まだ……やんのか?
最後の槍が抜けて出血するが……
先の三本のキズからは……
血が止まってる……
構える事さえできない、
折れた武器を持ったまま立ち尽くす
疲弊している、
武器も残っていない、
気力も限界、
あと、俺達に残されたモノ……
命一つ……
「プオォ~」
突然気の抜けた音、角笛?
見ると崖の上に……誰かいる?
ベッキー……?
ベッキーは指差す、四番を、
走ってくる黒い四人を
先頭の太った一人が兜を取る、
白髪の角刈り、日焼けした肌、
右目が黒い眼帯の隻眼
ラオの咆哮並の声で
「立てぃ!!!ガキどもぉおおお!!!!」
一斉にG級達が叫ぶ
「お……」
「この声……」
「オヤジだ!」
「オヤジィィー!!!!」
「ガストンオヤジだぁ!!」
疲れきったハンター達は残った力で
声を出す
「後はワシらがやる!!どいてろぉ!!!!」
全員壁際へ、クロフ達も到着
クロフは道具を持って走りまわり、
壁際のゼルドを見付ける
「ゼルドさん??!!」
「おぉ……クロフがぁ……」
「これは……っ!」
潰れた右手、呼吸も弱い、
一瞬セドリックの遺体を思い出す
力なく左手を上げるゼルド、応急薬を
かけるが……右手が治る訳もなく
「らぐになっだ、ほがのやづもたずげろ」
歯を剥き出し笑うが……
そんなはずない、見れば分かる!
応急薬を飲ませる
「どうしたら……」
泣く以外できない
「うでのいっぼんでずめばやずい」
ゼルトは上体を起こして座る
「オヤジがぎでぐれだ」
「どおおぉらあぁっ!!!!」
ガストンが黒いハンマーで鼻先を殴る
「よくもセガレの腕ェやってくれたな!!」
ラオの巨体が僅かに怯む
「行けぃ!!ハインツ!!」
「はい!!」
長身の男は鼻先を蹴り、ジャンプ
すると太刀を一閃!
「バキイィィィーン!!!!」
蒼い太刀が折れた……かと思うと
「ドスッ!!」
「うわぁっ!!」
地面に刺さって、それでも3メートル
以上ある角が折れた、
鼻先の角だ!!
「テメェらよくやったぜ!
コイツは弱っとる!」
ガストンは顎を滅多打ち
「ドンドルマの総力をぶつけたんです
当然ですね!」
長身の男は顔を横から斬る
アルトは腹を斬る
返り血で染まるが黒い防具は
汚れない、それに……
(何だ、あの片手剣)
クロフは知らない
真っ黒で先端に小さな……角?
弱点とは言えラオの体を簡単に切り裂く
少し離れてナナキらしい男は立って
いる、腕組みして……ただ見ている。
「師匠!なにしてんの!?」
カンナが走りながら叫ぶが無反応
ラオは首を振り……立ち上がろうとする
後ろ足に体重が掛かる
その時!!
ナナキはランスで突進!!
勢いを利用した突きを放つ
「せいっ!!」
バキバキバキィ!!……
ラオの左後ろ足、二回撃龍槍が刺さった
辺りに、黒い槍が根元まで刺さる!!
分厚い鱗や甲殻を干菓子のように
割りながら簡単に
立ち上がろうとしたラオは
ゆっくりと……
「ドドオオオォォォー……ン!!!!」
倒れた
「やったぜ!!」
「どうだぁ!!」
「今度は勝ったろ!!」
………………
大量の砂ぼこりが晴れると、
ラオの鼻先に四人がいる、
ただ構えているだけ……
無音……静まり返っている
皆固唾を飲み見る
「ブゴオォォォッ!!」
何だ?……いまラオが……鼻息?
匂い嗅いだのか……?
クロフはその時初めて、ラオの目が
動くのを見る、
恐らくラオは四人を見ている
人間を認識している
ズシン……
「……お…」
「これ……」
ズシン……
「方向が……」
「変わって行く……」
「西へ行くぞ!!」
「勝った!!」
「勝ったぞ!!」
「守ったぞ!!」
「ドンドルマの勝ちじゃあああ!!!!」
黒い四人……恐らく四英雄が
武器を掲げて叫ぶ、
しかし……クロフは違和感を持つ
四人の装備が…何というか……
禍々しい……怖い……
「う……むぅ……」
「ギルドマスター、気が付きましたか」
マリンはロープをほどき、降ろす
「ホッ、情けない……生き残って
しもうたか……」
夕方
町長やギルドマスターが叫ぶ
「街の勝利に!!」
高々とジョッキを掲げる
「「「勝利に!!」」」
一斉に街中が掲げる
中央広場にテーブルが集められ、
今日はハンターと町人が一緒に飲む。
蒼い甲殻や重殻、爪、そして巨大な角、
山のように素材が積まれているその
前で
緊張が解けたせいで大騒ぎ、
自慢話や明日からの取引の話
「あっはっは♪腰抜かしたか♪」
ナナキは小馬鹿にしたように笑う
「クロフの言うこと、しっかり
きいとけば良かったよ……」
若手のカンナ達は食事の給仕を
進んでやる
「師匠……返すぜ」
イシズキが兜を差し出す
「ん……心配掛けたな」
ナガエが受け取る
「泣くな、俺も師匠に守られた、
お前もいつか弟子を守れば良い」
「師匠……ゼルドさんは……」
「右腕はダメみたいだ」
「俺……」
「アンタのせいじゃない、街を守った
結果だよ」
「俺達が弱いから……」
「アッハ!その気持ちがあれば十分!!」
「あ、これ……」
クロフはネックレス?をアルトに見せる
「え!?アンタが受け継いじゃったのぉ
!!?」
アルトはビックリして立ち上がる
「え?……師匠に渡してくれって……
コレは……?」
周りのG級達は騒ぎ出す
「クロフに渡ったのかよ!」
「大丈夫かぁ?」
「責任重大だぜ?」
「あ、あの、コレは……?」
反応を見れば分かる、
コレは見た目通りのガラクタじゃない、
持ってる手が震える
「このガキがオメェの弟子か?!」
ガストンが来た
ゼルトやガルダに比べれば普通のサイズ、
しかし、圧力と言うか迫力が凄い、
太っているんじゃない、肩幅が
凄い
G級達も街の人も道を開け頭を下げる
「あ、父ちゃん、そうアタシの弟子」
アルトの口調は軽いが
「あぁ?ソイツは?!」
ガストンがネックレスを見る、
見られただけで体が緊張する、
ガクガクしながら差し出す
「父ちゃん、兄貴が渡したらしいんだ」
「そうか……小僧!!名前は!!」
「ク…ク……クロフ……です」
(裏声)
緊張、手に汗
ガクガクしながら答える
「よし!決して無くすな!!」
ギロリと睨む
「は、はいぃっっっ!!」
怖いぃ!!
アルトを見ると
「アタシが話すより……」
ギルドマスターの所へ、
町長、街の役職のテーブル
ベッキーは忙しく動いている
「じいちゃん、ゼルド兄貴は?」
「今、腕の処置をしとる」
「切断に…なりそうだって」
ベッキーが俯く
「そうか…じいちゃん、コレの説明を…」
クロフが持つネックレスを指差す
「ホッホッ、お前が受け継いだか」
クロフはビクビクしながら直立
「アタシが説明するより……ね」
ギルドマスターが説明する
かつて竜人で大陸中を旅した者達
ワシら四大英雄、
その中のリーダー、ココットの兄貴が、
妻に渡したネックレスが…それじゃ。
妻が亡くなった後、
ココットからガストンへ渡され、
ガストンは自分の首に、
それからゼルトとガルダへ受け継がれ、
アルトへ
「で、アタシが書士隊へ入るとき
兄貴へ返したの」
「え!……あの、……コレ」
いくら知らない事とは言え、
そんな飛んでもないモノだとは!
無理無理無理!重い!!重すぎる!!
「どっ、どうしたら……」
オロオロするが
「アッハ!暫く着けてな」
アルトがクロフの首に掛ける
いやだいやだ重すぎる!!
そんな大事なモノなんて!!
下位達も飲み始める
「ロクスのヤツはどぉしたぁ?!!」
ガストンの声
「孫が産まれるそうで」
「そういえば!!」
「エレーナ商会に飛んで行ったぜ!!」
「おぉ!!そりゃめでたい!!」
「きゃあっ!!」
「パァァン!!」
「師匠!!」
皆ハシャイでいる
「みんな嬉しいんだ」
守られた、でも次は……俺も……
「当たり前だぜクロフ」
ナガエが死なずに済んだ、
嬉しくて飲み過ぎたのか
顔が緩んでいるイシズキ
「まさかギルドマスターを任されるとは」
マリンは不思議そうだ
「一番元気そうだったからじゃねぇの?」
「私が怠けていたように聞こえるぞ」
マリンはムスッとする
「もぉーっ!!私の師匠って何で
お尻が好きなのよぉ!!」
背の高い男が来る
「君がクロフ君ですか?」
「は、はい!」
師匠と同じ、四英雄の……?
「アルトの弟子ですね、それから……
君がナナキの弟子のカンナさん」
「……はい」
振り返ったカンナの目がハートになる
「ハインツと申します、以後よろしく」
190センチはあるだろうスラリとした
細身、アルトより美人の顔立ちに、
長い金髪を青いリボンで纏める
紫の瞳が涼しげ、
女性のハンターを何人も引き連れるが、
全員目がハート。
「アッハ!ハインツ、
カンナまで誘惑すんなよ!?」
「仕方ないでしょう……」
困った顔をするが、街の若い女性
まで寄ってくる
こんな美人の男が存在するのか
「あ、あの、初めまして」
右手を出すと柔らかい仕草で握手し
「四英雄を拝命しています
ハインツ・ルーメル・フォン・ド・
……シュレイドです」
貴族?……シュレイド??
ハインツは挨拶して廻る
女性達を引き連れて
「カッコ良い~」
カンナは赤い、飲んでないのに
「絵の中から出て来た様な美形だな」
マリンも目を丸くする
「師匠より美人だ……」
ベシッ!!
「あんだってぇ?」
飲み過ぎたアルトに頭を叩かれる
「また死にぞこなったわい」
ギルドマスターは笑う
「あんたが居なきゃ始まらねぇ!!」
ガストンも豪快に笑う
「まだまだ四大英雄の名前は
必要です」
ベッキーがナナキを警戒しながら
「甘いぞベッキー!!」
音もなくナナキが近付く
「パアァァァン……」