生きる事は悩むこと   作:天海つづみ

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人の都合と自然

 

 「ひざぁ?」

 カンナが首を傾げる

 

 「だけどそいつぁ難しいぜ?」

 

 「そこに気が付くのは凄いけど

 1回や2回じゃ判らないわ」

 私は全然見えてないのね……

 

 「でも慣れるしかない」

 

 「何の話よ!!教えて!!」

 カンナは理解出来てない

 

 クロフが説明する

 「モンスターの一部の動きで全体を

 想像するんだ」

 

 「!」

 カンナもピンと来たようだ

 

 「そうなると……」

 

 「だよなぁ……」

 

 「うん……」

 三人がカンナを見る

 

 「何よ?」

 

 「カンナ、あんたは片手剣だし

 足元に張り付くからね」

 

 「オメェが一番見られる訳よ」

 

 「うん…カンナの指示が必要だ」

 

 「私っ?!」

 自分を指差すカンナ

 

 

 

 

 「ガスの瞬間を教えて欲しいんだ、

 カンナ、お願い」

 カンナに正面から言う、言える、

 人に向かって正面から話す、

 

 お願い……って言ってみた、初めて…

 ちょっとハズかしい。

 

 

 「なっ何よ、そんな真剣に……」

 クロフが正面から言うなんて、

 なんか……

 

 

 

 なんか……

 

 

 

 

 「なぁに照れてんだよ」

 イシズキが笑う、いや、ニヤける

 

 「カンナの『目がイイ』ってこれかもよ?」

 マリンもニヤける

 

 

 

 「もーっ!!分かったわよ!

 私が指示するわ!!」

 このモヤモヤするのは何よ!!

 

 (お願いって言って断られたら

 もっとハズかしそうだ)

 

 

 

 

 「顔赤けぇぞ?」

 

 「暑いだけよ!!」

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 「あらぁ、リタイア?」

 いつものベッキーの笑顔

 

 そして髪のコゲたクロフ達

 「うん!でもね、私分かったんだ!」

 カンナは上機嫌

 

 「じゃあもう1回素材集めだな!」

 クロフと組んで理解した、

 『急がば回れ』

 一見面倒なようで一番早い。

 クロフについてきて正解だぜ

 

 「閃光玉と痺れ罠、あとは調合分だね」

 半年で……しかも無理をせず

 無謀な事もしていない、

 慎重で堅実だ。

 クロフと出会えたことは幸せだな

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 「サマーソルト?」

 皆で光虫を採る、森と丘で採取する

 

 「そう、しゃがむ時の姿勢がね、

 アレやるときのレイアにちかいの!」

 ギルドでは他のパーティーに聞かれる

 心配がある

 

 「そうだったのか、気付かなかったわ」

 マリンも想像する、

 自分の『見る』能力が二人より劣って

 いるのが解る、

 運動神経とガタイの大きさ、体力で

 何とかしてきた結果だろう

 

 「デカイし あの岩みてぇな

 甲殻じゃな、よくわかんねぇし」

 

 「睡眠ガス、燃焼ガスとも範囲の

 外に逃げられれば……」

 

 「任して!次は全部避けるから!」

 

 考えてみればクロフより少ない回数で

 攻撃を見切る事を得意としたカンナ、

 頼りになる。

 

 「髪……少し短くなったよね」

 何度か燃焼ガスに焼かれて

 髪が燃えてしまった、

 ツインテールが短くなった。

 俺の責任だ、俺の思い付きで……

 本当は遠くの人の方が全体は

 掴みやすいのに無理をさせた……

 

 「気にしないの!あんたには

 助けられてばっかりだし!」

 カンナは明るい

 

 

 「私も女らしく少し髪伸ばそうかな」

 マリンが自分の短髪を触る、

 長めのスポーツ刈り程度

 

 「イイ男が台無しになるぜ?」

 

 「イシズキ!」

 虫網を振り回しマリンが追い掛ける、

 

 

 「ちょ!冗談!なっ?冗談だってば!」

 走って逃げる

 

 「私だって女だ!!」

 

 よく見ればお互い笑っている

 

 他のパーティーを知らないクロフは

 当然と思っているが、

 これほど人間関係が上手く行ってる

 パーティーも無い

 

 年齢的にも自己主張がブツかり遭う

 はずだが、カンナ以外は『傷』を

 持っているため遠慮を知っているし

 トラブルは意識的に回避する、

 『必要以上に人の心に踏み込まない』

 ようにしている。

 

 カンナより人との距離を空けるタイプ

 

 人によってはオカシイ距離かも知れない

 が、これで上手く行っている

 

 

 

 このまま行けば確実に上位だろう

 

 が

 

 

 自然は人の思い通りには行かない

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめんね、あのクエストは

 G級案件になっちゃったわ」

 ベッキーから伝えられる

 

 「どういう事よ!」

 カンナはカウンターの上に乗り出す、

 せっかくグラビのクセが分かったのに

 

 「……緊急事態ってことね?」

 マリンは冷静……ではない

 

 「何があったんですか?」

 実はクロフだって納得は出来ない、

 アイテムを無駄にしたことは気にしない

 でも、カンナの頑張りが無駄になる

 

 ベッキーはギルドマスターを見る

 

 「うむぅ、話して良いもんじゃろうか」

 

 「良いだろうよ」

 ガストンが後ろにいた

 

 振り返り聞くと

 「コイツらは当事者でもあるだろ、

 オメェ等が戦った個体らしきヤツが

 死体で見つかってよ、

 喰われてたそうだ」

 

 「喰われたぁ!?」

 イシズキが声を上げる

 あんな岩みてぇなヤツを?

 

 クロフは周りを見る、下位以外は

 分かってるらしい

 

 「…古龍…………?」

 

 「アッハ!たぶん違うよ?」

 アルトも大体解っているらしい

 

 「とにかく、現在ドンドルマ管轄の

 火山周辺はG級だけで……」

 ベッキーは申し訳無さそうにする

 

 「えーっ!!上位までもう少しなのにぃ!!」

 カンナが膨れる

 

 「ホッホッ、どうしたもんかのぉ?」

 

 「火山地帯は危険区域に指定です、

 グラビモスとアグナコトルは……」

 ベッキーは小さな手紙を見ながら

 「ごめんね、カンナちゃん」

 

 

 

 

 「近い村の上位に探して貰おうか♪」

 

 「それでは各村が手薄になります」

 

 「アッハ!アタシ達で調査行く?」

 

 「ワシらは一応は書士隊だぞ?

 本部の指示無しで動いて良いのか?」

 

 

 何ががいるらしいが……

 

 

 

 「捨て置く訳にも行かんしのぉ」

 

 

 

 クロフ達を置き去りに話が進む

 

 

 

 「だからぁ!どういう事よ!?」

 カンナがナナキに食って掛かる、

 ナナキには遠慮しないしタメ口

 

 

 ナナキは冷静に

 「よし、下位を調査に加えよう」

 

 「ホッ?下位ではなぁ……」

 

 「戦闘はさせない、捜索だけさ……

 各パーティーに伝書鳩を持たせ、

 発見次第飛ばす……

 そしたらG級が最速で向かう」

 

 ナナキは続けて

 「俺達はココにさえ居れば命令違反は

 していない、ルキウスの面子も立つ、

 それなら街の守りも出来る、

 ……つまりだ♪」

 

 「ホッホッ、そうか専属を動かせる」

 

 ゼルドさんとガルダさん?

 

 「矛盾も無いし最速で問題解決

 させるつもりですね」

 ハインツは頷く

 

 

 

 「アンタの為だよ?」

 カンナの頭を撫でるアルト

 

 カンナは気付く、顔が明るくなる

 

 ナナキの教えや優しさはカンナに

 伝わりにくい、

 ナナキが不器用なのか、カンナが

 素直じゃないのか、

 

 恐らくその両方

 

 「急いだ方が良い!被害が出るぞ!」

 ガストンが呼び掛ける

 「G級ども!!討伐してぇ奴等は集まれ!!」

 

 

 「下位パーティー!探索クエストに

 参加する者は前へ!!」

 ギルドマスターの厳しい声が響く

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 「いびるじょう?」

 カンナは変な反応

 

 ドンドルマから南へ向かう街道……

 とは名ばかりの木のトンネル、

 かなり幅は広い

 

 

 「ぞうだ、なんでもぐっぢまう」

 ゼルドさんが一緒

 

 下位から参加したのは4組計16名、

 

 「フム、食い意地が凄くてな、

 目についたモノを何でも喰う」

 

 ゼルドとガルダが同行する

 

 教えてもらう、そのモンスターを。

 

 一定の狩場に留まらず歩き回り、

 一帯の生物を無差別に食い荒らす。

 また人も積極的に襲う、その点では

 古龍よりも質が悪い。 

 

 「で……やっぱり雷とか?」

 

 「いや、広範囲にブレスを撒き散らす

 以外は肉弾戦だ」

 ガルダは手を口に見立てて横に振る

 

 「横っていうのはどういう事です?」

 マリンが首を傾げる

 

 「ぶれずをよごに吐ぐんだぁ」

 

 「フム、グラビモスと戦ったなら解るか、

 あれを横に振ると思えば近い」

 

 「あんなのを……逃げ場が無いわ」

 

 

 「ぞれにな……!!」

 ゼルドとガルダは歩きながら

 鼻をヒクつかせる

 

 

 ?

 

 

 

 

 「ガサガサガサ」

 街道沿いの藪が動いている

 

 クロフ達は身構えるが二人は

 平然と歩く

 

 「なにかいますよ!!」

 クロフは大剣に手を掛けたまま

 走り寄ると

 

 「わがっでる」

 「気にするな」

 変わらず歩く

 

 

 

 

 「ギャアッギャアッ!!」

 ランポス!!しかも20頭位が前方の

 藪から飛び出す!

 

 「うわっ!!」

 「多いぞ!!」

 「囲まれんなよ!!」

 「こっちだってこの人数だぜ?」

 「余裕だ!!」

 

 下位は一斉に抜刀……

 するが……

 

 

 ゼルドとガルダは止まらない、

 二人の大きな背中は

 平然と歩いて行く……

 群れの中へ

 

 「あの!!……」

 意外な行動に言葉を失う

 

 「ええっ!!」

 「ちょっ!!」

 

 何を!!?

 

 後ろからしか見えないが、恐らく

 表情も変わらないだろう、

 歩くペースも変わらない

 

 

 一頭が飛び掛かる!!

 

 ロクスの様に斬るのか?

 思った瞬間!!

 

 

 

 「パン…………」

 

 

 …………え?

 

 ゼルドは蝿でも払う様に、

 大剣の側面でランポスを叩いた……

 凄いスピードで、

 

 

 

 

 それだけでランポスは破裂し、

 道とランポス達に血飛沫と内臓が

 降りかかる

 

 

 技術じゃない……純粋な力だけ……

 

 生物から出てイイ音じゃないよコレ?

 

 

 

 

 

 「フム、遅れるな」

 ガルダがこっちを見る、

 足を止めている、無防備で

 

 下位は走って追い付くが……

 ……ランポスの群れの中、

 当然構えるが……襲って来ない

 ……何で?

 

 

 

 

 

 「ドン!!」

 ゼルドが足を踏み鳴らすと、

 ランポス達は一斉に藪の中へ

 走っていった。

 

 

 

 「い……今のって……」

 

 「いがいどあだまいいがらな、

 いっぴぎでいい」

 

 「フム、こちらの力が上だと

 思わせれば襲われん」

 

 そういうもんなの!?

 

 

 

 ガルダは落ちている内臓を拾うと、

 剥ぎ取りナイフで切る

 

 「うっ……何してんですか」

 カンナが口を抑えながら聞く

 

 「フム、胃の中も腸も空だ」

 

 「それで何が解るんですか?」

 

 説明は簡単だった

 

 一つ、これだけの群れなのに

 ドスランポスがいない

 

 二つ、群れは空腹、エサも無い

 

 考えられるのは統率者が群れを

 守るため命を落とした。

 

 今は狩り場も追われパニックを

 起こしている。

 

 となれば冷静になった時

 襲う場所は……

 

 

 

 

 「人の村じゃ……」

 クロフ達は想像する、自分の故郷を

 

 「急がなきゃ!!」

 

 「あわでんな」

 

 「フム、各村には上位が

 派遣されている、体力を温存しろ」

 

 

 

 

 ………………

 

 

 「なんだよあれ!?」

 イシズキが叫ぶ……一瞬前に

 ゼルドとガルダは走り出す

 

 ドンドルマ管轄 火山の村

 中央の家の屋根に数人の子供、

 家の周囲に上位のハンター

 

 そして取り囲むように数十頭の

 ランポス、ゲネポス、イーオスそれに

 コンガまで

 

 「みんな!!やるぞ!!」

 クロフは大剣を振り上げる

 

 「おうよ!!」

 下位は走り込む

 

 ゼルドとガルダは数匹をまとめて

 斬りながら進む、まるで竜巻!!

 

 「イシズキか!?」

 ナガエが居た、疲れているらしく

 肩で息をしてる

 

 「師匠!!」

 イシズキとナガエは背中を合わせる

 

 「師匠、退いててもイイんだぜ?」

 「まだまだお前ら若いのに負けんぞ!!」

 双剣の師弟も暴れだす。

 

 「閃光投げます!!」

 クロフが思い切り叫び投げる

 

 「皆!やるよ!!」

 カンナが叫ぶ、下位達も飛び込む

 

 「なんだか硬いやつが混じってるぞ!!」

 

 「ザコでも上位個体が居る!!」

 

 「油断すんなよ!!」

 

 「嘘だろ!!ザコなのに歯がたたねぇ!!」

 

 「二人で一匹を攻撃しろ!!」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 「助かったよ」

 ナガエは回復薬を飲む

 

 「何があったんだ師匠?」

 

 「昼くらいからモンスターの襲撃を

 受け続けてな、伝書鳩飛ばすヒマ

 も無かった」

 

 村の周りにはドスランポス、

 ドスゲネポス、ドスイーオスが複数、

 ババコンガまで来たそうだ

 モンスターの死体がザコを含めれば

 100を越える……

 イビルジョーから逃げて来たのか?

 

 上位とはいえ数人で防いでいた、

 村の損害は無いらしいが

 アイテムが底を着きそうだった

 

 

 

 

 イビルジョー

 それが一頭現れるとこれだけ狩り場も

 不安定になるのか、

 これから俺達が探すんだよな……

 

 

 

 「フム、良く守ってくれた」

 「ぞざいぜんぶオメェらのもんだ」

 

 上位達はようやく一息つく

 

 この数を上位8人だけで?

 

 「スゴいねぇ、こんなに」

 村の周囲一面にモンスターの死体

 

 

 

 ゼルドとガルダは村長と話をして

 伝書鳩を用意させている

 

 

 「あんちゃん達カッコいいな!」

 ガキ大将らしき子供がよってくる、

 マリンのギザミ装備の事だろうが、

 多分男だと思ってるような……

 

 「屋根に避難してたんだね」

 マリンが頭を撫でようとすると

 

 「違う!見張り!何匹も来たんだ!」

 手を振り払い腕を組み

 マリンを見上げる

 

 「子供は目が良いからな、

 やらせたんだよ」

 ナガエが頼んだらしい

 

 「おっちゃん!俺達だって役に立つだろ」

 

 「あぁ、立派な村の守り手だ」

 ナガエはしゃがみ握手する

 

 「父ちゃん達ドンドルマに稼ぎに行った

 から、オレ達で守るんだ!!」

 小さな勇者は胸を張る

 

 

 実際は避難させてもモノは言い様、

 ナガエは器用らしい。

 

 

 

 

 

 ゼルドとガルダが指示を飛ばす

 「後続にG級パーティーが来る!

 下位は捜索に入れ!

 上位は休んで回復させろ、

 その間村は俺達で守る!」

 

 「この村を前線ギルドとする!!」

 

 「みづげでもだだがうな!

 ぜっだいにげろ!!」

 




教える、教わる、
文字にするのは簡単だけど、
なんて難しくてイライラするのか。

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