陸地から歓声が聞こえる
「何よコレ?」
カンナは眼を細くして村を見る、
大勢の人がこっちを見ている
「スゲェ…歓迎されてんのか?」
全員甲板から村を見る、
村人が手を振っているのが見える
「でもクロフーって言ってるわよ?」
泣き腫らした顔を何とか洗い、
少しは落ち着いたマリン
「クロフ」「お帰り」と聞こえる、
クロフが一番前に出ると更に歓声が
大きくなる
(おいおい、クロフすげぇじゃねぇか!)
(まるで英雄ね)
(期待されてんのぉ?!)
「ゴゴ……ン」
「タンッ!!」
接岸した途端、一番岸の縁に立つ
少女が飛び込んでくる!!
ギルドスタッフの格好の美少女が、
スカートをはためかせ
クロフに抱き付く
「お帰り!お兄ちゃん!」
「ひゅーう!!」
船乗り達、村人から
歓声と冷やかしの声
(………………なん……だと?)
三人は呆然とする
三人が予想していたクロフの彼女…
田舎の田舎らしい垢抜けない少女
冴えないどこにでもいる少女
田舎っぽい田舎臭い少女
……のはず……が……ナンダコレ?
目の前にある光景が信じられない
明らかに『可愛い』から『美人』に
なるだろう少女がクロフに
抱き付いている、
気のせいか背後に花まで見える
(え?何だコレ?公認かよ?)
村人の雰囲気は祝福ムード
(ドンドルマにもこんな綺麗な娘、
なかなか居ないわよ?)
(ムカつく!!)
抱き付かれ、耳まで赤いクロフに
イシズキが寄る、
呆然とした顔で
「なぁ……
クロフ……
……なぜだ?
……殴りてぇ
今のうちにお前を殴っておきてぇ……」
イシズキは敗北感で一杯になる、が、
船員達に肩を叩かれ
無言で頷き合う……
何か共感したようで、連帯感が
生まれたようだ。
パティは恥ずかしそうに一旦離れると
イシズキ達に向き直り、丁寧な仕草で
「いつもお世話になってます」
頭を下げる……二人とも顔が赤い
(性格も……良さそう……)
(ナニよコレ!!すっごい腹立つ!!)
………………
クロフは村人達と話している、
恐らく村人全員だろう、
腕にはパティがしがみついている
賑やかな村の中心を横目に
ギルドのテーブルに三人で座ると、
小さくなり小声でコソコソ話す
「なぁ、一つ気になってんだがよ?」
テーブルに伏せて話す
「お兄ちゃんって……言ったわよね?」
「まさか兄妹で…って事ぉ?!」
クロフ達の方をチラッと見る、村人に
囲まれ話している……
どう見ても妹ではない、似てないし妹の
話も聞いたことがない
彼女で間違いないようだが……
「田舎って兄妹で結婚とかあんのか?」
「地方の風習で公認……とか?」
「まっさかぁ!信じらんない!!」
「あの二人は血縁ではないぞ?」
船長が来て席に着く
「……え?あー?……って事は?」
しきりに首を傾げるイシズキ
「彼女に…お兄ちゃんって呼ばせてる
……って事……?」
マリンも首を傾げる
「やだぁ、クロフってそんな趣味……」
三人はドン引き
「いや…クロフにだって性癖の一つ位
あんだろ……」
そんな性癖は聞いたことがないが……
「ちょっと私は引くわ……その趣味…」
そんな世界があるのだろうか……
「気持ち悪ぅ……クロフ……」
「余計に混乱させたかの?」
髭を弄り笑う
「ヤ!!早かったね!」
ニコニコした村長が帰って来た
「村長、ただいま」
ただいまが何も考えなくても言える
「ヤー、お帰り!」
夕方、 昼から騒いでいた喧騒が過ぎ
落ち着きを取り戻したジャンボ村
「こんな美人とはよぉ!」
「俺達だってなぁ……」
「皆パティちゃん狙ってたんだぜぇ?」
「パティちゃんがクロフ一筋でよぉ……」
「なんで…何でクロフに……」
飲みながら涙を浮かべるイシズキと
船乗り達、肩を叩き合う
すっかり仲良くなったようだ
照れてモジモジするクロフとパティ
「出会いは何なのよ?!」
聞けばカンナと同じ位の歳、気になる
「私も気になるわ」
何でお兄ちゃん?何でこんな可愛い娘?
「それよ!それ!クロフにナンパなんて
デキネェよな!」
納得出来ないイシズキ
「ヤー……話すべきか……な?」
笑い顔で真意は分からない村長、
クロフとパティに目線を送ると
「話しても良いと思います、お兄ちゃん
の命を預けている方々ですし」
パティは静かに話す
クロフも真剣な顔で頷く
「俺……話したいけど……上手く
話せないし……」
「ヤー……余り大きな声じゃ言えない
事だし……」
普通の内容では無いことを察する
マリン
「私達は大丈夫、何を聞いても多分…」
マリンが真剣な顔で村長に言う
「ヤハハ……じゃあ…オイラの家へ」
村長の小屋へ入る
…………………
村長の小屋
ランプを点けて話始める
丸い大きなテーブルの周りに
丸太の椅子、
影が壁に伸びる
村長は語る、戦乱の起こり、
この村の出来た経緯、
クロフの生い立ち、
村人の素性、
そしてクロフとパティの子供時代
「戦災孤児……」
カンナは初めて聞いた
クロフにそんな深刻な過去が……
パティを育てた命の恩人……
普通に恋をした訳じゃない、必死で
二人で生き抜いた……
いや、クロフが親代わりになって
食べさせていた、
この二人は普通じゃない繋がりがある、
恋人なんて簡単なモンじゃないんだ…
でも……なんかムカつく!!
「重てぇな、家族の死体の前で……」
クロフの死生観の違和感が理解出来た
死に鈍感なんじゃない、戦乱で
殺し合いが当然だった場所で育った
死に必要以上に触れてきたんだ、
だから俺を簡単に受け入れた
だから死に鈍く見えるのに安全策
と準備を大事にする。
「理解できたわ……あの時……」
以前に小さな違和感があった
セドリックの遺体の兜を躊躇なく
持ち上げた、他人の死体をだ、
普通なら出来ない事だ
過去に人を死なせていても
簡単に受け入れるはずだ、
この村の人は戦乱の生き残り、
簡単に言えば元は戦士、
人殺しの村なんだ……養父母も……
三人の顔には拒絶の反応は
見られない、村長はヤハハと笑うと
「クロフは子供の時に心の成長が
止まってたからね、たまにオカシナ事
言うかもしれないけど
許してやって貰えるかな?」
僅か数ヶ月前、アルトに出会うまでは、
人前で喋れず、感情を出さなかった
事を説明する
「……そうか、嘘も打算も無ェはずだ」
「ヤ?嘘?」
「小さい嘘も言わねぇんだよ」
ラオの説明をした時、普通ならもっと
信じて貰いやすい様に言うだろう、
人によっては脚色もするだろうし、
大袈裟にもする
それをただ素直な感想を言った、
……子供みたいじゃない、
子供なんだ
イシズキは顎でクロフを指して
「コイツは素直過ぎるんだ、
悪意も駆け引きも無ェ」
腹の中で別の事なんか考えない、
ある意味究極の正直者
「思った事を
素直に言ってるだけなんだね……」
つまり本心から私を受け入れてくれた、
私を許してる、許してくれた。
深く考えないところが良いところかも
しれない
「ヤハハ……そうなんだよ、でもアルト
さんのお陰でハンターを通じて色々
成長したんだよ」
「……」
カンナは一人で考え込む
「私先に休んで良い?」
「休む準備出来てますよ、手続きは
明日にしましょうか」
パティはニコニコ丁寧に対応する
「ありがとう、クロフのこと、明日もっと
聞かせてね?」
カンナもニコニコ笑う
ドアを抜けると
「カンナさんって歳はいくつですか?」
「14、あ、15になるかも」
二人は出て行き小屋の方に歩く
「カンナ……疲れたのかな?」
クロフが見送る
イシズキとマリンは違和感を持つ、
素早く目配せすると
「クロフは道具屋に泊まるのか?」
突然イシズキが話題を変える
「もう帰って両親と話しなよ、久しぶり
なんだし」
マリンも同調
「ヤ、そうだね」
三人は勧めてクロフを帰らせると
周囲を警戒しながら話す
「気付いた……な?」
イシズキの目が笑う
「ヤハハ……あの二人……」
村長の糸目もニヤニヤ
「いきなり空気が凍ったわよね……」
マリンはシカメっ面
イシズキは溜め息を吐くと
「カンナはクロフが気に入ってたからな」
腕組みして上を向く
「何でそう思ったの?私知らなかったよ
カンナってクロフが好きだったの?」
不思議そうな顔のマリン
「マリン、嫌いな男の手に……
冗談でも触れてぇか?」
腕を組み
「……ないな」
「じゃあ俺なら?」
「んー、それでも少し……抵抗あるかな」
「だろぉ?仲間でもそうだろ?
あいつら二人で手ェ繋いでんの
見たんだよ」
「あ、私も走って行くの見たかも」
確か夜にどこかへ……
マリンは溜め息を一つ
「またカンナの機嫌が……」
「悪くなるぜコレ……」
「ヤー……面白くなりそうだ」
ニヤニヤする村長
「笑い事かよ」
イシズキも笑う
「一番の張本人が鈍いしねぇ……」
マリンも
ハンター小屋
ムカつく!!ムカつく!!ムカつくぅぅっ!!
なんでこんなに気分わるいの?!!
同じ歳なのに美人だし!
背ぇ高いし!(カンナが低い)
胸あるし!(カンナが無い)
色白だし!(カンナが……)
マリンの事もモヤモヤするし!
クロフの顔思い出すだけでムカつく!!
ギルド
片付けと帳簿を整理するパティ
あの娘……あの空気……
「ビキッ!」
「どうした?パティちゃん」
船乗り達が心配する、羽ペンが折れた
「なんでもないわ」
笑顔で対応するが……
まさか……お兄ちゃんを……
不穏な気配をカンナから
感じ取っていた
翌朝
早起きして道具屋に来たカンナ
ムカつくけどクロフの顔が見たい……
何故かパティより早く会いたい……
なぜだ?なんでこんなにイライラする?
「お早うございまーす」
「おぉ!仲間のカンナちゃんだったなぁ」
「いらっしゃい!」
ヨシとメヒコが笑顔で迎える
「ちょうど良かった、
今から朝ごはんだよ」
クロフに手招きされ店の奥へ、
「お邪魔しまーす」
カンナの心の中に、なぜか『勝った』
という感情が生まれる
……入った瞬間!
「あ、お早うございます」
パティが料理を持って笑顔で迎える
「今朝はパティも食材持って
来てくれたし賑やかだな!」
機嫌が良いヨシ
(やられたぁっ!!)
カンナは心の中で叫ぶ
(やっぱり!!)
予想が的中したパティ
ギルド
「早起きする習慣があると
起きちまうな」
「やっぱりいつもの時間にね」
「ヤハハ、もっと寝てて良いのに」
「朝一で仲間の墓参りが
日課なんだ俺達」
「あ、クロフ……」
マリンが気付く
「お早う」
まだ距離の遠い所を歩きながら
クロフが挨拶して手を振る
「おはよ……っっ!」
三人は言葉に詰まる、
クロフの後ろを笑顔で歩く二人……
この距離でも分かる、ギスギスと
軋む空気
村長、イシズキ、マリンは並んで笑顔、
だが小声で
「クロフは気付いてねぇのかよアレ?」
「笑顔が余計に怖いわ……」
「ヤー……にぶいなぁ……」
クロフの後を付いて歩く二人だが、
明らかに纏っているオーラが黒い
「村長、笑い事で良いのかの」
船長も来て言うが、顔はやっぱり
ニヤケている
「ヤハハ……レイアが2頭……」
「いやぁ……ケルビとモスの喧嘩だぜ」
イシズキが小声で笑う
「シッ!!聞こえるわよ!!」
どっちがモスかで喧嘩になるわ!
「ヤハハ……イシズキ君とマリンさん」
「「?」」
「何でもいいからクエスト
行ってもらえるかな?とりあえず
引き離そう」
苦笑い
溜め息を吐きながら
「「了解」」
こちらも苦笑い