「泥棒だァ?」
ガストンは反射的にロクスを見る
「俺は足ぃ洗ったろ!!」
口を歪めて反論する、もう10年も前だ
「うちの人は泥棒なんてやらないよ!!」
威勢の良い女が反論する、
名前はエレーナ、ふんぞり返る、
取引が無い時はギルドの給仕で稼ぐ
「コイツらの仲間だろ」
ロクスはアイルーを指差すが
「盗むのは黒毛のメラルーですニャ、
私らアイルーは違いますニャ」
トレイを持ち料理を運ぶ出稼ぎの猫族
名前はミケ
新しく建てた大きい建物の中、
カウンターで事務処理をする
竜人が続ける
「エレーナ、怒らんで良い、
どうやら二人組だそうだ」
「そこまで分かってて何で
捕まらねェんだ?」
ガストン25歳、少し低い身長、
広い肩幅、ガッチリした体、
右目に眼帯で角刈り
「気絶させられたそうだ」
竜人ドンドルマは顎をしゃくると
「面目ねぇです……」
盗まれた弟子達が小さくなる
「で?何盗まれたんだ?」
ロクス30歳、180の身長、
ひょろりと細く髪はフサフサ
「俺は肉を」
「俺は携帯食料」
「俺は……焼いたばっかりの
こんがり肉と肉焼きセット……」
「狩場でハンター狙うとはなァ」
ハンマーを担ぐガストン
「武器持ってるのに……なぁ」
ボウガンを背負うロクス
二人で森と丘を歩く、
クエストではない、犯人を捕まえる為だ
被害者はハンター数人、今は食料が
盗まれただけだが、いずれ武器や
防具、村の物となったら大事だ。
「猫族じゃなく人間二人組か……」
麻痺弾を歩きながら準備するロクス
「あいつらは基本的に約束は守る、
守らネェのは人間だ」
猫族と協定を結ぼうって時に……
森と丘の9番
細長い通路状のエリア
ガストンは突然立ち止まる、と
「ふーん……そうかァ……」
「どうしたガストン?」
「ロクス……そこにいろ」
風の音、鳥のさえずり……
静寂……
「ザザッ!!」
突然大きな影が藪から飛び出す!!
ファンゴ!!?
狙うのはハンターの
腰に付いてるポーチ!!
しかし
「よっ…と」
ガストンは体を少し捻る
ハンマーの柄が
「がスッ!!」
ゴロゴロ転がり起き上がると
「ぬがァーっ!!」
鼻血を出しながら睨む
色黒でモジャモジャ頭の若者、
痩せた体にファンゴの毛皮を
巻いている
「ほう!子供か?割りとデカイな!!」
ガストンが笑いかけるが、
藪の中に飛び込んでしまった
ガストンはボリボリ頭を掻くと
「ロクス……後ろだ」
その声に反応するロクス、
ボウガンを構え直す暇はない!
ならば!!
ロクスは見ないで後ろに蹴りを放つ!!
「ドガッ!!」
「フがぁーっ!!」
鼻血を出しながら転がる、
色白で珍しい青い髪の若者、
やはりファンゴの毛皮を着ている、
藪の中に飛び込んで行く
「…オメェ良い反応だったなァ」
ガストンがニヤケる
「ポーチを狙うのは分かったからな」
ボウガンをしまい肩に担ぐロクス、
まだ慣れてない
「なんでボウガンなんて使い慣れねェ
武器使うんだ?当たんのか?
オメェ兄ィから双剣教わったろ?
「良いんだ、そうなったんだ」
「なんだそりゃ?」
ハンマー一本のガストンには
理解できない
「良いんだよ……で?どうするよ」
「挨拶は済んだ、後は待つだけだ」
ガストンはキャンプへ歩き出す
「捕まえるんだぜ?!」
ロクスもついて歩く
「ちょっとな、考えがあるんだ」
キャンプ
「待つってどういう事だ?」
焚き火の番をしながらロクスが聞く
ガストンは寝転がりながら
「奴らのやり方見たろ?」
まず、人間が人間から奪おうと思った
なら、陽動、挟撃、分断するはず
だが奴等は風下から静かに狙った
これは野生生物のやり方だ
奪えなかったらその場で終わりだ
「おい、ちょっと待て、それじゃあ
奴等はココにこないだろ」
ロクスが反論する
「だからよ、奴等が動物なら終わりよ、
知恵がある人間ならもう一度来るぜ」
起き上がると
「人間なら説得も出来るぜェ?」
ロクスは頭を掻きながら
「弟子にするつもりかぁ?」
「あのガタイであの速さだ、
良いハンターになるぜ」
しかもまだ子供、まだ成長する
ガストンはニヤケる
「来たぞ」
ロクスは反射的に1番の方へ向く
「そっちじゃネェ……静かにしてろ」
ガストンは見ることもせずに寝転がる
ロクスは感心する、ガストンの能力……
以前気配を感じるのか聞いてみたが
『そんなもん俺だって知らねェ、
その場で一番弱いヤツを見るんだ、
草食とか鳥の違和感を見ろ』
ハンターとしての能力ではない、
臆病者の生き残る術だと最近
気がついた
ドサァッ!!!!
キャンプの街道側に掘った落とし穴、
そこに獲物が2匹
ロクスは麻痺ナイフを投げる
「ガストンにゃ敵わねぇな」
………………
縛られ動けない二匹……
色黒の方は唸り続ける、
対して色白はガストンとロクスの顔を
珍しそうに見比べる、
眼帯が珍しいのか?
説得しようと話してみるが……
「これだけ話して反応なしかァあ?!」
あてが外れた、
説得しようと話し掛けても
反応がない、
野生の中で育った人間ならば期待
できたが……
完全に野生化していたら無理だ
「おい、まさか言葉知らねぇんじゃ……」
ロクスも疲れた、
ウンともスンとも言わないし
表情さえ変わらない
腹も減ったし肉焼きセットを
組み立てる、と、二匹が凝視している
ロクスは気付き、ゆっくり手元を
動かすと一緒に顔を動かす、
ロクスの手と二匹の顔が
まるでシンクロするように
「ダッハッハァ!!そうかァ!」
ガストンも肉を焼いて見せると
二匹はヨダレを垂らし見ている
肉を鼻先まで持って行くと
「欲しいなら何か言ってみろ!」
「おいおい……メラルーかよ……」
ロクスは呆れ顔
と、
「……だい」
「「!」」
「どうしたァ?!もう一度だ!!」
ガストンは肉を振る
色白が言葉を発する
「ちょう……だい……」
一生懸命に口を動かすのが分かる
色白の縄をほどき肉をやると、
無言で受け取り半分にする
色黒に喰わせながら自分も喰う
全部の食料を喰わせるとすっかり
大人しくなった
「腹ァ減って限界だったなコイツら」
………………
「うむ、帰ったか……なんじゃあ!!
そいつらは!!?」
ハンター達がざわめく
ガストンとロクスの後ろにガストンと
同じ位の背丈の二人がいる
「犯人なんだがよ、ちょっと特殊でなぁ」
ガストンは顎をしゃくる
「一応コイツは大丈夫だ」
ロクスは色白を指差す、
色黒は手を縛られたまま
12~15才位だろうか
「何だ、まだ子供じゃないか、
ほどいてやりなよ」
エレーナがビールを持ってきた
二人とも珍しそうにビールの
匂いを嗅ぐ
「この色黒は暴れてな、仕方ねぇよ」
ロクスが疲れた顔で
つづいてアイルーが料理を持って来る
と、
アイルーと見つめ合いながら鼻を
動かす二人
意志の疎通が出来ている?
「おい!ミケ!分かるのか?!」
ギルド中が驚く
「この子達は猫語で喋ってるニャ、
ちょっと待ってニャ」
しばらくするとミケは語る
両方とも狩場に捨てられた子供で
あること
流れ者のメラルーに育てられたこと
最近そのメラルーが死んで二人だけ
になったこと
腹が減った時にハンターが肉を
焼いて食べたのが、
美味しそうで盗んだこと
「ミケ、あんた凄いわね!この子達に
言葉教えてやりなよ!」
エレーナが笑いながら
「言葉はとにかくマネすることですニャ」
胸を張るミケ
「自分の歳さえ分からんだろうのぉ…」
竜人ドンドルマは一計を案じる
「ミケ、仕事をすればガストンが
好きなだけ肉を焼くと通訳しろ」
「おい!兄ィ!!」
「はっはっは!そりゃあいい!」
ロクスは高笑い
ミケが通訳する、声を発するのでは
なく、鼻をフンフンしている
「分かったそうだニャ」
「ガストン!名前を付けてやれ!」
竜人がニヤケる
「やれやれだぜ」
「だがよ、ハンター以前に……なぁ」
「水浴びですニャ!」
「後は髪切ってあげなきゃね!」
………………
一月後
「肉…しごと……ちょう…ください」
色白はガルダと名付けられた
捨てられたのは五歳、言葉は長い間
使っていなかった為に、忘れて
いたそうだ、
しゃべり方が子供でも助かる
一方
「ぐ……がぁ……だ……」
ゼルドと名付けられた方は言葉に
ならない
ガルダに詳しい話をさせると、
ガルダが狩場をさ迷って居た時、
ゼルドとメラルーに助けられたらしい
ゼルドはもっと小さい頃に拾われた
らしく、人語を喋ったことがないようだ
「なかなか上達せんなぁ」
竜人は事務仕事をしながら
パイプを吹かす
「猫族が人語をマネだけで覚えるんだ
何とかなるだろ」
ガストンは続ける
「だが読み書きは教えられんぞ?」
やれやれといった顔、
ガストンは字が書けない
「だけどよ、狩りは上手い…んだがなぁ」
ロクスは誉めるが微妙な顔
ガルダの話によれば、今まで
ランポスやファンゴを倒して
喰っていたそうだ、
驚くのはその武器、なんと石で
殴り付けていたらしい
それを聞いたガストンとロクスは、
クック討伐に連れて行った
試しにアイアンソードを渡してみると
並んだまま凄い速度で走り込む、
鏡写しのように連携して同じ動きで
翼を斬り、ものの5分で殺してしまった。
モンスターの弱いところを本能的に
理解出来るらしく、更に
連携には言葉も合図も必要ない、
長年コンビを組んでもここまで
完璧な連携はできまい。
しかし剣を理解していないために
刃筋を立てる…なんてことは
知らないようで殴り殺すに近い
倒したらヨダレを垂らしてガストンに
肉をくれと両手を出す
「討伐するのは良いんだがよ……」
ガストンはシカメっ面
「コイツらにはモンスターに対する……
何て言うのか……敬意が無い」
ロクスも苦い顔、モンスターとは金に
も財産にも変えられる貴重な生物、
だからこそ根絶やしにはできない
「まぁだ子供だよぉ、分かんないよ!
こんがり肉が欲しくてやってる
だけだろ?」
二人の頭を撫でるエレーナ
身長は170位あるが
ギルドマスターはパイプを吹かす
「行動が単純明解なぶん問題行動も
起こさないし、なによりお前に
良くなついたしの、
それに飯の食い方も服の着方も
出来るようになったし……
大目に見てやるしかないだろう」
「俺のマネばっかりやるんだ」
ガストンは溜め息
「ホントにデッケェガキ共だ」
………………
数ヶ月後
狩りは問題ない、
生活全般などは子供と同じように
教えてやらねばならないが、
ガルダが間に入って言えるようになり
楽になった
「じゃあロクス、頼んだぜ」
ガストンは旅支度を終えミナガルデ
に向かう
「あぁ、また一年後だな」
「西の珍しいモノ買ってきてよ!」
商売の幅を広げたいエレーナ
「どこいく?」
ポカンとしているガルダ
「仕事で遠くに行くんじゃ、昨日も
話したろ」
ギルドマスターが見上げながら
「ああああああ!!!!」(濁点を付けて)
ゼルドが泣き叫ぶ
「どこいく!!どこいくの!!?」
ガルダも叫ぶ
どうやら置いて行かれるのがイヤらしい
ギルド中がなだめるが効果が無い
体が大きく力が強くても
子供には違いない、
そしてガストンの言うことしか聞かない
「こりゃあどうするか……」
麻痺ナイフを持つロクス
「仕舞いなよ、そんなもん」
エレーナが諫める
「お前の拳骨が頼りじゃ」
ギルドマスターがガストンに拳を作り
振って見せる、
力で抑えるのは簡単だが
可哀想だし逃げるかも知れない
「ガストン!!お前にしか出来ねぇぜ!!」
飼い主……いや親か……
ガストンは意を決して溜め息を吐くと
「ゼルド!!ガルダ!!こっち来い!!」
素直にガストンの前に行くと
ひざまづく
皆はいつもの様に拳骨で殴る
と思っていたら
ガストンは頭をグリグリ撫でると
「俺はオメェらの父ちゃんだ、
前の親とは違う!!必ず帰って来る!!」
ギルド中が納得する、この二人は
捨てられた、特にガルダは記憶がある、
また親に捨てられるかも知れないと
思ったのだ。
「ガルダ!ゼルドはお前の弟だ!
お前が兄ちゃんだ、兄弟だ!!」
「きょうだい?」
「ぎ……だ?」
二人とも顔を見合せポカンとする
「お前ら兄弟でココを守れ、
俺の代わりにココを守れ、約束だ、
ちゃんと出来たら帰ってくる」
肉も持ってくるからな、とグリグリ撫でる
「帰ってくる」
「が……ぐ……」
二人は言葉では伝わらない
何かを感じ取っている
二人の頭を胸に抱くと
「言葉が通じねぇなら肌で感じ取れ!!
必ず帰って来る!!必ずだ!!
お前らにギルドを任せる、
俺の代わりだ!!」
二人が大人しくなる、と
スイングドアを開けるガストンを見送る
「ゼルド、ガルダ、頼んだぜ!!」
二人で言葉にならない叫びを上げる
「行ってらっしゃい!!」と
あれから多くの年月が過ぎた
今回は
オヤジは帰って来なかった