「おっ、キレイになってんぜ」
イシズキが壁を撫でる、石工の腕が
良かったのか通路の壁がデコボコ
していない
「各通路も堀り直したみたいね」
キャンプから覗き込むマリン、
落盤していた通路の先に光が見える、
土壁ではなくなった
「歩きやすく石畳になってる」
ガシガシ床を蹴るカンナ
「でも……なんかやっぱり……」
職人達の表情、掛け声…なんだか……
「あぁ……人がすくねぇし」
「活気が……無いわね……」
「やっぱり師匠……」
カンナが下を向く
エリア4に抜ける、
ドンドルマに帰って来た
途中の村や行商人から噂を聞いたが、
やはり本当だったらしい
「挫けてたら師匠に笑われるし……」
顔を上げるカンナだが、この言葉を
呪文の様にずっと繰り返している
自分に言い聞かせている……
三人にはそれが理解できる
理解できる過去がある
門まで来ると
「うわぁ!」
「ほとんど直ってるぜ!」
八割がた完成している
「扉がキレイ!」
カンナが撫でる、錆が浮いてない
直った門を見ていると
「おい、マリン、どうした?」
マリンは無言で後ろを見ている、
視線を追うと
狩りから帰って来たパーティーが
こっちへ来る
しかし、視線を合わせる事も
挨拶する事も無い、
多分失敗したのだろう、
こういう時は何を言っても逆効果……
無言で通すが礼儀
「失敗……だね」
「多分な」
「私らも行こう……」
カンナは前を向く
「ただ失敗しただけなら良いけど」
様子がおかしい、失敗しただけ?
マリンの予感は的中する
街の活気が無い、行商人も露店も
少なくなっている
ギルドの前に着く……違和感
静か過ぎる、いつもは喧騒が絶えない
うるさい所なのに
中に入ると…暗いし誰一人喋らない、
ただ飲んでいるだけ、
酔い潰れている
「なんだよコレ?」
カウンターにベッキーの姿も
ギルドマスターの姿も無い
力なくクロフ達を一瞥するだけ
「帰ったか……」
後ろにロクスがいた
………………
「じゃあやっぱり」
クロフもうつむく
「本当なのか……」
「ゼルドさんとガルダさんは?」
マリンが見回す
「ガルダは狩りに出とる、ゼルドは……
奥で飲んだくれてのぉ……」
あの手紙を誰も信じなかったが、
アルトが帰って来て真実を告げた
ベッキーは自室に引きこもり、
ゼルドは仕事を放棄したそうだ
ギルドマスターは王宮へ呼び出された
「師匠は今どこに?」
「ベッキーの部屋の前だ……行くか?」
言っているとアルトが降りてきた
「師匠!」
「あ……あぁ…クロフ」
やつれて目の下には隈が出来ている、
手には冷えきった食事を持って
「やはりダメか……お前だけでも
メシを食ったらどうだ?」
ロクスが心配するが
「あの娘(ベッキー)が食べないんだ、
ナナキ見殺しにしたアタシが
食えないよ…」
「見殺しってどういう事!!」
カンナは叫ぶ、静かなギルドに甲高い
声が良く通る
皆こっちを見るが……覇気がない、
既に聞いているのだろう
………………
「そんな……」
カンナが口元を抑え涙を流す
「スゲェ人だな、仲間の為に……」
腕を組みうつ向く
「それだけじゃ無いわ、大陸全体の
為にハインツさんとアルトさんを
逃がしたのね」
マリンは想像する、英雄の称号の重さ、
なんて大きい人達だろうか
「ナナキさん、宿題…終わってないのに」
クロフもうつ向くしかない
「宿題ィ?」
ロクスが不思議そうに
「次に会うときまでに思い出せって…
前に会っていたらしいんです」
アルトが少し考えると
「…教えてあげる、ポッケの全滅の後に
放浪した時だ」
あの辺境から出るにはジャンボ村の
交易船しか無い、だから一時ジャンボ村
に居たんだ、
道具屋の近くに誰が掘ったか
分からない洞窟があって、そこに
住んでたそうだよ
「……あっ!!あの人だったんだ!!」
髪と髭が伸び放題の浮浪者……
「思い出したの?」
カンナは涙を擦る
「うん、船乗りとか村の食べ残しを
何度も持って行った……
パティと一緒に……」
「感謝してたよ、だからアンタ個人に
借りを返すより、パティに返せば
アンタも喜ぶだろうって…」
「似合ってたな」
イシズキが少し笑う
「サイズで揉めたけどね」
マリンも笑うが
会話が途切れてしまった、
間が持たない
「さて…何か作らないと」
アルトが立ち上がろうとするが、
よろける
「言わんこっちゃない」
ロクスが支えて座らせる
「もう5日になるだろ、何か食え」
アルトは力なく首を振る
「師匠…」
言葉が続かない、辛いんだ……
俺じゃ何のフォローもできない
アルトは涙を滲ませ黙ったまま
「ワシから話そう」
ロクスが語ってくれた
手紙が来てから数日後、アルトは近くの
町まで飛んできた
ギルドに入ると全員が注目する
アルトの顔が暗い……
いつものように笑ってくれ……
嘘であってくれ……
誰一人口を開かない
まさか……
カウンターの前まで行くと
「ベッキー……ゴメン……」
泣きながら言うアルト
クエスト帳や羽ペンを落としながら
ベッキーは立ち上がる
静寂
突然
「何で姉さんは生きてんのよ……」
呆然としながら
「ベッキー!!貴様ァ!!」
ロクスが怒鳴る、一番辛いのは仲間を
失ったメンバー、
ギルドスタッフならそんなことは
分かりきっている
「ベッキー!!テメェ!!」
「何言ったか分かってんのか!!」
「何でだ!!ベッキー!!」
G級達も怒り出す!!
ベッキーは駆け出すと風のように
階段を登って行く
誰も何も言えない
「すまんのぉアルト、まさかあんな……」
ロクスが項垂れる
我が弟子が……こんな……信じられん
「いいんだ……女だからね……」
………………
「あのベッキーがかよ……」
いつもニコニコ笑ってるイメージ
「ベッキー、ナナキさん好きだったし…」
クロフが呟くと全員が一斉に見る!
「どういう事!?」
カンナが立ち上がる
「アンタ誰から聞いた!?」
アルトも体を起こす、一部の人しか
知らないはず
「おい、どういう事だ?」
「何だ?何の話だ?」
周りのテーブルも騒ぎ出す
皆に見られてビクビクするが
「なんか……ナナキさんにだけ普通に
喋ってるし、態度も……こう……」
上手く説明できないが
「ベッキーが呼び捨てして……」
「驚いたのぉ、まさか一番鈍そうな
クロフがのぉ」
ロクスの皺が深くなる
「それに……」
「まだあんの?」
カンナがズイッと寄る
俺の想像だけど……
ギルドは酒場でもあるし、皆大体酒が
入ってる、正直なところ手癖の
悪い人もいるけど、ベッキーが触られた
所なんて見た事無い
ギルドガールを触ろうとしてベッキーに
睨まれたり、手を叩かれた人は見た
ことはある
なのにナナキさんだけは触れる……
「もしかしたら……ナナキさんにだけ
触らせてる……かなって」
「変な所で鋭いのな」
イシズキがニヤける
「それじゃ……辛いわよね……」
マリンが頷く、伝えたアルトの心境も
辛いものがある
「なんかよ、こんな時は明るい話が
欲しいよな……」
イシズキが言うが……全員ため息
スイングドアが開き大きな影が入る
「フム、帰ったか」
「ガルダさん!」
………………
「それじゃあ……」
クロフはうつ向きネックレスを見る
「フム、ゼルドはギルドの規律や
ハンターとしての矜持、体面ではなく
オヤジの為に戦ってたからな」
「専属なのに……」
「仕方がない、だがゼルドはそんなに
弱いヤツではない、必ず立ち上がる、
俺はそれを待っている」
表情が変わらない、いつもの怖い顔
「物事には良い時も悪い時もある、
今は踏ん張る時だのぉ」
そう言うロクスだが……やはり
覇気がない
「ねぇ、師匠とガストンさんが負けた
モンスターって何なの?」
カンナの突然の質問にハッとする
「そうだぜ、そういえば」
顔を上げると
「言えないんだ……」
アルトが首を振る
「四英雄か過去にその役目を継いだ
者にしか公開されとらん……」
「じゃあ知ってるのは師匠と?」
「フム、後はハインツ、そして先代
四英雄の俺とゼルドと……」
「ゼルドさんとガルダさんも四英雄
だったんですか!」
四人が驚く
「ガストンとワシらから赤鬼、青鬼、
黒鬼、白姫に継いだからのぉ」
ロクスがガルダを指さす
「何か変ですよ?なぜまたガストンさん
がその後に?」
マリンが言う、そういえば
「四大英雄に認められるやつが
居なくての、ガストンが入って
欠番を埋めたんじゃ」
「とんでもないモンスターが
居るんですね?」
クロフがアルトに問うとコクンと頷く
「あの……」
まだ下働きのギルドガール達、
オロオロしている
「フム、どうした?」
「お疲れのところ申し訳ありません、
依頼が入っておりますが……」
誰もクエストを受けないのだろう、
立つ瀬がない
「フム、内容は?」
「上位相当のクックですぅ」
困った顔
「おっし、クロフ!」
「ガルダさんも疲れてるだろうしさ」
マリンが立ち上がる
「師匠なら笑うトコだよね!」
涙を拭いて立ち上がるカンナ
「うん、そのクエスト、俺達が行く!」
………………
「ちょっと何よコレェ!!」
ランポスまで硬い、鱗が滑る
「一旦退くぞ!!」
クロフが叫ぶ
森と丘の3番から2番へ移動
「火山の村の時と同じだぜ!?」
あの時も上位個体がいた
「先にランポス片付けておかないと
マズイわよ」
マリンも息が切れている、
ランポスごときが上位でこんなに
違うとは
「何か最初の頃に戻った感じだよぉ?」
ポーチを確認
「最初にランポス狩っておかないと
無理だ」
クロフも兜を取り、息を整える
四人いればクックの他にランポスが
居ても平気だった、上位では通用
しない
「嘗めずに基本に戻ろう!!」
「「「了解!」」」
雑魚を掃除してからクックと戦う
「なんか思ってたのと違うぅっ!!」
やっぱり硬い、手応えが違う
「クックだと思うな!!」
ガードすると一発が重い、久しぶりに
体ごと持って行かれる感覚
「コイツぁレウス並みだぜ!!」
「気のせいかスキも少ないわ!!」
振り返るの早いような
「一撃離脱!」
「「「おう!!」」」
「閃光投げるよ!!」
カンナが投げる
「頭に行くな!足と翼へ!!」
尻尾をガードするマリン
「啄みはヤバそうだぜ!!」
何とか倒してキャンプで後始末
「素材はいっぱいあるからランポス
装備位作れそうだね」
ポーチを見ながらカンナが言うが
「クック相手にアイテムいっぱい
使っちゃったなぁ」
クロフはボヤく
「また光虫集めだな、それと
上位装備にしないとな!」
イシズキはなんだか嬉しそうだ
「何で嬉しそうなの?」
マリンが防具を洗いながら聞く
「そりゃそうだろ、師匠と同じ位強い
武器作れんだぜ?」
上位の双剣…ワクワクする
「でも、先ずは……」
尻尾で叩かれた跡がクッキリ残る
クロフの腕
「防具から……だね」
マリンの背中にも
「ねぇ、気になったんだけどさ」
カンナが盾の傷を撫でながら
「ん、何?」
「駆け出しの頃に戻った感じじゃん?
G級上がる時も繰り返すよね?」
「G級のクックの話も聞くわね……」
「今の以上に強ぇえんだろうな……
G級クックは下位だったら何になる?」
「多分グラビモス……とか?……
速くて硬い……」
クロフは腕組みして首を傾げる
「………………」
四人共……途方も無い気持ちに
「防具一択……だな!」
イシズキはなぜかキメ顔で
「生き残るが正解だし……」
しまった……
クロフは言ってしまった、今コレは
カンナには……
「……大丈夫だよ……」
カンナは暗くなるが
「カンナ、胸はって良いんだよ?
あんたの師匠は国を守ろうとしたんだ
誇れる師匠だよ」
マリンがカンナの両肩に手を置く
「最強の弟子……だよ」
前みたいに生意気にならなきゃ
いいけど……でもここは
フォローすべき……
「尻好きの弟子……」
イシズキがニヤケながら
「イシズキィ!!」
「ちょっ!投げるな!砥石はやめろって!」
笑いながら逃げ回る
あぁ……これはイシズキなりの
励まし方なんだ