生きる事は悩むこと   作:天海つづみ

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本編と全く関係なしの話です、
単にお気に入りのキャラの話を
前々から考えてました。

なんの教訓もありません、
ただの暇潰しです




 

 「ドンドルマ……ですか」

 無表情のゼニスが答える

 

 「何か不満でも?」

 ハインツが首を傾げて、

 ゼニスが聞き返すのは珍しい

 

 「いえ、何も……任務内容は?……」

 

 「現地で詳しい内容は聞きなさい、

 解っているのは『暗殺』任務です」

 

 

 

 最近疑問を持つ、助けられた恩義を

 返すためにギルドナイトとなり、

 大陸中を飛び回り規律違反の

 ハンターや、不正な依頼を出した者の

 命を狩ってきたが……

 自分のやっていることに違和感を持つ

 

 私のやりたい事はこれか?

 

 いや……やりたい事を口にするなど

 恩義に反する。

 

 

 

 

 

 

 ドンドルマギルド

 

 「……つまり弟子を暗殺すると?」

 

 小さなギルドマスターは笑顔で

 「ホッホッ、お前がその目で見て判断

 してほしいんだなぁ」

 

 

 

 「ハンターをしながら商売を?」

 前の弟子についての報告書を読む、

 初耳だ、副業をするハンター?

 ……密猟?

 

 「アルトの名前を使って金貸しを

 始めてなぁ、そして当然失敗」

 ギルドマスターは、やれやれと首を振る

 

 「そのあとは?」

 

 「アルトに損失被せてなぁ、コイツは

 もうダメだって事でベッキーにな」

 ニコニコ笑う

 「それでもアルトは助けようと実家に

 借金の相談にいこうとしたりなぁ……

 あの娘は孤児に優しすぎる」

 

 「なのにまた弟子を?」

 

 「ホッホッ、四英雄ともあろう者が

 弟子の一人も居ないではなぁ」

 

 「見栄……ですね」

 

 

 「そういうのも大事だしのぉ」

 ロクスが入ってきた

 

 「ロクス統括官!!」

 ゼニスは直立で敬礼する

 

 「やめろ、ワシは引退したし今では

 『ギルドナイト』だろう?

 ハインツに役目は継いだしのぉ」

 

 「いえ、組織の創設者である事は

 変わりません」

 

 「四大英雄にギルドの暗部を任された

 だけだ、ワシが偉い訳では無いしのぉ」

 

 「専属のベッキー様は……?」

 

 「カウンターに居らんかったか?

 アルトの準備でも手伝ってるんじゃろ」

 

 

 ギルドマスターは話を戻す

 「村長の話だとロクに人と話せない

 若者だそうだ、悪いヤツではない

 そうでなぁ」

 

 「もしもお前の目から見て、

 アルトの為にならない印象を持ったら

 ……のぉ」

 ロクスの目が鋭くなる

 

 「依頼内容はアルト様の護衛、という

 認識で間違いありませんか?」

 無機質に喋るゼニス

 

 「……うむ…アルトを『人』から

 守る任務だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 親を殺しかけた罪人、そして今は

 ギルドナイトとして人を狩る、

 産まれも娼館の娘、

 マトモな人生などあるだろうか

 

 行商人に変相する、得意なスタイルだ、

 どこにいっても怪しまれないし、

 浅黒い肌は男に化け易い、

 アルト様の後を追って行く。

 

 

 

 

 

 ジャンボ村

 

 船乗りや他の行商人にも女であること

 がバレない、最近はそれが

 つまらないと感じる事さえあるが……

 

 「ヤハハ……これは珍しい」

 

 「村長さん!!どうです?シュレイド領の

 穀物ですよ?」

 身振り手振り、声色、表情、全て作り物

 

 本当の私ではない

 

 本当の私など必要ない

 

 

 

 「ヤハハ……貴女は一度見たことが…

 王都のとある場所でした」

 

 

 バレたっ?!!

 

 糸目で表情が解らないが

 

 「……それは失礼」

 まさか一目でバレるとは

 「本部から派遣されました」

 弟子の暗殺は……言えない……

 

 「目的は……なんでしょう?」

 糸目が笑う

 

 

 この竜人……気付いてる?

 「もちろんアルト様の護衛ですが?」

 

 「ヤー……そうですか……あの老人達

 の事だから……いやいや……」

 笑顔になり

 「そういうことにしておきましょう」

 

 

 

 油断ならない、辺境の村長なんて

 のんびりしたヤツだと思ってた、

 この竜人は気を付けよう

 

 

 

 アルト様が狩り場に出る間に村の構成

 や人物を観察、調査する。

 どうやら弟子になる男は人と接する

 のが苦手らしい、私と同じだ。

 

 過去の戦乱による影響なのだろう

 

 

 この弟子は好感が持てる、

 欲望が無いし実直だ。

 

 波打ち際で眠ってしまったクロフを

 濡れないように引き摺り、陸地へ揚げる

 

 嫌な匂いがしない男だ……

 

 嫌悪感が湧いてこない……

 

 頬をつついてみる……

 

 なんだろう……この気持ちは……

 

 

 

 ………………

 

 

 

 ドンドルマに戻り報告書を上官へ渡す

 

 「あの子が弟子の子?」

 ベッキーが横目で見ながら

 

 ギルドの入り口にオドオドした若者が

 一人

 

 「ホッ?ゼニスよ、一言で感想を

 言ってみよ、お前の主観で良い」

 

 「欲がない……いや、個が希薄

 でしょうか……」

 

 「ふぅん、じゃあ危険は……」

 

 「全くありません」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 「任務完了しました」

 本部で報告、王都のとある建物

 

 「お疲れ様でした、アルトの弟子だった

 ようですね……どうでしたか?」

 ハインツは立派な机の向こう側に座る

 

 「その前に……失礼を承知で

 お聞きしたい事があります」

 

 (ほぅ、私の質問に質問で返すとは……

 成長と見るべきですかね)

 「なんです?」

 ハインツはニコリと笑う

 

 「ジャンボ村の村長に一目で看破

 されました、過去にここで私を

 見たそうです」

 

 「……フフフ」

 ハインツは顔を伏せて笑う

 

 ゼニスは不思議そうな顔になると

 

 「解りませんか?変相を見破ったのは

 驚きですが、『此処』で見た

 というのは…」

 

 ゼニスはハッとする

 「カマを……」

 

 「そうです、貴女が足元を掬われるとは、

 若さですねぇ」

 ハインツは笑いながら続ける

 「あの村長は四大英雄とも交流があり、

 あの老獪な人達と渡り合う人ですから」

 

 やられた……

 

 「それで?弟子は?」

 

 姿勢を正し

 「私と似た所があり……何か……

 気になる人でした」

 

 「!……そうですか……

 解りました、さがりなさい」

 

 

 ゼニスは一礼すると下の階へ降りる。

 

 ここは王都の中心、

 表向きは最大の宿屋、

 そして裏ではギルドナイト本部でもある

 

 毎日多くの行商人が立ち寄るために

 偽装しやすい

 

 「本部長、何があったんでしょう?

 以前は活かすか殺すか冷酷な娘

 でしたが……」

 部下の男、この宿屋のオーナーでもある

 中年の紳士、ハインツの副官

 

 

 「ゼニスも18の女と言うことですよ」

 

 「まさか……!」

 

 「一旦暗殺家業は様子を見た方が

 良いでしょう、ちょうど兄上から書士隊

 の補強の話が来ていますし、調査の

 方をやらせましょう」

 

 「あの冷酷な娘が……まさか恋?」

 

 

 

 

 

 

 

 ゼニス……この名前で呼ばれ2年

 たっただろうか、

 私の本当の名前は違う、ゼニスはただ

 適当に付けた隊内の名前。

 

 本当の名前は大嫌いな親に

 付けられた名前。

 

 どんなに最低なヤツでも親……

 ソイツに付けられた名前が本当の名前

 

 人に言いたくない名前

 

 

 ギルドナイトにスカウトされた時

 

 

 

 

 

 ………………

 

 「この娘ですか」

 長身の美形が地下牢の前に立つ

 

 マーカスが報告書を読み上げる

 「娼館の娘で、親を刺したそうです」

 

 牢の中にはボンヤリと座る少女が

 一人、金髪に翠の瞳

 

 「兄上はこの娘を私にどうしろと?」

 腕組みして牢を見る

 

 「そちらで預かれないかと……」

 

 「処罰はされないんですか?

 無罪って訳にも行かないでしょう?」

 

 「理由が理由ですから……

 条件次第で」

 

 「理由?……ですか……」

 ハインツは少女に向くと

 「◯◯◯、貴女はこれから表の世界

 では生きて行けません、罪人です、

 どうでしょう……裏方になりますか?」

 ハインツは無表情で語り掛けると

 

 「……正しい事をしたのに」

 肌が浅黒い事を除けば飛び抜けた

 美人が呟く

 

 「親を刺し殺そうとして正しい事とは…

 殺人未遂なんですよ?」

 マーカスは眼鏡を上げながら

 

 「キレイな世界の人には解んないわ、

 娼館の娘がどんな目でみられるか…」

 ローブを着たマーカスとギルドナイト

 スーツのハインツ、

 明らかに上流階級の人間に見える

 

 

 ハインツは目を伏せる

 「風当たりは強いでしょうし、まともに

 扱ってくれる人も少ないでしょう、

 ですが貴女は親を刺したんです」

 

 「娼館の娘は娼婦になるのが当然?

 そう言いたいの?」

 少女は立ち上がると

 「実の親に体を売らされるのが当然?」

 鉄格子に歩みよりハインツに向かい合う

 

 

 ハインツ顎に手をやり考える

 「なるほど、貴女は自分を守っただけ、

 だから正しいと?」

 

 少女は頷く

 

 

 

 

 暫し考え

 「マーカス、この娘を預かります」

 正義の為なら手段を選ばない

 かもしれない、

 それはギルドナイトにとって必要な

 素養だ、

 この娘は正しい目的意識を持たせて

 やれば……良い仕事ができますね

 

 マーカスは鍵を開けると

 「出なさい◯◯◯」

 

 

 「その名前はキライ……」

 マーカスを睨む少女

 

 「被害者……いや、実の娘に客を

 取らそうとした父親に付けられた

 名前が嫌……ですか?」

 薄暗い中でハインツの目が少し笑う

 

 少女は頷く

 

 「安心しなさい、仕事の内容上本名で

 行動しません、私以外はね」

 

 

 そして私はゼニスになった。

 

 男か女か解らない名前にしてもらった。

 

 

 ………………

 

 

 

 

 今回は暗殺ではない、

 アルト様とナナキ様がユクモの山奥で

 何か見つけたらしい。

 

 「今回はギルドナイトとしてではなく

 書士隊の調査です」

 宿屋の最上階でハインツが指示する

 

 「どの様な姿で……」

 行商人の服とギルドナイトスーツ

 しかない、私服など持ってないし……

 ゼニスは困る

 

 「倉庫にハンターの装備があります、

 戦闘は考えられますが、調査ですから

 様子見程度です」

 ニコリと笑うと

 「好きに選んで着なさい」

 

 実はハインツは試している、

 これで何を着るかでゼニスの心情を

 計ろうとしている、

 

 いつものゼニスなら顔が隠れ、男か女

 か分からない装備にするはず……

 

 もちろんゼニスはハインツの企みに

 気付きもしない。

 

 ゼニスはアレコレ選び

 マスターシリーズの白にした

 

 

 ハインツと副官は下まで降りて

 出て行く後ろ姿を見送る

 

 「あの娘……

 あんなに美人だったんですねぇ」

 部下の紳士が感心する、

 いつも男の行商人か目深に帽子を

 被るゼニスのイメージ

 

 「男を嫌い、男に抑圧される女も嫌って

 性別を捨てたあの娘が……

 あんなに女らしい格好で出るとはね」

 ハインツはニヤケる、

 まるで白いドレスの後ろ姿

 

 「本部長の言う通りですね、

 ギルドナイトも引退するでしょうか?」

 

 「誰にでもある『麻疹』みたいなモノ

 でしょう、初恋なんてそんなモノです」

 

 

 ゼニスは歩いて行くが、

 

 「うおっ!」

 「誰だあの美人?!」

 「ハンターだな」

 「うっわ!キレイな娘ぉ!」

 

 しまった……どうやら私は美人らしい、

 男が皆見てくるし、落ち着かない

 

 仕事柄目立たない様にしてきたから

 この視線は慣れない……

 

 なぜこんな装備を着た?

 大嫌いな女らしい装備を着た?

 

 ……見せたい……

 

 ……女であることを……

 

 誰に?

 

 あの人に……

 

 

 

 

 「よぉネェチャン!!ハンターだな?

 通行税は払ったかぁ?」

 宿を出て僅かな距離でチンピラ数人が

 近付く、いきなり肩を組もうとする、

 

 と、ゼニスは素早く後ろに回り込み

 

 

 

 

 

 「……鼻と耳、要らないのはどっち?」

 ギルドナイトセイバーを鼻に当てる、

 無表情で抑揚の無い声

 

 

 その場にガクガクとへたり込む

 チンピラ達

 

 ゼニスは背中に剣を仕舞い、

 「命が要らなくなったら何時でも

 声を掛けて下さい」

 

 周囲が一斉に後ずさる

 

 

 

 「本部長!!ギルドナイトセイバーを!!」

 

 「そっちはいつも通りですかっ!!」

 急いでハインツは追いかける、

 ギルドナイトセイバーはギルドナイトが

 主に携帯する武器、

 王都の中心て振り回しては都合が悪い

 

 

 

 

 

 

 

 なぜかボウガンを背負わされた、

 ドンドルマへ向かう

 

 

 

 

 

 

 二人きりで門の上へ、

 悩んでいるクロフ殿の話を聞く

 

 泣きそうなクロフ殿を納得させる

 

 「どこに落ち度がありますか?」

 顔を近付けてマジマジと見る、

 

 頬をつついた事を思い出す

 

 触れたい、この人に

 

 

 この人に会いたかった

 

 この人に見せたかった

 

 女である私を見せたかった

 

 言いたい

 

 本当の名前

 

 

 

 

 

 「全然、すごく気が楽になりました」

 クロフが笑顔になる

 

 良かった、笑ってくれた

 言うんだ……名前……

 「では私はギルドへ向かいます」

 

 チャンスだったのに!!

 

 

 

 

 「何かホントにありがとう」

 

 「では、失礼します」

 また逃した!

 言いたいのに…知ってほしいのに!

 

 何でこんな言葉しか出てこないんだ!!

 

 

 

 

 「あ!あの、ドンドルマに連れてきて

 くれたこともありがとう」

 

 振り返る、

 

 言うんだ!名前!!

 

 大嫌いな名前だけど

 

 この人には知ってほしい!!

 

 呼んで欲しい!!

 

 

 

 ……でも……

 

 「礼には及びません」

 

 

 

 

 自分が嫌になる……

 

 三回も逃した……

 

 

 

 ………………

 

 

 「任務完了しました」

 

 「お疲れさまでした、新種だとか?」

 ハインツは報告書に目を通す

 

 「あの……ハインツ様……」

 

 「どうしました?」

 

 「名前って……何でしょう?」

 

 

 ハインツと副官は顔を見合わせる、

 明らかにゼニスが変化している。

 

 「名前とは私にとっては自分や家を

 区別する記号のようなモノ……

 でしょうか」

 

 「記号……」

 

 「貴女は本名がキライでしたね」

 

 「……」

 

 「名前を変えますか?」

 

 ビクッと顔を上げて

 「できるんですか?!」

 

 「貴女は地下牢から出た時に、既に

 別人としての人生が始まっているでしょう」

 

 

 言われてみればそうだ、そして

 ゼニスになったんだ

 

 ハインツは立ち上がるとツカツカと

 ゼニスの前に

 

 「貴女はゼニス、しかしこれは隊内の

 名前です、貴女の本名は地下牢に

 置いて来たでしょう?」

 

 「置いて……」

 

 「自分で付けますか?」

 ハインツはニコリと笑う、

 報告書の白い新種のモンスターを

 見せながら

 「このモンスターもこれから名前が

 付くんです、産まれて直ぐ付けられた

 名前だけが全てではありませんよ」

 

 「自分で付けても良いものなんですか」

 どうしよう

 

 「貴女は本名が無いんでしょう?

 捨ててきたんでしょう?好都合ですよ」

 クスクス笑うハインツ

 

 「考えてみます」

 ゼニスが部屋を出ようとすると

 

 

 

 

 

 

 「クロフ君に覚えて貰えると良いですね」

 

 

 

 ドアノブに手を掛けたまま固まるゼニス

 

 真っ赤になり

 

 「失礼しますっ!!」

 乱暴にドアを閉める

 

 

 

 

 

 

 

 「本部長、ゼニスが感情を……

 名前を欲しがるとは」

 

 「面白いですね」

 

 「笑い事ですか?」

 呆れる副官の紳士

 

 「私など王族の名前で苦労したんです、

 名前を変えたいと思った事は

 一度や二度じゃありません」

 

 椅子に座りクルリと回る

 

 「名前で振り回されるなんて

 馬鹿馬鹿しいですよ」

 

 上を向くと

 「重要なのは人からどう呼ばれるかです、

 私は必死でハンターをやったお陰で

 『王族の落ちこぼれ』から

 『四英雄』になったんですから」

 

 

 

 「彼女は何になるんでしょうか……」

 あの感情の無い剣の様な娘が……

 

 「フフ……少なくとも女性には

 なったようですよ」

 

 「なりましたか?」

 副官は不思議そうに

 

 「今『彼女』って呼んだでしょう」

 

 


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