生きる事は悩むこと   作:天海つづみ

57 / 57
英雄と人外

「来たぞ!」

「角笛!狼煙!」

「各部隊!準備ヨシ!」

「騎馬隊!出るぞ!」

 

 シュレイド国、東国境、関所付近の草原で

 小さな戦が始まる

 敵は違法な国境越えを繰り返す四人の犯人

 

 何度警告しても意に介さず平気で

 踏み越えて来る

 

 一度現場の兵士が話合いをしてみたが

 

 

 

「国ィ?国境?なんだそりゃ?

 どこに境目があんだ?」

 と、まるで話が噛み合わない

 

 その後何度か小競り合いになったが、

 最後はたった四人の犯人に50人の歩兵が

 返り討ちにあった

 

 

 

 

 『国の威信を掛けてでも首を取らねば!』

 と鼻息荒く王に進言した将軍一派、

 確かに国の防衛をする者達にとっては面目

 を保つのは大事だ

 

 しかしこの犯人グループはハンターで、

 シュレイド国内を通過する際、

 モンスターをついでに狩って行くのだ

 

 兵士が何十人掛でも苦戦し、死人まで出す

 ようなモンスターを鼻歌混じりで倒して

 行くため、国民から英雄視され、

 助けられた兵士までいる

 

 

 

 ……………

 

 王宮

 

 王は悩む

 

 強い、それは良い、問題はこの四人が

 

 

 『一切の制御が効かない』のだ

 

 

 金も地位も欲しない、それは素晴らしい

 事だがコントロールできない強大な力、

 それはモンスターとも言える

 

 いっそ兵士にしたいが出来ないし、

 法も意味を持たない

 

 誰に何を言われようが馬の耳に念仏なのだ

 

 救いがあるとすれば国境や関所を無視して

 移動するだけで、犯罪などは絶対にしない

 

 たまに小作が苦しんでいる領地などでは

 領主の屋敷に討ち入り、食糧などを奪い

 領民に渡す、というような義賊の

 真似事をする

 貴族にとっては犯罪だが国民からは英雄

 となる、その証拠に四人が来たらどこの

 村も歓迎する

 

 

 

 

「正義はどちらにあるか…それが問題だ…」

 円卓会議

 王と貴族による話し合い

 

 かつて竜人が人々の為に各地を歩き、

 モンスターを討伐した

 

 その頃は国内の反乱や、従わない地域を

 平定するために忙しく、自由にさせていた

 

 国内に入ったモンスターを勝手に倒し、

 シュレイドから報酬を受ける訳でもない

 

 こちらとしても都合の良い存在だった

 

 昔はそれで良かった、しかし今は一つの

 国としての面子がある

 

「総力を挙げてでも殺さねば!!」

「大袈裟な…一国がたった四人に総力を

 使えば笑われようぞ?」

「下手に殺せば国民から反発され、

 最悪一揆の可能性も」

「何とか懐柔できないか?」

「それはダメだった、

 奴等は金も領地も興味が無い」

 

 様々な意見が出るが

 

「王、是非とも意見を賜りたい」

 将軍に問われる

 

 だれも口には出さないが解っているのだ

 

 

 あの『四人に手を出す』方が『悪』に

 なってしまう

 

 かと言って放置は出来ない

 

 

 この堂々巡りなのだ

 

「そうだな…まず彼等を調べよ、

 そして目的を探るのだ」

 

 

 

 

 …………

 

「目的?モンスターで困っている人々を救う

 …それだけじゃ」

 

 名も無い小さな村(後のココット村)

 

 あの四人の師匠と言われる竜人と

 シュレイド国の使者

 

「しかしそれでは…」

 使者の兵士も困る、子供の使いではない

 

「なんじゃ?この答えでは気に入らんか?

 他に理由なぞ無いが…」

 

 使者は考える、彼等に非が無い

 国境などの『国の規律』を理解できない

 (しようと思ってない)だけ、

 空を飛んでいる鳥と大差ない

 

 しかし自分も国の使い、

 このまま帰る事など出来ない

「とにかくあの四人に関所を通り、税を納」

「解っとらんなぁ」

 

 

 

「…は?」

 

 竜人は語る

 国も村も大差無い、

 守りのために自警団を置いている、

 そして自警団の維持のために税がある

 …それだけじゃ

 

 ではヤツらは何か

 

 この大陸全体の自警団みたいなもんじゃ、

 全部が一つの村じゃ

「ワシも奴らも、自分の村の中を移動して

 いるに過ぎん、そこに国境なぞありはせん、

 帰って伝えよ、英雄が羨ましいのは解るが

 『軍属のヒガミ』なぞ聞く耳持たんとな」

 

 

 

 

 …………

 

「なんだと!!

 それでただ引き下がったのか!!」

 案の定、使者は王都の会議で

 将軍に叱責される

 

「ふぅ…」

 溜め息をつく王

 非は無い…その通りだ

 このシュレイドが小さな村なら簡単だった

 しかしこれだけ大きくなり複雑になれば、

 個人の意見では全部は動かせない

「手出し無用」

 この一言が言えればどんなに楽か…

 

 穏健派は手出しせず共存すべきと言う

 

 将軍派は首を取るべきだと騒ぐ、こちらの

 派閥には討ち入りされた貴族達も参加

 

 議会は真っ二つに割れる

 

 

「あの…」

 使者の兵士が手を挙げて

「もう一つ言われました、

 力比べならいつでも受けると…」

 

 

 

 ………………

 

「力比べって聞いたぜ?」

 金髪で小柄なバルト

 

「どう見ても戦だぞ?勝てる訳無いぞ?」

 ボサボサ頭の大男 ドク

 

「師匠達の誘い水だろ?

 上手く軍を乗せやがって

 …ケジメ着けるのメンドクセェから

 俺達に丸投げしたんだよ」

 細いが背が高く目付きの鋭いロクス

「一応奥の手は持たされたがなぁ…」

 

「なぁ…コレどうにかなんねぇか?」

 角刈り隻眼でガッチリしたガストン

 ゲリョスの皮を巻いたハンマーを

 恨めしそうに見ると

 防具を脱ごうとする

 

「脱ぐなよ!作り方が解ったばかりの

 最新だぜ?!」

 バルトが止める

 

「リオレウス着てるみてぇで気持ち悪りぃ」

 

「その皮も取るなよ?殺しちまうぞ?」

 

 

 

 草原に立つ、目の前数百メートルに

 見えるだけで500は居る軍勢

 対するはレウスシリーズを着た四人

 

 

 

「ちゃんと着とけよ?

 鉄の矢じり程度は弾くらしいぜ?」

 バルトは片手剣に布を巻く

 

「俺だってコレだぜ?」

 ドクはユクモの樫木を大剣の形に削ったモノ

 

「師匠達からは一人も殺すなと来たもんだ、

 ガストン、手加減できるか?」

 双剣に布を巻くロクス

 

「そりゃあ無理だ!!!」

「「「だろうなぁ!」」」

 

 

 

 

 

 

 角笛と狼煙

 

「フン!馬鹿共が!」

 ロクスは悪態をつく、『合図』を出すと

 言うことは『別動隊』か『伏兵』が居ると

 白状しているようなもの

 

「おい、左右の林、鳥の声がしねぇ…」

 腕組みしたままのガストン

 

「バルト、左へ行け、俺は右に行く」

 ロクスは歩き出す

 

「何でだよ?」

「行けば解る」

 

 騎馬隊が突撃してくる!

 地響きと時の声が迫る!

 

 

 

 

 

 

 

 が

 

 

 

 

 

「ガストン、あの馬ってヤツ速いんだろ?

 移動が楽だが」

 落ち着いて大剣(木)を構える

 

「ダメだ、俺はあんなモン要らねぇ…」

 ガストンは閃光玉を投げる

 

 

「ぐわぁっ!!」

「なんだぁ!!」

 突然の光に視界を奪われ急停止する騎馬隊、

 馬達が右往左往する

 

 ガストンは息を思い切り吸う、と、

 ドクは耳を塞ぐ

 

「ぐうぅるるるぁあああああーーっ!!!」

 ガストンの咆哮!と同時に

「ドオォン!!!」

 ハンマーを打ち降ろす!

 

 すると蜘蛛の子を散らすように騎馬隊は

 後方へ走る!

「おい!どうした!」

「どうどう!止まれ!」

「ダメだ!言うこと聞かねぇ!」

「こっちじゃねぇ!!」

 騎馬隊は地響きを上げて

 本隊の方へ走って行く

 

 

 

「…なるほどな、臆病すぎるのか…」

 

「あぁ、あれの背中に乗ってたら

 狩りは出来ねぇ」

 

 馬からすれば突然視界を奪われ、恐ろしい

 モンスターの咆哮を聞いた、

 その上感度の良い自分の四つ足に

 響いた衝撃

 

 背に乗せた人間の指示など聞いている

 場合ではない

 

 

 

 シュレイド軍が大騒ぎしているのを

 暫く傍観していると

 

「こっちは終わったぞ?」

 ロクスが戻って来た

「100人位の弓隊だった」

 ハンター用に比べると、まるでオモチャの

 弓を投げる

 

「こっちも弓だったぜ」

 バルトも戻る

「隠れてるヤツなんざ後ろ取れば

 脆いもんだな、防具のお陰でケガもねぇ」

 

「100人も倒してきたのか?」

 

「ドク、思ってたより俺達強くなってるぜ?

 ランポス100頭より楽だ、でも弓しか持って

 ねぇヤツ殴るのは逆に気が引けたぜ」

 

「師匠達の無茶なクエストのおかげだなぁ!」

 笑うロクス

 

 

 

 

 

「しかし…馬ごと弓で射る

 つもりだったのか?」

 ドクは首を傾げる、たしか馬ってやつは

 値段が高いとか

 

「そうか!ヤツら一枚岩じゃねぇな!」

 ガハハと笑うガストン

 

「どう言うことだ?」

 バルトが問うが

 

「あの数に対して手柄は4つしかねぇ!!」

 ガストンは自分の首に手刀を当てる

 

「そうか、部下を競わせるのは常套手段だ、

 でも今回は自軍の規模に対して手柄が少ねぇ

 味方出し抜くのも目的に入ってるって訳だ」

 ロクスが代わりに説明する

 

「それじゃ簡単なのか?」

 自信が出たバルト

 

「数が上だと思ってる内はモスの群れだ!」

 ガストンは意気揚々と前進する

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎馬隊!戻りません!」

「伏兵、応答ありません!」

 シュレイド軍本隊

 指揮者達に動揺が走る

 

「どうなっている?!!」

 テーブルを叩く将軍

 

 自分の直属と貴族からの兵士合わせて

 1000人の戦力

 

 たった四人など一声で潰せるはず…と

 ついさっきまで余裕で酒を飲んでいた

 全軍使わず騎馬隊一つで

 十分過ぎるはずだった

 

 しかし思惑はハズれ、騎馬隊はここに

 突っ込んで大混乱になった

 

 踏み荒らされた天幕、シュレイド国旗、

 そして多くのケガ人まで…

 

 動揺する歩兵

「隊を立て直せ!」

「隊列を組め!」

「ケガ人は下がれ!」

 指揮官達の声に何とか持ち直す

 

 

 

 しかし将軍以下幹部の動揺は計り知れない

 たった四人にこんな無様な…

 

 さらに

 

「報告します!

 左右に展開した弓隊、全滅です」

 

「なんだと!!」

 

「死者は居ませんが全員重傷、気絶です!」

 

 なんと言う失態!

 たった四人に200の騎馬を無力化され、

 逆に攻撃の駒にされた

 (勘違い、ガストンは追い払っただけ)

 しかも追い討ちの弓兵200もやられた

 

 物見遊山の気分で着いてきた貴族達も

 恐怖に包まれる

 

 触れてはいけないもの

 手を出してはいけないものに手を出した

 かも知れない

 

 そう、奴らは簡単にモンスターを殺す、

 言い換えればモンスター以上の

 バケモノだ

 救いがあるとすれば今の内に降伏…

「将軍…撤退…」

 

「ふざけるな!」

 怯える貴族を睨み付ける将軍

「こちらはまだ600もの歩兵が

 居るではないか!!」

 

 

 

 

 

 

「おい、奴ら動き出したぜ?」

 

「横に20、奥は…見えないな」

 ドクが背伸びしても見えない

 

「四人相手だ、勝った気でいたもんだから

 作戦も無しか?」

 ガストンに振るロクス

 

「大軍に軍略いらず、こっからは

 小細工無しの力押しだ!」

 ガストンは嬉しそうにハンマーを

 振り回し笑う

 

「これ勝ち目あるか?師匠達がやらせる

 以上負ける気は無いだろうが…」

 ロクスは考える

 

「正気かよ?!生きて帰れるか?!」

 バルトの言ってることは正論

 

「なぁ、モンスターにすると向こうの

 戦力はどの位だ?」

 ドクも大剣(木)を素振りする

 

「そうだな…本気になったろうし…

 グラビモスが2…いや3頭って所か?」

 ロクスは顎に手をやり考える

 

「おいおい…そりゃあ…」

 無理じゃね?バルトはガストンをみると

 

「おもしれぇ!!!」

 歯を剥き出しニカッと笑う

 

 (ダメだコイツ、逆にワクワクしてやがる…)

 

 

 

 

 

「突撃ぃーっ!!」

 兵士が槍を構え突進するが

 

「ぬぅん!!」

 ドクの一振りで鎧はひしゃげ、

 四、五人が吹き飛び

 

「どらぁっ!!」

 ガストンのハンマーもまとめて吹き飛ばす、

 ゴム質の皮を巻いるとは言え一撃で兵士は

 重傷になる

 

「バルト、対人の稽古だ、隊列は横から崩す、

 お前は左だ」

 ロクスは右端から攻撃、

 回転連斬で吹き飛ばす

 

「まったく狂ってるぜ!!」

 左から斬り掛かる

 

 

 

 

「左右から包囲しろ!数で押し潰せ!!」

 将軍の指示と現場指揮官の連携で

 段々と囲まれる

 

「おい!囲まれたぞ!」

 もう何人叩き伏せたか

 

「バルト、落ち着け、もう3年もガストンに

 くっついてるだろうが?」

 ロクスは乱戦の中で落ち着いている

 

 ガストンは力を溜めるとハンマーを

 振り回しながら兵士の密集へ…

「どらぁあああっ!」

 吹き飛ぶ兵士を弾丸とし、さらに多くの

 兵士を巻き添えに

 

「アイツは不利な状況が得意だろう?」

 包囲を簡単に突破する四人

「さて、もう一回だ、適当に潰せ」

 

「おい!まさかさっきから!」

 斬り疲れてきたドク

 

「ガストンが居れば囲ませた方が早いぞ?」

 笑いながら叩き伏せるロクス

 お互いの背中を守るように四方を向く

 

 

 

 絶対的有利、圧倒的な戦力差、包囲まで

 しているのにいつまでたっても勝利の

 雄叫びが聞こえない、

 逆に兵士の悲鳴ばかりが聞こえてくる

 

 後方の兵士達は動揺する

 

 この先にハンターがいる、

 モンスターを簡単に狩るという

 俺達で勝てるのか?

 何だか…

 処刑台に向かう列に並んでいる気になる

 

「おい…これは…」

「ああ…」

 

 逃げ出したい…

 最後尾の兵士達が乱れ始めた、そこへ

 

「重装歩兵!」

「側近だ!」

 将軍の周りに居た兵士、明らかに

 飛び抜けた体躯と装備が四人、こちらへ来る

 兵士達は包囲の中へ入れる

 

 

 

 中央に殴り疲れた四人

 さすがにこの数にはムリがあった

 

 

 重装歩兵が来た

 

「まったく情けない、たった四人に

 このザマか」

「まぁ君達は良くやった」

「あとは首になって手柄になれ」

「これで終わりだ」

 高圧的に見下ろす重装歩兵、

 黒い大鎧と大きな武器

 

「やっべ…キツイぜ?」

 バルトは肩で息をする

 

「腕が上がらん」

 ドクも動けない

 

「研がなくて良いのは助かったがなぁ…」

 座り込んだロクス

 

「本気でやれねぇとここまでが限界か?」

 ガストンも息が切れた

 ハンマーに寄り掛かる

 

「丁度四人だ、一騎討ちでやろう」

「なるほど、俺達全員に一つずつ手柄か」

「そこの小さいの!前に出ろ!」

 

 バルトは躊躇うが

「バルト、行け」

 ガストンの言葉に前に出る

 ヒデェ奴だ、と思ったが

 

 …そうか、全員相手じゃなく目の前の

 一人に集中できる

 しかもその間他は休めるか…

「骨は拾ってくれよ?」

 

 

 

「どこからでも掛かって来い」

 両手で鉄槌を持つ兵士

 

 やっべぇ…全身鎧で隙間もねぇ…

 今の腕力じゃ殴ってもダメだ…

 じゃあ…さっき弓兵でやったヤツを…

 フラフラと近付くバルト

 

「ぬおおおっ!!」

 ドン!!!

 と鉄槌が横凪ぎに

 

 胸に当たり吹き飛ぶバルト、

 周りの兵士からは大歓声が上がる

「いょおし!一人目ぇ!」

「ざまぁ見ろ!」

 

 

 と、

 

 

 バルトはムクッと起き上がる

「なんだぁ?!」

「不死身か!あいつ!」

 

 ……なんだよ

 …ホントに俺が強くなってるぜ、

 サマーソルトに比べりゃ撫でられたような

 もんだ、遅すぎるしレウスの鎧でケガもねぇ

 

「自分で跳んだな」

「見えるようになったな、ドク」

「向こうも驚いてやがる」

 

 踏み込む歩兵

「ぬおおおっ!」

 唸りをあげて鉄槌を振るが

 

 武器が重てぇから動作が単純だ…

 とは言っても今の回避で限界だぜ…

 

 バルトは左腕の手甲や肩当てを外す

 

 鉄槌が横凪ぎに通過するのを避け、

 兵士の背中に取り付き、

 頚に腕をまわし頸動脈を締め上げる

「うぐあああ!!」

 振りほどこうともがくが、

 どれだけ暴れてもバルトは離れない

 

 細い腕は簡単に首に食い込む

 

 でかい鎧のせいで視界は効かねぇし、

 関節の可動範囲も狭い、背中は

 攻撃出来ねぇだろ!

 

 

 

 気絶して倒れる重装歩兵、一緒に倒れると

「もう一歩も動けねぇ!後頼んだ!」

 そのまま寝てしまう

 

 兵士達は動揺する、

 既に限界の少年が勝ってしまった、

 その空気を吹き飛ばすように

「次だぁ!前に出ろ!」

 両手用のオノを持つ

 

「こいつはオレだな…」

 ドクが立ち上がる、しかしいくら木刀とは

 言えあと数回が限界、握力が無い

 

 上に振りかぶる歩兵

 

 遅い、が体力も無い…

 

 ならば!

 

 ドクは大きく踏み込み、しゃがみながら

 振り返る

 振り下ろされる腕に手を添えてそのまま

 相手の力で投げる

 

「ありゃ俺の技じゃねえか!」

「盗まれたなロクス」

 

 重装備ですぐには起き上がれない歩兵を見

 下ろすと、力を溜めるドク

「う、やめろ!やめてくれぇ!」

「ドガン!!」

 鎧が砕け気絶する

 

 座り込んだドク

「もうムリだ…」そのまま動けない

 

 二敗、相手も動けないが明らかに

 側近が負けた…

 兵士達はざわつく

 

「フン、情けない…」

 槍を持った兵士が来る

 

「ふぅ、俺が行くか…」

 ロクスはヨロけながら立ち上がる

 

 

「そらそらそらぁっ!」

 連続突き!残像が見えるほど速い!

 しかし足さばきだけで懐に入る、

 槍の攻撃は至近距離なら当たらない

 

「そう来ると思ったぞ!」

 歩兵は思い切り殴りつけようと待っていた

 

 

 が、

 

 

「そう来ると思った」

 振りかぶった腕、その脇の下、

 そこは鎧に覆われていない

 布を巻いた剣を思い切り突く!

 

 

 

 

 

「こひゅっ!」

 おかしな呼吸

 

「まともに息が出来ねえだろ?

 肺に直接衝撃が行ったからな」

 

 胸を押さえ膝をつく、ロクスは歩兵の

 兜を取ると

「メンドクセェ…」

「ゴッ!!!」

 剥き出しの後頭部を剣で叩く

 

 

「ガストン、あと一人だ」

 座り込む

 

「おう、少し休めたぜ」

 立ち上がる、腕を回す

 

 

 

 

「ありがたいな、手柄4つか、

 次の将軍は俺に決まりだな」

 最後の重装歩兵が来る、盾と剣を持つ

 

「どらぁっ!」

 

 ガストンの一撃を盾でかわすと

 

「凄い衝撃だ」

「良く言うぜ!」

 力を逸らされた!コイツは手練れだ!

 

「我らの軍に入れば出世も出来るだろうに」

 細かく剣を使う、

 大きく踏み込まず滑るように動く

 

「へっ!そんな狭い世界は眼中に無ぇ!」

 ハンマーと手甲で受ける、

 レウスシリーズでもキズが付く

 

「部下にしてやるぞ?」

「誰がなるか!!」

 やべぇ、大振りしねぇからスキが無ぇ…

 殺したら兄ィ達怒るよなぁ…

 

 ハンマーを振り回すが盾で捌かれ

 剣が飛んでくる

 

 どうする?どうしたら良い?

 殺さずに勝つ方法…

 

 

 

 

 

 

 

 

 バガァン!!

 突然砕ける盾!驚く歩兵!

 ゲリョスの皮が取れてしまい

 アイアンインパクトが剥き出しに…

 

 !!!

「そうか!」

 一瞬で飛び込む

 

「ぬぅっ!」

 咄嗟に剣で凌ぐが

「パキィーン!!!」

 簡単に折れる剣

「な、何だと!!」

 突然の事に動揺する

 

「殺すな…『人は殺すな』だ!武器には

 本気でも良いわけだなぁ!!」

 笑いながら皮を巻き付ける

 

「ち、ちょっと待て!

 丸腰の相手に攻撃する気か?!お前には

 騎士道精神というものが!」

 および腰の大鎧

 

「たった四人に軍隊引っ張り出して

 良く言うぜ!安心しろ、死にはしねぇ!」

 ニヤリと笑うと思い切り

 

「バガァン!」

 鎧が弾け、吹き飛ぶ兵士

 

「おい…」

「やべぇってコレ…」

「逃げるぞ!」

 囲んでいた兵士が動きだそうとすると

 

「なにをしておるかぁ!!!」

 将軍の一喝

「相手は手負いが四人!こっちはまだ200も

 居るだろう!!」

 なりふり構っていられない!

 これでは一生笑い者だ!

 こうなっては自分の首も危うい!

 

「…そうだな…」

「疲れて動けねぇじゃねぇか」

「やっと動いてるのも一人だ」

「簡単だぜ?コレ!」

 

 更に200の騎馬隊も戻って来た

 

 にじり寄って来る兵士達

 

 

「おい、起きろ」

「あ?ここはあの世かドク?」

「これから地獄だバルト」

「なんだよ動けねぇぞ俺…」

「俺も剣が握れん…」

 

「ロクス、どうすっか!」

 ガハハと笑うガストン、

 もちろん何も考えていない

 

「やれやれ…これは使いたくなかったが…

 仕方ねぇ…」

 ポーチを広げる、

 見慣れない黄色のビンが大量

 

「何だそれ?」

 

「ドンドルマ師匠に持たされたんだ、

 『勝てるから使え』だとよ」

 

「何でもっと早く使わねぇんだよ!」

 悪態をつくバルト

 

「飲む気になれん」

 

「何なんだコレは?」

 ドクは日に翳して見る

 

 

 

 

 

「ゲリョスの体液だとよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後

 

 

 草原に兵士の悲鳴と

 四人のバカ笑いが響き渡る

 

 

………………

 

 

 

 一月後

 

 王都の道端に人だかり、行商人が

 身振り手振りを交えて話す

 東の草原で1000人もの軍勢が負けた

 勝ったのは四人の英雄、その戦いぶりは

 最早人間離れしていたと

 人々は歓声を上げる

 『さすが我らの英雄』と

 

 

 

 

「将軍は箝口令を敷いたはずだが…」

「人の口に戸はたてられないのぉ」

 とぼける竜人

 

 王都 王宮

 王と竜人ココット

 

「まさか自国の将軍が負けたのに、

 国民が喜ぶとはな」

 

「仕方なかろ?平定が済んでからは自国内の

 税の徴収と統制が主な仕事だった訳じゃし」

 だから国民に敵視される

 

「私も国王だ、英雄には自由にして欲しい、

 が、

 立場上法や規律には従ってもらうべき…

 なのだろうな」

 

「それは…条件次第じゃろ?」

 

「条件?」

 

「それ次第ではあいつらに関所を通るように

 言いきかせよう」

 

「出来るものなのか?」

 

「あ奴らが一番恐れ従うのはワシらじゃ」

 

「条件は…」

 

「お互いのためにより良く、長く続く条件が

 良いなぁ、シュレイドと敵対したいとは

 思っておらんよ」

 ニコッと笑う

 

 

 ……………

 

 

「何で勝ったのに金払うんだよ!!」

 バルトは納得いかない

 

「俺達の苦労は何だったんだ?」

 ドクも

 

「おい、ココット師匠、何か裏があるな?」

 睨むロクス

 

「ふーん…何引き出したんだ大兄ィ?」

 取り引きを言い当てたガストン

 

 王都の酒場、テーブルで話す五人

 

「お前らが関所で5ゼニー払う代わりになぁ…」

 不審な目で見る四人

「ビールを9割引にしてやった」

 

「「「「はああっ??」」」」

 

「それじゃ運搬費用にもならねぇぜ!」

「出荷するほど赤字だな…」

「なるほど、

 寄り合いの(後のギルド)経費削減か」

「なるほどなぁ!新人育てるにもビールは

 必要だからか!」

 大笑いするガストン

 

「これでワシらには手出ししにくくなったし、

 新人も育てやすくなった訳だ、経費も削減

 して、ついでにシュレイドの面目も立つ、

 通行税でここまで出来れば上出来じゃ」

 

「大兄ィ、そこまで読んでたのか?」

 

「お前らが勝つのは確定だったからなぁ」

 狂走薬の事だろう

 

「一つ気になる事がある」

 ロクスはビールを飲むと

「あの敗戦、シュレイドにとっては恥だろ?

 隠すはずなのに何でこんなに

 広まってんだ?」

 

 店の中の客、入り口や窓から多くの人々が

 注目している

 あの戦力差で『手加減』して兵士に死人を

 出さないで勝った英雄がいるのだ

 

 

「英雄は有名な方が弟子が増やしやすかろ?

 ハンターが増えるぞ?」

 笑うココット

 

「大兄ィ…まだ何かやったな?」

 

 

 ……………

 

 戦いの前

 後にドンドルマと呼ばれる村

 出発する四人を見送った直後

 

「ホッホッ、エレーナや」

 竜人ドンドルマ

 

「ん?何だい?」

 金勘定をする威勢の良い娘、

 商売の才能があるようだ

 

「行商人連れて見物に行くぞ」

 

「やだよ危ない」

 顔をしかめる

 

「良いのか?ロクスの戦う姿が見られるぞ?」

 気になってるのを見抜いている

 

「そ、そりゃあさ…」

 本心では見たいエレーナ

 

 ならば

「行商人に双眼鏡を貸し出せ、こんな戦い

 滅多にないぞ?貸し賃を取れば儲かるぞ?」

 

「行く!こりゃ商売になるねぇ!」

 行商人を呼び集める

 

 

 ……………

 

「行商人はモノとカネ、そして情報を

 運んでいるのじゃ、利用すれば寄り合いを

 大きくして『ギルド』にできる」

 

「全部兄ィの手のひらの上かよ」

 苦い顔のガストン

 

「だから師匠達は敵にしたくねぇ…」

 あきれるロクス

 

 

 

 

 

 噂が流れる

 

 国民は四人の英雄だという

 

 兵士は人外のバケモノという

 

 

 どちらなのかは後の世が決めるが…

 果たして…

 

 




この世界の英雄と人外の
価値観、客観を分かりやすく
書いてみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。