粗末な煤けた部屋、
いつも通り木の床に座り
朝ご飯を食べながら聞かれる、
「あの姐さんその為にきたのか?」
おじさんは果物をかじる。
「ハンターだって…」
「クロフがハンターになるのかい?」
おばさんが不思議そうにする。
胡座で座るクロフの横に置かれた
ハンターナイフを揃って見る。
(似合わん)
(どうしよう)
(向いてないんじゃないかい?)
揃って溜め息。
まあ、
どうせ村長の考えあっての話しだろうし、
上手く出来なければ
あのアルトって女ハンターも
すぐ諦めるだろう。
「で?午前中は暇だって?」歯に挟まった物を
爪で取りながら、おじさんは聞く。
「午後から来いって」
「じゃあ久しぶりに釣りに付き合え」
「あら、青キノコ採って来れば回復薬が…」
おばさんが食器を重ねながら言う。
「今日は釣り!」
「ハイハイあたしゃ寝るからね」
道具屋の横の川、二人揃って釣糸を垂れる。
沈黙…
話しかけないでくれた方が気楽、
クロフはいつも通り。
しかし
「クロフ」
「ん?」ああなんだろう
調合の事を言われるのか、
それとも
昨日のキノコに形が悪いものがあったか、
いやだいやだいやだ…
唐突に
「俺とアイツは放って置けば良い」
「え?」
「10年、家族の真似事してきたが、
お前を預かって良かったと思うとる」
(何を言ってる)
「人殺しの畜生以下を
こんなにも人間らしくしてくれた」
「道具屋も上手く行ってるし、問題ない」
「最初の狩りが終わったら
もうハンター小屋に住んでもいい」
「話は終わりだ」クロフを見ながら
「ありがとうよ」
何だか今日は良く喋る、クロフの感情は
ありがとうの言葉で動かない。
「話は終わりだ、行け」
クロフは竿を上げ家に戻る。
採取、大工仕事、調合、土木、
アプノトスの世話、釣り…
あいつは何でもやった、ガリガリの体で。
少しずつでも、今は何でも一人前に出来る。
教えた、なんでも。
どう言えば上手く出来るか考えた。
失敗すれば叱った、出来れば誉めた。
こうして俺が出来上がった、
畜生から立ち直らせてくれた。
だから感謝した、でも、
「通じないか」おじさん(ヨシ)は涙ぐむ。
「何でクロフだけ帰すのさ」
「寝てたんじゃねえのかお前?」
「二人で朝から釣りなんて
何かあると思うさ」
ヨシの様子を見て「ダメだったのかい」
とおばさん(メヒコ)は横に座る。
沈黙………
「終わりかねぇ」
「いつかはこうなると
知っとった筈なんだが」
流れる水面を見る。
【休憩中】の看板
カウンターの上に
ポツンと小さな板が立っている。
「え?」
暇だからパティに会いに来ても誰も居ない。
船乗り達に話しかけられる。
威勢のいい船乗り達の態度は
クロフにとって当然怖い。
怖い怖い怖い、体が強張る。
「朝から居ねぇんだよ、何か知らねぇ?」
当然
「あ…の…え…んと」
あーそいつ話しになんねぇよ、とか、
あんなやつ居たっけ、とか聞こえる。
「使えねぇ」
吐き捨てるように言う。
仕方なく村長の家にいくと船長が立ってる。
「おぉ道具屋の…」
名前は覚えて貰ってない。
「村長どうしたんじゃ?」
ドアには「昼から」とだけ張り紙がある、
糸目の似顔絵付きで。
当然しどろもどろな言葉しか出ないが…
「お前みたいなヤツはイッパイおるぞ」
ニコリと笑い船着き場へ。
どうしようか、すると
パタッとドアが空き
中から白とタマが出てくる。
「にゃ?どうしたクロフ」タマが聞く
「村長は?」
「まだ寝てるにゃ」白が答える。
どうしたのか聞くと
朝まで話しをしていたらしい、
何の話か聞くと、
「ブチになって洗われて
ドォンバァン怖かったにゃ!」
分からん。
村の出口へ二匹と一緒に散歩する、
村の目の前の藪の中。
曲がりくねった木の根元、
落ち葉が溜まった場所がある、
なにかにゃ?クロフは落ち葉を掻き出す、
ものの数分で全体が解る。
ぽっかり空いた小さな穴。
「にゃ!穴~!」
アイルー二匹が飛び込むが、
「狭いにゃ♪」
二匹で一杯。ここはナンニャ?と聞かれると
「隠れ家にいいし、あげるよ」
昼
ヤハハ、今日も暑いな!と村長が出てくる。
遅くなってごめんなさいと言いながら
パティがギルドへ走って行く。
「遅いよ~パティちゃ~ん」
船乗りと行商人達が騒ぐ。
クロフー!と呼ばれて、
「今日からアルトさんの弟子なんだよ?
アルトさんは?」
と聞かれている間に、
アルトがギルドに来る、
昨日とは違い革の鎧、
武器も片手剣。
「うおお姐さん、何でレザー装備なんだよ!」
「ハンターなんだから
装備着けるの当たり前だろ」
「違うんだよもっと何かこう、
分かんないかなぁ」
「アッハ!お早う!」
振り向く、もう昼ですが 、
「ちゃんと来たね感心感心」
もし来なかったら
今朝のように無遠慮に来るでしょ、
「挨拶!!!!!」
船乗りが一斉に立ち上がる
皆声の大きさと迫力に気圧される。
静寂………
「あ、…あの…」クロフはいつも通り、
パティは直立不動。
「アッハ!緊張すんな」
クロフを見る、そしてパティに森と丘の
採取クエストに行く了承を得る。
「あ、猫タクシーいらない」
笑いながら
「ギルドである以上付けない訳には…」
笑いながら
「なにもしない?」
ニヤケながら
「しませんよね、村長」
ニヤケながら
村長は
なぜかコソコソ船長の太った体に隠れる。
当然クロフにはなんの事だか分からない。
「クロフはどっち利き?」
「?」
「右利き、左利き?」
「あ…う…え右」
森と丘のキャンプ、
先ずは装備の着け方から入る。
左に盾、右に剣を持つ。
良し、抜いて見ろの声で抜刀する、
良し、納刀の声で納め…られない、
後ろに鞘が有るため見えない。
「良いか?ハンターやるなら
抜刀、納刀は攻撃よりも大事だ」
「あと20回!」
めんどくさい、でも怒られたくない、
ひたすら練習、出来るようになる。
「次、回避!」
ひたすら前転と側転、
もう汗だくの土まみれ。
ぜーぜー言いながら次の指示を待つ。
怒られたくない、
「抜刀斬り!」 前に走って跳びながら抜刀
「回避!」 前転
「納刀!」 納める
「繰り返せ!」やだやだやだ
20回で休憩の声。
地面に倒れ死にそうな呼吸を繰り返す。
なんでこんな事しなきゃならない、
疲れるし辛いしもう嫌だ、
服も汗でベタベタだ。
行くぞ!の声でキャンプに服を全部脱いで
インナー姿で1番へ。
「次、発声練習!」
え?何言ってんのこの人。
「お早うございます!!!」
馬鹿でかい声でアルトが叫ぶ。
アプノトスの親子が
ビックリして草を食べるのをやめる
大きな体なのに臆病らしく逃げていく。
「さ、やれ」
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい
なんでだいやだいやだ…
「恥ずかしいか?」頷くと、
「ギルドでやるのとどっちが良い?」
「おは…よ」
怒られたくない、
あたまをボリボリしながら
「お前なぁ、もっとでかい声出るだろ?」
「昨日ここで
くそっ!!!! ってデカイ声出したろ!」
ああああああああなんで、
なんで知ってる恥ずかしい!!!!!!
怒った怒った怒った怒った
ニヤケながら「パティにバラそうかなぁ~」
「お早うございます…」
「ほら言えた」満面の笑み。
「おはよう、こんにちは、今晩は、
少ないんだよ?挨拶って、
挨拶されたら相手だって挨拶返するんだ」
こっちに近づく、怖い怖い怖い近い
ビクビクする様子を観察しながら
「アンタ、アタシが怖いの?」
怖いに決まってる
「アタシ何かした?」
だって、あの、だから、…その
しょうがないねぇと右手を出してくる。
「?」
「握手だよ握手」
おずおずと右手を出して握る、
心臓がバクバク言う。
じゃあ次、
アルトは手を離し一歩下がって…
「ジャキン!!!」クロフに向かって剣を構える」
鋭い目!全身から殺気!
クロフはよろけながら後ろに下がる、
呼吸が早い、いやだいやだいやだ…
「どっちがこわかった?」
構えた方に決まってる
「剣…出し…」
「そう、それがアンタなんだ、
人に対して構えちゃうんだ、、
アンタが構えるから相手も構えるんだ」
「アンタ猫族好きだろ?
アイルーは誰にだって
友好的だよ、だから
人間と距離が近くなれたんだ」
白とタマを思い出す。
そんなもんなの?
「今日は一つだけ約束しろ、
構えないで挨拶するんだ。」
「さっき…の握…手?」
「んー、言葉の握手、それが挨拶」
「夕方帰るから 「ただいま」がいい、ほら」
「ただい…ま」
言えるじゃーんと言いながら
アルトはクロフの頭をグリグリなで回す。
いやだいやだ恥ずかしい恥ずかしい、
でもちょっと嬉しい、が、
「止めてください!」
怒ってしまった。ちょっと嬉しいのに、
嫌いじゃないのに、
こんな自分に触れてくれたのに。
クロフの口からはこんな言葉しか出ない。
プライド、男、意地、嬉しさ、葛藤、怒り
そしていつも、
いつも後悔がやってくる。
何度も後悔した、後悔したことを後悔した、
自分でもこの言葉が
自分の言葉じゃないことを知っている
…はずなのに…
「そんなに悩んで苦しまなくていい、
今日は「ただいま」だけだ」
言うだけだ簡単だろ、
と笑うが
クロフにとってどれほどのストレスか。
ブルファンゴ狩るぞ、と探し始める
すぐに見つかる、幸い一頭。
「狩ってみな」アルトは平然と言う。
意を決してファンゴの前へ、威嚇そして
ドガ!!!!!
盾で防ぐが体ごと持っていかれそうになる、
左手が痺れる。
「おーい
クロフ、違うだろー、昨日どうやったー?」
8番中央の岩の上から胡座で見下ろす。
一歩下がって
ファンゴを待ち通過する所を…斬る!!!!
バシッ!!!!!
イメージでは斬れるはずだった、
しかし硬い毛並みに弾かれる、
話が違うとアルトを恨めしそうに見上げると、
「アッハ!振り向きを狙え!」
通過する、追いかける、
止まって振り向こうとする、
抜刀斬り!!!の声に後ろから斬る斬る斬る…
また走る、追う、抜刀斬り…
力なくブルファンゴは倒れ断末魔を上げた。
右手に肉を抉った感触。
ぜいぜいと肩で息をする、
普段なら村の人と5人位で槍で刺すが。
「一人でも……勝てる」
「アッハ!そうよ?戦いかたが出来れば…」
クロフに手を伸ばす、
当然強張る、怖い。
ポンと肩を叩き
「クックだって倒せる」
あんたの狙いはハズレて無いんだけどね、
と言いながらファンゴの背中側にしゃがむ。
促され腹側にしゃがんで見る。
「良く見て、毛並みって鼻先から
後ろに向かって生えてるだろ?」
これに逆らって縦に斬ろうとすると、
とアルトはハンターナイフを軽く振る。
ボスッ。
じゃあ毛並みに沿ってやってみな。
クロフは言われるままに
ザスッ。
「違いが解るか?」
「横に切ったら…きりやすそう…」
「正解正解分かってるじゃない!
じゃあもう一頭」
探す。10番にいた。
同じように避けてすれ違いに
ザスッ!
剣を納め走り、後ろから…斬る!
さっきより少ない回数。
二頭目も難なく倒した。
「アッハ!
飲み込み早いじゃん!お姉さん嬉しい!」
剥ぎ取りナイフは毛並み関係なく
スパスパ切れる、皮や肉を取る。
うーん、ファンゴで苦戦する予定だったけど
こうなると欲がでるわね。
「ランポス行っちゃおうか?」
「え?無理」
「行ってみよー!」
「嫌だ…」
「師匠は誰?」
「うー…」
おぉ、拒否したよ、意思表示出来たわ、
人間余裕が無くなると、完全に黙るか
思ってることそのまま愚痴に出るんだよね。
疲れさせた甲斐があったわ、
口数増えてるの気付いてないし。
まぁ
そのお陰で子供の頃に、愚痴言われたり
無視されたりしたろうけど。
採取しながら2番へ、二頭見える。
「さて出番だ!」
アルトは一頭をあっという間に斬り伏せる。
「さぁ、やれ!」
どうする、防具無いのに。
クロフはインナーだけ、爪や嘴でケガをする。
「キャンプでやったろ
抜刀斬り、前転、納刀だ!」
そ、そんな事言ったって…
ランポスは止まらない!
考えている間にランポスは
走ってきて目の前に止まると、
様子を見るようにし、
噛みつき!
ガシッ!
盾で止まる、生臭い息が掛かる
怖い怖い怖い怖い
攻撃出来ずに何とか盾で防いでいるが、
背中を崖に向けたまま。
あと数歩で落ちる!アルトは叫ぼうとする!
ゴロゴロと無様ではあるが
ランポスの足下を転がり、
後ろに廻る。
ランポスは方向転換が苦手で、
その場で数回小刻みな
ジャンプで振り返る。
ガスッ!!
ハンターナイフが当たる、
ランポスはのけ反る。
アッハ!やるじゃない!それなら
「前転一回で斬り上げ!」
クロフは足下で斬り上げる!
何度か繰り返すと、
「ギョフッ!」
可笑しな声を上げてランポスは力尽きる。
「勝てたぁ…」クロフは座り込む。
またアルトはしゃがんで説明する。
「ファンゴと違ってランポスは鱗だ、
同じ斬り方だと…」
「滑った」
「いい答えだ、じゃあどうする?」
「………うーん鱗の…無いとこ?」
「惜しい、鱗の小さい所に
叩き付けるように斬るか…」
アルトはランポスの喉を指でつつきながら、
「ここだ」
「あと大事なことだから言っとくけど
盾は使うな」
「え?」
「ちょっと立ってガードして」
クロフは盾を構える
「そーらっ!」
クロフの盾にアルトの盾がぶつけられ
クロフはよろける。
クロフが態勢を立て直す、と、
目の前にアルトの剣がある
唾を飲み込む。
理解できたか?
「一回ガードすると…何も出来ない…かも」
「その通り!ファンゴが一頭なら良いけど
三頭だったらどうなる?」
クロフの頭に
何も出来ずに力尽きる自分が浮かぶ。
「…どうするの?」
「アンタの得意技だよ」
「?」
「逃げ(回避)だ」
狩りを終了し村へ、
村で飼ってるアプノトスの竜車には
ファンゴとランポスが2頭ずつ、
他にキノコや薬草類。
「どれ、キズ見せて」
とアルトに言われ手足を見せる、
鋭い爪のランポス、
その足下を転がったのだから
小さなキズだらけ。
回復薬を指に着け、患部に塗った後、
一気に飲む、不思議だが、即治る
「飲むだけでも良いんだけど、痕がね」
こうすると痕が残りにくいらしい。
「アンタってハンターにとって
大事なこと解ってるんだね、
自分と相手がどこにいるか見えてるよね?」
「地形と自分と…
ランポスを…こう…上から…」
上手く説明できない。
やっぱりクロフは見えている。
「崖までどのくらいだったか分かる?」
「2歩」
子供の頃から何百回も採取しながら
覚えたんだろう。
クロフは完全に地形を把握している、
だから追い込まれない。
それは自分を中心とした
『視界以外も見えている』事に他ならない。
ハンターやってても
これが理解出来ない連中がいる、
採取クエストが何故あるのか解っていない、
採取をバカにする連中。
こいつらは自分から死地である壁際に行き、
何も出来ずに力尽きる。
だから自力で実力を付けたハンターは
こいつらとは組まない、
逆に採取を大事にするやつは、
後々一流ハンターになる可能性がある。
クロフの可能性は高い、ハンターとしては。
しかし人としては…………
(器…どうしたら…
二人の前で大見得切っちゃったしなぁ)
「ただいま言える?」
「パティなら」
「会う人全員」
「えー…」