俺は、うっそうとした森林を全力で駆け抜けている。
かすり傷や、ちょっとの打撲も気にする暇もない。
追いつかれたらヤバいと確信しているからだ。
これは俺が悪い。
ちょっと調子に乗ってました。
張紹さんの講義が終わった後に、彼は何か思い出したかのように言った。
「趙公明様は、水晶を使った遠見の術が使えたはず。それで色々と見せて貰えば何か役に立つのではないかね?」
その時思った。
有用な情報をありがとうございます。
でも、やっぱり張紹さんに内緒話をするのは危険だし、奥の手とか知られたらきっと話のタネとして使われるのだろうと。
さっそく兄様の所に帰り、俺が居た龍脈周辺の情報を見せて貰った。
うん。なんか周辺に、猿やら犬やら豚やら七つの勢力が部隊を展開して、俺の居た場所を制圧しようとしているね。
よくよく考えたら、あんなに目立つ花が無くなったら何か有ったのが分かるし、奪還のチャンスと考えてもおかしくない。
それに危険な御姉様達も居ない事は、偵察でも送ればすぐに分かる事だし。
「おっと、これはウッカリだ。せっかく制圧した龍脈に守りを配置するのを忘れていたよ。まあ、でも奪われたとしても、すぐに正大が七怪を攻略すれば問題ないよね。では、さっそく行って来てもらおうじゃないか」
兄様はそう言うと、俺をすぐさま地上に送り出した。
え?もう少し準備する時間をくれても良いんじゃないのと思っていたが、心の準備をするまでもなく目的地の近くに降ろされる。
「じゃあ、たまに水晶で様子を見るから終わったら迎えに来るよ。祝勝会や酒の準備は、安心して任せてくれたまえ」
帰って行く兄様を見て思う。
本気でバックレたい。
でも、それは無理な相談なので、色々と準備をして休憩したら、俺がいた龍脈の所にでも向かうとするか。
さてと、作戦は至ってシンプルである。
各個撃破しかないよね。
そして無理そうなら逃げると。
でも、逃げるって言っても安全な場所はどこ?
ある意味、兄様や御姉様達の居る場所が安全だけど、空の上にある金鰲島に自力で行けるだろうか?
いや、行ける訳がない。
ここは自分の謎のスペックや潜在能力に期待するしかない。
隠密行動を取りながら敵を探していると、おあつらえ向きに単独行動をしている敵を発見。
向こうは、こちらに気付いてないな。
ここは、慎重に近づくべきか、相手が近づいてくるのを待つか、一気に奇襲をかけるか迷う所です。
俺としては、待つのを選択したいけど、こちらに気付いて仲間を呼ばれる可能性もあるし、近寄ってこない可能性も高そうなので却下である。
慎重に近づいたとしても同じく、途中で気付かれたら意味が無いので、ここは一気に奇襲をすることに決定。
相手が単独なら自分のスペックを確認するのに、うってつけだし悪くない選択だと思う。
俺は、一気に距離を詰めると一撃をお見舞いした。
相手は沈黙。
あれ?俺ってもしかして強い?
いやいや、これは不意打ちだったから上手くいっただけで有って、油断は禁物だ。
そうして再び、隠密行動に入ると今度は二人組を見つけた。
今度も、先手必勝で、まずは一人を倒して、返す刀で二人目もやっちゃえば良いよね?
今度も成功するかな?
ちょっと緊張してきたよ。
うん。余裕でした。
やっぱり俺って強い?
いやいや、勝って兜の緒を締めよって言うじゃないか。
慢心ダメ絶対。
その後も、三人組そして四人組を次々に撃破して、さらに増え続ける敵を順調に倒せるようになった頃には隠密行動をやめて無双していた。
フハハ。
俺って強すぎ。
あの兄様や御姉様達の弟である俺が弱いはずが無かったんだ。
そうだよ。
普通に考えれば分かることじゃないか。
調子に乗っている俺の耳に木々をなぎ倒す音と、地を震わせる感覚が伝わってきた。
「貴様が、俺の息子の仇かぁあ?」
大音量の怒声で鼓膜が破れそうです。
その声の先を見ると、どうして気付かなかったのか森の木々よりも大きな猿がいた。
「猿魔王様。きっとアイツです。このタイミングで暴れてますし、七怪であんなヤツ見かけたこと無いですよ」
いつか見たような気がする猿の隊長が、そう声をかける。
あ、やめろ。
その台詞で完全に俺をロックオンしたじゃないか。
ちょっと、俺の調子が音を立ててしぼんでしまった気がする。
いや、待て。
物語で、無駄に巨体は見掛け倒しって相場が決まっているんだ。
勇気を見せろ俺。
俺は、精いっぱいの虚勢を声に出す。
「あんなヤツ大したことなかったね。一瞬だったよ」
それを言ったとたんに、もの凄い衝撃を感じて、後ろにはじき飛ばされた。
とても痛い張り手だったよ。
そして、俺がやったとは言ってない!
最後まで聞こうぜと言い訳をしたい気持ちでいっぱいです。
でも、ダメージも思ったより無く、体も問題無く動かせそうだ。
今のは不意打ちだったから避ける事が出来なかったが、対応できないスピードでもなかった。
俺は、一対一なら倒せなくもないと判断して起き上がった。
「この程度で、今や無敵の俺をたお……」
俺は、台詞の途中で絶句し、本能からか即座に逃亡に切り替えた。
なぜなら、巨大な敵が七体もいたのだから。
猿をセンターに、右からムカデ・蛇・豚・牛・犬・羊と勢揃いです。
きっと、あいつ等が七怪のボスなんだ。
最初に予定していた各個撃破はどこに行った?
兎に角、今はどうでも良いから逃げよう。
後ろからは、大量に木々を倒して近づいてくる音がする。
この勝負は、引き分けって事にしてお終いにしてくれないかな?
あ、やっぱり無理ですよね。
「お前らは、回り込め」
「こいつを囲い込むぞ」
「おい。下っ端どもは、足止めに専念しろ」
あ、このままだと囲まれる。
所々に出てくる雑魚は、問題にもならないが確実に距離が迫ってきているし、このままだとあの巨大生物達に包囲されるのは時間の問題です。
しかし、全力で逃げる俺の視界を巨大な壁が遮った。
いや、巨大な犬が回り込んで来たのだ。
俺は、急いでブレーキを踏むと周囲を確認した。
巨大生物が七体に、その手下達が後ろに続いているのが見える。
完全に取り囲まれてます。
「小僧。鬼ごっこは、もう終わりか?散々と暴れたんだ覚悟はできてるんだろうな?」
「覚悟?そんな物は必要ない」
「今更強がりか?笑えてくるぜ」
「笑えてくるのは俺の方だよ。一回しか使えない保険で、すべて上手く行きそうなのだから」
「は?いったい何を寝言を」
俺を取り囲んで余裕があるのか、おしゃべりをしていた猿の言葉を最後まで聞かずに俺は術を発動さる。
全部を出し切るつもりで力を使った。
足りない分は、足から根をはり龍脈から吸い上げる。
何故ならこの辺り一帯の森はすでに俺の支配下にあるのだから。
そう、ここは俺が最初に来て、休憩しながら出来る範囲で色々と試したのだ。
エネルギーを送った上で、俺の一部を植え付けると、近くにいる間は触らなくても色々と動かせる事が分かった。
地が裂け、何かが生えたと思うと近くの生物を絡めとり地中へと引きずり込んだ。
「猿魔王様。これは、あの時の植物の攻撃です。部下が地中に引きずり込まれたヤツ」
「慌てるな、たかが木如き引き千切ってくれるわ」
俺は、さらに力を込めて木々を強化した。
「何?たかが木が引き千切れないだと?」
「張紹さんが言っていた事は本当に参考になったよ。試したら色々とできたし、陣地を構築するってのも大正解。一勢力を無力化できれば良い方だと思っていたけど、まさか一網打尽にできるとは思ってもなかったね」
「ちくしょう」
完全に身動きの取れなくなった敵達が地面から頭だけをはやしている。
もはや、俺に命を握られた状態って訳だ。
これで試練は完了かな?
俺は息を吐いて、へたり込んでしまう。
思ったより消耗したけど、何とかなって良かったよ。
「まったく。親父達はふがいなさすぎだ。あの状況から簡単に逆転されたのだから」
どこからか声がすると、俺の支配する森の外から白い何かが近づいてきた。
「袁洪よ。面目ない」
「あ、ボス。助けてください」
猿魔王と隊長がそう言った。
え?あの巨大生物達がボスじゃなかったの?
「その様子だと、もう大技は使えないみたいだが念の為だ」
その言葉と同時に、俺は支配している森の外まで吹き飛ばされたのだった。
一話目の後書きに、趙公明の人物紹介を書いてみました。
うーん。ちょっとテキトーに書き過ぎた気もするので、後で消すかも?