「み、水をくれー」
どこからか、くぐもった声が聞こえてくる。
七怪にボコられて、花になってから一晩が過ぎた。
久しぶりの植物ライフだけど、やっちまった感がある。
だって、一晩で見渡す限り砂漠になるとかどーよ?
うん。水が欲しいのは俺の方だ。
根が水を求めて地中深くや広範囲に伸びてるが、そろそろマジで吸える物がなくなって来た気がする。
どれもこれも俺を袋叩きにした七怪や、こんな試練を与えた兄様や通天教主様が悪いと言っておこう。
なぜなら責任転嫁でもしてないと俺って確実に討伐対象じゃない?
でも、このペースで吸い付くしてしまうなんて、俺も大食いの資質があるのかもしれないし、今ならマドンナ姉様があんなに物を食べてる気持ちが少し分かったかもしれない。
植物状態と違って、人型は根からエネルギーを吸収できないので、その分エネルギー確保の為に食が進むのかもしれない。
もしかしたら、俺も燃費が悪い可能性がある事を覚悟せねば。
なら兄様やビーナス姉様やクイーン姉様は、普通なのが謎だ。
もしかしたら、燃費が良いのか、燃料タンクが大きいのかもしれない。
俺もできるなら、そっちの方が良かったりします。
そういえば、捕まえたままの七怪や、生き埋めにした動物達はどうしょうか?
七怪にはボコられた恨みがあるから、しばらくはこのままで良いけど、たぶんあの辺りの砂漠に埋まってる奴らって、このまま放置したらヤバいかも?
ちょっと罪悪感はあるし、悲しいけど植物態で身動きの取れない俺にはどうする事もできない。
ここは兄様に
黙祷完了。
しかし、そろそろダメージも癒えてきたけど、まだ人型になれる気がしないのは、なぜだろう?
それと、兄様の迎え遅くないですか?
送り出す時は、あんなに早かったのに、迎えに来る気配がしないのですが。
ハッ、まさか、この大惨事の責任を押し付けて俺を闇に葬るつもりでは?
「ノンノン。相変わらず人聞きが悪いことを言わないで欲しいな。ちょっと準備に時間がかかっただけで、この言われようとは」
え?兄様いつの間に?
しかも、でっかい植木鉢まであるし、本当にいつの間に?
「さっきから何かブツブツ言っている辺りからだよ。え?なんだって?この惨状は僕と通天教主様のせいだって?」
言ってない。言ってない。
うん。全面的に七怪が悪いです。
「そう?なら良いのだけど。あと、そろそろ皆来る頃だと思うよ。正大が気にしてるだろうから、砂漠から彼らを救出するのに必要な人員を手配しておいたよ」
それは、ありがとうございます。
だけど、水晶で観察していたとしても大量に人員を動かすなんて手際が良いですね。
すると兄様は、両腕を大きく広げて自信満々に言った。
「正大なら、きっとやってくれると信じていたのさ」
えーと、その言葉は、七怪攻略を信じていたのか、やらかす事を信じていたのか判断に迷います。
前者だと思って良いですか?
「しかし、辺り一面砂漠だね。張紹あたりなら喜びそうだけど、これは植物系としては不味くないかい?」
うぐ、スルーした上に痛い所を突く。
ちょっとダメージが大きく自制がききませんでした。
でも、反省はしているけど、後悔はしてません。
とりあえず、次からは、この惨状から救援を待たずに自力で移動できるようにせねば。
「ちょっと反省の方向が違う気もするけど、失敗は成長の元だと言うからね。どんどん僕を楽しませる失敗をしてくれたまえ」
ちょっと!失敗する前提で話さないでくれませんか!
縁起でもない。
その後、やってきた少し興奮気味の張紹さんの術で砂から掘り起こして貰って、ワイヤーで引上げられた俺は無事に植え替えられた。
兄様がちょっと邪魔な根っこは金蛟剪で切ってしまうおと言ったので、術で頑張って縮めた。
あと、それの応用で全体的に小さくなれたので植え替えが少しは楽になったと信じたい。
でも、縮む時に七怪を拘束している部分も縮小されたので、何か悲鳴が聞こえたが気のせいで有って欲しい。
地面に埋まっていた動物達は、趙公明派閥の仙人に助けられて投降したもようだ。
ちょっとマッチポンプみたいだと思ったが、他の仙人の心象が上がって、俺のが下がるのはどうにも解せない。
しかし、さすが趙公明派閥の仙人達だ。
この惨状を見ても、表面上はいつもの事だと思ってるのか、ドン引きも何も無かった。
兄様は、いったい普段から何をしているのか凄く気になる。
そして、肝心の七怪は、黙々と食べ続けるマドンナ姉様の隣に置かれたら、すぐに金鰲島の傘下になると表明してくれた。
たまに、これ食材?これ料理するの?って感じの視線に恐怖を感じたからだろうと思う。
俺だって、怖いから仕方ない。
最後に今、金鰲島では祝勝会が行われている。
もちろん主役は俺って事はなく、壁際に観葉植物かの如く飾られていた。
目の前で、先輩達は飲めや歌えで大騒ぎ。
とても楽しそうである。
絶対に祝勝会じゃなくて、砂漠の救助作業の打ち上げとか、無駄な手間かけさせやがってと思ってる人達への慰労会だよね?
だって、俺のこと放置だし、俺この状態だと酒も飲めずご馳走も食べられないから、ただの罰だよね?
しかし、なかなか、人型になれないのですが?
ちょっと前に完璧とは言えないけど人化を習得したはずだよね?
あれ?もしかして、また植物からやり直しですか?
勘弁してくださいよ。
「さすがに、そろそろ、その疑問に答えようじゃないか。人型になれる妖怪でもダメージを負ったり極度に消耗すると原型に戻ってしまう。再び人型になるには長年力を蓄える必要があるのさ」
えーと、ダメージは龍脈を吸いまくったおかげで癒えてるし、余分に吸ったから力もある程度は蓄えている気がするのだけど?
「正大は、まだ妖怪じゃなくて、妖ゲツだろ?たぶん、人化が不完全なのもあるけど、しばらくは時間がかかると推測するよ。まあ、前ほど時間も材料もかからないと思うから安心したまえ」
うーん。そう言われると、仕方ない気がしてきたかな。
早く妖怪になりたいものだ。
しかし、それなら、こんな試練を妖ゲツにさせないで、妖怪になるまで待って欲しかった。
「趙公明よ。なぜ独り言をしているのだ?」
げ?通天教主様だ。
今、一番会いたく無い人ナンバーワン。
何故なら、七怪は攻略できたが、そこに有った龍脈を完全に破壊してしまったからだ。
元々、そこの龍脈を手に入れる指令を趙公明に出してたみたいなので、この結果は、きまりが悪い。
「この状態の正大の声は、どうやら僕にしか聞こえないようで、彼の疑問に答えていたのです。ちなみに、今は通天教主様に会いたくなかったみたいです」
「ほう?」
兄様!余計なことは言わないでください。
通天教主様がめちゃめちゃ睨んでるじゃないですか!
この姿だと、言い訳も説得も無理なので勘弁してください。
「おっと失礼。言い間違えました。会いたくないではなく、龍脈を破壊してしまった負い目から、合わせる顔がないと言っていたのを簡略に伝えてしまい申し訳ない」
「ふむ。それなら仕方ないかもしれん。趙公明の弟だからと過剰に期待した結果無理が生じ、このような事になってしまったのだから。その点は、我の方こそ済まなかったと伝えてくれ」
「過分な気遣いありがとうございます。きっと伝わっていると思いますよ」
良かった。
視線がやわらいだ気がする。
フォローは助かったけど、本当に言い方には気をつけてください兄様。
絶対に俺で遊んでますよね?
「趙正大よ。七怪の攻略見事で有った。これで当初の目的は果たされたと思う。しかし、龍脈を破壊し辺り一面を砂漠にした悪名は大きいであろう。いずれ汚名返上の機会を与えるので良く修行に励むのだ」
あ、やっぱり後で何かさせられるのですか。
でも、ちゃんと修行が挟めるのは大助かりです。
それで、俺の指導は、従来通り基礎・宝貝・術部門で一般の妖怪と同じように学ぶのですよね?
「趙公明よ。趙正大の指導をしっかりと頼むぞ」
「はい。お任せください。必ずや立派な仙道にしてご覧にいれます」
趙公明は、とても良い笑顔でこちらを見るとサムズアップした。
なんだか寒気と共に嫌な予感がする。
いえ、指導は従来通りでお願いします。
張紹さんを見るに、絶対に他の部門の人達もまともだと推測できる。
だから是非とも是非とも修行は、安全重視でお願いします。
今までの兄様の言動を見ると、その方針はどんな物なのか分からず安心できない。
「うむ。趙公明よ。本当にしっかりと頼むぞ。おそらくこの者は、おぬしにしか手に負えぬはずだから」
ぐはっ!
俺の師匠が趙公明で確定してしまった。
そして、通天教主様に問題児だと認識されてる。
俺の哀しみによる叫びが、夜空にこだまするが他の人には聞こえていない。
だが、俺の叫びが聞こえるであろう兄様は楽しそうに笑っていた。