今日から俺も妖怪の仲間入り。
そう思っていた時期がありました。
今の俺は植木鉢に入った状態で趙公明に抱えられている。
うん。まだ一輪の花のままなんだ。
どっからどう見ても植物。
妖怪要素ゼロです。
だ ま さ れ た!
「待ちたまえ正大。そんな人聞きが悪い事は言わないでくれたまえ。言い忘れてたけれど、普通妖怪になるには千年以上もの間月日を浴びて下級な存在とも言える妖精になり、力を蓄えて人型に変化できるようになると妖ゲツに格上げし、完全に人型を保てるようになって妖怪となるって訳さ」
ちょっと待て。
そんな時間かかるなんて聞いてない。
それに正大ってなんだ?
「まあまあ、過ぎた事で慌てもしょうがない。ここは前向きにいこうじゃないか。あと、正大は名前だよ。ほら、植物って名前を付けると成長が早くなるって言うだろ?それにいつまでも、君と呼んでは家族って感じがしないじゃないか?だから勝手に趙正大って付けさせて貰ったよ」
前向きにって誰のせいで慌ててると思ってるんだよ。
ちなみに名前に関して拒否権は?
「パルドゥン。それは出来ない相談さ」
うーん。まあ、いつまでも名無しってのは気分悪いから、それで良いけどさ。
植物の妖怪に家族って、まさか?
趙公明は、とっても寂しい人?
「ノーン。分かってないね。この僕も妖怪さ」
なん……だと?
通りで妖怪をプッシュする訳だ。
もしや、妖怪になった前例と言うのは?
「もちろん。それは僕のことだね。あと妹達は、まだ妖ゲツだけどそろそろ立派な妖怪になるから数に入れても良いと思うんだ」
やたら弟と呼んだから上下関係とかの弟分的な事だと思っていたら、実際に弟になっていたなんて。
偉い仙人なら一時的に庇護下に入るのも有りかなーって思ってたけど、こいつと一生の縁が出来てしまったのは、なんだか憂鬱。
「それは正大の杞憂に終わるよ。ちゃんと立派な紳士に育てるので安心してくれたまえ。それに、この僕に抜かりは無い。なるべく早く妖怪にする為に実験……じゃなくて、計画も立ててある。これはもう豪華客船に乗ったも同然だね」
いやいやいや、そう言われても気分は晴れないのだけど。
あと、紳士への教育とかお断りします。
それなりに自分って物が出来上がってるので今更変わるのは苦痛です。
それと実験って不穏な単語が聞こえたのだけど、その豪華客船って氷山にぶつかって沈没したりしないよね?
「さてと、そろそろ目的地に着く頃だね」
趙公明は、いつもの高笑いを上げて話題をそらした。
視線を前に向けると、いかにもって感じに妖気を放つ山が見える。
普通なら近寄りたくない雰囲気を放つあの山に何か用があるのだろうか?
俺はこの辺りで留守番を希望したい。
そんな俺の内心を気にすることもなく趙公明の気球(大量のバルーンで浮いてる)は前の山に進んでいる。
乗り始めた時は、そんな物で思った通りに空の旅ができるのか疑問だったが、間違いなく山に向かっている。
現実逃避したい。
確実に厄介な事になる気がする。
「さて、そろそろ降りるとするか」
ちょっと待て飛び降りるのは勘弁してください。
ドッコイショと足を上げて軽く、柵をまたぐ気配を見せたので、慌てて懇願する。
「ほんの冗談さ。これを本気にするだなんて。心にゆとりが無さすぎるよ。紳士たるものいかなる時も慌てないものさ」
いやいや、紳士だって慌てても良いじゃない。
それ以前に紳士じゃないし。
そもそも、お前って本当に紳士?似非とかじゃなくて?
あとファーストコンタクトで空から落ちてきたよね?
もう、お前なら何をやらかしてもおかしく無いと思うのは俺だけなのか?
「さてと、そろそろ高度を下げるとするかな。この辺りからは奴らの縄張りみたいなもんだし」
はい。軽くスルーされました。
そして、何やらシリアスムードを作ろうとしてますが事情が分からない俺としては、色々と説明して欲しい所です。
あの山にいったい何の用があるのです?
「あそこには龍脈の穴があるのさ。僕達の所属する金鰲島としてはエネルギーの確保は重要な課題だからね。通天教主様に制圧・掌握を命じられているんだ。だからせっかくだし、そこのエネルギーを無断転用すれば早く妖怪になれるんじゃないかと実験……じゃなくて兄として一肌脱ごうとってわけだよ」
興味本位で龍脈を試したいだけってのが伝わってきました。ありがとうございます。
あと、おそらくトップの通天教主様は人選ミスとかじゃないですか?
こいつ任務の対象を無断で着服するつもりですよ。
むしろ着服するのは俺だから、ばれたらヤバくない?
「通天教主様もそこまで狭量ではないさ。でも、目標は複数か所あるから、これから掌握する場所は最後にしたって事にすれば、おそらく問題はあるまい」
あれ?実は許可貰ってるパターンじゃなくて、本当に無断でやるパターンですか?
それで隠しきれると思っているのか、これから着服させられる身としては遺憾の意を表するよ。
「限りなく黒に近いグレーだけど、僕の立場を考えると黙認して貰えるさ」
うーん。まあ、こっちとしては、千年植物してるよりは早く妖怪になりたからね。
他に手段が有るのかも分からないから、ここは頼るべきか?
趙公明の権力的なものに賭けてみようかな?
本当に期待してるからね?
フリじゃないくて、その件は本気で頼むよ?
まあ、でもこの件は、もういいんだ。
遠い未来の話より、今の周りの刺すような視線が気になるのですが?
「実は、妖怪も仙人も一枚岩じゃなくて、それぞれいくつかの勢力があるんだ。龍脈の穴は、それらの存在にとって力を得る意味でも、住みやすさの意味でも大事な場所になる」
えーと、つまりここは敵地で、俺たちは招かれざる客ってことかな?
「ブラボー。その通りさ」
ちょっと俺は帰るよ。
お願い俺を元居た場所に帰して!
身動きもできないのに戦闘に巻き込まれたら堪ったもんじゃない。
騙されて植物になった挙句そうそうに死ぬとかあり得ないからね。
「ちょっと遅かったみたいだね。ここのボスのおでましさ」
そう言って視線を向けた先には、筋肉が膨れ上がった巨大な猿みたいな化物と、それに従うかのように手下達が待ち受けていた。
そして、視線だけを向けていた監視も姿を現し俺たちは敵に囲まれた。
「この地に単独で侵入者が来たからどんな強者かと思えば、吹けば飛びそうなただの優男ではないか。この付近を支配する猿魔王が長子」
「単刀直入に言わせて貰おう。ここの龍脈を使いたいから君たちは出ていってくれないかな?僕は平和主義者だから、この条件を飲んでくれるなら君たちを害することは無いよ」
趙公明は、相手の名乗りを途中で遮るように、挑発的な要求を突きつけた。
もちろん相手は少し呆けたあとに、何を言われたのか理解し怒髪天。
マジで帰りたい。
「貴様!生かしては返さんぞ!」
怒りに任せてボス猿が突っ込んでくる。
まるで巨大な壁が迫ってくるような迫力に走馬燈がよぎるのか、世界がもの凄くゆっくりに感じる。
あんなのに轢かれたら、雑草が刈り取られるように俺の人生……いや、植物生が終わってしまう。
マジ趙公明。お前の罪を数えろ!
「おおう。これだから力任せになんでも解決する存在は困る。君たちとの戦闘を楽しみたいのだが、僕は何かと忙しい身でね。悪いけど手早く済まさせてもらうよ」
そう言って、俺を傍らに置き。
もう何度目になるか分からないが、どこからか巨大な鋏を取り出し天に掲げた。
絶対に悪いとは一欠けらも思ってないと確信できる。
「あ、僕の、あ、僕のスーパー宝貝。金蛟剪レインボードラゴン」
虹色の光が出たかと思えば、それが別れて七匹の龍が現れた。
その内の一匹がボス猿に向かうと、ボス猿は回避する暇もなく龍に飲み込まれた。
そして、残りの龍がボスも手下も変わらないとばかりに、残った猿達を蹂躙していく。
この圧倒的な光景に俺は思った。
趙公明に、いや、兄様に舐めた口をきくのは止そうと。
「これも仕事でね。悪く思わないでくれたまえ」
お兄様は涙を流しているが、おそらくフリだろう。
それで、この虐殺っぷりと自然破壊を誤魔化せると思っているのだろうか?
「正大。何か言いたいことでも?」
いえ、なんでもありません。
「そうかい?では、ちょうど開けた場所があるから、そこに植え替えてみよう」
開けたと言うか、開いたと言える場所に、俺を植え替える。
とりあえず、地に根をはるように意識してみたが、エネルギーが流れ込んでくるとか、力が湧いてくるとか、そんな物はない。何も感じない。
あえて違いがあるとしたら、兄様が縮んだ?
「お?さっそく効果が有ったみたいだね。思ったより成長が早い。このペースなら十年も掛からずに人型になれるかもしれないね」
あ、俺が成長してたのね。
さすが妖怪の元。
普通じゃあり得ない成長だ。
しかし、これでも十年か。
ちょっと長いな。
「まだ龍脈のエネルギーを上手く吸えてないみたいだけど頑張ってくれたまえ」
あー、やっぱり上手く吸えてない感じか。
まだ植物に馴染んでないから仕方ないよね。
しかし、効率良く吸えるようになれば成長も早まるのかな?
「早まるかもしれないけど、容量以上に吸い過ぎると破裂しそうなイメージがあるよね」
やっぱり、頑張らないでゆっくりします。
なあに、元々千年かかる所が十年で済むなら儲けものさ。
破裂なんてしたら洒落にならない。
安全に行きましょう。
「さてと、龍脈にそこそこ成長効果がある事が確認できたし、僕はそろそろ御暇させて貰おう。僕も立場ある仙人だから色々と仕事があるんだ。妹達には早めにここに来るように伝えておくよ」
え?ここに置いてく感じですか?
今一人になるとか心細さマックスなのですよ。
何よりさっきの虐殺のせいで周囲に怨念が渦巻いてると言うか夜が怖いと言うか。
「なぁに。心配はいらないよ。正大ならすぐに妖精になれるだろうし、もう立派に不気味な植物さ。うかつに近寄るヤツなんていないよ」
いや、不気味とか言われても、いったい誰のせいでこうなったのやら。
あ、待って、話の途中で帰らないで。
「では、生きてまた会おう」
ちょっと盛大なフラグを立てて行かないで!
あれでしょ?帰ったフリして、影から見守るってことですよね?マジで放置?
身動きが取れないだけに、そんな事されると身の危険を感じずにはいられない。
あれから数時間後。
陽が落ち、空には月が怪しく輝いている。
お兄様の攻撃で木々が倒れ、あたり一面開けたおかげで存分に月光を浴びることができる。
微かだが、力が入ってくる。
おそらく龍脈との相乗効果もあるのだろう。
普通は、これ以下なのだから妖怪になるまでに千年かかるのは本当かもしれない。
仕方なく、一人思考にふけっていると何者かが近づく気配がした。
あ、心配になって様子を見に来たのかな?
なんだかんだ言って兄貴してるね。
もしくは、噂のお姉様でしょうか?
しかし、その気配は離れた場所で止まり。
近づいて来ない。
そして、二人組なのか会話が聞こえてきた。
「おお、酷いありさまだぜ」
「昼間に凄い音がしたと思ったらこの辺りの猿どもは全滅だな」
「しかし、あのヤバいヤツが帰ったから、少しでも龍脈にありつけるかと思ったが不気味な花が咲いてやがる」
「たぶん、あの野郎が植えて行ったんじゃないか?この辺りでは見かけない花だし」
「だよな。こんなデカい花は見かけない。なんか近づいたら喰われそうだ」
いや、食べないよ。
失礼な奴らだな。
まあ、警戒して近寄ってこないのは助かる。
しかし、兄様本当に帰ったのね。
「君子危うきに近寄らずだな。今日くらいは、存分に力が吸えると思ったが、あのヤバそうな花があるんじゃ、早めに別の場所に行った方がよさそうだな」
「まったくだ。それにここを支配してたヤツは猿魔王の息子だろ?こんな所にいたら、息子の死を知り報復に来た猿魔王に何されるか分かったもんじゃねぇしな」
「ああ、おそらくここに居るだけで有罪。報復対象だろうな」
「それを考えると肝が冷える。さっさと行こうぜ」
え?さっきのボス猿の親父が報復に来るって?
それって、このまま一人だとめちゃめちゃ危険じゃん。
おーい。俺も連れてってくれ!
必死に叫んだが、あの二人組は何も聞こえてないかのように立ち去って行った。
残された俺は、すぐに報復に来ないことを祈りながら憂鬱で長い夜を過ごすのであった。
【独断と偏見と思い込みによるテキトーな紹介コーナー】
・金蛟剪とは
仙人界第二位の破壊力を誇るスーパーな宝貝である。
オリ主がビビってしまうのも仕方がない超兵器だ。
しかし、スーパー宝貝と総称されるものは、並の仙人は持っているだけでエネルギーを吸い尽くされるので、それを使いこなせる事は強者の証とも言える。
ちなみに、個人的には空気の読める宝貝第一位である。
なぜなら、持ち主に合わせて形状が変わるからだ。
登場時は、ちょっと変わった双剣みたいな風貌で組み合わせると、ちょっとカッコイイ気がする鋏になった(物が切れるかは疑問だが)
次に、持ち主が変わると、姿を変えてギャグみたいな丸っこい盆栽とかに使いそうなハサミになった。
そして、最後には鋏では、無くなってしまった。
まさに持ち主に合わせて変身できる空気が読める宝貝である。