張紹さんが聞き取り調査をしてくれた術に関する修行を黙々と紙に書く作業を続けている。
書いていて分かった事なのだが、皆術を習得しようと色々と無茶をしていた。
マグマに入ったり、深海の圧力に挑戦したり、高所から落ちたりと色々だ。
そして身に着けた術も、その修行をやったからこそ身に着いた保証も効果が有るのかも分からない物ばかりだった。
そいった物は、【危険な術の習得法・未検証】に編纂する。
たぶんタイトルだけ見た人が、危険な術の本だと勘違いするかもしれないけど、危険なのは習得方法で有って術の方では無い。
危険な物が無いとは言い切れないけれども、ぶっちゃけるとリスクを負ってまで習得する価値はない術がほとんどだ。
まあ、いくら術が廃れてしまうと言っても自身の修練の結晶である奥義を簡単に教えてくれるはずもなく、ほとんどが入門的なものや切っ掛けを掴む程度の効果しか期待できない内容になってしまうのは仕方ない事だと思う。
それを踏まえた上で、最初に術部門から教えて貰った事は、そういった危険な修行を省いて結果だけ先取りする物なので安全ではあるが、才能に左右される結果になったのじゃないかと考えてしまう。
つまり、問題の意味は分からないけど、答だけ見せられてそれを習得しろと言われても、簡単には出来る訳がなかったのかもしれない。
でも、それを踏まえても危険な修行なんてしたくないので、黙っておこう。
何故なら検証させられるからだ。
もう術部門は取り潰されたのだから、俺が体を張る意味が分からない。
いや、術部門とは関係なくても、俺が体を張る意味が分からない。
大事なので二回言ってみた。
「正大よ。集中力が乱れているようだね。そろそろ休憩にしよう」
その言葉を聞いて俺は、机に突き伏して大きなため息をこぼす。
「もう疲れました。どちらかと言うと飽きたってのが正解ですが」
「確かに聞いてみないと分からない事も有ったが、目新しい物は少ないからね」
「ええ、仕事に楽しさを求めるのはどうかと思いますが、先は長いのでそろそろ息抜きをしたい所ですよ」
「まあ、私は色々と聞き取るついでに雑談をしているから、問題ないが正大は編纂作業を中心にしているから、流石に飽きは出てくるか。なら先に趙公明様が書いた修行でもして」
「却下です。何か面白い話とかないですか?」
「即答か。なら面白いかは分からないが、金鰲島七不思議を知っているか?」
「七不思議ですか?七怪じゃなくて?」
「奴らは、梅山の七怪だろ。金鰲島七不思議とは関係ない」
「じゃあ知らないですね。どんな話なんですか?」
「まあ、金鰲島で最近出回っている怪談みたいな物だ。聞き取りのついでにいくつか仕入れた」
「え?金鰲島の住人自体が怪談みたいな物なのに、そいつらに怪談扱いされるとかどんだけですか。気になってきましたよ」
「じゃあ、話すとしようか」
そう言って張紹さんは語りだした。
ある一人の男が、夜風に当たろうと金鰲島に最近作られた庭園へと向かっている。
そこは月光を浴びるには丁度良い場所で、妖怪仙人である男もそれなりに気に入った場所で有った。
なので外の空気を吸うならそこに向かうのは当然になり始めている。
しかし、もう少しで庭園に着く道の途中に大きな看板が立てられていたのだ。
『この先は、しばらく危険につき立ち入り禁止』
今は庭園でくつろぎたいのに水をさすような看板に苛立ちを覚えたが、すぐに鼻で笑った。
自分は金鰲島で修行している仙道であり強い力を持つ妖怪なのだ、危険など有るはずがなかろう。
むしろ、そんな自分を危険たらしめる物があるのなら見てみたいものだと歩を進めるが、何事もなく庭園にたどり着いた。
そこはいつもと変わらない風景が有るだけで危険そうな物は何もない。
いや、どこか違和感がある。
いつもなら、心地よい風が吹き月明かりが優しく降り注ぐはずなのに、今は風を感じられず月明かりも何かに遮られているのか闇が一段と濃い。
ふと空を見上げたが暗いだけで、いや、何かが動いている。
そう思うと同時に巨大な何かがこの庭園を覆っている事に気付く。
これは看板にある通り危険なのかもしれない。
背中に冷たい物を感じながらも、この庭園を去る決意をすると地中から触手みたいな物が固い地面を破り飛び出す。
不味いと思った時には、すでに触手のような物に絡め取られて身動きが取れないまま、ゆっくりと地中に引きずり込まれる。
その恐怖に耐える事が出来ず男の意識は暗転したのだった。
そして、気がつくと男は自室にいた。
あれは夢だったのだろうか?
しかし、悪夢の影響なのか体がだるい。
まったく酷い夢を見たものだと、袖で額の汗をぬぐうと服が土で汚れている事に気がついた。
まさか、あれは悪夢ではなく現実だったのだろうか?
男は、それを確かめる為に恐怖にすくむ足を騙しながら庭園へと向かった。
その途中には看板も何もなく、庭園も太陽の光が降り注ぐ普段の場所。
その平穏な光景に心底安堵し、あれは夢だったと結論付ける事にした。
そして、夢だとあの場所に引きずり込まれたんだよなと視線を向けた先には、何かが這い出たような穴があり、あそこに自分が埋まっていたのではと思わせる恐怖を感じたが、気のせいだと頭を振りかぶる。
男は、夜にここを訪れる事はもう無いだろう。
そして、知り合いに数日は行方不明だった事を教えられて、その決意を固くするのであった。
「みたいな感じの経験談が複数あるらしい。これを金鰲島七不思議・闇の庭園と言うみたいだね。今回話したのは夜だったけど、昼間でも同じ事が有ったそうだ」
「へぇー。そんな話が有ったんだ」
冷静を装いながら、そう軽い返事をしたが内心は凄く焦っていた。
何故なら、それ犯人は俺だから。
ダメージを受け過ぎると回復する為に庭園を独占してたし、その上で龍脈みたいなエネルギーを得られる場所がないから近づく者からエネルギーを絞り取る存在になっていたのだ。
だから兄様に、危険立ち入り禁止な看板を立てるようにお願いしていたのだが、たまにそれを無視した者達が被害に合っていたせいで、そんな怪談が出来上がったのだろう。
とりあえず、被害者達は掘り起こして自室に送り届けていたのだけど、いつ苦情が来るのか冷や冷やしていたが、皆現実逃避していたとは意外だった。
自分が怪談にされるのは、はなはな遺憾だが訴えられると困るので、そのまま七不思議として永遠にアンタッチャブルになって欲しいものだ。
そして、俺は話題をそらす為に、次を要求する事にした。
「七不思議って言うからには、他にもあるんだよね?他はどんな話だったりするのかな?」
「ああ、迫り来る壁とか、見返り美人とか、食べられる御菓子とか、怪人Cとか、存在しない部屋とかだね」
「なかなか気になるタイトルだけど、闇の庭園を含めて六つしかないのだけど?」
「ああ、七つ目は、六つの不思議の真相を知ると不幸になるとか願いが叶うだとか、そういった話らしい。全部の真相を知る者がいないって事だね」
「へぇー、不幸になるか願いが叶うかはっきりして欲しいかな」
とりあえず、一つだけでも真相を知っている俺はもう不幸なのですが?
もう全部の真相を確かめて願いを叶えるしかないかな。
いや、なんか藪蛇な気がして話を聞くのが怖い。
けど、やっぱり好奇心的には、どんな話か知りたくもある。
まあ、もう不幸なのだから聞いても、別に問題ないよね?
「迫り来る壁ってのは?」
「ああ、夜に見回りの者達から広がっている話なのだけど、通路が突然柔らかい壁に塞がれるそうだ。そして何かの叫び声がしたと思ったら、その壁に押しつぶされる者達が続出しているみたいだね」
あれ?なんか似たような経験をしたような?
何だったかな?
ああ、あれだ。
夜に食料を求めて彷徨っているマドンナ姉様が道につっかえて動けなくなっている事が有った。
そこから抜け出そうとしている姉様に潰されかけた思い出が……。
いや、マドンナ姉様が犯人だと決めつけるのは早いはず。
「そういえば、経験談は食糧庫周辺の担当ばかりだったはず」
「え?えーと、次の見返り美人って何なのかな?怪談って感じはしないのだけど」
俺は、慌てて次の話題を振った。
「何でも美しい仙女を見かけて、お近づきになろうと追いかけて声をかけた結果。振り返るのが恐ろしい顔をしたオッサンになっているそうだ。その落差のショックから気絶する者が多数出てるとか。間違いなく美人を追いかけていたはずなのに、振り返る顔が別人になっている。勘違いだとか、見間違いとかじゃなくて、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったと体験者は語っていたね」
これは、もしかしてビーナス姉様が?
そういえば嘘だと思っていたけど、よく殿方に声をかけられると自慢していたような?
そして、私の美しさのあまりに殿方が気絶しますわよと言っていたような。
うん。次に行こう、次に。
流石に、食べられる御菓子は、俺達に関係ないはず。
「ちなみに、食べられる御菓子ってのは?普通の御菓子じゃないの?」
「ああ、何でも巨大な御菓子に襲われてた者達がいるみたいでね」
「え?つまり御菓子に食べられるって事?」
「そうなる」
やっぱり、これは関係なかった。
危険な御菓子が金鰲島にいるってのは脅威だけど、安心だ。
いや、待てよ。
クイーン姉様が、また御菓子に逃げられただわさと言ってるのを何度か聞いたような?
あの時は、マドンナ姉様に食べられたんだと思っていたけれど、本当に逃げられていたとしたら。
そして呟くように、誰か食べられてないと良いんだけど言っていたのは、聞き間違いで誰かに食べられてないか心配しているんだなと思っていたけど、聞き間違いじゃなくて本当に誰かが食べられてないか心配していた可能性が。
深く考えるのは止そう。
何も証拠は無いんだ。
そして怪人Cは、聞くまでも無いよね。
「怪人Cについては聞かないのだな?」
「あ、いや、なんとなく想像がつくと言うか」
「私も被害に有ってね。大事な物を人質に取られて勝負を挑まれるのだよ。最近までは大人しかったそうなのだけど、また活性化しているらしくてね」
「え?俺に言われても困るとしか、それよりも、最後の存在しない部屋ってのは何ですか?」
やっぱり兄様でしたよ。
そればっかりは、俺に言われてもしょうがないので、次の話題を全力でプッシュです。
「いや、まあ頼むとだけ言っておこう。それと、存在しない部屋なのだけど、この金鰲島には、普段は存在しない部屋があるのだそうだ。なんでも恐ろしい物が見れるそうなのだが、私がくまなく探しても見つける事は出来なかった」
「最後の一つは、デマなんですかね?」
「それは分からない。しかし、話が出回っている以上、デマと切り捨てるのも難しくてね」
「うーん。話の流れからして、兄様が何かとんでもない物を隠してそうな予感がするのですが」
「私も、その線を疑っているのだが、見つからない以上は本当に存在しないだけで、噂が独り歩きしている可能性もある。まあ、怪談とは本来こういう物なのだろうが」
「それもそうですね」
「ああ、もし見つけたら教えて欲しい。長年分からなくて気になっていてね」
「まあ、期待はしないでくださいよ」
一つだけで止めておけば良かった。
誰だ、これ以上は不幸になりようがないとか言ったヤツは?
真相を知る度に不幸度が上がったのですが、発言者は責任を取ってください!
あ、俺だった。
しかし、六つ中、五つも自身を含めて身内が犯人だったなんて。
最後の部屋とか、絶対に兄様が不味い物を隠してると俺は確信してるね。
これは張紹さんには悪いけど、見つけたら秘密裏に処分しておかないと俺の立場が悪くなるはず。
そう思って、俺も金鰲島をくまなく調べたけど、隠された部屋や、不味い物が置かれている部屋は見つける事が出来なかった。
やっぱり、ただの噂だったかと、俺はこの話題を忘れていく。
そんなある日、こんな所に道なんて有ったかな?
そう思って、好奇心からその道を進んだ。
しかし、その先に有ったのは袋小路で行き止まりだった。
俺は、存在しない部屋の事を思い出して少しばかり期待していたのだが、やっぱり存在しないから、存在しない部屋なのだろうと結論付ける。
まあ、でもせっかくだからと、行き止まりの壁を押してみたのだけど、やはり壁だった。
そういえば、前の俺の記憶だと、こういった隠し部屋への扉は引き戸だったなと、壁をスライドさせてみようとしたが無駄だった。
こうなったら、自棄だとシャッターを持ち上げるみたいに壁に手をかけると持ちあがる。
そして壁を持ち上げると、中にいた人物と目が合う。
俺は、静かに壁を下して見なかった事にした。
何を見てしまったのかは、とてもじゃないけど俺の口からは言えない。
「待て。趙正大。これは誤解だ」
壁の向こうから声がする。
俺は、通天教主様なんて見ていない。
存在しない部屋なんて存在しないのさ。
「通天教主様。俺は、何も見てませんし、この事は張紹さんには絶対に話しませんから」
「いや、待て。張紹に知られるのは困る。この事が金鰲島中に広がってしまうからな。それに誤解だと言っておる」
「分かっています。分かっていますから。俺は、何も見ていません」
「いや、分かってない。そうだ。いったい何が望みだ?」
え?何が望みだと急に言われても。
しいて言うなら、給料が欲しいです。
タダ働き反対!
しかしながら、貨幣を貰っても金鰲島でも、ましや文化全然発展していない人間界でも使い物にならない。
うーん。そうか使い物にならないなら、使えるようにすれば良いんだ。
「えーと、金鰲島に採用して欲しい制度があるのですけど」
「それは、難しいかもしれんが、金鰲島の為になるのなら叶えられるかもしれん」
「分かりました。では、今の仕事が一段落したら兄様経由で企画書を提出するのでお願いします」
「うむ。可能なら叶えよう。だから分かっておるな?」
「了解しました。絶対に他言しませんし、忘れますし、誤解ですね」
これは願いが叶ったって事なのだろうか?
しかし、やっぱり不幸だとしか言いようがない。
【どうでも良いかもしれない趙正大との現在の関係】
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通天教主:どうやって口を封じよう
【後書き】
・存在しない部屋で、オリ主が見たものは想像にお任せします。とりあえず、自分としては、楊戩がノリノリでアレに変化してるのを見て、クオリティが違うけどやっぱり親子だなと思うものを見た事にします。
・そして、どうでも良い近況報告。クーラーが壊れました。暑すぎ。テンション下がりまくりです。そして、保証期間が丁度1週間前に切れていて、少し悲しかった。
・あとは、導なき道へを読みました。たぶん、ほとんど反映しません。この二次にはオリ主がいるので別の話だと思ってください。
この二次では、金蛟剪の龍は光じゃなくて生体エネルギーの固まり扱いとします。