それは星に願ったらアカンやつ
俺は、金鰲島の頂上に向かっている。
何故なら、兄様が金鰲島の頂上で怪しげな儀式の準備をしているとの通報を受けたからだ。
まあ、危険なら止めるのもやぶさかではないのだけれども、どうして俺に言うのかね?
え?兄様に、まともにものが言えるのは通天教主様くらいだって?
そして、通天教主様の手を煩わせる訳にはいかないし、気安くお願いする事も出来ないので、とりあえず人柱に……じゃなくて、身内にお願いする事にしたらしい。
あれ?俺って、もの凄く侮られてる?
せっかく仙人になったのだから、今度時間があれば兄様みたいに稽古でも付けるべきなのだろうか?
兄様経由で、これの企画書も提出しておこう。
いや、やっぱり暇がないから止めておくべきか?
自分の提案で忙しくなるのは困るし自分の首を絞めてしまう予感がする。
そんなこんなで目的地に進んでいると、大きなものが見えてきた。
どこから持ってきたか謎だけど、巨大な竹が見える。
いや、たぶん笹かな?
だって、折り鶴やパーティで使われる色紙の輪を繋げたチェーン状のもので飾り付けられている。
それだけなら、俺も七夕の笹かと思ったのだけれども、一番上に星が飾られていて、おそらく白い部分は雪に見立てた綿だろうし、ベルやリボンや靴下や紅白の杖も所々に飾られている。
そして、トドメに最近また俺が量産させられた光る宝貝が電飾よろしくとばかりに点滅していた。
絶対に七夕の笹とクリスマスツリーが混ざってますよね?
これは知らない人が見たら怪しげな儀式の準備をしていると絶対に勘違いしますわ。
まあ、でも正体を知っている自分としては危険がないと分かりホッと胸を撫で下ろす。
「兄様。この七夕とクリスマスが混ざったような笹は何ですか?」
「いきなり質問とはぶしつけだね。ちょっと古代文明の文化を記した書を読んだのだけど、なかなか面白そうな行事が有ってね。少し再現してみたんだ。そして、説明を求められても設計図通りに作っただけだからね」
「え?設計図通り?何が有った古代文明」
「まあ、そんな細かい事は気にしない。短冊に欲望を書けば叶うかもしれないし、根元にプレゼントが届くかもしれない行事となれば一度はやってみたいと思わないかい?」
「いやいや、短冊に書くのは目標とかで自分で達成するのが主だし、プレゼントは親が子供を喜ばせる為に準備したものだからね」
「卑劣漢!そういった事は知っていても言わないのがお約束と言うものだろう」
「いや、正論だけど、そこまで非難される事?」
「まったくもって、正大は情緒が欠けていて困る。これでは立派な紳士には成れないよ。あ、せっかくだから短冊に書いておこう」
「え?ちょっと待って」
〔立派な紳士に成れますように 趙正大〕
兄様は手早く短冊にそう書くと、笹に吊るした。
待って、その書き方だと、まるで俺が願ったようじゃないか!
「なんだい?正大も書きたいのかな?それなら素直に言えば良いじゃないか」
「どちらかと言えば、せっかくだから書いてみたくはあるけれど、俺が言いたいのは」
「ノンノン。皆まで言わなくても分かっているよ」
そう言って、兄様は短冊を差し出してきた。
分かってないじゃないですか!
そして、言えなのか言うななのか、どっちなんですか?!
まあ、一通り叫んだ後に、短冊に願いを書いてみる。
とりあえず、〔平穏無事〕にしておくかな。
ええ、多くは望みませんが、これくらい良いじゃないですか。
まあ、たぶん叶わない気がするけども。
そういえば、兄様はどんな願いを書いたのかな?
こんな大掛かりな準備をしたのだから、とても気になる。
「そういえば、兄様はどんな事を書いたんですか?」
「ん?気になるのかい?あの短冊だよ」
そう言って、兄様が指示した方を見るとひときわ大きい短冊に目が行った。
〔アルマゲドン〕
「それは星に願ったらアカンやつ!」
俺の言葉が空に響く。
一年後。
また、兄様が怪しげな儀式の準備をしていると通報があり、俺は金鰲島の頂上に向かった。
そしたら、やはり去年も見た巨大な笹が有った。
しかも、もうすでにけっこうな量の短冊が飾られている。
俺も、去年は平穏無事に過ごせたので、また短冊に書いてみても良いかなとか思ったり。
たぶん、微妙に願いが叶った人達の口コミで短冊を飾る人が増えたのだろう。
「兄様。今年は短冊が、もうたくさん飾られてますね」
「ああ、正大も来たのかい?そうなんだ。なかなかに盛況だね。そして、色々な欲望が書かれていて見ていて楽しいよ」
「兄様。そんな事は思っていても心に仕舞っていてください」
そう兄様をたしなめつつも、他人の願望が少し気になるので短冊に視線が行く。
〔素敵な出会いがありますように〕
〔兄と弟と姉と妹がもう少し常識を身に着けますように〕
〔食べ放題〕
〔あの事は黙っているように〕
うん。普通の願いもあれば、聞き捨てならない心外な願いと、スルーしたい匿名の願いが混ざってる。
「ちなみに兄様の今回は?」
「あれだよ」
〔ディープインパクト〕
ああ、あの有名な競走馬だね。
あれなら願いたくなる気持ちも分かる。
そうですよね?
馬ですよね?
「一応聞いてみるだけですが、今回の言葉はどこで知ったんですか?」
「あれは笹の設計図に書いてあったんだ。なんだか面白そうだったから書いてみたのだけど、正大は意味が分かるのかい?」
「ええ、まあニュアンス的にって感じですが。しかし、古代文明の行事にそんな物騒な言葉が載ってたんですか?」
「行事の書と、設計図は別だよ」
そう言って、兄様が設計図の書かれた物を渡してくれた。
それに目を通すと、確かにあの巨大な笹の絵とアルマゲドンとディープインパクトの文字があった。
『ヤツが次々と各国を滅ぼしている。次は我々の番であろう。そうなる前に、あれが完成できて幸運だ。さすがのヤツもこの星を破壊されては困るだろう。我々を滅ぼすつもりなら、この星を破壊すると脅して交渉を試みるつもりだ。願わくば、これが使われない事を祈る』
そして、設計図の裏に誰かの独白が書かれていた。
うん。たぶん、あの笹は何かの起動スイッチなのだろう。
高い場所にあの笹を準備してアルマゲドンと記すと何かが起動するらしい。
そして、ディープインパクトは予備を起動させるキーワードのようだ。
まあ、古代文明の設計図だから、きっと大丈夫だよね。
笑えないけど誰かのジョーク作品かも?
そんな事よりも、短冊に何を書こうかな。
俺は知らんぷりをする事に決めた。
一カ月後。
会議室に主だった仙人達が集められた。
そして、通天教主様が集めた仙人達に声をかける。
「皆の者。緊急の招集に応じてくれて感謝する。今回皆を呼んだのは崑崙山から重大な情報が入ったからだ。では、使者どのもう一度詳しく説明をお願いしたい」
「かしこまりました」
そう言って、見慣れない人が礼をする。
通天教主様の言う通りなら崑崙山からの使者なのだろう。
俺としては妖怪になってから人を見るのは初めてなので、興味深く観察してみる。
うん。これくらいの相手なら勝てそうな気が……まてまて、思考が兄様に汚染されてバトル寄りになっているな。
真剣な顔をしているし、ここは真面目に耳を傾けよう。
「我らが教主・元始天尊様の千里眼がたまたま捕捉したらしいのだが、空の彼方から巨大な星が我々の住んでいる場所に向かっているそうだ。このままいくと一カ月もしない内に衝突する可能性が浮上した。この苦難を共に乗り越える為に崑崙山は、金鰲島に協力をお願いしたい」
そう言って使者は、再び頭を大きく下げる。
俺は偶然って怖いと他人事のように思った。
そして、あれとの因果関係を頭の中で否定しながら現実逃避をするべく、今日の晩御飯に思いをはせる。
近付く星より、今日のご飯だね。
更新を金曜日に変えてみました。
とりあえず、ネタ的に七月七日に更新したかったのですが忙しくて無理でした。
ちなみに、もし短冊に願うなら今の自分は「週休二日」と書きそうです。