無ければ作れば良いと気がついた
あの隕石の件以来、俺の抱負は来年から頑張るになった。
これだけ聞くとダメ人間なのだけど言い訳をさせて欲しい。
別に俺が頑張ってない訳じゃいと心から抗議させて貰う。
金鰲島の運営や仕事が、上層部に集中し過ぎて自分の時間が取れないでいるのだ。
ぶっちゃけると妖怪の九割近くは仕事が出来ないか仕事をしないし仕事をしようとも思わない。
なので修行や宝貝や隠れ家の建設などは、来年こそは頑張ると思いつつ、今年が毎回終わるのである。
それでは、かなりの年月が過ぎたのに成長してないねと言われると痛い。
いや、新しい術とかいくつか覚えたのだけど、正直言って実戦で使えるか甚だ疑問だからだ。
ちなみに覚えた術は、なぜか白礼が協力してくれて炎系を覚える事ができた。
それは感謝するのだけど、そのせいで終わりかけてた術に関する書の編纂が増えたのは文句を言っても良いだろうか?え?ダメ?そんな理不尽な。
まあ、術を覚えたとだけ聞くと、あれ?意外と成長してると思えるだろう?
でも、どんな術を覚えたのか聞いてから判断して欲しい。
熱くて痛い(おもに俺が)
熱くて痛い(おもに俺が)
熱くて痛くて大ダメージ(おもに俺が)
本来は火纏いと言って攻撃に炎ダメージを付与する術らしのだが、普通に熱いし痛いし術者に被害が及ぶから気軽に使えねぇよ!
しかも兄様や姚斌さんに評価して貰った所同じような言葉を頂いた。
「炎は大した事はないけど、煙が厄介。目に入ると異常に沁みて涙が止まらず、吸い込むと喉に激痛が走り、呼吸も困難になる。もう何かの毒レベル」
などなどと、もう炎系の評価じゃないねこれは。
まるでキャンプファイアーに丸ごと生木を使ったぐらいの勢いで煙が出るから仕方ない気もしないでもないけれど。
痛いのと煙が嫌ならば、自分を燃やす火纏いじゃなくて普通に炎を出せば良くないかと思うだろう?
それを行うと、もうマッチレベルの火が一瞬付くだけですよ。
これは、もうライター以下ですわ。
俺って炎系の才能無さ過ぎと言ったら、才能が無かったら覚えることすら出来ないよと明後日の方角を向きながらフォローされた。
オイ。コッチヲミロ!
うん。まあ、仕方ないから炎系に関しては、もう宝貝を自作しようと心に決めた。
そして、そんな時間なんて無いがな!
うん。このままではダメだね。
自分から働きかけないと、休みも給料も永遠に無しだ。
なら何故、今までは行動しなかったのかと言うと、いきなり休みや給料くださいとか言っても、何言ってるのコイツで終わってしまうからだ。
そこで考えた。
まず休みが欲しいなら、シャレにならない仕事量を減らすべき。
自分の仕事を減らすには、他の皆にやって貰うのが一番。
なら皆が仕事したくなるようにすれば良い。
皆が仕事をしたくなる為には、仕事をすると良い物が貰えるようにすれば、仕事がしたくなるはず。
しかし、皆が欲しがる良い物など無い。
欲しい物は個人それぞれである。
なら、どうすれば良いか。
欲しい物と、ある程度交換できる物を作れば良い。
そして、それと引き換えに欲しい物を提供する施設を作り、それが有れば欲しい物が手に入ると思えるようになれば欲しくなるはず。
そうなれば、もうそれ自体が価値あるものと認識されるようになり、逆にそれ自体が欲しい物になる事が理想的。
そうなれば、それさえ有れば休みなんて思うがままさ!
決めた。俺は金鰲島に通貨制度を導入して店を運営するぞ。
これで休みも給料も貰える時代が来るのだ!
あれ?仕事が増えた気がするが気にしない。
そう一時的に増えただけで、未来にはきっと減っているはず。
そして、よくよく考えてみたら店を運営したら給料を払うのは俺な気がする。
いや、きっと通貨制度が根付いた頃には、働いた分だけ給料が貰えるようになるはず。
何も問題ないと、頭によぎる不安をかき消す。
まあ、そんな心配は、兄様と通天教主様を説得してから考えれば良いか。
あの二人を動かせなければ、俺の目論見はご破算だし、まさに杞憂と皮算用なだけだ。
さてと、まずは手始めに兄様の説得をしたいのだけど、どうすれば良いだろうか?
まあ、色々と寝る間を惜しんで夜寝ながら考えたけど、結局は当たって砕けろと結論が出た。
はい。まったくノープランです。
結局早起きして書いた企画書を取り出して思う。
とりあえず、テキトーに兄様が喰いつきそうな話をしてみるかな。
「チョット。兄様うまい話アルヨ。今だけ。アナタだけに特別にお話ししましょう。この機を逃すなんて大損確定。まさにバスに乗り遅れるようなものだ。さあ何も聞かずにこの書類にサインして、次はこちらの企画書を通天教主様に提出お願いします」
「藪から棒に何だい?今時は詐欺師でも、そんなに胡散臭くはない。しかも雑だ」
「いや、これだけ言えば掴みはバッチリかなと思って」
「うん。バッチリ警戒心がウナギ昇りだね」
「兄様が欲する劇場やカラオケ施設の建設が可能になるかもしれないし、妖怪達が進んで劇団を作ったりミュージカルも積極的に行ってくれる可能性が出てくるかもしれない話だとしても?」
「詳しく聞こうじゃないか」
簡単に喰いついたよ!
警戒心はウナギ昇りで、どこ行ったんだよ!
などとツッコミたいが、兄様が乗り気な内に話を進めてしまおう。
「ちなみに兄様の提案が何故却下されているか理由が分かりますか?ああ、兄様の私的な道楽目的であるって事を除いて」
「ふむ。ディスカッション形式かい?それを除いてしまうと、金鰲島においては作業に従事する者達。つまりリソースが圧倒的に足りてない事ぐらいしか大きな理由は思い付かないかな」
「さすが兄様。いきなり核心を突くとは」
「まあ、これは上にいる者達が皆思っていることだね」
「なので今回の提案はリソースの向上もしくは、俺達が個人的に使えるリソースを確保するのが目的となる」
「なるほど。余裕があれば僕の提案が通る可能性も上がるし、通らなくてもリソースさえ確保してしまえば自分で作ってしまえば良いと……この話、俄然興味が沸いてきたよ」
いや、最初から興味津々でしたよね?
まだ抽象的な話しかしてないのに、かなり乗り気になってますよ。
これは、かなり雑な計画だけど、意外と思ったより協力が得られそうだ。
「そしてリソースを増やす方法なのですが、今も頑張っている人に更に頑張ってもらうか、今まで働いてない人を使うかのどちらかになります」
「なるほど。妥当だねと言いたい所だけど前者は鬼畜過ぎないかい?今でも余裕は少ないと思うのだけど。それに働かない者を働かせるのはなかなかに骨が折れるよ。なにせ妖怪は自由なヤツが多いからね」
自由代表みたいなアナタが言いますかとツッコミたいけど、兄様はけっこう働いている。
うん。だけど嫌々じゃなくて自分自身の自由意思で働いてる感じが……むしろ、なぜ働いてるのか疑問に思える俺は間違っているのだろうか?
「なので働いている人に褒美を与えます。働いた分だけ貰えるならやる気が出ると言うもの」
「悪くないと思うが、皆がやる気が出る褒美なんてあるのかい?」
「無ければ作れば良いですよ。そう例えば、その褒美が自分の欲しい物と交換できる引換券みたいな物だとどうです?それと引き換えに物やサービスを受け取る事が出来る。まあ、仮に引換券をお金と呼称しておきましょう」
「確かにそれなら欲しがるかもしれない。しかし、物やサービスはどこから持ってくる気だい?」
そう、そこが問題なのだ。
最初ばかりは、自らが開拓する必要がある。
「そこは、俺や兄様が始めるしかないですね。しかし、物やサービスを提供すると、お金が集まりますよね?もしお金が欲しい者達が増えたなら、勝手に真似を始めるでしょう」
「上手くいけば物やサービスを進んで提供してくる者達も出てくるかもしれないね。なるほど。そうなれば劇場の建設やミュージカルの人員を買って出る者が出てくる訳か。これは一考の余地がある」
説得出来た手ごたえを感じる。
兄様には、是非とも働いて貰いたいし商品を提供して貰いたいのだ。
ほら、『立ってる者は兄でも使え』とか『兄の脛をかじる』とか『兄の威を借る弟』とか言うじゃない?
そう思いながら、先ほど見せた書類を渡した。
「それで、これが提供して欲しい物と売り上げの配分ですね。サインお願いします」
「どれどれ。正大は店を開く予定か。まあ、物は構わないけど、手数料が三割とは取り過ぎじゃないかな?」
「いやいや、それぐらいは取らないと店なんて運営できないから。むしろ折半しないだけ良心的だよ。まずは様子見として百年くらいは、これで試してみない?」
「ノンノンノン。様子見と言って、永続的に続ける気だね?そうか契約期間にも注意が必要なのか」
この後、今後の販売計画について、色々と兄様と詰めた。
今ならよく分かってないだろう兄様から有利な条件を引き出せるかと思ったけど、そんな事は無かった。
警戒心は行方不明だと思っていたのに!
もしや、あの掴みが不味かったのだろうか?
俺は、密かに後悔した。