御姉様達マジ良い人。
コミュニケーションを取れなくても、毎朝挨拶してくれるし(碧霄御姉様は無言だが)、偵察に来るお猿さん達も撃退してくれるし、さっきも遠路遥々汲んできただろう霊峰の水をくれた。
水って産地によって美味しさが違うと実感したね。
それと、この辺りは俺が吸い上げているせいかちょっと乾燥気味だから、まさに体に水が行きわたるのを実感できる。
いつも近くの川から汲んで来てくれている事にも感謝だけど、特別な場所から苦労して持ってきて貰った物は格別です。
ただ、水道も無いこの時代の水汲みって重労働なんだよね。
雲霄御姉様も、もっと簡単に組み上げる道具はないかと言っていた。
本当に苦労かけます。
言葉が伝わらないから毎日感謝の念を送るだけの愚弟ではありますが、改めて言葉が出てくる。
ありがとうございます。
そんな日々が過ぎゆく中、久しぶりに趙公明がやってきた。
なぜ敬称略かと言うと、俺に対するこの仕打ちと、喉元過ぎれば恐怖も忘れるって言葉があるように、一緒に敬意も忘れたからである。
「正大。久しぶりだと言うのに、ずいぶんな物言いだね。せっかくお土産を持ってきたと言うのに」
お兄様、いつも尊敬しております。
お土産は何ですか?
趙公明の後ろにある布に包まれた巨大な物体に興味が移る。
「相変わらずの熱い掌返し。嫌いじゃないよ。今回ばかりは少し苦労したからね。反応が楽しみだね。さあ、さっそく披露目といこうじゃないか!」
お兄様が勢いよく布をはぎ取ると、そこには巨大な竜が横たわっていた。
もう一度言おう。
巨大な竜が横たわっている。
え?これがお土産?どちら様?え?それ竜の死体?
「ここから東に行った所にある海に住んでいる海竜王だよ。龍脈から力が得られるのなら、竜を素材に使えばまた力が得られるんじゃないかと予想を立てた僕は素材を分けて貰えないか交渉に行ったのさ。そして結果はご覧の通り」
物言わぬ竜を指し示す兄様は少し自慢げだった。
いやいや、これ交渉で分けて貰ったじゃなくて、ちょっと一狩りして来ましたって状況ですよね?
絶対に交渉なんてしてないと確信しています。
「失礼な。ちゃんと交渉はしたさ。弟の為に君達の素材が欲しい、君達の牙や爪や鱗や血液を少し分けてくれないかな?と言ったら激高して襲ってきたんだよ」
それ交渉じゃなくて挑発だから!
もしそれで相手が譲ってくれたとしても、交渉じゃなくて脅迫だから!
それとサラッと使用理由に俺のこと出してるけど、下手したら恨まれるの俺だからね。
それと達って言ってたけど複数いたの?
でも、ここにいるのは一匹だけ?
「ああ、二匹居たんだけど、一匹には逃げられてしまってね。まあ、元々は少量分けて貰えないか交渉に行っただけだから素材は一匹いれば十分以上の量だし追いかけなかっただけなんだけど。あと、逃げた方は仇はいずれと叫んでたね」
はい。恨まれているのが確定しました。
俺は自由に動けるようになっても海には絶対行かない。
マジで勘弁してください。
このままだと妖怪になって自由な旅計画の地図がハザードマップになってしまう。
「素材をダメにしかねないから金蛟剪は使わなかったし、慣れない海上での戦いだったから、もう少し労って欲しいんだけどな~。肝心の弟は嘆くばかり喜んでくれないし」
口では、困った風に言っているがいつの間にかイスに座って、御姉様が淹れたロイヤルミルクティーを嗜んでいる。
そして、どことなく俺の反応を楽しんでるように見えるのは、俺の心がすさんでいるからだろうか?
「まあ、いいや。とりあえず雲霄あれを捌いて料理してくれないかな?」
「分かりましたわ。お兄様、腕によりをおかけいたしますの」
「一応、血抜きは済ませあるからすぐに料理できると思うよ」
雲霄御姉様マジ良い人。
突然あんな物料理しろって言われても二つ返事で引き受けたよ。
どこかの誰かと違って人間ができてるね。
とりあえず、普通に持ち運べないだろってツッコミを入れたくなる大きくて固そうなまな板もしくはまな鉄と、刃渡りが大きくて何か呪文のようなものが書かれた布でグルグル巻きにされて封印されてる気配のある包丁なんて俺には見えない。
見えないったら見えない。
「あと瓊霄、これがその竜血だ。正大にかけてきてくれ」
「任せるだわさ」
そう言って瓊霄御姉様が真っ赤な液体が詰まったビンを抱えて駆けてきた。
普段ならほっこりするその姿も、得体のしれない液体をかけられると思うと少しばかり恐怖を覚える。
ちょっとはためらっても良いんですよ?
そうこう思っていると、近くまで来た瓊霄御姉様は根元に赤い液体をこぼした。
盛大にかけてきてくれとも聞こえるので、思いっきり花にかけられないか心配していたが、杞憂だったようだ。
瓊霄御姉様も良い人。
碧霄御姉様は、料理中の雲霄御姉様に熱い視線を送っている。
相変わらず腹ペコのようだ。
たまに、こちらに食べられるかどうか判断するような視線を送ってくるが、実行してないので良い人なのだろう。
そう思ってないと怖い。
お兄様と同類だった場合は心労二倍である。
うん。怖いことは考えないでおこう。
「そういえば、お兄様は正大と会話ができるのですね。私達には声が聞こえないのですけど」
料理中の雲霄御姉様は兄様にそんな質問を投げかけた。
それは俺も気になる。
「それは僕みたいなトレビアーンな男には、画面に映るモノローグを見ることも、ページに書かれた吹き出しを読むことも朝飯前だからさ」
なんかメタいこと言ってる。
そして、なんか痛いこと言ってる。
辺りに寒々とした空気が流れる。
それを察したのか兄様は、いつもの高笑いをして言った。
「ほんのジョークさ。本気にしないでくれたまえ。実は、ある宝貝を預かっていてね。これのおかげかもしれない」
兄様は、懐から小型の何かを取り出した。
待って、それ見覚えがある。
なんか過去の記憶によるとペットの話が分かるとか言う玩具だ。
「これで声無き声を受信できると言っていたが本当だったみたいだね」
なんと宝貝とは、兵器だけじゃなくてそんな物まであるのか!
どういう仕組みなのだろうか?
俺が気になっているのを察したのか、兄様は近づいてその宝貝を見せてくれた。
「そこの画面に受信した言葉がうつるそうだよ」
その画面を見ると文字が流れていくのが見えた。
『筋肉筋肉筋肉筋肉』
『ねるねねるね練る練るね ヒッヒッヒー』
『ごはんごはんごはんごはん』
『さあ戦おうじゃないか』
うん。俺の話が分かる原因は絶対にこの宝貝じゃない!
さっきから俺の声には反応しないし、なんか関係ない電波拾ってるよね!
御姉様達は宝貝の効果と聞いて納得してたけど、これあらかじめ準備していた言い訳だよね?
「そういえば正大。けっこう大きく育ってきたね。竜血の効果が出たのなら苦労したかいが有ったと言うものさ」
いきなり話題をそらしてきたよ。
え?でも、確かに大きくなっているかも。
さっきまで視線は兄様より少し高いかなってぐらいだったのに、今ではだいぶ見下ろしている感じがする。
「ふむ。霊格が高い存在を使えば、成長がもっと早まるかもしれないね。この調子でいくつか試してみよう」
やめてー。
その顔は、次は何を狩って来るか考えるハンターの顔ですよ。
これ以上、恨みを集めるのはやめてー。
「もしくは、徳の高い人間を食べれば力を得られると妖怪の中で噂になっていたな。とりあえず西の地に人類を救済する英知があると流布して、そこに向かう者に試練を課して徳を積ませ、目的地に着いたら料理する方向でいけば、いつか当たりが出るかもしれない」
発想が怖すぎるよ!
それはマジでやめてー。
希望の旅が絶望の終着駅で終わるとか悪夢過ぎる。
しかも、それが俺のせいってなると罪悪感半端ないから。
これはフリじゃないよ。マジでやめてー。
俺は声高に叫び続けるが、聞こえていない御姉様達は当然ながら、兄様もスルーするのだった。
「安心しなよ。正大。崑崙と暗黙の約束もあるから人間の方はジョークさ」
しばらくして、そんな言葉が聞こえてきたが、もう一方の事も有って安心なんてできない。
俺は、さらに恨みを買うのが確定したことに目眩を覚えたが、自己防衛の為に現実逃避をする事にした。
無駄に考えるよりも美人な御姉様達でも眺めていようと。
【独断と偏見と思い込みによるテキトーな紹介コーナー】
・金鰲島とは
仙人界の双璧をなす、一大勢力である。
通天教主をトップに持ち、主に妖怪出身の仙道が中心となって運営。
また、元々が肉食だったり、人間を襲う存在だったりするので、戒律の厳しい崑崙とは違い殺生やなまぐさが禁じられている事はなかったりすると思われる。
この二次では、今の段階では崑崙との暗黙の了解により、所属する妖怪はなるべく人間界に関わらないように指示が出されている為、主に人に害をなしているのは金鰲島に所属していない妖怪である可能性が高い。
そして、原作から2000年も過去なので、まだ未来的な発展はしておらず、まだまだ発展途上である。