もうダメだぁ。
おしまいだ。
え?色々なヤツから恨みを買い過ぎて精神的に参ってしまったかだって?
そんな事はどうでもいい。
やっぱり趙公明に騙されていて妖怪になれなかったかだって?
無事に半妖態にはなれたさ。
俺は、人間で有ったなら訪れる当たり前の事を失念していた。
妖怪には、それが無縁だと思い込んでいた。
そして、俺はもう二度と戻ることの無いあの日々を思いおこす。
「できましたわよ。ドラゴンステーキですわ」
鉄板の上に分厚いステーキから肉とソースの焼ける芳ばしい香りが辺りに広がる。
そのステーキは竜の鱗を見立てた格子状の切れ目が入っており、なるほど見た目がドラゴンを思わせる出来栄えになっていた。
いや、実際に竜の肉だからドラゴンステーキなのだが、そこに雲霄御姉様のこだわりを感じる。
うん。食べたい!
あ、趙公明の野郎普通に食べてやがる。ちょっとそこ代わって!
いえ、代わってください兄様!
俺は、あの時なぜ罪悪感を感じて人間もしくは物が食べられる存在になろうとしなかったのだろうか?
いや、あの時は妖怪になればある程度は人間と同じく自由にできると思い込んでいた節がある。
睡眠の件も含めて最大の失態だ。
そうこう思考しているうちにドラゴンステーキは無くなってしまった。
主に碧霄御姉様の胃袋の中に。
まあ、いつでも腹ペコでしたから、これくらいはすぐに無くなるよねと自分に言い聞かせた。
「次は、竜肉の赤ワイン煮込みですわ。思った以上に柔らかく上品な仕上がりになったと思いますの」
皿の上に盛り付けられた龍肉にナイフを当てると簡単に切り分けられた。
俺は味わえなかったが、趙公明によると口に入れると肉の柔らかさとさっぱりとしたワインの風味が合わさり実にトレビアーンだそうです。
これはなんて地獄?
ちなみに、碧霄御姉様は皿からではなく鍋からむさぼるように食べ尽してらっしゃる。
まあ、いつもの食べっぷりを見ているとこれくらいは軽い軽いと自分に言い聞かせた。
「さらにバリエーションを付けて、ビーフシチューも仕上げてありますわ」
こちらも趙公明によると、濃厚な味が肉の旨みと絡みあい実にブラボーだそうです。
もう……俺の見えない所で食事して貰えません?
今なら視線で人が殺せる気がする。
やっぱり、碧霄御姉様は鍋からいっていた。それはもう食べると言うよりは飲み込む勢いで。
さすがに、こっちの方は見ていて胸やけがしてきた。
「今度は、竜肉をひき肉にしてタマネギと炒めた後に、調味料を入れ煮込んだトマトを加えたミートソースになりますわ。パスタは私の好みアルデンテに仕上げてますの」
マジで勘弁して!
この後も、さらに続々と料理が出た。
どれもこれも食べたかったよ!
雲霄御姉様はあれだけの肉を料理できるだけでも凄いのに、単一の品で終わらせるだけでなく色々な品を作っていたのは凄いどころじゃない気がする。
でも、あの量の料理をだいたい食べていたのは碧霄御姉様だった。
その消費量にはまさに脱帽である。
「いやー、雲霄また料理の腕を上げたね。これはもう君のハートを射止める男が羨ましい限りだよ」
「いやですわお兄様。恥ずかしい」
御姉様は、謙遜しているけど本当にかなりの腕前だと思うよ。
いつか現れるであろう義兄には、御姉様が欲しかったら俺を倒してからにしろを実行しようかと思う。
まあ、兄様は規格外だとしても、御姉様達もかなりの強さだし、あれ……もしかしなくても俺が最弱な可能性が?
うん。妖怪になれたら修行頑張るかな。
ちなみに、今回お土産と言われた竜の俺の取り分は、骨や頭に付いている料理されなかった肉を乾燥させた物。
鱗や骨や牙などを砕いて砂状にした物。
そして、最初に貰った竜血である。
見事に肥料ですね。
食べられる物がよかったよ。
しかも、余った大部分の素材は趙公明の懐に入るのを俺は見た。
お土産じゃなかったのかよ!
しかしならが、またまた御姉様達には、苦労をかけさせてしまった。
骨や鱗のすり潰しやら、肥料をまく為に穴掘りやら、色々とおそらく料理以上に手間をかけている気がする。
あ、兄様?料理を食べたら帰ったよ!
それから、またしばらくして兄様が来た。
「やあ、正大。今回もお土産を持ってきたよ」
デジャヴ?嫌な予感しかしません。
しかし、今回は両手で持ち上げられそうな大きさだね。
そんなに大きくないし大丈夫かな?
いや、ちょっとした大岩くらいはあるから十分に大きいよね。
ちょっと感覚がマヒしてました。
で、今回は何です?
「今回は通天教主様と一緒に太上老君の所に行ったのだけど、暇だったから近くの池で釣をした戦果さ」
そう言ってお馴染になったのか布をはぎ取ると、そこにはマンボウがいた。
なぜにマンボウ?
そもそも太上老君って誰?
「さあ?なぜマンボウなのかは、この僕にも分からないね。あと太上老君は三大仙人と言われており、僕の上司でもあり金鰲島のトップ通天教主様と崑崙山のトップである元始天尊くんと並ぶお方さ」
へー、とりあえず偉い人なのね。
もしくは強い人なのね。
その人がいる近くの池でね。
俺の記憶がたしかならば、マンボウって海にいる魚だよね?
それが近くの池にいたって事は飼われてたってことじゃない?
俺の気のせいだと良いのだけど。
「ちなみに、釣りあげたら、ワテにこんな事してタダで済むと思ってるのかボケって、泡を飛ばして攻撃してきたから、撃退しても別に文句は言われないよね?」
俺は何も聞かなかった。
あー、あー、聞こえない!
その後、御姉様達の手で料理され残った材料は肥料になる。
料理は量が少なかったので碧霄御姉様は物足りなさそうにしていた。その後肥料を見つめていたので心配になったが。
ちなみに俺はなんか凄そうな仙人に恨まれたのではないかと思うと気が重い。
それから、またまた兄様はお土産を持ってきた。
今度のはタカとダチョウかな?
これタカにしては丸っこい感じがするし、あのダチョウっぽいのは某RPGで似たようなのを見た気が?
いや、これ以上はいけない。
どうせ兄様の事だから、何かしら恨みを集める原因になるだろ。
詳しく聞いたら胃が持ちそうにない。
まあ、胃はないんだけどね。
今回の料理はから揚げに始まり、親子丼、チキンカツ丼、焼き鳥、天ぷら、照り焼きと次々と出てくる料理を目が有ったなら血の涙が流れるんじゃないかと思える気持ちで消えていくのを見送った。
碧霄御姉様は、やっぱり物足りなさそうにしていた。質より量なのだろう。
それからも、おそらく恨みを買うだろうお土産を兄様が持ってくる日々が続く。
それらが料理されるのを見て食べられない事を嘆きながらも、与えられた肥料の効果により俺は植物的にグングンと成長していた。
そんな中、妖ゲツだった御姉様達が人化を完璧にされて、晴れて妖怪に格上げされた。
喜ばしいことだ。
うん。喜ばしいことなんだけど……。
「私は、長女ビーナス!」
「私は、次女クイーン!」
「そしてこの娘が三女マドンナ!」
「「三人揃って、セクシータレント集団雲霄三姉妹」」
まさに爆撃を受けたような衝撃が走る。
清楚系美人だった雲霄御姉様は、体全体が筋肉質になりこんがりと焼いたかのような褐色の肌になった。
極めつけは、整っていた顔立ちが今では堀が深くなり、控えめに言ってゴリラ・悪く言えばオッサンに。
幼い可愛い系だった瓊霄御姉様は、シワがより鼻はトンガリまるでおとぎ話に出てくる悪い魔女を思わせる風貌に変わり果てた。
ダイナマイトボディな碧霄御姉様は、その体型を崩しすっかりトドのような体型に。
どこもかしこも脂肪でパンパンになり、首のまわりも脂肪で段差ができるくらいにたるんでいる。
そして、最近ハマったのか常にお菓子を食べ続け、人化したというのに前より理性がなくなり、より食欲を満たす権化となった。
全俺が泣いた。
これは泣いて良いと思う。
声まで変わってるし。
変わってしまった御姉様達は、変わらず良い人である。
挨拶も、水やりも、たまに兄様が持ってくるお土産を料理するのも肥料にするのも、前と変わらなかった。
その事実が俺をさらに悲しみで胸を痛めつける。
せめて、コミュニケーションをもっと早く取れるようになれば、このような事態は防げたのではないかと日々嘆く。
そうだ、しゃべれるようになったら説得しよう!
そんな微かな希望を支えに、俺はついに半妖態になれるまでに成長した。
兄様や御姉様達が心から祝ってくれて嬉しかった。
それでも、俺はさっそく説得を始める。
やんわりとそれとなく伝えてみた。
御姉様達が良い人過ぎて、さすがに化物だから以前のような姿が良いとは言えなかった。
「まあ、正大。乙女に
ここまで言われてしまえば、俺は説得を諦めざるおえない。
そして事の始まりに戻る。
さてと、ある程度嘆いたら踏ん切りがついたよ。
さよなら、雲霄御姉様、瓊霄御姉様、碧霄御姉様。
そして、これからもよろしく、ビーナス姉様、クイーン姉様、マドンナ姉様。
そんな感傷にひたる俺をよそに兄様は言った。
「正大。済まないが、通天教主様に龍脈の無断使用の事を咎められてしまってね。罰しない代わりに、君に指令があるそうだ。どうやら意図的に作られた半妖体の力に興味があるようだね」
実にアンニュイだと呟く兄様だが、それは俺のセリフだ。
そして新たな厄介事の予感に目眩や頭痛が抑えられなかった。
【独断と偏見と思い込みによるテキトーな紹介コーナー】
・雲霄三姉妹完全体とは
それぞれの美意識により、究極の美を追求した姿である。
はっきり言って凄く強そう。
アニメ仙界伝→児童書版の原作の原作→原作(藤崎竜)の流れで読んだ解説主は、その登場シーンに凄い衝撃を受けたのは記憶に新しい。
美人だと思っていたのに、美人だと思っていたのに(大事なことなので二回言った)
この二次では、オリ主の心を折った存在である。
しかし、今まで受けた恩もあり、オリ主にとって大切な家族であり、大事な人達でもある事から、けっこう早く立ち直った。