地図の通りに進むと迷うことなく談話室と書かれた扉の前についた。
兄様の地図は普段の滅茶苦茶さからは想像できないほど分かりやすく、別の人物が描いた物じゃないかと、実際に描いている所を見ていなかったら疑っていただろう。
本当に想像できないが、この地図を見て分かる通り仕事は丁寧なのかもしれない。
だからこそ重宝されてるし、多少の勝手は多めにみられてるのかと想像してしまう。
もちろん、単純に力で黙らせている可能性もあるが。
うん。扉の前でこんな思考を繰り返しているのは緊張しているからだ。
談話室って言うくらいだから複数人いるだろうし、もちろんグループも形成しているだろう。
そんな中に割って入るとか難易度高すぎですよ。
とりあえず、ソロの人がいる事を願おう。
意を決して扉を開けるが思いのほか静かだ。
あれ?もしかして誰もいない?
俺の緊張と決意を返して。
「おや?この時間に人が来るのは珍しい。もしや新顔かね?」
い、いきなり話しかけられてしまった。
緊張の糸が緩んだせいで、会話の準備ができていなかった俺は焦る。
と、兎に角なにか答えなければ。
「ふむ。緊張しているようだね。金鰲島へようこそ。私は張紹。よろしく頼むよ」
そう言って自己紹介をしてきた人物はとても特徴的だった。
まず、キツネのような能面の被り物をしており、その後頭部からはトカゲの尻尾のようなものが後ろ髪のごとく垂れ下がっている。
そして、なにより足よりも長い手で立っていた。
もう一度言うと、とても長い手で体をささえている。
姿勢はなぜか体育座りだ。
もちろん地面には接していない。
第一印象はとても疲れそうな体勢だと思った。
これはきっと何かの修行なんだろう。
触れないことにした。
「ああ、はじめまして。たぶん金鰲に所属する事になる趙正大です」
うん。無難に挨拶できたと思う。
「ほう。噂に聞く趙公明様の弟だね?」
あ、しまった。
素直に名乗ったのは失敗だったかも。
俺はいじめられるかもしれないから、武勇伝を作る必要が有った訳で、それを作る前に趙公明の弟と知られるのは不味いかもしれない。
「そう心配しなくてもいい。確かに妖怪は残酷かもしれないが、私は仲間には寛容だ(何事にも限度はあるがね)」
笑いながら張紹は、自分のスタンスを教えてくれた。
最後に小声で言った事から、誰かさんは限度を超えていることが察せるが、聞こえないし想像もできなかった事にして欲しい。
「ありがとう。とても助かるよ。それにしても、ここは談話室だと聞いたのだけど、今は人がいないのはどうしてかな?」
とりあえず適当に会話をしながら、色々と教えて貰うことにしよう。
「それはだね。今の金鰲の体制に関係がある」
そう言って張紹は軽く説明してくれた。
簡単にまとめると、今の金鰲島は、トップの社長(通天教主)と副社長(趙公明)が主体となっていて、その下に基礎部門・宝貝部門・術部門の三つに分かれており、彼の担当する術部門は宝貝の出現により廃れて人気がないらしく、今は宝貝部門の時間だから人がいないそうだ。
「何より宝貝部門の担当は美人だからね」
「なるほど。それは人がいない訳だ」
「正直なものだね。まあ、一人の時間は嫌いじゃないから構わないが」
「おっと、それじゃあ、邪魔しちゃったかな?」
「気にすることはない。私はおしゃべりも好きなのだよ」
話した感じ、とてもまともに感じる。
見た感じ妖怪だけど、とても話しやすい。
今まで話した中でダントツに。
よし、とりあえず、この人に相談してみよう。
「七怪って知ってる?」
「ああ、噂程度でなら。確か、最大勢力である猿が一部龍脈を奪われた事で均衡が破れ戦乱になる恐れがあると聞いているね。また別の噂だが龍脈を奪った存在が強大な為、一致団結をしてその脅威を取り除こうという動きもあるとかも」
あ、自分が知らない内に臨界状態でした。
とりあえず、後者だと困ったことになるが、前者なら各個撃破の目が出てきたな。
どうか前者でありますように。
しかし、兄様より詳しい情報ありがとうございます。
おしゃべりが好きなのは本当かもしれない。
「ちょっと訳あって、単独で七怪を攻略しなくちゃならなくなったんだけど、張紹さんなら出来そう?」
「呼び捨てで構わないね。こちらも趙正大と呼ばせて貰う。しかし、単独の攻略とはまた面倒な。なりふり構わなければ可能そうだが、土地や龍脈を破壊してしまいそうだ。それと出し惜しみも出来ないから終わったとしても消耗しきっているはず。そのため迎えに来る仲間の存在が必要になるだろうね」
張紹さんは普通に金鰲の上位陣だったよ。
うん。とりあえず、心の中では張紹さんと呼ぶことにしよう。
さすが術部門を任されている人だ。
となると、他の部門も上位陣が担当しているのか。
あと、最低でも二人いるって事だよね?
しかし、龍脈を破壊か。
思い返してみると、兄様はしっかり力を制御していた事が分かった。
あの惨状でも地形の表面が削れてるだけだったから、龍脈に影響が出ないようにしてたのね。
意外と仕事は細やかな可能性が出てきて驚く限りです。
しかし、術か。
まあ無理かもしれないけど聞いてみよう。
「あー、その攻略には術を使ってるんだよね?俺にも使えそうかな?」
「術を使うには才能と努力が必要になるから、なんとも言えないね。むしろ適性が無いと使えない者の方が多いくらいだ」
「やっぱりか」
思った通りの答えが返ってきたが、少し期待してたのかガッカリしている自分がいる。
そんな俺を見て、何を思ったのか張紹さんは言った。
「ふむ。使えるようになるかは分からないが少しだけ講義をしよう」
「ぜひお願いします」
藁をも掴む勢いでお願いした。
「まず始めに、私の得意とする術を見せよう」
すると張紹さんの懐から砂がこぼれてきたかと思うと、それが人型となり動きだした。
「何かを操作する術だ。おそらく術使いのほとんどがこれであろう。他にもエネルギーを放出するもの、炎や氷をさらには物質を作り出すもの、水を酒や酸に変化させるもの、自身を強化したり他者の傷をなおすものと様々である」
その間にも、砂は色々と形作り崩れては風に舞い、渦を作ったり砂の波をおこしたりと見ていて楽しかった。
「まあ、私は相性の関係もあって砂を操作する術しか使えないが、他の術も一応知っているので発現させる手助けはできる。しかし、適正が有っても、ほとんどのものが実用レベルに到らないことが多い。それが廃れる原因なのだろう」
そう言った張紹さんは少し悲し気だった。
「少し悲観的だったね。気を取り直して次に行こう。趙正大は見るからに植物系だから、植物を操作できるかもしれない。何か身に覚えはないか?」
そういえば、植物時代に自分の根っことは言え動かした事があった気がする。
あれ、凄く疲れたのだけど、術の一端だったのかな?
「その様子だと、身に覚えがあるようだね。それなら可能性はあるだろう。何か植物は持ってないかね?」
そういえば一応くれるって言っていたから貰った、すりこぎ棒が有ったな。
懐から、一回頑丈な妖怪を殴ったら壊れてしまいそうな、すりこぎ棒を取り出す。
「それにエネルギーを送り込み支配するイメージをしてみろ。そして、曲がれと念じてみるのだ」
まっがれー。
曲がった!
でも、たったこれだけでかなり疲れたよ。
そりゃあ、こんなに消耗して結果がこれだけなら人気はないよね。
「ふむ。無事に支配できたようだね。才能はあるようだ。この調子で操作して、伸ばしたり縮めたり固くしたりと普通ではあり得ない現象を引き起こせるようになれば術としては完成だね。あと、たぶん他の植物が動かせるなら、自分自身はもっと簡単に動かせることだろう。この事は覚えておいた方が良い」
「ありがとう。自分に出来る事が知れてとても助かった。本当に何も手札が無かったから」
「ちなみに、私なら七怪を攻略するに当たって自分が支配する砂で陣地を形成するね。大々的に砂が準備できるなら津波のように飲み込むのが楽だろうが現実的ではないし。まあ、出来る事を可能な限り準備するのだよ」
術について教えてくれただけでなく、的確なアドバイスまでくれるなんて張紹さんマジ良い人。
あんな役に立たない兄様に振り回されて鳴り物入りで金鰲に来るよりは、一般から入って地道に張紹さんとかに指導して貰った方が楽しかったのではないかと想像してしまった。
ちょっと涙が出たのは触れないで欲しい。
「本当に助かったよ。無事に試練を突破できたら、一杯やりましょう。兄様に良い酒を用意させるので」
「それは楽しみにしているよ。無事を祈ろう」
うん。それに張紹さんは、その体勢でどうやって酒を飲むのか気になりますし、こちらとしても楽しみであります。
「ちなみに、私はおしゃべりなので、この場で知り得た事は他でしゃべっている可能があると思って欲しい。酒盛りをするなら、あらかじめ注意しておこう」
あ、この人に何でもかんでも話すのは危険かもしれない。
忠告はしっかりと覚えておこう。
それと、その口ぶりだと酒盛りに他の人が来るかもしれない。
とりあえず、兄様にたくさん酒をたかろうと、少し頭痛を感じながら決意した。