あれから時間が経ち、俺が基地にきてもう半年というところだろうかすっかり寒さはおさまり過ごしやすい季節となっていた。
だが、そうも余裕ではいられない状態だ。ガリアのパリは陥落し、カールスラントもネウロイの猛攻を受け撤退を開始したようだ。当然オラーシャも安全ではなく、市民のオラーシャ脱出も始まろうとしており、ここ数週間はこの基地でも多くの出撃があった。
「また警報か!」
「ネウロイ出現、数は...すみません不特定多数と思われます。」
「チッ、最近また増え始めやがったな...。」
「どうするんですか、少佐。」
「もうここも危ないかもしれないな...皆、撤退の準備はしておけ。」
少佐から撤退を覚悟するよう言われる。
「そ、そんな!私たちまだ戦えます。」
「そうです、私たちならまだ...。」
「いいか、まだ今回は数が少ない方だと思え。だが、いつか...またいつかと言っていればそのいつかに我々は包囲され全滅だ。聞いただろう?パリは陥落し、カールスラントも撤退を余儀なくされた。今度はおそらく我々の番だろう。このまま包囲されるのも時間の問題だ。」
「わ...わかりました。」
「では、私たちはどのようにすれば...?」
「シャフノフスキー大尉、必要な書類と私の私物も荷台に積んでおけ。お前らも必要なものは全てブリタニアに送り我々はこの戦線をなんとしても守り抜く。訓練生はひとまず先にブリタニアへ向かえ、この数ではお前らは足手まといでしかない。いいな?」
こうして準備が始まり、他基地のオラーシャウィッチ達も戦闘に参加。本格的な撤退戦が始まった。
「遅いぞ、大尉。」
「申し訳ありません、訓練生たちの誘導などで時間を使ってしまいました。」
「ふん、お前らしいな...。さて、今回でどれだけスコアが稼げるかな。」
「数が多いですね...。これは少しばかりまずいかも。」
「お前にしては弱気だな?」
「そりゃ、撤退させられるんですもん。流石に悔しいですよ。」
「っ!?小型ネウロイが一斉に。」
「この数は流石に厳しいんじゃないですか?」
その時であった。
「少佐ばかりずるいですよ。」
「私達にも戦果稼がせてくださいな。」
「っしゃ、撤退記念だ。スコア稼いでやるか。」
「もう、何を呑気なこと言ってんのリーシャ。私達の状況わかってんの?」
「悪い悪い、でも大暴れできると思うとついな。」
「ったく、こりゃ流石にねぇ。ついにオラーシャもこうなるなんて、祖国が心配だなぁ。」
「なら、帰っていいんだぞ?ディアス中尉。」
「遠慮しときます、乗りかかった船ですし。」
「ふん、ならばいくか。シャフノフスキー大尉、エリン少尉、ツィルコフスキー少尉はいつも通りフォーメーションを組みネウロイを遊撃、ディアス中尉とキルシェンコ中尉は後方から援護射撃、くれぐれも誤射はするなよ?そしてラクスマン曹長は私とともに撤退中の部隊の護衛を。」
「ですが、隊長まで行く必要は...。」
「いいか、偉いから、強いから前線で戦い続ける必要などない。その時に必要であるかどうかなのだ。そして、部下を持つ以上その部下を信頼し、そして弱き者を守るのが隊長である私の最大の役割だ。そしてお前のシールドを頼りにしているからこそ私はお前と同行するのだ。わかったか?」
「はい!必ずお役にたちます。」
「お前ら、頼んだぞ。そしてブリタニアで会おう。くれぐれもあの世で再会なんてやめてくれよ。」
「了解。さて...いきますか、フォーメーション・デルタブリザード!」
「ねえキルシェンコ中尉。」
「ん...?何?」
「私と勝負しない?どっちが最強の狙撃ウィッチか。」
「別にどっちが強いかなんて...。」
「いいから、私は曖昧なのが大嫌いなの。勝負よ!」
「ん...わかった。久しぶりに本気、出すか。」
一方、俺を含んだ撤退組は。
「大丈夫かな、私達。」
「まさかここも陥落するなんて...。」
「ペテルブルグ方面はもう撤退が完了したらしいよ。」
「そんな、それじゃあここもそろそろ...。」
こりゃ流石に雰囲気まずいかな。
「まあまあ、僕達にはあのオラーシャの氷帝とその他優秀な部下達がいるんだから無事に撤退できるって。」
「そ、そうよね...少佐がいるからきっと。」
「そうだよ。私たちなら大丈夫だよ。」
なんとかこのムードからは脱出できた。あとは運に頼るだけだ。
「サーニャ、少しばかり話でもしないか?」
「うん...。」
「ちっとは肩の力抜きなさいな、張りつめすぎてもいいことは無いぞ。」
「ん...。」
「そうそう、そんな感じ。いいか、サーニャ。今からすごく大事なことを言う。これは多分、君のこれからに役立つことだと思う。いわゆる人生の先輩からの助言みたいなものだ。」
「わかった。」
「これから君は他の部隊に配属され、そして多分ここにいる皆とはバラバラになるかもしれない。でもね、そんな時でも、君のことをずっと頼りにしてくれて、または君のことを大切に思ってくれる人が現れるかもしれない。そういう人を大切にしてあげなさい。だけど、そういう人ともずっと上手くいくとは限らない。時に衝突することだってある、でもそういう時こそ正面から向き合ってあげなさい。そうしなければわからないこともあるし、進まないことだってある。だから、そんなすぐにわかりあえなくてもいい、ちょっとずつでいい。そういう人を大切にしなさい。」
「いる、かな...。そういう人。」
「いるよ、きっとね。君は優しい人間だ、だからこそそういう人に惹かれる人はきっと現れる。僕が言うんだ、間違いないさ。」
「ん、ありがとう。」
「それと、常に考えることを忘れないこと。例えばその場の雰囲気に流されることだってあるかもしれない。でも,そういうときこそ冷静に考え、何が正しいのかを考え続けることだ。きっとそれは正しい方向へ君を導く。」
「わかった。」
「そっか、よしよし。んで、避難先はどうすんだ?皆ブリタニア行きらしいけど。」
「私は...両親の疎開先の基地に行こうと思う。」
「そっか、そん時は両親によろしく言っといてくれ。一度会ってみたいしさ。」
「うん、わかった。」
サーニャは笑顔で頷く。このまま何も無ければいいんだがな。そんな時だった。
「まさか、ネウロイか!」
「おいおい、こんな時に!」