ワンダリング・テンペスト   作:負け狐

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どこまで好き勝手やっても許されるかのチキンレース


暴風雨警報/奴らの名は!!
その1


 ガタンゴトン、と馬車は揺れる。荷物を運んでいる商人達はそろそろだと緊張を高め、準備をお願いしますと背後に声を掛けた。

 その言葉に反応したのはポニーテールの少女。ん、と短く返事をすると顔を覆っていた帽子をどけくるりと回した。ついで、その横で読書をしているもう一人へと目を向ける。こんな状態でよく酔わないな、と毎度のことながら思いつつ、彼女はそのもう一人の名を呼んだ。

 

「アン、そういうわけらしいですよ」

「ええ、存じておりますわフラン」

 

 パタンと本を閉じる。傍らにおいてあったカバンにそれを仕舞うと、ようやくですかと体を伸ばした。その拍子に彼女の豊満な胸が振動も合わさり大きく揺れる。ち、と盛大に舌打ちしたフランは、立てかけてあった己の得物を手に取った。

 

「相棒、やっかみはよくねぇぞ」

「うっさいデルフ」

 

 というか今のお前は杖なんだから喋るな。そう言って睨んだフランは、はいはいと沈黙する大剣から視線を再度アンに向ける。クスクスと笑いながら、左右の腰に己の得物である短めの剣杖を付けているところであった。

 さて、とアンは笑う。笑う、と言ったがその表情が本来どんなものであるかはよく分からない。美しい髪とハリのある肌が美人であることを証明してはいるが、その顔自体は上半分が仮面で隠されているのだから。その異様さがまた彼女の美しさを強調しているかのようにも思えた。

 そのまま馬車は進む。準備はしたものの、しかし出番はいつまで経ってもやってこない。どうやら今回は杞憂に終わるのではないかとフランが軽く溜息を吐いた。

 

「まあ、楽な仕事だったと思えば」

「ええ。それに、商人を狙う輩がいなくなったということは、トリステインの治世が上手く行っている証拠。素晴らしいことではないですか」

 

 はいはい、とフランはアンのその言葉を流した。まあでも一応同意だけはしておいてやろうか。そんなことも同時に考えた。

 が、その刹那怒号と悲鳴が響き、二人へと救援の要請が入る。

 

「治世、上手く行ってないみたいですね」

「……ふう。帰ったら騎士団の給金を下げます。グリフォン隊辺りを」

「やめてやってください。ワルド子爵が部下と大臣の板挟みで泣きそうになってました」

「子爵ならエレオノールさんに泣き付けば解決ではないですか」

「そのしわ寄せはこっちにきますよ。最近姉さま仕事忙しいらしいですから。『誰かさん』のせいで」

 

 暫しの沈黙。なら仕方ないですね、と溜息とともに言葉を発したアンは、とりあえず目の前の問題を解決しようと立ち上がった。

 同じように立ち上がったフランは、帽子をカバンに引っ掛けるとジロリと隣の少女を睨む。大体、と呆れたように口を開く。

 

「こういう仕事を残すために敢えて適当な野盗を野放しにしている姫さまが文句を言える筋合いはないです」

「あら? わたくしはアンゼリカ。ただのしがない傭兵メイジですわよ。ねえ、ルイズ」

「……誰ですか? わたしはフラン、これといって特徴のない傭兵メイジのフランドールです」

「ええ、そうねフラン」

「そうですよアン」

 

 そう言ってお互いに顔を見合わせて笑うと、二人は足に力を込め馬車から外へと飛び出した。その動きはとても見目麗しく若い少女のものとは思えず。例えるならばさながら風。商人にとっては救いの、野盗達にとっては絶望を呼び込む風である。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 トリステインのアカデミーの一室。そこで来客の対応をしている女性は呆れたように溜息を吐いた。

 ピンクブロンドの少女は苦笑を浮かべつつ、しかし若干腰が引けている。対するもう一人、簡素ではあるが最高級の気品を纏ったその姿はどう考えてもこんな場所でのんびりと紅茶を飲んでいていい人物ではなかった。

 

「それで、今回は何の御用でしょう」

 

 美しい金髪のその女性は、眼鏡をくいと指で上げながらピンクブロンドではなく気品あふれる少女の方へと問い掛ける。ほっと一息吐いたピンクブロンドの少女の方には、何を安心しているという視線をギロリと向けた。

 

「で、ででででも姉さま、今回わたしはぶっちゃけ関係ないというか」

「明日のあなたの魔法学院入学についての話でしょう?」

「え?」

 

 マジで、と言う表情で隣の少女を見やる。すました顔で紅茶を口にしている姿が見えたので、彼女は思わず中指を立てた。

 

「おちび」

「ひゃい!? ごめんなさい」

 

 底冷えするような声を聞き、少女は姿勢を正し謝罪をしながら前を見る。彼女の姉が真っ直ぐに見詰める中、これは死んだんじゃないかと心の中で自身の人生に諦めをつけた。

 

「……『フラン』と『アン』ならば、今のやり取りはまあ、良しとしましょう。でもね、今のあなたは何?」

「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」

「そうね。では、隣の方は?」

「アンリエッタ・ド・トリステイン姫殿下です」

 

 ふう、と彼女は息を吐いた。愚妹が失礼致しましたと頭を下げ、空になっていたカップにお茶のお代わりを注ぐ。

 

「わたくしは気にしませんわ。そもそも、いつものやり取りではないですか。エレオノールさんも重々承知でしょう?」

「これまでは、それでも見逃されたでしょう。ですが明日からルイズは魔法学院の生徒。そのような態度では学院の品位、しいてはトリステイン全体の品格の下落に繋がります」

「固いですのね」

「そうでなければ、あなた達はどこまでも暴走しますから」

 

 ふ、と苦笑したエレオノールは、話を元に戻しましょうと二人の対面の椅子に座る。

 先程述べたように、明日はルイズの入学式である。その後学院に慣れるという名目の三日間の後、本格的に授業が始まるのだ。

 それの一体何が問題なのだ、とルイズは首を傾げる。別に自身は成績に問題を抱えているつもりはない。名目上は風のトライアングルということになっているからだ。

 

「おちび。学院はね、魔法や知識を学ぶだけじゃないの」

「? そうですね」

「エレオノールさん。ルイズにそんな遠回しは通用しませんわ」

「分かってるわよ、姫殿下よりもこいつを見ているのだもの」

 

 何だかよく分からないが自分は馬鹿にされている。そうルイズは理解したが、しかし一体全体何をもって貶されたのかが不明である。ヴァリエール公爵家の三女として育てられた彼女は、当然のごとくそれにふさわしい教育をされてきた。両親と眼の前にいる長姉であるエレオノールと、病弱なため魔法が殆ど使えないが誰よりも優しく美しい次姉を筆頭に領内の様々な者達に囲まれ、彼女はのびのびと育った。そこに彼女自身何も問題など見当たらない。

 だが、その、のびのび、というのが目下エレオノールの問題としているところであった。そして領内の様々な人物に囲まれていたのが大問題であった。

 

「ルイズ」

「はい」

「学院は貴族の作法と社交を学ぶ場でもあるわ」

「そうですね」

 

 こめかみを押さえる。こいつ分かってて言ってんじゃねぇだろうなという思いを飲み込み、エレオノールは溜息へと変えた。

 

「あなたは自分が貴族としての作法や社交が出来ているとでも?」

「出来てませんか?」

「出来てないから今こうやって問題にしているんでしょうがぁ!」

 

 吠えた。思わず後ずさったルイズは椅子の背もたれとぶつかりバランスを崩す。危ない、と咄嗟に横にあったデルフリンガーを支えにしてバランスを取った。百歩譲って杖は良いけどつっかえ棒は違うだろ、という文句は聞かなかったことにした。

 

「自身の主君に中指おっ立てる奴のどこに作法や社交が出来ているというのよ! 図書館で作法と社交の意味でも調べてきなさい!」

「ご、ごごごごめんなさい姉さま! でも意味は調べなくても分かってます」

「あのねルイズ。貴女はそれほどまでに出来ていない、という皮肉なのよ」

 

 ゼーゼーと肩で息をしながらエレオノールはアンリエッタの言葉に首を縦に振る。がぁんとショックを受けたルイズを尻目に、さてどうするかと二人は顔を見合わせた。

 正直に言ってしまえば、親しい相手か頭に血が上ることさえなければ問題はないのだ。そうでなければとっくに母親がしばき倒している。

 だが、その条件が非常に厄介であった。何しろこのルイズ、烈風カリンの再来とまことしやかにヴァリエール領内で囁かれているほどなのだ。性格的な意味で、である。頭に血が上りやすく、割と簡単に親しい相手だと認定し懐に入れてしまうのである。その上父親であるヴァリエール公爵に似て一度掴んだ手は離さないときた。

 

「ルイズ。学院では貴族と平民がいるわ」

「公爵領もそうでしたけど」

「あなたにとって公爵領の者は貴族とか平民とか半不老不死とか吸血鬼とかエルフとか魔道具とか関係なく『家族』とか『領民』でしょう?」

「姉さまは違うんですか」

「そうだけど、今はそこじゃないの。学院ではそうではなく、『貴族』と『平民』に分けられているの」

 

 皆が皆、大雑把に見てしまえば同じ位置にいるわけではない。そう言ってエレオノールはルイズを見た。分かってはいるが、腑に落ちない。そんな表情をしている妹を見て、彼女は困ったようにそんな妹の頭をくしゃりと撫でた。

 

「言ってしまえば仕事上の立場のようなものよ。領民だってその区別はあるでしょう?」

「……はい」

「そのことを踏まえれば、さっきの姫殿下への態度についても自ずと分かってもらえると思うのだけれど」

 

 成程、とルイズは頷く。今までのヴァリエール公爵領とは立場が違う、というのはそういう意味合いか。分かりましたと返事をしたルイズを見て、エレオノールはやれやれと肩を竦めた。本質的には聡い娘だ、納得と理解は容易にしてくれる。

 とはいえ、分かっていても実践できるかどうかはまた別である。そういうわけだから、とエレオノールは再度ルイズを真っ直ぐと見た。

 

「付け焼き刃だけれど、ここでもう一度、叩き込むわ」

 

 

 

 

 

 

 トリステイン魔法学院の入学式。そこで船を漕いでいるピンクブロンドの少女の姿があった。その二つ隣では退屈そうに欠伸をしている赤毛の少女の姿もある。そんな二人に挟まれた青髪の少女は、我関せずと本を読んでいた。

 ちらり、と赤毛の少女は隣を見る。他の生徒達は大小あれど緊張している面持ちであるが、横の二人はどうもそうではないらしいということに気付いたのだ。まずは読書をしている小柄な眼鏡の少女を見て、何を読んでいるのと声を掛けた。当然のごとく無視をされたので、少しだけムッとした表情で本を取り上げ中身を眺めた。

 何だこりゃ、と顔を顰めた彼女は、興味を失ったのか少女に邪魔したわねと述べ本を返す。何だったんだこいつ、という目で彼女を見る眼鏡の少女を気にすることなく、彼女はもう一つ隣のピンクブロンドの少女を見やった。

 

「よく寝てるわねぇ」

 

 つんつん、と頬を触っても起きる気配のないその少女を見てニンマリと笑みを浮かべた彼女は、段々とちょっかいがエスカレートしていく。最初は指であったが、それが杖に変わり、そして魔法になっていった。

 自身を挟んでそんなことをされては眼鏡の少女も正直鬱陶しいと思っておかしくはない。立ち上がると半ば強引に彼女と席を入れ替えた。案外強引な娘なのね、と赤毛の少女はほんの少しだけ眼鏡の少女の評価を修正し、まあいいやとちょっかいを再開する。しようとした。

 

「……」

「あ、起きた?」

「……ええ、おかげさまで」

 

 ジト目でこちらを睨むピンクブロンドの少女を見て、しかし悪びれることなく赤毛の少女は声を掛ける。無理矢理起こされたことであからさまに不機嫌であった彼女は、そんな少女にぶっきらぼうな返事をした。

 

「あらあら、トリステインはもっと礼節を弁える方だと聞いていたけれど、そうでもないのねぇ」

「そういうあなたも、寝ている相手にちょっかいをかけるだなんて、随分な礼節を持っているようね」

「こんな場所で寝ているのが悪いのではなくて?」

 

 うぐ、と少女は呻く。だってしょうがないじゃないかと小声で呟いた。昨日のスパルタ教育が悪いのだ。姫さまもエレオノール姉さまも無茶苦茶やりやがって。ぶつぶつと何だか危ないことを言い始めたのを聞いた赤毛の少女は、ここは一旦引こうと話を打ち切った。

 そんなやり取りを遠目で見ていた一人の男子生徒は、ふうと安堵の息を吐いた。良かった、入学式で暴力沙汰は免れた。そんなことを考えながら胸を撫で下ろす。

 

「どうしたのよギーシュ」

「ん? ああ、モンモランシー。いや、ちょっとね」

 

 そう言ってくいと指を差す。その方向を見たモンモランシーは、大分酷い顔をしているピンクブロンドの少女を見て顔を引き攣らせた。腰に差しているのが普通の杖なのを確認し、とりあえず最悪は免れるかと息を吐く。

 

「それで? 逃げる準備かしら?」

「いや、とりあえずは大丈夫だと思うよ。あそこの赤毛の彼女は引き下がったみたいだし」

 

 これ以上あの膨らんだ風船を刺激するような輩がいない限りは問題ないだろう。そんなことを続けながらギーシュはモンモランシーへと視線を向けた。そんなことより、と隣の彼女に笑顔を見せた。

 

「これからは毎日君の顔を見られるというのは、幸せだな」

「何言ってるのよ、バカ」

「本心さ。君の顔をこうして、平和に眺めることが出来る。幸せだ」

 

 ザザッと脳裏にピンクブロンドのポニーテールと仮面の美女に連れられる光景を思い出し、いかんいかんと頭を振った。今日から自分は学院の生徒、あんな騒動に巻き込まれる訳にはいかないのだ。

 

「ギーシュ? 顔色悪いわよ?」

「大丈夫、心配いらないさ。……多分、きっと」

 

 出来れば厄介事は二人だけで片付けてくれ。切にそう願いながら、ギーシュは隣にいる幼馴染から、もう一度船を漕ぎ始めるもう一人の幼馴染へと視線を向けた。

 彼の心配するようなことはこの後には起こらず、入学式は無事終了した。ただ、各々の抱いた感想は、決して平和なものではなかったであろうことを記していく。




目標は原作沿い(棒読み)

『原作沿い にしたい』とかいうタグがあったら付けようかな、ネタで
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