ワンダリング・テンペスト   作:負け狐

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自由騎士(ワンダリング)()暴風雨(テンペスト)が揃ったのでこの物語でのちちくらべwithティファニア

アトレシア(ビオランテ状態)>テファ>アトレシア(疑似餌)>アンリエッタ>『地下水』(ボディ)>十号≧カレンデュラ>モンモランシー>エルザ≧ルイズ>『地下水』(ナイフ)


その3

 ヴァリエール領とその領内の一部を切り取り作られたフォンティーヌ領。その境界に建っている一軒の診療所に、モンモランシーはやってきていた。仕事も終わった、ということでおさげを縦ロールに戻し、前髪で隠していた目を顕にし、マリーゴールドから元に戻ったのである。

 こんにちは、と診療所の扉を開ける。訪れている者は丁度いなかったらしく、中には人が見当たらなかった。

 

「あら? ……留守かしら?」

「たまたまだ」

 

 モンモランシーの呟きに部屋の奥から男性の声が届く。最近皆が健康でいいことだが、と続けながら、その声の主はゆっくりとこちらに歩いてきていた。

 のそり、と巨体が現れる。成人男性を優に超えるその体躯をもったその人影は、フードで覆った頭を掻きながらモンモランシーを見て笑った。よくきたな、と微笑んだ。

 

「それで、どうしたのかね? 確か今日はティファニア嬢をエルフと会わせるのだとか聞いていたが」

「公爵の城に辿り着いたので、もうわたしの出番は終わったと思って」

 

 ふむ、とフードの男性は少し考え込む仕草を取る。まあいいかと呟くと、彼は改めて用事を聞いた。

 これです、とモンモランシーは手に持っていたカバンを机に置く。それを開くと、中から出てきたのは薬草を主とした様々な触媒。一見しただけでは良くわからないそれを見た男性は、しかし成程と納得したように頷いた。

 

「いいだろう。こちらの部屋を使いなさい」

「ありがとうございますラルカスさん」

「気にするな。それより、何故そんなに大量に材料を?」

「……何か、最近消費が激しくて……」

「ヴァリエール領は平和なものだが、他はそんなに死人が出るのかね」

 

 彼女が作ろうとしているものは、被害者の状況や術者の力量にもよるが死にたてほやほや程度ならば呼び戻す効能を持った秘薬である。始祖ブリミルを祀る宗教国家ロマリア辺りが見れば間違いなく異端認定であろうそれを躊躇うことなく大量生産しようとしているモンモランシーを見たラルカスは、ほんの少しだけ怪訝な表情で問い掛けた。それがそこまで必要な状況というのはそう多くはない。

 そして真っ先に思いつくのは、戦争だ。それも、国同士でぶつかり合う規模のもの。

 

「いや、そんな大した理由じゃないんです。あー、でも何だか厄介事に首を突っ込んでいるのは確かなのかしら……」

「まあルイズ嬢やアンリエッタ姫殿下と共に行動していては嫌でもそうなるだろう」

 

 はっはっは、と笑うラルカスをジロリと睨みつけたモンモランシーは、笑い事じゃないですから、と全力で抗議の声を上げた。今回の話も一歩間違えばかなり酷いことになるのは間違いないのだから。

 

「今のところは大丈夫なのかね?」

「……作ったら、戻ります」

「大丈夫ではないのだな……」

 

 即使うことにならなくてはいいがな、というラルカスの言葉を聞き、モンモランシーは猛烈に嫌な予感を覚えつつ、それでも当たり前ですと返した。

 

 

 

 

 

 

「ルイズ!」

 

 扉の開く音に反応しそちらを振り向いた少女は、ルイズを見て顔を輝かせた。わぁ、と立ち上がり彼女の下へと駆けていく。

 立ち上がる時と走る時、彼女の胸部は物凄く上下に揺れていた。敢えて言うならば、ばるんばるんである。

 

「大げさね。まだちょっとしか経ってないじゃない」

「三ヶ月も経ってるわ! それまではしょっちゅう会ってたのに」

「はいはい。って、そうか。もう三ヶ月経ってたんだ……」

 

 サイトもあんな反応なわけだ。そんなことを思いながら頬を掻いたルイズは、まあそれはそれとして、と視線を隣にいるビダーシャルへと向けた。彼女が例のエルフとマギ族の娘である。そう伝えようとしたのだ。

 ビダーシャルは二人を見て思わず動きを止めていた。ハーフとはいえエルフの娘と、エルフを恐れあるいは嫌っているマギ族の貴族の娘が、ここまで親しげに接せられるものなのか。そんなことを思い、彼の中の価値観の修正とこれからの展望を思い浮かべたのだ。

 

「ミスタ・ビダーシャル?」

「ああ、すまない」

 

 ルイズの言葉に我に返った彼は、ティファニアにネフテスのビダーシャルだと名乗り、今回の訪問の理由を述べる。そうしながら、件のもう一人の姿を探した。

 ティファニアが先程まで座っていたテーブル席で、二人の女性がこちらを見て微笑んでいる。一人は隣にいるルイズに良く似た女性。そしてもう一人はその横にいるティファニアによく似た耳の尖った女性だ。となれば予想は簡単に出来る。ビダーシャルはルイズに一言述べ、二人の方へと歩みを進めた。

 

「失礼する。私はネフテスのビダーシャルという。貴女がこちらで暮らしているというエルフで間違いないか?」

「……ええ。シャジャル、と申します」

 

 ビダーシャル卿の名前は聞いたことがある、とシャジャルは微笑んだ。その笑みは美しく、万人を癒す大らかさがあった。見た目も若く、美しい。綺麗な金髪は肩口で切り揃えられ、少々垂れ目気味の瞳はパチリと大きく、それでいて唇は大人の色気を醸し出している。言われなければティファニアとは姉妹に見えるであろう。

 とはいえ、それはエルフ特有の長寿のためである。現在傍観者に徹しているアンゼリカの、アンリエッタの母親であるマリアンヌやルイズの母親カリーヌなどはそういう種族特性とは別の力で見た目が若い。

 

「……成程」

「どうされました?」

「いや、何」

 

 ふう、とビダーシャルは息を吐く。トリステインを訪れてからここに来るまで、自身の常識を完膚なきまでに叩き壊された気がしていたが、しかし。

 こうして幸せそうな母娘を見ると、それも全て正しいことではなかったのかと思えてしまう。そんなことを考え、彼はどこか楽しそうに笑った。

 

「アンリエッタ王女」

「アンゼリカです、ミスタ・ビダーシャル」

「ああ、すまない。……感謝する。私はこの国に来て、本当に良かった」

「それは何より」

 

 アンゼリカはそう言って微笑む。自分の国を好きになってもらえるのならばとても喜ばしいことだ、と彼女は笑う。ルイズはそんな彼女の笑みに何も含むことがないのを感じ取り、同じように笑った。良かった良かった、と微笑んだ。

 

「どうしたの? ルイズもアンリ――アンも、何か嬉しそう」

「まあね。ちょっと嬉しいことがあったのよ」

「そうなんだ」

「そうよ。……無茶して、良かったなぁって」

 

 無茶苦茶だ、とあの時は思った。そんなことをしていいわけがない、と考えた。結局殺されそうになっている二人を見て真っ先に飛び出したのはフランドールことルイズであったが、それでもあの時はやり過ぎたと反省を重ねていた。

 そのしこりは、ビダーシャルの笑みで、感謝で、洗い流された。自分勝手でも、二人の母娘を救って、そしてエルフに認められた。だからいいのだと、開き直れるようになった。

 

「ルイズは考え過ぎなのよ」

「アンは悩まなさ過ぎなんです」

「二人とも、難しいことを考え過ぎよ」

『テファは色々考えなさ過ぎ』

「酷い!?」

 

 がぁん、という擬音でも出ているかのごとくショックを受けたティファニアはおよよとへたり込む。いやいつものことじゃん、と追い付いた才人達、正確にはアトレシアの追撃を受け、半べそかきながらシャジャルへと駆けていった。

 

「サイト」

「どうしたラウル」

「……相変わらず凄いな」

「ああ、凄い」

 

 そしてそんなティファニアが走る際に激しく上下に揺れる物体をガン見する男が二人。というかもう別に変装解いてもよくね、という才人の言葉に、ラウル――ギーシュはまあそうだねと視線をアンゼリカに向けた。お好きなように、と返ってきたので、彼はオールバックにしていた髪を手櫛で戻し服を手早くフリル付きのものへと着替える。

 

「お前ホント趣味悪いよな」

「君には言われたくないよ!?」

 

 パーカーとジーンズに貴族のマントという出で立ちの才人も確かに大概である。そしてこの二人にツッコミを入れるべき人物のモンモランシーは不在であり、『地下水』は十号やエルザと共にカトレアの下へと行ってしまっている。

 

「ねえカレン……これじゃあ駄目かな?」

「十分」

 

 ぽよんぽよんと自分の胸を下から弾くアトレシア。そしてそれを見て自分もやってみるかと無表情のままむにむにと胸を揉むカレンデュラ。残ったこの二人では彼等の馬鹿話を止められないのである。

 つまりは本題に関わらないということになるのだが、それが致命的になるのを彼等は知らない。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたところで自己紹介を。カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌと申します」

「ああ、ネフテスのビダーシャルだ。……カトレア? フォンティーヌ?」

 

 ん、と怪訝な表情を浮かべたビダーシャルは、彼女の後ろに付き従うように『地下水』とエルザ、十号が立っていることに気付き納得のいったように頷いた。成程、彼女があの連中の主なのか。そんなことを思いつつ、しかしそれにしてはと首を傾げる。

 

「どうされました?」

「いや、なに。あの騎士団を纏めているにしては、随分と穏やかな女性だと思ってな」

「ふふっ、ありがとうございます。でも、纏めているというのは買い被りですわ。『美女と野獣(ラ・ベル・エ・ラ・ベート)』は皆さん優しく立派な方々で、わたしはいつも彼等に頼ってばかりなのです」

 

 思わずルイズを見る。無言で首を縦に振っていたので、ああそういうことかと納得した。つまりそういう人物なのだ、と理解した。

 しかし、とビダーシャルは心中で疑問を浮かべる。彼女は少々大らか過ぎるところはあるだろうが、少なくとも悪人ではない。間違いなく善人の部類に入るであろう。加えて、エルフに恐れることなく、こうして手を取り合い笑い合う貴族の領主。エルフどころか吸血鬼や魔道具、自動人形(オートマータ)合成獣(キメラ)も懐に入れてしまう慈愛の持ち主だ。こちらとしては何一つ嫌う要素はない。

 だというのに、無性に湧き上がるこの嫌な感情は何なのだ。彼女を認めてはいけない、と『何か』が発し続けている。

 

「どうしました?」

「……いや、何でもない」

 

 仕事も終わったのでもういいだろう、と他の『暴風雨』の面々と同じようにアンゼリカからアンリエッタに戻った彼女の言葉にビダーシャルはそう返す。そうですか、とアンリエッタは述べたが、明らかに流す気はないと目が語っていた。

 

「ミスタ・ビダーシャル」

「何だ?」

「顔色が優れないようですが」

「長旅で気が抜けたのかもしれんな」

 

 ふむ、とアンリエッタは頷く。完全に嘘ではないだろう。そもそも顔色が悪くなるようなことをこちらでやらかしたのだから、そうなるのは半ば当然だ。そうは思いつつ、しかしそれとは別の理由が大半を占めていると判断した彼女は、紅茶に口をつけながらその理由に当たりをつけ始めた。

 コトリ、とカップを置く。少しだけ考える仕草を取ると、カトレアへと視線を向けた。

 

「カトレアさん」

「どうしました?」

「今日は体調はよろしいのですか?」

「ええ。最近は呪文を使うこともないから、症状も安定しているわ」

 

 それはよかった、とアンリエッタは微笑む。その笑みに何か嫌な予感を覚えたルイズは、おいこらちいねえさまに何かしたらぶっ殺すぞという視線を彼女に向けた。それに分かっていますと同じく視線で返したアンリエッタは、小さく息を吐くと話題を変えようと視線を動かした。

 どうやら才人とギーシュはアトレシアとカレンデュラにティファニアも加えて馬鹿話をしているらしい。時々才人は三人の、ギーシュはカレンデュラ以外の胸部に目をやっているのは男の性というものであろうか。

 

「そういえば、テファは最近どうなのでしょう」

「変わりありませんよ」

 

 アンリエッタの疑問にシャジャルが返す。この間も森で立派なお肉を取ってきてくれた、と彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 カトレアはシャジャルと同じように微笑んでいる。そしてルイズは引きつった笑いを浮かべた。

 

「ん? 彼女は狩猟をするのか」

「食いついちゃ駄目ぇ!」

 

 ルイズが悲痛な叫びを上げる。アンリエッタは無言で視線を逸した。他の面々には見えないが、そこには藪蛇だったか、と少し眉を顰めている顔が浮かんでいる。

 どうでもいいことかもしれないが、シャジャルとカトレアは良く似ていた。包み込むような色気も、ある意味大らか過ぎる性格も、である。

 

「ええ。立派なオーク鬼を捌いてきてくれました」

「……は?」

 

 あっちゃぁ、とルイズは頭を抱える。そうだそういえばこれがあったんだった、と苦い顔をがっつりと浮かべた。アンリエッタは我関せずを貫く所存らしい。

 

「姫さま」

「なるようにしかなりません」

「いやだって」

「ルイズ。あの二人に何を言っても無駄です」

 

 ゆるふわを存在で体現しているシャジャルとカトレア。真面目な場面であればもう少し違ったであろうが、この空間では無理である。事実、シャジャルは嬉しそうに娘の武勇伝をビダーシャルに語ってしまっている。

 

「素手で、イノシシや熊を……?」

「武器を使うと毛皮が傷付くから、ですって。……昔は屋敷の外にも出られず窮屈な思いをさせてしまったけれど。今こうして好きなように外を駆けられるティファニアを見ていると、私もここに来て良かったと思えるのです」

「そ、そうか……」

 

 自分がおかしいのだろうか、とビダーシャルはルイズを見た。同じような何とも言えない表情をしているのを確認し、ああよかったと安堵の溜息を零す。

 

「しかし……ティファニアはハーフとはいえエルフだろう? 己の惰力を使うのは結構だが、精霊の力を使うことも少しは覚えては」

「いえ、あの娘は魔法が使えないのです」

 

 エルフと貴族の間に生まれた子供であるにも拘らず、ティファニアは魔法も精霊の力も使うことが出来なかった。精霊との契約は会話にならず、魔法は爆発に変換される。そんな体質なため、トリステインの英雄総出で己の力のみで何でも出来るよう鍛え上げられたのだ。三年ほど前の話ではあるが、どこか懐かしむようにシャジャルはそうビダーシャルに語った。

 それを聞いて表情を変えたのはビダーシャルである。魔法が爆発に変換される、というのもそうだが、精霊との契約にまで至れないという状況に覚えがあったのだ。自分の記憶が正しければ、あれは。

 

「実は、わたしも病気のせいで同じ状況だったのです。サイトさんを喚んでからは少し改善されたけれど、呪文もコモンマジック以外は爆発か少し不思議なものしか成功しなくて」

 

 そう言ってカトレアが微笑む。ビダーシャルはカチリとパズルのピースがはまったような感覚を得て、目の前の女性と少し離れた場所にいるハーフエルフの少女を見た。アンリエッタは珍しく頭痛を堪えるように額を押さえている。ルイズはそんな彼女を見て、あ、これ絶対にヤバイやつだと確信を持った。

 違う、とアンリエッタはルイズの表情を見て心中で叫ぶ。自分が頭を抱えている理由は。

 

「シャイターン……お前達は、悪魔の力の、末裔だったのか!?」

「あ?」

 

 カトレアを見て、カトレアを指差して。驚愕と、苦々しいものを見るような顔で、ビダーシャルは何と言った。その後に、小声で何と続けた。

 ルイズの耳に届いた、討ち滅ぼさねばならない相手なのか、という一言の意味は。

 

「ちいねえさまを……悪魔呼ばわり?」

「ルイズ!」

「わたしの、大事な、ちいねえさまを……!」

「待て、私は……」

「ちいねえさまを! 討ち滅ぼすだぁ!?」

「ルイズ! ステイ!」

 

 デルフ、とルイズが叫ぶ。あいよ、と鞘から抜き放たれたデルフリンガーが投げやりに返事をする。そうして大剣を構えた彼女の目はエルフの客人を見る目ではない。

 こいつぶっ殺す、という狂犬の目である。




イイハナシダッタノニナー

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