ワンダリング・テンペスト   作:負け狐

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原作のスキュアの描写一行しか無いんで大分弄った結果かけ離れたものに……

まあ、いつものことか


その2

「……どうしましょうか」

「そうですね」

 

 部屋から一旦離れ、『サイレント』で音を消している状態のまま二人は顔を寄せ合って相談をする。現状の把握は出来た。後はどう解決するか、であるのだが。

 結局フランドールの呟いた一言が全てだ。何をどうすればいいのか分からない、というわけである。

 

「これが有象無象の連中であれば」

 

 アンゼリカが口にする。自分の、アンリエッタの息の掛かっていないような者達であればこの状況をどう解決するかを口にする。

 

「あれらを片付けて依頼終了、でしょうね」

「片付ける、か……」

 

 スキュアは見た目こそ人に近いが、実際は亜人でもない魔獣に分類されるものである。使い魔の召喚でも喚ばれることがあるくらいだ。人に似た形をした上半身を持つ海洋生物、と言った方が正しいのだろう。とはいえ、その殆どがあくまで『似ている』という程度でしかないのだが。

 

「あれ、相当成長していましたよね?」

「ええ。下半身をスカートか何かで隠せば人だと言い張っても通じるくらいには」

 

 フランドール達もウネウネと動くタコの下半身を目にしたことでスキュアだと理解したくらい、向こうの部屋で子守唄を歌っている存在は人に限りなく近かった。どれほど成長すれば普段目にするスキュアがああなるのだろうか。そんなことまで考えるほどである。

 

「人によっては、捕獲し好事家に売り払うということも視野に入れるかもしれません」

「どっちにしろ、わたし達はやりませんけどね」

「やらないのですか?」

「むしろ何でやらなきゃいけないんですか」

 

 そうね、とアンゼリカは笑う。その笑みが気に入らなかったフランドールは小さく舌打ちすると、それでどうするのかと再度問うた。その問いに少しだけ迷う素振りを見せた彼女は、見えている口元を三日月に歪める。

 

「サイトさん達ならば」

「アイツ等なら何だってんですか」

「『助ける』といったところでしょうか」

「悪さをしてないなら、でしょうけど」

 

 ちらりと部屋の方を見る。あの様子では自身の言葉に該当はしないだろう。そんなことを考えた。

 が、アンゼリカは同意しない。ならばもう一つ質問だと指を一本立てた。悪さをしていないというのならば、どう説明するのかと問い掛けた。

 

「あの少女は?」

「……」

「スキュアが攫ってきた、と考えることは出来ませんか?」

 

 出来ない、とは言えなかった。碌に調べもしない状態で断言するのは、それこそ向こうの思う壺。何より、その意見に自分自身が自信を持てない。

 ふう、とアンゼリカが溜息を吐いた。その辺りも踏まえ、調査が更に必要だろうと述べた。

 そう言いながら、再度部屋へと足を踏み出していた。

 

「アン」

「どうしましたフラン。まさか貴女が一度出直すという選択をするはずが無いわよね?」

「何でですか。わたしだってこういう場合一回戻ろうって考えますよ」

 

 そうは言いつつ、フランドールはアンゼリカの横に立つ。クスクスと笑う彼女の隣で、ぶうたれたような表情を見せている。

 

「でも、そうしたところで進展は見込めない」

「……分かってますよ」

 

 町の情報があれ以上引き出せるはずもないのはフランドールも分かっていた。今見た光景を踏まえたところで、一体どれだけ追加の情報を手に入れられるかと予想を立てても出てくるのは芳しくない結果だけだ。

 ならば、いっそ向こうの『当事者』とコンタクトを取った方が余程いい。

 

「話が通じるんですかね?」

「そこは信じるしかないでしょう。……多少無理を言っても、アトレシアは連れてくるべきだったかしら」

「あー、アトレなら確かに会話出来そうですもんね」

 

 何か誰かが無茶振りしてる、とラルカス診療所でエルザに飲み物を用意していたアトレシアがぼやいていたとかいないとか。そんなことがあったらしいが二人は知る由もない。

 ともあれ、進むしかないと結論付けた二人は、先程の部屋まで再度向かう。今度は『サイレント』を解いた上で、だ。

 ある程度進んだ辺りで子守唄が止まった。どうやら向こうもこちらを認識したようだ。そう二人が判断したのと同時、部屋からタコの下半身を持った女性が突っ込んでくる。

 

「フラン!」

「いやどうしろっていうんですか!?」

 

 タコの触手が廊下を薙ぎ払うが、二人はそれをステップで躱す。こちらがするのは戦闘ではない。武器を抜くのは論外だ。

 

「……」

 

 ズリズリと八本のそれを動かしながら、女性はジロリと侵入者を見た。杖を構える様子すらないメイジを見た。こちらを害するという意思は感じられないが、だからといって油断は出来ない。いつ何時、相手が牙を剥くかなど分かったものではないからだ。

 

「アン」

「どうしました?」

「……サイトがここに来ていたら、どうなってたと思います?」

「『美女と野獣(ラ・ベル・エ・ラ・ベート)』の隊舎にメイドでも増えていたのでは?」

 

 少し癖のある亜麻色のロングの髪も、今でこそ敵意を剥き出しにしているがどこか眠そうな垂れ目も、魔獣であるから気にしていないとばかりに丸出しのそれなりに大きく形のいい乳房も。ある意味でカトレアの使い魔らしいあの人外誑しには大層魅力的に映っただろう、そう二人は顔を見合わせ頷いた。

 何でもかんでも口説いてるみたいに言うな、と抗議をする黒髪の青年の幻影を振り払いつつ、では自分達もそれに習いますかと息を吐いた。両手を上げ、敵対の意思など無いと口にした。

 

「……?」

「通じてない?」

「いえ、信用出来ない、という感じでしょう」

 

 ズリ、とスキュアは距離を取る。いつでも離脱、ないしは反撃が出来るように警戒しながら、しかし一応攻撃の手を止めてはくれるようであった。それは良かったと笑みを浮かべたアンゼリカは、まずは自己紹介だろうかと視線を隣に動かす。

 

「わたくしはアンゼリカ、こちらはフランドール。ここにいる『住人』の調査にやってきたものです」

「……っ!」

「待って待って! 別に貴女をどうこうするってわけじゃないのよ!?」

「……イ」

 

 ブンブンと手を振りながら必死で弁明するフランドールを見たスキュアは、しかしアンゼリカを見て顔を顰めた。仮面に覆われている笑みを見て、ゆっくりと口を開いた。

 

「デキ……ナイ」

「へ?」

「信ジ、ラレ……ナイ」

「あ、やっぱり? ってうわ喋った!?」

 

 マジかよ、と思わずフランドールが目を見開く。対するアンゼリカは別段変わった様子はない。会話が出来るならば話は早いですねと言わんばかりの口元である。

 更に下がった。ちらりと視線だけを背後に動かし、何かを守るようにスキュアはその場に仁王立ちする。

 

「そう警戒なさらないで。先程も言ったように、わたくし達は排除をしにきたわけではありません。もし、可能ならば」

 

 そこでアンゼリカは一度言葉を止めた。視線を眼の前のスキュアから、背後の明かりのある部屋へと動かした。

 

「そちらの少女の『事情』を、解決することも出来るやもしれません」

 

 その言葉に思わずスキュアは振り返る。が、そこには誰もいない。慌てて視線を元に戻すと、先程から一歩も動いていないアンゼリカが目に入った。

 

「何がしたいんですかアン」

「ちょっとした確認ですよ」

 

 姿勢を低くして再度敵意剥き出しになったスキュアを見て、フランドールは溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 暫しの睨み合いの後、スキュアが小さく溜息を吐いた。ちらりとフランドールを見て、視線を外すと踵を返す。先程とは違い、歩いているかのような動きで部屋に戻っていくのを見ながら、二人はゆっくりと後を追った。

 明かりのある部屋へと足を踏み入れる。火事で朽ちた屋敷の中でも、この部屋は特に薄暗い。そうでなければ見付かってしまうということなのかもしれないし、あるいは他にこの部屋がいい理由があるのかもしれない。

 ともあれ、その部屋の中で椅子に座ってスキュアの帰りを待っていたらしい少女は、彼女が頭を撫でたことで笑顔を見せた。

 

「あ、お母さん」

 

 少女の言葉に、スキュアは嬉しそうな、胸が締め付けられるような表情を浮かべる。アンゼリカはその表情を見て何かを考えるように顎に手を当て、フランドールは少女の言葉に目をパチクリとさせた。

 思わず口に仕掛けた言葉を飲み込み、フランドールはアンゼリカを見る。こういう時はそっちの出番だろうという視線を受けた彼女は、笑みを浮かべて少女へと足を踏み出した。スキュアが警戒するように間に割って入ったが、分かっているとばかりにアンゼリカが途中で足を止める。

 

「はじめまして。わたくし、アンゼリカ、と申します。後ろにはもう一人いまして、彼女はフランドールと言います」

「……え?」

 

 キョロキョロと顔を動かした少女は、目の前にいるアンゼリカに視線を合わせられず、声の方向からこの辺りだと予想を立てた方を向く。スキュアがそんな少女の手を取り、あっちだと指し示していた。

 

「あ、ご、ごめんなさい」

「いいえ、お気になさらず。それで、お話は大丈夫ですか?」

「あ、は、はい。……何でしょうか?」

 

 不安げな表情と声色。それを見て聞いたフランドールは眉尻を下げ、アンゼリカが何か余計なことを言い出したらぶん殴ろうと拳を握り込んだ。アンゼリカはアンゼリカで、ちらりと彼女を見ると大丈夫だと言わんばかりに口角を上げる。

 

「貴女は、何故こんなところに?」

「こんなところ、ですか?」

 

 言っている意味が分からないと少女は首を傾げる。この家に何かおかしなところがあっただろうかとスキュアの方に顔を向けた。スキュアはそんな彼女を優しく撫でる。

 ぐい、とアンゼリカの襟を引っ張った。ぐえ、と姫殿下にあるまじき悲鳴を上げた彼女は、しかし文句を言うことなくそれをしたフランドールの方を見る。

 

「アン。彼女は」

「分かっています。……目が、見えていませんね」

 

 少女の目は閉じられており、会話の際時折開く瞳には光がない。二人へ視線を合わせられないのも道理であろう。

 そして、だからこそなのか。少女はスキュアを母と呼んだ。

 

「分かってるのにあんな質問したんですか」

「目が見えていないことと、現状を把握しているかどうかは別問題でしょう?」

「いやそりゃそうでしょうけど」

 

 もう少し人間らしい心を持ってくれないかな。そんなことを思いながら、選手交代だとばかりにフランドールは前に出た。さっき紹介されたけど、と前置きをし、彼女は自身の名を名乗る。

 

「それで、貴女の名前は?」

「……コレット、です」

 

 少女はそう言うと、不安げに顔を動かした。眼の前にいる相手がどんな顔をしていて、どんな表情をしているか。それが分からない以上、彼女にとって安心出来ることなど何もない。横にいる『母』の手をしっかりと握ることでしか、彼女の不安は取り除けない。

 先程から質問の意図もよく分からないのだ。何故こんな場所にいるのかだなんて、そんなものは決まっている。

 

「ここは、貴女の家なの?」

「はい」

 

 そうだ、ここは自分の家だ。『母』の住んでいる家だ。だから、何故も何も、ここに住んでいるのは当たり前ではないか。

 そんな彼女の思考が伝わったのか、フランドールは小さく息を吐くとスキュアに視線を向けた。本来はもっと穏やかな目をしているのだろうその表情は、一向に晴れない。まあそうだろうな、と肩を竦め、アンゼリカに向き直った。

 

「……どうしましょう」

「ここが彼女の家だというのならば、彼女の母親が恐らく――母親?」

 

 ん? と眉を顰めたアンゼリカは、一歩前に出るとスキュアを見た。余計なことを言ったら殺すと言わんばかりの瞳を見て、分かっていますと彼女は微笑む。杖を一本抜き、再度『サイレント』の呪文を唱えた。

 

「どうしたんですか?」

「ここの屋敷の主人の話は先程しましたね」

「ええ。それが?」

「屋敷の主人は男性よ」

 

 フランドールの動きが止まる。ここに住んでいたのは男性で、今眼の前にいる少女はここが家だと言った。普通に考えれば、彼女はその男性の娘ということになる。

 そして、彼女は隣にいるスキュアを、『母』だと言った。

 

「……え? え!?」

「フランが何を想像したのか手に取るように分かりますが、多分違います」

「は?」

「サイトさんじゃないのですよ? 人外と愛を育むのはトリステインの貴族には無理です」

 

 例外がいないとは言わないが、少なくとも彼女は人とスキュアの混血であるなどという希少な存在ではあるまい。そう続け、彼女はやれやれと頭を振った。

 

「スキュアはメイジの使い魔として喚ばれることもあります。……恐らく、彼女はここの主人の使い魔だったのでしょう」

「ご主人様が火事で亡くなったから、娘の『母』をしている、ってこと?」

 

 こくりとアンゼリカは頷く。が、フランドールは怪訝な表情を変えることはない。いやそれおかしいだろと言わんばかりに、彼女に向かって指を突き付けた。

 もしスキュアがここの主人の使い魔ならば、娘はとうの昔に正体を知っているはずだ、と。

 

「彼女の目は、それ以前から見えていないのでしょう」

「いや、流石にそれは……」

「わたくし達は『彼女』が喚ばれた時期を知らないわ。何度目の使い魔か、ということも」

 

 言葉を飲み込む。それは一体どういう意味だ。そう言いかけたが、アンゼリカの口元がふざけているようには見えず、思わず言葉を止めてしまう。

 ちらりとスキュアを見た。少女を見る目は慈愛に満ちていて、それは紛れもなく『母』だ。少女を大切に思う気持ちは偽りではなく、そして植え付けられたものでもないのだろう。

 

「まあ、あくまで予想よ。火事のショックで記憶と視力を失っているという可能性も十分にあるわ」

「どっちかというとそっちの方が高いんじゃないですか……?」

 

 どちらにせよ、今回の依頼を達成するにはこの二人をここから連れ出さなければならない。そのために出来ることは何か、と問われれば。

 『サイレント』を解いた。スキュアの方に向き直ると、少しいいでしょうかとアンゼリカは問い掛ける。怪訝な表情を浮かべたスキュアは、しかし言ってみろとタコの触手を動かし続きを促した。

 

「コレット嬢の目を治せば、こちらについてきて頂けますか?」

 

 え、とコレットは声を上げた。唐突に聞こえたその言葉に、思わず隣にいる『母』の手を強く握ってしまう。それに答えるようにコレットの頭を優しく撫でたスキュアは、射殺さんばかりの視線でアンゼリカを睨み付けた。余計なことを言うな、そう目が物語っていた。

 

「貴女は、それでいいの?」

 

 だからなのか。思わずフランドールが言葉を紡いでいた。大切な『娘』が、コレットの目が見えないままでもいいのか、と述べていた。

 

「ここで生活するのも大変なんでしょう? いや、そりゃ、わたしなんかがそんなことを言ってもいいわけがないし、そんな権利もないけど……。彼女の『母』なら、もっと、見せてあげて。世界を、味あわせてあげて」

「……」

 

 知った風な口を聞くな、とスキュアはフランドールを睨む。だが、彼女は眉尻を下げたまま、怯むことも引き下がることもなく、真っ直ぐにスキュアを見詰めている。

 そのままどれだけの時間が経ったのだろうか。ほんの少しかもしれないし、かなり長かったのかもしれない。火事で朽ちた屋敷を沈黙が包み込み、明かりが揺らめく音だけが微かに聞こえるその空間で、ぽつりと、水滴が落ちるように言葉が紡がれた。

 

「見えるように……なるんですか?」

「……っ!?」

 

 スキュアがコレットを見る。目を開き、光のない瞳を真っ直ぐに、声の主がいるであろう場所へと向けている彼女を、見る。

 

「わたしの目、見えるように、なるんですか?」

「断言は出来ません。ですが、全力を尽くします」

 

 アンゼリカはそう告げた。ここで勿論だと言うのは簡単だが、彼女はそれをしない。自身よりも幾分か年下の少女であろうとも、相手が本気ならばこちらも真面目に応えるべきだ。そうすることが、最適解だと知っているのだ。

 

「……もし、目が治れば」

 

 お母さんを見ることも出来ますよね。そう言って儚げにコレットは笑う。それが出来るのならば、自分は差し出された手を取ってやる。出会ったばかりだけれど、この二人ならば騙すようなことはしない、だから。そんな確信を持って、彼女はそれを口にした。

 

「……」

 

 アンゼリカは答えない。それを答えていいのか、ほんの少しだけ迷ったからだ。

 

「ええ。貴女をずっと見守ってくれていた『お母さん』に、目が治ったら目一杯甘えてやりなさい」

「……フラン、貴女は……」

 

 だから、それを迷うことなく笑顔で述べたフランドールを見て、彼女は呆れたように溜息を吐いた。そういう考えなしが、ついこの間どうなったのかをもう忘れたのかと頭を押さえた。

 彼女の目の前では、コレットの隣では。

 

「…………」

 

 今にも泣きそうな顔をした、スキュアの姿があった。とても喜んでいるようには思えない、彼女の姿があった。

 日が、傾き始めていた。




ルイズは考えなしに突っ込むか考えすぎて突っ走るかの二択しか無いのをどうにかした方がいいと思う

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